【シラージュ編】第6話
ニューヨーク、KFG本社ビル最上階。
シラージュの企画会議から数日後。
Kの執務室では、日本出張に向けた準備が着々と進められていた。
アンナは、3社の合同チームから提出された調査プランをKに報告していた。
「まず渡航チームですが、Parfums Lumière、Vela、Maison de Premièreの各社から選抜された女性調香師および香料研究員、計8名を選出しました。全員がKFGの基準を満たした人材です」
「ああ」
「調査項目は、4名様それぞれの皮膚温度、pHバランス、皮脂分泌傾向、そして体質に由来する固有の香りの分析です。これらを元に、各個人に最適な香料の組み合わせを——」
「いや、足りない」
Kが遮った。
「……とおっしゃいますと」
「もっとやれ。4人の生活リズムも調べろ。朝と夜で体温は違うだろう。季節によっても変わるはずだ。踊った直後の状態も知りたい。汗のかき方、その後の肌の変化まで、全部だ」
「……それは、かなり細かな調査になりますが」
「いくらかけてもいい」
Kの声は至って真剣だった。
「世界に一つしかない香水を作るんだ。中途半端は許さない。本気で全てを調査しろ」
言葉だけを聞けば、もっともらしい発言だった。
世界最高峰の3社の技術を結集した特注品を作るのだ。
徹底した調査は当然の姿勢と言える。
しかし、アンナには分かっていた。
「朝と夜の体温」「踊った直後の汗のかき方」「肌の変化」。
それらを「調査」という名目で、観察したいだけではないのか。
(……最高級の香水を作るための調査、という大義名分を手に入れましたね、会長)
アンナは無表情のまま、タブレットにメモを打ち込んだ。
「かしこまりました。調査チームに伝えます」
「ああ。頼む」
Kは満足そうに頷いた。
アンナはその顔を一瞬だけ見て、視線をタブレットに戻した。
何かを言いたそうな気配を完璧に殺した。
***
日本。
Kが来る日の、前夜。
4人はそれぞれの場所で、それぞれの夜を過ごしていた。
ソユンは眠れなかった。
ベッドに入ったのは23時。
目を閉じた。
しかし、閉じた目の裏にKの顔が浮かぶ。
会見の時のあの静かな横顔。
「FLORIA」と告げた瞬間の、あの微かな笑み。
(……明日、会えるんだ)
その事実が胸の奥で何度も何度も反響して、心臓がずっと速いままだった。
寝返りを打つ。
また、目を閉じる。
また、Kの顔が浮かぶ。
時計を見ると、午前2時になっていた。
(はやく寝なきゃ、明日ひどい顔になっちゃうよ)
自分に言い聞かせても身体が言うことを聞かない。
明日、Kさんの前で体温を測られる。
肌の状態を見られる。
近くに……いられる。
同じ部屋に。
(……無理)
ソユンは枕に顔を埋めた。
結局、うとうとし始めたのは空が白み始めた頃のことだった。
***
ミジュはロイヤル・ソレイユの腕時計を箱から取り出し磨いていた。
我が子のように大切にしている時計。
明日、Kに会うときにつけていくのだ。
ロイヤル・ソレイユの、あの時の記憶が蘇る。
もう何度も何度も思い出している。
自分を救ってくれたヒーロー。
もちろん、ロイヤル・ソレイユは4人で大切にしているブランドだ。
アルカディアもそうだし、『Re:FLORA』も、今回のシラージュもそうなる。
しかし、ミジュにとってはやはりロイヤル・ソレイユは特別なのだ。
今の自分がまたKさんに会う。
最高の自分で会いたかった。
***
カエデはクローゼットの前に立っていた。
明日の服を選んでいた。
3着候補を出して鏡の前で合わせてみる。
(……これは、ちょっと堅すぎるかな)
(こっちは、カジュアルすぎる)
(これが……一番いいか)
パリで最後に会った時のことを思い出す。
泣き崩れた自分。
崩れた化粧。
