表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界一の大富豪が私たちの味方です!  作者: Project_FLORIA
【ロイヤル・ソレイユ編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/42

【ロイヤル・ソレイユ編】第3話

社長室から解放された4人は、夢見心地のまま事務所の送迎車に乗り込み、自分たちのお城である寮へ足早に戻ってきた。


玄関の鍵をかけ、靴を脱ぎ捨て、リビングのソファに倒れ込む。


完全にプライベートな空間になったその瞬間、今までかろうじて保っていた理性のダムが、完全に決壊した。


「きゃああああっ!!」


地響きのような歓声が、リビングに炸裂する。


彼女たちは、それぞれが手にした深紅のベルベットの箱を、まるで生まれたばかりの赤ちゃんのように抱きしめながら、輪になって飛び跳ねた。


「信じられない!Kさん、私たちのこと忘れてなかったんだ!」


ソユンが、嬉し涙を浮かべながら叫ぶ。


一ヶ月間の沈黙が生んだ不安は、もはや跡形もない。


「しかも、超有名ブランドのアンバサダーだよ!?CM撮影もあるかな!?」


サラは興奮を抑えきれない様子で、隣にいたカエデの肩をバンバンと叩いている。


「ふふ……また開けて見てみましょうか」


カエデの提案で、4人は改めてテーブルを囲み、箱の中の芸術品と向き合った。


震える手で蓋を開ける。


そこにあるのは、スイスの職人が数百時間をかけて磨き上げたプラチナの輝き。


文字盤には星屑のようなダイヤモンドが埋め込まれ、秒針一つとっても芸術的な曲線を描いている。


「はぁ……きれい……」


カエデが、恍惚としたため息をつく。


彼女は、Kが自分たちにただ高価なものを与えたのではないと考えていた。


これは、歴史と品格の象徴。


Kは、自分たちがそれにふさわしい存在だと思ってくれているのだ。


その事実が、彼女のプロとしてのプライドをこれ以上ないほどに満たした。


ソユンもサラも、もらった自分の時計を見つめている。


その中で一人、ミジュだけは、他のメンバーとは少し違う種類の興奮に包まれていた。


19歳の彼女にとって腕時計といえば、スマートウォッチか、お手軽なファッションブランドのアクセサリーのようなものだった。


今目の前にあるのは、車一台分の価値を持つ、本物の宝飾品としての時計。

そんなものは、想像の世界の産物でしかなかったのだ。


その未知の世界への扉を、Kがいとも簡単に開いてくれた。


重すぎるほどの愛の証。


その事実に、普段は大人びている彼女の心も、純粋な子供のようにときめいていた。



「これさ…つけてみても、いいのかな!?」



ミジュがおずおずと聞くと、カエデが微笑んで頷く。


「もちろんよ。それはミジュがKさんからいただいたものなんだから」


「あっでも落とさないように気を付けて…!」


ソユンは傷がつかないように、と心配な様子だった。


ミジュは意を決したように、その時計を自分の手首に巻いた。


カチリ、とバックルが留まる音。


「わ……!」


少し重い。


でも、ひんやりとして心地がよい。


立ち上がって腕を掲げてみる。


パーカーにスウェットという部屋着姿の自分と、あまりにも不釣り合いな大人の世界の輝き。


そのギャップが、たまらなく刺激的だった。


「わー!ミジュ、すっごい似合ってる!」


その姿を見つけたサラが、目を輝かせて声を上げた。


そして、ポケットから自分のスマートフォンを取り出す。


「こっち向いて!記念撮影しよ!普段はつけられないんだからさ!」


「えー!恥ずかしいですよ私だけ」


「いいからいいから!ほら、ポーズ!」


カメラを向けられると、条件反射で完璧な表情を作ってしまうのがアイドルのさがだ。


ミジュは少し照れながらも、時計がよく見えるように左手を顔の横に添え、小悪魔的なウインクを決めた。


パシャッ。


「最高!超可愛い!」


「どれどれ? わ!本当だ。ミジュ、なんか急に大人っぽく見える」


ソユンも覗き込んで絶賛する。


「えへ……そうですか?」


ミジュは満更でもなさそうに笑うと、自分の手首で輝く「時計の王」を、愛おしそうに撫でた。


「美咲さんに言って、Kさんに写真送ってもらう?」

「えー!それは恥ずかしいからダメです!」

「迷惑がかかるからやめなさい」

「そうだよ!Kさんに気軽に連絡なんてできないんだから!」


彼女たちのお祭り騒ぎはしばらく続いた。


その光景は、あまりにも平和で幸福に満ちていた。



***



一方、その頃。

ニューヨーク、KFG本社ビル最上階の執務室。


アンナからの報告を受け、Kは満足げに頷いていた。


「そうか。受けるのか」


「はい。皆様、大変お喜びとのことでした」


