25. 知らない夜空、異なる星々
「星……星だッッ!」
闇の夜空に、白い星々がまたたき始めていた。
すっぽり深くかぶっていた、毛織り修道衣の頭巾をうしろに押しやり、ポトリーグは自分の真上に広がる宙を見上げる。
――星と星座の見え方から、自分のいる場所がどこなのか、知ることができるはず……!!
「……」
『……』
『……ポトリーグ??』
いきなりぬうんと突っ立って、夜空に眼光をとばしているポトリーグの顔を、うず雄とるる波は見つめた。かれらあざらしは、夜目がきく。
――いや!! んもう全ッ然、わっっかんねえ~~!!
知ったような星は、さっぱり見当たらなかった。
冬の天高くそびえているはずのオリオン大野人も、その三ツ星≪王の革帯≫も、カシオペヤ女王も、どこにもいないッ。
木匙の形に並んだ北斗七星も、ひよこの巣すら、探し出せなかった。
ポトリーグが判別できる星座なんて、そのくらいなのだが。
見知らぬ星たちは、夜空の大海に浮かぶ泡のようでしかなかった……。
そんなに期待していたわけでもなかったけれど、ポトリーグはがくーんと肩を落とす。自分が一体どこにいるのかは、謎のままだ。
「……るるっち、うずっち。星、いっぱい出てんよなあ」
『ええ、そうね?』
「きれえだよなあ」
『うん』
話す息が、闇の中で白い。海からの風も、冷たい。
『自分ー、あの白っぽく、金ぴかしてんのんが好き』
うず雄が低くつぶやいた。
「どこ?」
『ちょっと低いとこの、金星』
うず雄がもそもそ頭を振る、その何となくの方向をポトリーグはたどった。
たしかに金ぴかしたのが一つ、輝いている。しかしポトリーグが知る金星とは、明らかに異なる星らしかった。
まわりとは離れて、金にやさしく輝くその小さな星は、せわしなくまたたいてもいるようだ。ちか、ちかちかっ……。まるでポトリーグにむけて、話しかけているみたいに。
あなたのことを忘れてはいないよ、と。
単なる思い過ごし、気休めかもしれない。けれど動揺したポトリーグの心は、その金の星のまたたきを受けて、本当にやすまった。
「……明日の朝は冷えるって、るるっちが言ってたの。あれ本当だな、寒いし……もう寝るべ」
『そうそう。ゆっくりお休みなさい、ポトリーグ』
『自分とるるちゃん、ここで舟おさえて寝るしー』
再び小舟天幕の下にもぐりこんで、ポトリーグは寝床におさまった。
まったく知らない星空の下へ来てしまった――それも、たった一人で。
この事実を、頭の隅っこに押しやろうとする。
確かに流れ着いた時は一人だった。……けれど今は、舟の外側に厚いおにくを寄せている、うず雄とるる波がいる。
人間ではないけれど、かれらの感じ方なりにポトリーグのいろいろを気づかってくれる、温かく優しいふたりがいる。だから自分は、ひとりではない。絶対ない。
さらに言えば聖母さまと我らがジーザスと、天なる父の神様と……。名前のよしみで、聖ポドリーグ様もついていてくれるはずだ。色んなものの一部である自分は、ひとりっきりでは決してない。
そうそう、鍋だってある。この先たべていくものを作る、すてきな相棒の鉄鍋が!
金の星の祝福、そのあたたかい輝きだけを目の奥に思い浮かべる。
寂しさ怖さから逃げるように、ポトリーグは闇の中に眠った。