Kの前で化粧を直したあの時間。
(今度は、ちゃんとした姿でお礼を言いたい)
パリの一件以来、正式にお礼を言う機会はまだなかった。
ビデオ通話で「ありがとうございます」とは伝えた。
しかし直接顔を見て、言葉にして、まだ伝えきれていない。
カエデは選んだ服をハンガーにかけ、アクセサリーを確認し、靴を磨いた。
4人の中で一番念入りに準備をしていた。
***
そして翌朝。
事務所に一番乗りしたのはサラだった。
メイクルームに入り、鏡に向かい、丁寧に丁寧に化粧を始めた。
朝6時半。
サラがこの時間に事務所に来ることはほぼない。
しかし今日はメイクに時間をかけたかった。
いつもは自然体で細かいことを気にしないサラが。
今日だけは一つ一つの工程を丁寧に確認しながら進めていた。
ファンデーション。アイライン。リップ。
全てがいつもより少しだけ慎重だった。
美咲が出勤してメイクルームの明かりがついているのに気づいた時、そこにサラがいることに少しだけ驚いた。
「サラさん、早いですね」
「あ、美咲さん。おはようございます」
サラは鏡越しに笑った。
いつもの明るい笑顔。
しかし美咲は、その笑顔の裏に隠しきれない緊張があることを見逃さなかった。
ソユンとミジュのKへの好きアピールは、もはや隠す気すらないほどにあからさまだ。
しかし、サラはそういうところをあまり表に出さない子だった。
だからこそ。
朝6時半に事務所に来て、一人で念入りにメイクをしているサラの姿は美咲にとってある種の衝撃だった。
(……サラさんも……やっぱり相当好きに……)
美咲はその気づきを胸の中にだけしまった。
何も言わずいつも通りの顔で、スケジュール表の確認に取り掛かった。
***
今回、4人の香水選定のために用意された場所はMaison de Première日本支社の研究施設だった。
KFGが以前から傘下に置いていた日本支社は都内のビジネス街に位置しており、その地下フロアには調香や香料研究のための設備が整えられていた。
温度・湿度が精密に管理された調合室。
数百種類の天然香料が保管された香料庫。
そして個別の調査のためのプライベートな調査室が複数。
今回のためにフロア全体が貸し切られ、KFGのセキュリティチームによる厳重な管理下に置かれていた。
合同3社から選ばれた女性スタッフたちが前日から準備を進めている。
調査機材の最終チェック。香料サンプルの配置。室温の調整。
全てが王の到着に合わせて、完璧に整えられていった。
***
当日の昼、Kが日本に降り立った。
研究施設のエントランスで、待っていた4人が揃って出迎えた。
Kは4人の顔を見渡して、短く「久しぶりだな」と言った。
ソユンが顔を真っ赤にしながら「お、お久しぶりです!」と答えた。
ミジュが目をキラキラさせて「Kさん!」と声を上げて駆け寄った。
サラが「またお会いできて嬉しいです」と笑った。
カエデが「本日はよろしくお願いいたします」と深く頭を下げた。
ここまでは、予定通りだった。
問題はそこからだった。
カエデがパリのお礼を丁寧に述べ、ミジュが腕時計をKに見せ、ソユンがKの一言一言に過剰に反応し、サラがKの服について質問を始めた。
Kもそれを嫌がる様子はなかった。
むしろ4人の話を一つ一つ穏やかに受け止めていた。
アンナは最初の5分は黙って見ていた。
10分が経った時、時計を確認した。
15分を過ぎた頃、さすがに声をかけた。
「会長。そろそろ研究施設の方へ」
「ん?ああ……」
Kは答えたが、足は動かなかった。
ミジュが「Kさん、この前の会見かっこよかったです!」と言い、
ソユンが「シラージュの名前、すごく素敵でした……」と頬を赤らめ、
サラが「Kさんフランス語も話せるってホントですか!?」と目を輝かせた。
Kはそれぞれに短く答えながら、その場に留まり続けた。
