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世界一の大富豪が私たちの味方です!  作者: Project_FLORIA
【幕間①】

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37/42

【幕間①】アルカディアの嘆き

******


FLORIAとKが出会った運命のライブの夜。


Kがリムジンの中でアンナに告げた、たった一言。「FLORIAをアルカディアの専属モデルにしよう」——その言葉が、アンナの指先を通じて、KFGニューヨーク本社へと届いた、あの夜。


FLORIAの4人がKとの突然の出会いに心を揺さぶられ、帰りのワンボックスカーの中でKの名前を検索していた頃。


世界は——静かに、しかし確実に動き始めていた。


******


そのニュースは、数日後の朝、何の前触れもなくファッション業界を駆け巡った。


それは、まるでクラシック音楽のコンサートホールに、アラーム音が鳴り響いたかのような——不協和音だった。


『アルカディア、クラウディア・シュナイダーとの契約を電撃打ち切り。新ミューズにK-POPグループ「FLORIA」を起用』


最初は、誰もがそれを、質の悪いゴシップサイトのフェイクニュースだと思った。



《《あの》》アルカディアが?

伝統と格式を重んじ、常に時代の遥か先を行く、孤高のプレステージ・ブランドが。

世界的スーパーモデルを、契約期間の途中で、理由もなく解任?

そして、後任が——誰だ?

FLORIA?

聞いたこともない。K-POPアイドル。


しかし、それが公式発表であると知れ渡るのに、時間はかからなかった。


その瞬間——アルカディアを長年愛し、その世界観を信仰してきた者たちの間で、巨大な悲鳴と怒号、そして深い嘆きが渦を巻いた。


***


SNSの反応


Aoi@モード系OL

嘘でしょ…?アルカディアの新ミューズがK-POPアイドルって…。今朝、悪い夢の続きでも見てるの?ブランドの公式アカウント見ても信じられない。#アルカディアの終わり


Élégance

何かの間違いであってほしい。アルカディアが築き上げてきた歴史と品格はどこへ?ポップでキャッチーなアイドルに、あのブランドの哲学が表現できるとは思えない。失望という言葉では足りない。


FashionLover

FLORIAってグループ、ググってみたけど…。ごめん、良さが全然わからない。この子たちがクラウディアの後任?冗談でしょ?マーケティング部門のトップ、クビにした方がいいんじゃない?


クラシック好き

若者への媚び方が、あまりにも安直すぎる。アルカディアはそういうブランドじゃない。流行を作る側だったのに。悲しい。本当に悲しい。#ArcadiaGoneWrong


辛口ファッション批評

アルカディア、迷走の極み。アジア市場が欲しいのは分かるが、やり方が三流すぎる。ブランドの価値を自ら毀損してどうする。長年買い支えてきた顧客を、全員敵に回したな。


***


ファッション専門匿名掲示板の反応


スレタイ:【悲報】アルカディア、完全に終わる。新モデルに謎のK-POPアイドル


1: 名無しのクチュリエ

見たか、お前ら。

俺たちの愛したアルカディアは今日死んだ。


2: 名無しのクチュリエ

嘘だと言ってくれ。

あの、孤高のアルカディアが、K-POPアイドルに魂を売ったなんて。


18: 名無しのクチュリエ

FLORIAとかいう連中の宣材写真見たけど、もう目も当てられない。

ぺらっぺらの大量生産アイドル。

あの子たちに、アルカディアのドレスの重みと歴史が分かるわけないだろ。


35: 名無しのクチュリエ

それな。クラウディアのあの全てを見透かすような、知的な眼差し。あれこそがアルカディアだった。

次は、カメラに向かって、指でハートでも作らせるのか?吐き気がする。


52: 名無しのクチュリエ

もっと良い候補がいただろ。日本でも有名な女優がアルカディアファンあったはず。自分のSNSで、どれだけアルカディアへの愛を語ってきたか。ブランド側も知ってたはずだろ。FLORIAは今までアルカディアについて投稿したこと1回もない。


