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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第四踏 ≪うみうし島≫
27/55

27. どうして言葉が通じるのかな

 ・ ・ ・ ・ ・



 うずとるるとんは、沖合だいぶ出たところで海面に頭を出し、しゃべり始めた。



『あのみやこどり。ぴーぴー鳴いてるだけで、何言ってるのかさっぱりわからなかったのんに……』


『ポトリーグは普通に話してるんだもの、本当に驚いたわ!!』



 ぐう、とかいをこぎつつポトリーグもうなづいた。



「……うずっちとるるっちには、ほんとにぴっぴ、て聞こえてたんか?」


『そう。何をどうしたら、あれの意味がわかるのん? ポトリーグ』



 実に摩訶不思議、である。


 みやこどり達にしてみても、うず雄とるる波の言葉はわからなかったはずなのだ。それなのにポトリーグにだけは、みやこどり勢とあざらし勢、双方の話すことがしっかり聞き取れる。意味も、すんなりと頭に入ってきていた。



「わっかんねぇなあ。修道院にいた時は、ラテン語のお祈りだって、俺にはさっぱり意味不明だったんだぞー?」



 そして、だ。


 修道士たちとの航海で、ポトリーグはいくつかの外国・・をみてきた。土地土地で人びとの話す言葉がいかに異なるか、を目の当たりにした経験がある。


 そもそもポトリーグの話すゲール語じたい、恐ろしくなまっているのだ。修道士の兄さんたちのおかげで、そこそこまともな標準語も話せるようになってはいたが、素が出やすい。半々というところである。


 ダルリアダ国領の島々を通過した時は、そこの人びとの言っていることが、ぶっちぎりで理解できなかった。同じゲール語なのだと言われても、ほんとかよとしか突っ込めないほどに、ヒベルニアとは違っていた。


 アングル人の言葉も、サクソン人の言葉もわからない。


 トゥーレに住むゲールの人びとは、さかなの名前を少年に教えようとしてやさしかった。どうしてか皆、彼の黒い巻き毛を気に入っていたらしい。


 ……それなのに。


 出会った時から、あざらし達も鳥たちも。ポトリーグの耳に一番はまりやすい、【キアレグ領民仕様の南部ゲール語】でぽんぽん話しているのは、なぜなのだ!? 局地的すぎる、こまかい!


 まあポトリーグにとっては楽なことこの上ないから、この際ふしぎでもなんでも構わないのだが……。Nach eaだよね??



 風が出てきた。ポトリーグは柳枝に張った帆をあやつり、ふくらませる。


 昨日からは、あまりうず雄に引っ張ってもらわないでも、すいすい走れているのがポトリーグは嬉しい。


 今日もやわらかく晴れた緑色の空の下、いくつもの黒い島々を過ぎ越してゆく。



「≪黒き島々≫って。本当にここんち、島だらけなんだな! るるっちとうずっちは、こっちのほうまでよく来るんか?」


『わたしは夏の間にお友達と群れを組んで、一回二回は遠足したりするわ。でもゆうべ宿った≪うみうし島≫のあたりまでしか、来たことがないの。だからこの先は大おばちゃんや、他の親族に聞いたお話を頼りにして、たどることになるわね』


『自分は出不精だから。もう、初めてでしかないのん』


「えー。ほんじゃ、ふたりとも知らねえ海ってことじゃん」



 その割に、あざらし達は余裕を持っているように見える。


 海の中につかっていると、絶え間なく流れて身体とひげにあたる水が、おおまかな地理を教えてくれると言うのだ。それと長老たちの話を照らし合わせているから、自分たちがどこを泳いでいるのかわかる。また、じきに見えてくるだろう島々や、うまい(かもしれない)魚たちの気配すら感知できる、とるる波は語った。



『だから帰り道がわからなくて困ったり、今日眠るところがどこにもない、っていう事態にはほとんどならないわ』


『嵐でもきて、海の上のほうの流れがめちゃくちゃになったら。そりゃもう何がなにやらわからなくなるしー、岩礁にでもひっついてるしかなくなるのんけど~』


「いいな~、すげえなあざらし!! ひげとおにくで、自分のいるとこわかるのかよ。俺もそういう力、身につかねえもんかなー」


『そいじゃまず、おひげをのばしなさいよ。ポトリーグ』


『いっぱい食べて、おにくもつけろ。ポトリーグ』


「うーん……喜んで食うけど。皆みてえには、たぶん無理だぞ」




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