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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第四踏 ≪うみうし島≫
25/55

25. 知らない夜空、異なる星々

「星……星だッッ!」



 闇の夜空に、白い星々がまたたき始めていた。


 すっぽり深くかぶっていた、毛織り修道衣の頭巾をうしろに押しやり、ポトリーグは自分の真上に広がる宙を見上げる。



――星と星座の見え方から、自分のいる場所がどこなのか、知ることができるはず……!!


「……」


『……』


『……ポトリーグ??』



 いきなりぬうんと突っ立って、夜空に眼光がんをとばしているポトリーグの顔を、うずとるるとんは見つめた。かれらあざらしは、夜目がきく。



――いや!! んもう全ッ然、わっっかんねえ~~!!



 知ったような星は、さっぱり見当たらなかった。


 冬の天高くそびえているはずのオリオン大野人も、その三ツ星≪王の革帯≫も、カシオペヤ女王も、どこにもいないッ。


 木匙きさじの形に並んだ北斗七星も、ひよこの巣すばるすら、探し出せなかった。


 ポトリーグが判別できる星座なんて、そのくらいなのだが。


 見知らぬ星たちは、夜空の大海に浮かぶ泡のようでしかなかった……。


 そんなに期待していたわけでもなかったけれど、ポトリーグはがくーんと肩を落とす。自分が一体どこにいるのかは、謎のままだ。



「……るるっち、うずっち。星、いっぱい出てんよなあ」


『ええ、そうね?』


「きれえだよなあ」


『うん』



 話す息が、闇の中で白い。海からの風も、冷たい。



『自分ー、あの白っぽく、金ぴかしてんのんが好き』



 うず雄が低くつぶやいた。



「どこ?」


『ちょっと低いとこの、金星きんぼし



 うず雄がもそもそ頭を振る、その何となくの方向をポトリーグはたどった。


 たしかに金ぴかしたのが一つ、輝いている。しかしポトリーグが知る金星きんせいとは、明らかに異なる星らしかった。


 まわりとは離れて、金にやさしく輝くその小さな星は、せわしなくまたたいてもいるようだ。ちか、ちかちかっ……。まるでポトリーグにむけて、話しかけているみたいに。


 あなたのことを忘れてはいないよ、と。


 単なる思い過ごし、気休めかもしれない。けれど動揺したポトリーグの心は、その金の星のまたたきを受けて、本当にやすまった。



「……明日の朝は冷えるって、るるっちが言ってたの。あれ本当だな、さびいし……もう寝るべ」


『そうそう。ゆっくりお休みなさい、ポトリーグ』


『自分とるるちゃん、ここで舟おさえて寝るしー』



 再び小舟カラハ天幕テントの下にもぐりこんで、ポトリーグは寝床におさまった。


 まったく知らない星空の下へ来てしまった――それも、たった一人で。


 この事実を、頭の隅っこに押しやろうとする。


 確かに流れ着いた時は一人だった。……けれど今は、舟の外側に厚いおにくを寄せている、うず雄とるる波がいる。


 人間ではないけれど、かれらの感じ方なりにポトリーグのいろいろを気づかってくれる、温かく優しいふたりがいる。だから自分は、ひとり・・・ではない。絶対ない。


 さらに言えば聖母さまと我らがジーザスと、天なる父の神様と……。名前のよしみで、聖ポドリーグ様もついていてくれるはずだ。色んなものの一部である自分は、ひとりっきりでは決してない。


 そうそう、鍋だってある。この先たべていくものを作る、すてきな相棒の鉄鍋が!


 金の星の祝福、そのあたたかい輝きだけを目の奥に思い浮かべる。


 寂しさ怖さから逃げるように、ポトリーグは闇の中に眠った。



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