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世界一の大富豪が私たちの味方です!  作者: Project_FLORIA
【リ・フローラ編】

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【リ・フローラ編】第17話

***


数週間後。

日本時間、午後8時。


FLORIAの公式YouTubeチャンネルに、一本の動画がアップロードされた。


サムネイルは——黒い背景に、白い文字が一行だけ。

『Re:FLORA』


それだけだった。


メンバーの写真もない。

華やかなデザインもない。

煽り文句も、ティザー映像も、何もない。


ただ曲名が、静かに画面の中央に佇んでいるだけだった。


***


この異質なサムネイルが生まれた経緯には、4人の強い意志があった。


数日前、事務所のアーティスト戦略部から、PV制作の提案があった。

「せっかくの新曲ですから映像も制作しましょう。監督候補のリストをご用意しました」


その提案を受けて、4人は自分たちだけで話し合った。

練習スペースのソファに座り、輪になって。


「……どう思う?」

カエデが、静かに切り出した。

「PV……撮りたい気持ちはある。でも——」


「わかる」

サラが、すぐに頷いた。

「衣装も、構成も、カメラワークも——全部、Kさんに決めてもらえるなら撮りたい。でも、他の人の意志が混ざるのは……」


「嫌」

ミジュが、はっきりと言った。

「この曲は、Kさんと私たちの曲なのに。知らない監督の感性で映像を作られたら、それはもう私たちの『Re:FLORA』じゃなくなっちゃう」


「でも……これ以上Kさんにお願いするのは……」

ソユンが、少し切なそうに俯いた。

「申し訳ない、よね」


全員が、頷いた。


Kは、すでに十分すぎるほどのものを与えてくれている。

これ以上、Kの時間を奪うことはできない。

4人は分かっていた。


「じゃあ——映像はなしでいこう」

カエデが結論を出した。

「曲名だけの、シンプルな画面。それでいい」


「うん」

「それがいい!」

「Kさんが見ても、きっと分かってくれるよね」


4人はそう決めた。

そして事務所に対して、PVは制作しないと伝えた。


アーティスト戦略部は困惑したが、メンバーの強い意向を変えることはできなかった。

こうして『Re:FLORA』は、黒い背景に白い文字だけという、K-POPの新曲としては異例の形で世に送り出された。


***


約束通り、クレジットには——。


作詞:ソユン、カエデ、ミジュ

作曲:サラ


と記された。


Kの名前は、どこにもない。

しかし、4人にとっては——この曲の全ての行間にKの存在が息づいていた。


文字の裏に、音の裏に、旋律の裏に。

見える人にだけ見える、透明なサイン。

それが4人にとっての、Kとの秘密の証だった。


***


公開から数時間。

SNSには、様々な反応が溢れ始めた。


『新曲キター!!Re:FLORA!!待ってたよ!!』

『めっちゃいい曲……王道って感じ。サビの突き抜け感がたまらない』

『え待って、これ4人で作った曲なの??マジ???すごすぎん???』

『サラちゃん作曲!!!才能の塊かよ!!!推せる!!!!』

『歌詞がいいね』

『Re:FLORAって意味深すぎん??』

『タイトル見た瞬間鳥肌立った。何かの伏線じゃないよね??解散とかないよな???』

『なんでPVの映像ないの??黒背景に文字だけって怖い』

『手作り感を大事にしてる感じがして逆にエモい』

『MVないのに再生数じわじわ伸びてるのすごくね?曲の力だけで勝負してる感じがする』

『ファンじゃなかったけどこの曲で気になった。FLORIA調べてみよ』

『事務所的にこの曲は特別扱いなんじゃない?FLORIAにとってのお守りみたいなもの?泣く』


反応は、様々だった。

絶賛する声、戸惑う声、考察する声。

しかし総じて「何か特別な曲だ」という空気だけは、ファンの間で静かに共有されていった。


***


4人は、SNSの反応をほとんど気にしていなかった。


もちろん、ファンが喜んでくれているのは嬉しい。

しかし、この曲は誰かに評価してもらうために世に出したものではなかった。

Kと自分たちの間に結ばれた、目に見えない絆。それを音の形にしただけのこと。

評価は二の次だった。


この曲に関するインタビューや番組出演については、全て断った。

その判断は、メンバー自身が強く希望したものだった。


「嘘をついて語ることは、絶対にしたくない」

カエデが、チーフマネージャーにそう伝えていた。


「この曲について聞かれたら、嘘をつかないといけない。Kさんのことは言えないから。……でも、嘘をついてまで語るくらいなら、何も語らない方がいい」


その言葉に、4人全員が頷いた。