アンナはもう一度時計を見た。
20分が過ぎていた。
「会長」
「ん」
「……お時間が」
「分かってる」
分かっていて動かない。
アンナは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「皆様、申し訳ございません。スケジュールがございますので、続きは中でお願いできますか」
アンナの声は丁寧だったが、有無を言わせない響きがあった。
4人は名残惜しそうに、しかし素直に従った。
Kもようやく足を動かした。
アンナの想定では、挨拶は5分で終わるはずだった。
実際にかかった時間は、その4倍だった。
***
施設内の打ち合わせ室で、今日のスケジュールが共有された。
3社の選抜チームのリーダーを務める調香師が、落ち着いた声で説明を始めた。
「本日はお一人ずつの調査をさせていただきます。体温、肌質、皮脂の状態、そして香料との相性テストを行います」
「お一人あたり1時間から1時間半ほどお時間をいただきます。香りの感じ方は非常に繊細ですので、同時に複数の方を調査すると相互に影響が出てしまいます。そのため、お一人ずつ調査室にお入りいただく形を取らせてください」
「待機中の方は別室でボトルデザインの方向性や、お好みの色やイメージについてのヒアリングをさせていただきます」
4人は頷いた。
「では最初は、リーダーのソユン様から」
ソユンの心臓が跳ねた。
***
美咲はその場でちらりとKの方を見た。
Kは当然のように、ソユンと一緒に調査室に入るつもりのようだった。
(……大丈夫かな)
美咲の懸念は具体的だった。
ソユンは4人の中で、Kへの感情が最も純粋で最も制御の利かないメンバーだ。
他の3人も相当にKに入れ込んでいるが、ソユンのそれはもはや理性というフィルターが機能しない領域に入りかけている。
そのソユンがKと同じ部屋で1時間以上を過ごす。
(……何も起きないといいけど)
美咲はその祈りを胸にしまいながら、4人と一緒に調査室のある廊下へ向かった。
***
調査室は柔らかな間接照明に照らされた、穏やかな空間だった。
白を基調とした壁。
温度と湿度が精密に管理された空気。
余計な匂いを徹底的に排除するための空調システム。
部屋の中央に白いテーブルと椅子が配置されている。
テーブルの上には香料のサンプルが整然と並べられていた。
部屋にはK、ソユン、美咲、アンナ、そして3社の選抜チームの女性研究員たちが入った。
ソユンはテーブルの前の椅子に座った。
Kはその隣の椅子に当然のように腰を下ろした。
近かった。
手を伸ばせば届く距離にKがいた。
***
「では、まず基礎体温の測定から始めさせていただきます」
研究員が非接触型の体温計をソユンの額に向けた。
数秒後、表示された数値を見て研究員が僅かに首を傾げた。
「……37.2度ですね」
「熱があるのか?」
Kがすぐに反応した。
「いえ、微熱というほどではないのですが……平常時のデータとしては少し高めかもしれません」
研究員はやんわりと、しかし正確に言った。
「体温が通常より高い状態ですと、香料との反応結果に影響が出る場合がございます。可能であれば普段の体温に近い状態での測定が望ましいのですが……」
ソユンは焦った。
自分でも分かっていた。
体温が高いのは熱があるからじゃない。
Kが隣にいるからだ。
手を伸ばせば届く距離に座っていて、あの低い声が耳元で響いて、時折ちらりと視線がこちらに向けられて。
身体が正直すぎた。
火照りが収まらない。
昨夜ほとんど眠れなかったことも影響しているだろう。
しかし根本的な原因はこの人が近すぎることだ。
「あの……すみません、私……」
ソユンが申し訳なさそうに口を開きかけた。
しかしKが先に言った。
「そのまま進めろ」
