19. つるつる・マトウダイ鍋!
・ ・ ・ ・ ・
『ただいまー、お待たせポトリーグ! って、あららら』
小舟の近くに戻って来て、ぷりぷりっと口から貝を落としたるる波は、ポトリーグの姿を見て噴きそうになった。
ぐでーんと横たわったうず雄の脇で、ポトリーグも同じ向きにのびのび、のびていたのである。
≪とさかんむり≫は、本当においしかった。こくのある白身、そしてつるっとした皮!
夢中でたべて、自分を襲った奇妙なる運命のことを、きれいさっぱり忘れたポトリーグである。
ちなみにこの≪とさかんむり≫、ポトリーグが知らないだけで実は高級魚として尊ばれているお魚だった。俗にいうところの聖ピエール魚。ヒベルニアでも南部あたりの人たちだったら、食べていたかもしれない。
『あざらしが増えたわ』
「るるっち~」
まさに幸せのたらふく状態。腹ごなしのためにあざらし化していたポトリーグは、頭だけをるる波に向けた。後ろのうず雄は、がちで寝ている。
『ごめんね、遅くなっちゃって。雨と風の後だから、おいしい≪はまうり≫を探してたんだけど……。もうお腹いっぱいになっちゃったわねえ』
「はまうり?」
もそり、とポトリーグは身を起こした。
るる波の置いたものを見る。姉あざらしは口いっぱいに、大きな二枚貝を四つも含んできてくれたのだ。
ころん、とポトリーグの手におさまるたまご大の殻が、つやつやしている。
「これも俺、全然知らねえなあ。ほたてみたいなのか?」
『いいえ、また別ね!』
『はまうりか~。るるちゃんは、砂ん中から貝とかえびを探し出すのが、すごくうまいのん……』
ぐでんと横たわったまま、うず雄がもにゃもにゃと言う。眼を閉じているから、ひょっとしたら寝言なのかもしれない。
「あ、砂ん中に棲んでる貝かあ。ほいじゃ鍋ん中に、水とつけとこ! 砂抜きになるから、次に腹へった時に食べごろになるなッ。ありがと、るるっち!」
『……人間って、食べものを持ちこしできるのね。たいしたものだわ』
とってきたものが無駄にならなかった、と知ってるる波はほっとしたらしい。
次いでポトリーグにりんごの実をもらって、仰天した。
『んまあッ、これってりんごじゃないの!』
「なんだ、知ってたんか? るるっち」
『ええ、ものすごく珍しいのよ。秋の大嵐の後に、たま~に海に流れてくることがあったって。大おばちゃんが話していたわ……しゃく。うわあ、おいしいのねぇ! すてきな香り』
海の中にない香りと味とを、姉あざらしは大いに面白がっている。
「そうそう、言うの忘れてた。そのりんご見つけた後によう、やぎを見たんだ」
『あらっ! 何頭みたの。元気だった?』
遠巻きに何度も山羊を見たことのある姉あざらしは、何やら友達感覚でポトリーグに聞き返した。
「いや、それがー。でかい雄が、食われて死んでたんだ。狼にやられたんだな、あれ」
『……』
『おおかみて、何? ポトリーグ』
もそり。今度はしっかりと起きたうず雄が、砂浜上で寝返りを打って問う。
「狼はー、えーっと。群れをつくって、他の生きものを襲う四つ足のけものなんだけど。ここんちでは呼び方違うんかな?」
『いえ、同じよ。わたしは見たことないけど、お話にだけ聞いたことがあるわ。……でも、この島に肉を食べるけものはいないはずよ……?』
るる波は怪訝そうに、なめらか眉間にしわを寄せていた。次の瞬間、ふあっと口を開ける!
『ちょっと……まさか! ポトリーグ、その死んだやぎというのは。毛皮が白いまんまで、残っていたんじゃない!?』
「うん、白かったなー。肉はほとんどなくって、骨がのぞいてた」
『……それは。蛇どもの犠牲者だわ!』
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~物語の中継こたつより~
デリアド副騎士団長「ワイルド殺人事件ですね。婆様」
婆あざらしバーべ『捜査する気になってるにょん? カヘルたん」
インテリ王「殺人、というより殺山羊なのでは……」
「冷えひえカヘル侯の巨石事件簿シリーズ」
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