91: 名無しのクチュリエ

多分、アメリカ本社の、新しいマーケティング担当役員あたりが、暴走したんだろうな。

「これからはアジアのZ世代だ!」とか、浅いこと考えて。

ブランドの哲学なんて、何も分かってない馬鹿がトップに立ったに違いない。


124: 名無しのクチュリエ

もう買わない。

今までローン組んでまで買ってきたのが馬鹿らしくなった。

あのアイドルが着た服なんて、金をもらっても着たくない。


150: 名無しのクチュリエ

俺は信じてる。

ファンの声が届けば本社も間違いに気づくはずだ。

公式サイトに抗議のメールを送ろうぜ。


***


それは、嵐だった。


ブランドの歴史上、経験したことのない——拒絶と、怒りの嵐。


世界中のアルカディアを愛する者たちが、声を揃えてその決定に「NO」を突きつけた。


しかし、その悲痛な叫びが、天上のさらにその上にいる、たった一人の男の耳に届くことはなかった。



***



パリ、ヴァンドーム広場に聳え立つ「アルカディア」フランス本社。


その一室で、マーケティングディレクターの『アラン・デュボワ』は、悪夢のような光景を前に頭を抱えていた。


彼の目の前にある巨大なモニターには、世界中のSNSからリアルタイムで収集されたブランドへの言及が、滝のように流れ落ちていく。


そのほとんどが、美しい賞賛の言葉ではない。


怒り、失望、悲嘆、そして嘲笑。


『#アルカディアの終わり』


呪いのようなハッシュタグが、あらゆる言語でトレンド入りしていた。


「アランさん!顧客からのキャンセル要請が、鳴り止みません!」

「株主から説明を求める連絡が殺到しています!」


部下たちの悲鳴のような報告が、彼の耳を突き刺す。


しかし、アランの心は不思議と冷静だった。


いや——むしろその胸の奥底では歪んだ、しかし確かな高揚感すら生まれていた。


(……やはり、こうなったか)


彼は、この結果を完全に予想していた。


KFGとかいう、アメリカの巨大な金融資本が、我々のブランドを買収した時から。


そして、FLORIAとかいう品性の欠片もないK-POPアイドルを、ゴリ押ししてきた時から。


彼は、このブランドを誰よりも愛していた。


人生の全てを捧げてきた。


そのプライドが、彼に囁きかける。


これは——チャンスだ、と。


金で買収しただけでファッションの何たるかも分かっていない、あのアメリカのやつらに、本物の「ブランド価値」というものを教えてやる、絶好の機会なのだと。


彼は、秘書に命じた。


「KFGニューヨーク本社ブランド戦略担当と、緊急ビデオ会議をセットしろ。今すぐにだ」


***


数時間後。


完璧に仕立てられたアルカディアのスーツに身を包んだアランは、自室のモニターの前に、自信に満ちた表情で座っていた。


手元には、この数時間で部下に作らせた完璧なレポートが用意されている。


ブランドセンチメントの垂直落下を示すグラフ。


顧客離反率の悪夢的な予測。


今四半期の壊滅的な売上予測。


これは——武器だ。


あの傲慢なアメリカ人たちの鼻をへし折り、自分こそが、このブランドを救える唯一の人間であることを証明するための、最強の武器。


やがてモニターに一人の男の顔が映し出された。


「……こんにちは。KFGブランド戦略部、ロバートです」


その男は、感情の読めない静かな目で、こちらに会釈した。


そのビジネスライクな態度に、アランは逆に闘志を燃やした。


「アラン・デュボワです」


アランは、威圧するように低く名乗った。


「本日は、緊急でお時間をいただき感謝する。単刀直入に言おう。貴殿らが下した、FLORIAとかいうグループの起用決定。あれは完全な失敗だ」


アランはそこから、マシンガンのように、用意してきたデータを画面に共有しながら捲し立てた。


「これが発表後の顧客の反応です。見ての通り、ポジティブな意見は皆無。長年我々のブランドを支えてきた、コアなファン層からの猛烈な反発を招いている!」


「そして、これが今四半期の売上予測。このまま何もしなければ、前年同期比で最低でも70%はダウンするでしょう。ブランドの信頼は地に落ち、回復には数年を要する。これはもはや、経営判断のミスというレベルではない。ブランドに対する破壊行為だ!」