「え……?」
「これは俺の前でつける香水だ」
Kの声は静かだった。
「俺の前にいる時の体温で香りを選ぶのが正しい」
その言葉の意味が、ソユンの脳にゆっくりと染み込んでいった。
俺の前にいる時の体温。
つまりKさんは、今の自分の状態が「普通じゃない」ことを分かっている。
自分がKの前で火照っていることを分かった上で、「それでいい」と言ってくれている。
ソユンの顔がもう一段階赤くなった。
「……は、はい」
声が震えた。
研究員はKの言葉に逆らうことなく、静かに頷いて測定を続けた。
アンナはタブレットの画面を見つめたまま微動だにしなかった。
その目は確かにタブレットに向いていたが、画面の文字を一文字も読んでいなかった。
美咲は部屋の隅で、ただ静かに見守っていた。
***
調査は進んでいった。
肌のpHバランスの測定。
皮脂の分泌傾向の確認。
そして様々な香料サンプルをソユンの手首や腕の内側に少量ずつ乗せ、時間経過ごとの香りの変化を記録していく。
ソユンは研究員の指示に従いながら、懸命に集中しようとしていた。
しかし、隣に座るKの存在が全ての集中力を容赦なく奪っていった。
Kは時折、ソユンの手首に載せられた香料の匂いを確認するように、そっと顔を近づけた。
その度にソユンの心臓は壊れそうなほど跳ねた。
Kの髪が自分の手に触れそうな距離にある。
Kの息遣いが手首の肌をかすかに撫でる。
「これは……少し甘すぎるか」
Kが独り言のように呟く。
その声が耳に直接注ぎ込まれるような距離だった。
「ソユン、どう思う?」
「え……あ、はい……」
「この匂い、好きか?」
「す、……好きです」
何の匂いのことを聞かれたのか、正直分からなかった。
今のソユンの鼻は、Kの匂いしか感じ取っていなかった。
***
1時間が過ぎた頃。
調査は佳境に入っていた。
最終的な香りの方向性を絞り込むため、数種類のブレンドサンプルが用意され、ソユンの肌に乗せられていく。
研究員たちが慎重に記録を取っている。
アンナが時折メモを確認している。
美咲が静かに見守っている。
しかし、ソユンの限界はもう近かった。
1時間以上、Kの隣にいた。
1時間以上、Kの声を聞き続けた。
1時間以上、Kの匂いを吸い続けた。
我慢がもうできなかった。
ソユンの目がじわりと潤んだ。
涙ではなかった。
悲しいのでもなかった。
ただ、好きという感情が身体の容量を超えてしまったのだ。
溢れたものが目に出た。
それだけのことだった。
ソユンはうるうるの目で隣のKを見た。
声は出さなかった。
何も言わなかった。
ただ、見た。
***
Kはその目を受け止めた。
潤んだ大きな瞳。
そこに映っているのは大富豪でも、KFGの会長でもなかった。
ただ、好きな人の顔だ。
Kは右手をゆっくりと伸ばした。
そしてソユンの頭にそっと置いた。
柔らかい髪の感触。
ゆっくりと撫でた。
一度。
二度。
ソユンの目から涙が一筋こぼれた。
嬉しくて。
ただ、嬉しくて。
そして、Kは。
部屋に他のスタッフがいることを分かっていたはずだった。
美咲がいることも。
アンナがいることも。
全て分かっていたはずだ。
それでもKは、ソユンを引き寄せた。
両腕で抱きしめた。
***
調査室が完全な沈黙に包まれた。
研究員たちの手が止まった。
ペンを握ったまま誰も動けなかった。
美咲は口を押さえた。
目が見開かれている。
アンナはタブレットを持つ手が一瞬だけ止まった。
ソユンは。
驚きはあった。
一瞬だけ身体が硬直した。
しかしその硬直はコンマ数秒で溶けた。
驚きよりも嬉しさが圧倒的に勝った。
ソユンはKの胸に顔を埋めると、自分からも両腕を回した。
Kの背中に手を添えた。
その手がかすかに震えていた。
しかし離す気はなかった。
Kの体温が直接ソユンに伝わっていた。
