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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第四踏 ≪うみうし島≫
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28. 人間・あざらし、異文化交流

 修道院に、えた人と言うのは皆無だった。


 ポトリーグに蛇のことを教えた、大陸ガリア出身の若い修道士はお腹が出ていたが、じつは飢えぶとりで出来たぽこん・・・だったのである。


 修道院長はじめ、筋骨隆々した大人は多かったが、みな共通してぎすぎす・ひょろんとしていた。


 豚肉と牛酪ばたをふんだんに食べはしたが、いかんせん仕事……身体を酷使する作業が、院には山のようにある。修道士たちに、ふとるひまはなかったのだ。


 もともとがひょろひょろのっぽのポトリーグ少年は、そういう大人の男たちのあいだに、全く違和感なしにはまり込んでいたのだが。


 そういった修道院の風景を、頭に浮かぶままポトリーグはつれづれとあざらし姉弟に語る。


 話しているうち、妙な気持ちになっていった。


 シャナキール修道院に暮らしていたのは、そう前のことではないのに……。


 ずうっと遠い日々のこと、はるか彼方のむかしのように思えてしまったのだ。


 ぼんやりとした思い出の雲の中から、ふいと現実の海ゆく小舟カラハへと、ポトリーグを引き戻してくれたのはうずである。



『人間って言うのはー。ぜんぶ、ポトリーグみたいな姿かたちしてるのん? 頭がもしゃっと黒く茂ってて、ひげがなくて二本あし?』



 珍妙なる問いかけに、ポトリーグは一瞬きょとんとしてしまった。


 しかしすぐに、はっとする。うず雄もるるとんも、ポトリーグの他に人間を知らないのだから、そんな風に聞くのは当たり前だ。



「うん、そうだなー……。まあだいたいが、俺っぽい感じかな!!」



 ちがうぞと突っ込める者は、この海域にいない。ゆるしてやって欲しい、若さゆえの視点の狭さである。



「でも俺は、子どもにしちゃかなりでっかい方だ。さらにでっかいのもいるし、小っさいのも色々いるぞ!」


『みんな黒っぽい毛を生やして、あおいお目々をしているのかしら?』


「あ、髪や目ん玉には、いろんな色があるな。金ぴかや栗色の頭した人もいるし、赤い髪の人もいる。で、年とると真っ白になるんだ」


『え~?? 自分らは、生まれたばっかりの時だけ、白いのんにな~』


「なんだよ。うずっち、白髪しらがだったんか」


『それで、それで? やっぱり女のひとと男のひとがあって、それでも違うの?』



 るる波は、人間の外見に大いに興味をもったようだった。



『わたし達あざらしみたいに、見た目ではっきりくっきり、わかる感じなのかしら』


「えーと」



 ……どの辺で、くっきり?? ポトリーグは微妙に返答につまった。



「うーん、と。どっちか言うと、まあ男のほうがもじゃもじゃしてるから、一応すぐわかるかなあ。大人になると顔の周りに、もさっとひげが生えるし」


『頭が増長する感じ、かしらね~??』



 ポトリーグが片手であごを触りながら言うのを見て、るる波はうなづいている。



『むしろ、あざらしに似てくるのん?』


「いや。あんまし似ねえぞ、うずっち」


『それじゃやっぱり、ポトリーグはまだまだ幼獣なのね。じきにおひげも、伸ばすんでしょうけど……。ふふふ、見てみたかったわ』


「一応、もう生えてるらしいんだけどなあ」



 ほとんど誰の目にも留まらない、うぶ毛みたいなものである。


 鏡なんて、ずいぶん長いこと見ていない。そこにあるのかどうなのか、自分でも判別がしにくかった。



「おう、そうだ。女の人はなー、こう! くびれる・・・・んだよッ、腰のあたりで~。だからそこんとこでも、一目瞭然っつうかッ」



 かいを舟底に置いてまでして、ポトリーグは両手で女体くびれの曲線を宙に描いてみせた。


 たっとぶべき、あのローマ数字・十の形! Xとも書くッ!!



『……さかなの尻尾の付け根、みたいな感じかしら?? そこが注目すべき箇所なの……?』


『鼻息あらくなってるし、たぶんそうゆうことなんでないのん。自分からみれば、ポトリーグもだいぶんくびれてるけど』


「これは縄帯でしめてんだよぉう、うずっちぃー。ものほんの女体くびれっつうのは、全く違っててだなあッ」



 くびれに縁もゆかりもないあざらし姉弟は、ポトリーグの歯がゆき力説に一応耳をかたむけてはいる……が。


 ああ異文化、語りだけではどうにも要領を得ないのであった。



『こんど、さば・・獲れたらポトリーグにやるのん』


『あれは、くいっとくびれているものねぇ。うずちゃん』


「ちがうってえええー」



 剃髪もしていない修道院の見習いなべ番は、まだまだ俗にまみれた少年である。



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