Kは、その光景を想像し、口元にニヤリと笑みを浮かべた。


結果的にとはいえ、一ヶ月間焦らした甲斐があったというものだ。


彼はふと、何かを思い出したようにアンナに問いかけた。


「そういえば、アンナ。あのブランドを買収した時に、俺も何か時計をもらってなかったか?」


「はい、ございます」


「あれは良いやつか?」


そのあまりにも無頓着な問いに、アンナは完璧な無表情のまま答える。


「……あれは『ロイヤル・ソレイユ』の本社工房が、会長のためだけに半年をかけて制作した、世界に一本しか存在しない特注品でございます」


文字盤には希少なブルーダイヤモンドを使用し、内部機構はKFGのロゴを模した特別仕様。非売品だが、価格をつけるならFLORIAに贈ったモデルの軽く20倍は下らない代物だ。


「そうか」


Kは、初めてその時計に僅かな興味を示した。


しかし、それはその「資産価値」に対してではない。


「それ、出しておけ」


彼は、短くそう命じた。


アンナは、その意図を瞬時に、そして完璧に理解した。


(……FLORIAの皆様に、見せびらかすおつもりですか)


この男は、時計そのものには何の興味もない。


ただ、「君たちとお揃いのブランドだよ」と言いつつ、自分だけが持つ「高み」を見せつけたいのだ。「うんうん、俺たち、気が合うな」と共通点をアピールしつつ、その驚きと尊敬の眼差しを一身に浴びたいという、あまりにも子供じみた独占欲。


(しかし…FLORIAの皆様なら望む反応をしてくれそうですね)


アンナは、もちろんそんなことを口にはせず、静かに、そして深く一礼した。


「かしこまりました。メンテナンスを済ませてご用意しておきます」


こうして王の新たな「遊び」の準備が、静かに整えられていく。



***



再び日本。

驚きと幸福に包まれていたはずのFLORIAの寮。




事件は、その日の夜に起きた。




寮に戻り、それぞれの自室で過ごしていた夜。


ベッドの上に寝転がったミジュは、まだ今日の出来事の興奮冷めやらぬまま、スマートフォンを眺めていた。


Kさんからの、突然の贈り物。


そして、新しいグローバル・アンバサダーへの抜擢。


その幸福感は、賢いはずの彼女の理性を完全に麻痺させていた。


(ファンの皆にも共有したいな!今日のこの嬉しい気持ち!)


ミジュは、SNSのアプリを開いた。


もちろん、時計のことやアンバサダーのことを書くつもりなど毛頭ない。


そんなことをすれば、情報解禁前の守秘義務違反でどれだけ大変なことになるか、彼女だって、百も承知だ。


ただ、今日のこの「浮かれた気持ち」を、少しだけお裾分けしたかった。


「最近元気がない」と心配してくれていたファンたちを、安心させたかったのだ。



彼女は、当たり障りのない言葉を打ち込む。


『今日はとっても楽しい一日だったよ~!』


そして、その投稿にいつも通り、4枚の写真を添付しようと写真を選び始めた。


練習中のオフショット、サラとのふざけた自撮り、今日食べたスイーツの写真。


そして…最後の一枚。

メンバーたちが「可愛い」と言って撮ってくれた、あの時計をつけた自分の写真。


彼女の中に、他意や計算など微塵もなかった。


この写真を選んではいけないことは、数分前には理解していた、選ぶつもりもなかった。


ただ、今日の幸福な記憶の象徴として、1日の写真を見ている中で、ついその一枚を無邪気に選んでしまった。


「送信」ボタンをタップする。


投稿して数分。コメント欄には、すぐにファンからの温かいメッセージが届き始めた。


『ミジュちゃんお疲れ様!』

『今日も可愛い!』

『スイーツ美味しそう~!』

『元気そうでよかった!』


いつも通りの平和な反応に、ミジュは満足げに微笑むと、スマートフォンを充電ケーブルに繋ぎ、サイドテーブルに伏せて置いた。


「ふぁ……明日からまた頑張ろうっと!」


彼女は一伸びすると、鏡台の前に座り、丁寧に化粧水をパッティングして肌を整え始めた。仕上げにリップバームを塗りながら、鏡に映る自分に向かって、にこりと微笑んでみた。歯磨きをする間も、つい鼻歌が漏れてしまうほど気分が良かった。


またKに会えるかもしれない。


そんな幸せな予感を抱えていると、いつもなら眠気と戦いながらこなす毎日のルーティンも、今日だけは少し特別な儀式のように楽しく感じた。



そのとき、「あの時計」に関するコメントが増え始めていることなど、知る由もなかった。


『え、その時計…ロイヤル・ソレイユじゃない!?』

『すごすぎ!ミジュ、時計に興味あったんだ!』

『めっちゃ似合ってる!』

『もうそんなに稼いでるんだ』


世界最高峰の輝きは、スマートフォンの画面越しでも隠しきれるものではなかった。


平和な夜は、静かに、しかし確実に終わりを告げようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