広い胸。厚い肩。
画面越しにしか聞いたことのなかったKの声が、今身体全体を通じて響いている。
Kの腕の力は強かった。
しかし乱暴ではなかった。
壊さないように、しかし離さないように、そういう力加減だった。
(……温かい)
ソユンの頭の中にあったのは、ただそれだけだった。
***
数秒間だったのか、数十秒間だったのか、1分は経ったのか、ソユンには分からなかった。
Kがゆっくりと腕を緩めた。
ソユンも名残惜しそうに、しかし静かに身体を離した。
二人の間に僅かな空間が戻った。
Kは何事もなかったかのように椅子に座り直した。
「続けてくれ」
短く研究員たちに告げた。
研究員たちは数秒の間を経て、ぎこちなく作業を再開した。
誰も今起きたことに触れなかった。
触れることが許される空気ではなかった。
***
美咲は部屋の隅で唇を結んでいた。
(……ついに)
Kとソユン。
いや、KとFLORIA。
もう止められるような関係ではなくなっている。
ビジネスの枠組みではとっくに説明がつかない。
しかし、このことを誰かに報告するわけにもいかない。
事務所に伝えたところで、何がどうなるというのか。
美咲はただその場に立ち続けた。
見なかったことにしたのではない。
見た上で、自分に何ができるかを考えていた。
答えは出なかった。
***
アンナはその光景を正面から見ていた。
見て見ぬふりなどしなかった。
タブレットから顔を上げ、Kとソユンの姿をしっかりと目に収めていた。
(……会長、わかってるんですよね)
(問題はこの後です)
この部屋の外にはあと3人が順番を待っている。
ソユンがこの顔で出ていけば、何かがあったことは察するだろう。
3人ともKへの感情はソユンに劣らない。
もし「自分だけ抱きしめてもらえなかった」となった場合。
4人の間に亀裂が入ることは、アンナが最も避けるべき事態だった。
(……会長。残りの3人にも相応の対応をしていただかないと、困りますよ)
アンナはその進言をいつどのタイミングで行うかを、既に計算し始めていた。
***
調査室の扉の外では、残りの3人が廊下のベンチに座っていた。
カエデは静かに目を閉じて順番を待っている。
サラはスマートフォンで何かを調べている。
ミジュは手元の時計を見ていた。
3人は調査室の中で何が起きたかをまだ知らない。
***
やがて、調査室の扉が開いた。
ソユンが出てきた。
顔は真っ赤だった。
目元もほんのりと赤い。
しかしその表情は、4人が何度も見てきた「Kと出会ったソユン」のいつもの延長線上にあった。
「ソユン……大丈夫?」
サラが笑いを含んだ声で聞いた。
「……う……大丈夫」
「ずっとKさん見てたでしょ」
「ソユンちゃん、意識ちゃんとある?」
カエデとミジュもソユンの顔を覗き込んだ。
ソユンは少しだけぼんやりとした目で返した。
「……ある。たぶん」
3人は小さく笑った。
ソユンがKの前に出ると毎回こうなる。
それはもう、FLORIAの中ではお馴染みの光景だった。
それ以上のことは、気づかれることもなかった。
「次、私行きたいです! お願いします!」
ソユンの顔を見た瞬間、ミジュが勢いよく手を挙げた。
ソユンがあんな顔になるほどの空間に一秒でも早く入りたい、その感情が身体を動かしていた。
しかし、研究員が申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……ミジュ様、大変恐れ入りますが、次はカエデ様用の香料サンプルとご準備を先に進めておりまして……」
「えー……」
ミジュがあからさまにしょんぼりする。
カエデが静かに立ち上がった。
「ミジュ、すぐ終わるから」
「カエデさん、すぐって言いましたね!?」
カエデは軽く肩をすくめて調査室へ向かった。