事務所も、その意向を尊重した。


結果として『Re:FLORA』は、FLORIAの楽曲の中でも唯一、メンバーが公の場で語ることのない「沈黙の曲」となった。

しかし、その沈黙がかえって神秘的に映った。

ファンは深追いこそしなかったが、何かを察していた。

この曲には、表に出ていない「何か」がある。


4人の、FLORIAの静かな祈りは、ファンに伝わっていた。


***


日常の中で——4人は、この曲をひたすら聴き続けた。


移動中のワンボックスカーの中。

「美咲さん、Re:FLORAをかけください!」

ソユンが、シートに座りながら元気に言う。


練習の休憩中。

ミジュがワイヤレスイヤホンをつけて、目を閉じている。


寮のリビング。

サラがキーボードの前に座って、自分が作ったメロディーを何度も弾いている。

その横でカエデが、声を出さずに、歌詞を辿っている。


4人にとって、この曲は間違いなく自分たちの「一番の曲」になっていた。

なぜなら、この曲を聴くたびに、Kの想いが流れてくる気がするから。


そしてそのたびに、4人の胸の中でKへの想いが、静かに温かく灯り直すから。


***


そして——ニューヨーク、マンハッタン。

KFG本社ビル「The Spire of KFG」最上階。会長執務室。


この男は——当然のように——この曲を社内でかけたがった。

「アンナ、あの曲を社内で流す。全社で」


しかし、アンナは事前に対策を練っていた。

ロイヤル・ソレイユのポスターの件で学んだのだ。


「会長」

アンナは、冷静に、しかし巧みに言葉を選んだ。


「執務フロアや会議室で流した場合……職務に支障が出る可能性がございます。万が一、それによって業務効率を落とすような者がいた場合、FLORIAの皆様の歌声にケチがつくことになりかねません」


「……」

Kの眉が、僅かに動いた。

アンナの言葉が刺さった。FLORIAの歌声が「業務妨害」として認識される——。

それは、Kにとっても望まない結果だった。


アンナは畳み掛けた。

「社内の食堂で流す、というのはいかがでしょうか。昼食の時間帯にBGMとして流す形であれば、社員の皆様にもリラックスした状態で楽しんでいただけます。彼女たちの楽曲が心地よい昼休みの一部になる——それは、むしろ好印象に繋がるかと」


アンナとしては妥協案だ。

しかし全面拒否すれば別の方法を探られる。それならば、被害を最小限に留める方が得策だ。


Kは、しばらく考え込んでいた。

執務室のスピーカーから、朝から晩まで彼女たちの歌声を響かせたいというのが本音だったが。

「……それでいい」


アンナは完璧な一礼をすると、すぐに経営企画本部へ連絡を入れた。

その指示は、いつものように世界中のKFGグループ全拠点へと伝達された。


ニューヨーク本社、ロンドン、パリ、香港、シンガポール、フランクフルト、東京、ソウル——。

世界中に広がる全拠点の豪華な社員食堂で、BGMとして『Re:FLORA』が流されることが決まった。


世界最大の金融グループの巨大な食堂で、4人のアイドルの歌声が、日替わりメニューの横で静かに響く。

ニューヨーク本社のカフェテリアで、若手アナリストがふと耳を傾ける。

ロンドン支社のトレーダーが、「この曲、最近ずっと流れてるな」と同僚に呟く。


誰もこの曲がなぜKFGの食堂で流れているのかは知らない。

ただ、世界の金融の最前線で戦う数万人のエリートたちが、知らず知らずのうちに少女たちの歌声に包まれている。


それが、Kの不器用で強引で、しかし限りなく愛おしい独占欲の形だった。


***


最終的に『Re:FLORA』は、再生回数や売り上げの面では《《そこそこ》》の数字に留まった。

PVがないこと、プロモーションが皆無であること、そしてメンバーが語らないこと。

それらが重なりFLORIAの中でもヒット曲とはならなかった。


しかし、それで良かった。

4人にとっても、Kにとっても。


この曲は世界を席巻するために作られたものではなかったから。

この曲は、KとFLORIAが音楽で繋がっていられるための、最高の宝物だった。


ニューヨークの最上階でKが聴くとき。

日本の練習スペースで4人が聴くとき。

太平洋を挟んで、同じ旋律が5人の間を流れている。


物理的な距離は1万キロ以上。

しかし『Re:FLORA』が鳴っている間だけは、5人は同じ場所にいた。


同じ言葉を。同じメロディーを。

同じ想いを、共有していた。


***


FLORIAの4人が静かに曲を聞くリビングの窓の外では、東京の夜景が瞬いている。

地球の裏側、ニューヨークでは朝日が昇る。


世界の王は、また今日も帝国の舵を取る。

そして、4人の少女たちの歌声を心に響かせながら、彼女たちのための次なる《《戦略》》に頭を悩ませるのだった。

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