27. どうして言葉が通じるのかな
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うず雄とるる波は、沖合だいぶ出たところで海面に頭を出し、しゃべり始めた。
『あのみやこどり。ぴーぴー鳴いてるだけで、何言ってるのかさっぱりわからなかったのんに……』
『ポトリーグは普通に話してるんだもの、本当に驚いたわ!!』
ぐう、と櫂をこぎつつポトリーグもうなづいた。
「……うずっちとるるっちには、ほんとにぴっぴ、て聞こえてたんか?」
『そう。何をどうしたら、あれの意味がわかるのん? ポトリーグ』
実に摩訶不思議、である。
みやこどり達にしてみても、うず雄とるる波の言葉はわからなかったはずなのだ。それなのにポトリーグにだけは、みやこどり勢とあざらし勢、双方の話すことがしっかり聞き取れる。意味も、すんなりと頭に入ってきていた。
「わっかんねぇなあ。修道院にいた時は、ラテン語のお祈りだって、俺にはさっぱり意味不明だったんだぞー?」
そして、だ。
修道士たちとの航海で、ポトリーグはいくつかの外国をみてきた。土地土地で人びとの話す言葉がいかに異なるか、を目の当たりにした経験がある。
そもそもポトリーグの話すゲール語じたい、恐ろしくなまっているのだ。修道士の兄さんたちのおかげで、そこそこまともな標準語も話せるようになってはいたが、素が出やすい。半々というところである。
ダルリアダ国領の島々を通過した時は、そこの人びとの言っていることが、ぶっちぎりで理解できなかった。同じゲール語なのだと言われても、ほんとかよとしか突っ込めないほどに、ヒベルニアとは違っていた。
アングル人の言葉も、サクソン人の言葉もわからない。
トゥーレに住むゲールの人びとは、さかなの名前を少年に教えようとしてやさしかった。どうしてか皆、彼の黒い巻き毛を気に入っていたらしい。
……それなのに。
出会った時から、あざらし達も鳥たちも。ポトリーグの耳に一番はまりやすい、【キアレグ領民仕様の南部ゲール語】でぽんぽん話しているのは、なぜなのだ!? 局地的すぎる、こまかい!
まあポトリーグにとっては楽なことこの上ないから、この際ふしぎでもなんでも構わないのだが……。Nach ea??
風が出てきた。ポトリーグは柳枝に張った帆をあやつり、ふくらませる。
昨日からは、あまりうず雄に引っ張ってもらわないでも、すいすい走れているのがポトリーグは嬉しい。
今日もやわらかく晴れた緑色の空の下、いくつもの黒い島々を過ぎ越してゆく。
「≪黒き島々≫って。本当にここんち、島だらけなんだな! るるっちとうずっちは、こっちのほうまでよく来るんか?」
『わたしは夏の間にお友達と群れを組んで、一回二回は遠足したりするわ。でもゆうべ宿った≪うみうし島≫のあたりまでしか、来たことがないの。だからこの先は大おばちゃんや、他の親族に聞いたお話を頼りにして、たどることになるわね』
『自分は出不精だから。もう、初めてでしかないのん』
「えー。ほんじゃ、ふたりとも知らねえ海ってことじゃん」
その割に、あざらし達は余裕を持っているように見える。
海の中につかっていると、絶え間なく流れて身体とひげにあたる水が、おおまかな地理を教えてくれると言うのだ。それと長老たちの話を照らし合わせているから、自分たちがどこを泳いでいるのかわかる。また、じきに見えてくるだろう島々や、うまい(かもしれない)魚たちの気配すら感知できる、とるる波は語った。
『だから帰り道がわからなくて困ったり、今日眠るところがどこにもない、っていう事態にはほとんどならないわ』
『嵐でもきて、海の上のほうの流れがめちゃくちゃになったら。そりゃもう何がなにやらわからなくなるしー、岩礁にでもひっついてるしかなくなるのんけど~』
「いいな~、すげえなあざらし!! ひげとおにくで、自分のいるとこわかるのかよ。俺もそういう力、身につかねえもんかなー」
『そいじゃまず、おひげをのばしなさいよ。ポトリーグ』
『いっぱい食べて、おにくもつけろ。ポトリーグ』
「うーん……喜んで食うけど。皆みてえには、たぶん無理だぞ」