アランはそこで一度、言葉を切った。


そして——とどめの一撃を放つ。


彼の最強の「脅し」を。


「ロバートさん。私はこのブランドを誰よりも愛している。だからこそ、敢えて言わせてもらう。このままFLORIAの起用を強行するならば、我々アルカディアの全てのクリエイティブチームは、ストライキも辞さない。そうなればどうなるか……お分かりですか?アルカディアは――死にますよ」


完璧な、最後通牒だった。


彼はモニターの向こうの男が顔面蒼白になり、慌てふためく姿を想像した。


そして、「どうすればいい、助けてくれ」と、自分に泣きついてくる姿を。



しかし——。


モニターの向こうのロバートという男の反応は、彼の想像とは全く異なっていた。


ロバートは、アランの情熱的な、そして悲壮なまでのプレゼンテーションを、終始表情一つ変えずに静かに聞いていた。


まるで、天気予報でも聞いているかのように。


そして、アランが最後の「脅し」を口にした後、数秒の沈黙を置いて静かに口を開いた。


「……アラン・デュボワさん。貴方のブランドへの情熱は理解しました。貴重なデータをありがとうございます」


その声は、あまりにも平坦で湿度がなかった。


「ですが貴方は一つ、根本的な勘違いをされている」


ロバートは、モニター越しのアランを真っ直ぐに見つめた。


「我々KFGは、アルカディアに売上など一切期待しておりません」


「……は?」


「アルカディアは、我々の会長が何らかの意図をもって個人的にポートフォリオに加えた、無数に存在する資産の一つに過ぎません。その《《真の意図》》が何か、我々も知りませんし、知る必要もない。我々はただ、会長の決定を実行するだけです」


アランの頭の中が、真っ白になる。


何の話をしているんだ、この男は。


ロバートは続ける。


その声はもはや、アランの存在など意に介していないかのように淡々としていた。


「そして今回、会長からの指示は専属モデルの変更とCM撮影のみ。『売上の確保』や『ブランド価値の維持』は一切含まれていません。我々KFGにとって重要なのは、会長の命令を実行することのみ。ですから、貴方の危惧する『ブランドの死』など、我々にとっては全く意味を持たない。指示通りに動かないのであれば、代わりはいくらでもいます」


アランはもう何も聞こえなかった。


耳がキーンと鳴っている。


視界がぐにゃりと歪む。


ロバートが最後のとどめを刺す。


「他にご用件は?」


ブツッ。


ビデオ会議は、一方的に、切られた。


***


アランは、ただ真っ暗になったモニターを見つめていた。


彼の人生をかけて築き上げてきたプライドも、美学も、ビジネスの常識も——全てがこの数分間で、音もなく粉々に砕け散ってしまった。


彼は、ゆっくりとデスクの上に置かれたFLORIAの宣材写真へと視線を移した。


そこに写る、無邪気な4人の少女たち。


カエデ、ソユン、サラ、ミジュ——。


笑顔だった。


無防備に、明るく輝くような笑顔。


ブランドの歴史も、ファッションの哲学も——何も背負っていないような、あまりにも軽やかな笑顔。


その背後にいる、絶対的な王。


怒りはもうなかった。


ただ深く暗い、海の底に沈んでいくような、圧倒的な畏怖だけが、彼の心を支配していた。


自分は、マーケティングディレクターなどではなかったのだ。


ただの——王の気まぐれな資産の番人。


その、あまりにもちっぽけな自分の本当の姿を。


彼は今日初めて知った。



——この、世界中の嘆きと怒りの声が渦巻く中、当の本人たちは何も知らなかった。


FLORIAの4人は、先日ライブを終えた達成感の余韻の中で、Kという不思議な男のことを、こっそりと語り合っていた。

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