第一波発生2時間後~Mela!~
少しでもコンビニ店舗や本部の実情を知りたい公安調査庁と警視庁公安部の捜査員は非番の店員や外回りの本部社員がどこかで引っ掛かったところで警視庁へと連れてくるように指示を出した。
まずはすぐに交通機動隊や警邏隊など交通部に検問を実施し、不審な車両を見かけ次第、職務質問を行うなどしてテロリストと事情を知っていそうなコンビニ業界の関係者を引っ張るつもりだ。
「警邏隊からコンビニ本社勤務の女性を発見したとのこと」
「よし。連れてきてくれ」
すぐに神田は現場の警察官に指示を出し、その本社勤務の女性ーマコを連れてくるように言った。
「浜松町にて店舗関係者と見られる女性が保護されたそうです!」
浜松町からの無線を聞いていた捜査員が征陸に報告する。
「怪我の程度はどれぐらいだ?」と訊くと「軽症ですが、意識不明・・・」と報告してすぐの現場からの報告に目を疑いつつ、征陸に報告する。
その女性ーフミは爆発があった店の前で倒れていたところを所轄署の警察官に保護されたという。
意識が戻り次第、こちらで引き取って話を聞こう、と思っていた矢先、驚くべき情報がすぐにもたらされた。
「浜松町の救護施設で保護された店舗関係者の女性の意識が戻ったとのこと」
征陸は押さえ込むようにグッとガッツポーズをして、事態が好転したことを喜び、神田は「すぐにその女性もこちらへ連れてきてくれ」とフミを連れてくるように指示を出した。
「オーソンのオーナー、1名と連絡がつきました!」
登記簿を元に片っ端からコンビニ本部とフランチャイズ契約を結んでいる事業所やその代表者へ電話をかけ、ようやく1名ー田中勇作と連絡が取れたのだった。
もちろん、神田と征陸の判断は「警視庁へ連れてくる」ことだった。
そして、玉置和己探しは意外なところからケリがついた。
実は昨日、新橋のコンビニで老人といざこざを起こし、警察沙汰になっていたコンビニ店員―和己がいた。
「・・・どうやら、"秘密兵器"はあっさり見つかったようだ。あとは捜査を進めるだけだ」
公安調査庁の女性職員、浅見は沖縄に飛んだ同期の春日―喜久川にすぐに見つかったことを話す。
『・・・わかった。こっちは"秘密兵器"からの連絡待ちではあるから、どうにか交渉を長引かしてくれ。何としても手に入れよう、"絶望の1秒前の映像"を』
「"絶望の1秒前の映像"?何それ?カッコつけてるの?」
『その方が気分がノるだろ?それじゃ、誰か聞いているようだ。切る』
喜久川は警戒して電話を切った。
――――――――――――――――――――
和己は遠くで花火が上がったような音に叩き起こされた。
そして、つい習慣で起きた以上はすぐに身支度を整えて、さもこれからコンビニに出勤するかのように歩き出した。
しかし、途中で昨日付でクビになったことに気付く。
「チッ」と舌打ちをして近くのスーパーに立ち寄り、ビールを買い込んで自宅へ戻ることにした。
そもそも、クビになった理由は客との言い争いが発端で取っ組み合いの喧嘩に発展したことだった。
和己がレジをやっていると横からタバコを買おうと老人が割り込もうとしたところを遮ったことで老人の怒りを買い、よけきれずに胸倉を掴まれてしまった。
これで和己はスイッチが入り、すかさず、胸倉を掴み返したことで老人が先制攻撃と言わんばかりに殴ってきたのだった。
和己も反撃として顔を平手打ちし、老人はついに和己の髪の毛を掴みかかったところで、運良く早く着いた警察が介入したのだった。
老人は和己の方から殴ってきたと主張したものの、そもそもの原因である割り込みと最初に殴った場面がしっかりと監視カメラの映像に残されていたことで主張が認められることなく、警察署で話を聞くことなった。
一方、和己の方は無罪にはなったものの、店長からは「あの場面ではノーガードで殴られるのがスジだろ」と胸倉を掴んだこと、殴られたことで反撃に転じて老人相手に平手打ちしたことを咎められ、クビを言い渡された。
久々に1か月ぐらい続いたコンビニの仕事だったが、あっけなく幕を閉じた。
スーパーでビールを買い込み、クビになり、無職になったことで朝から呑んでやろうと自宅で一本目を取り出したところで玄関のチャイムが鳴った。
確認もせずにドアを開けると昨日の老人とのいざこざに介入した警官が立っていた。
「玉置和己さんですね。昨日の件でお話があります」
あれで済んだんじゃないのか、と大きなため息をついて面倒くさそうに応える。
「詳しいことは署の方で聴きたいので今から出ることって出来ますか?」とさらに面倒なことを言い出したと渋々、従ってパトカーで近くの警察署へ向かう。
だが、いつもの道を通らずに何故か遠回りをしながら、警察署へ来た。
その間、何台もの消防車や救急車、警察車両、果ては自衛隊員を載せた陸上自衛隊のトラックまでも見かけた。
そして、空にはけたたましくヘリコプターが飛び交い、明らかに東京で何かが起きているのを和己は感じ取ったが、それは自分には関係ないだろうと思っていた。
警察署で昨日のいざこざでの事務手続きを済ませると刑事らしき男が声をかけてきた。
「あなたが、玉置和己さんですね」
男は警察手帳を見せ、同時に名刺も見せる。警視庁公安部の神永というらしい。
名刺を眺める時間もそこそこに和己は不信感まるだしで、「何の用だ?」とぶっきらぼうに訊く。
「公安調査庁と警視庁公安部としては、あなたのお力添えが欲しいんです。ご協力いただけますか?」
「は?どういうことだ?」
「実は、今朝からコンビニ店舗がテロに遭いまして、その捜査中なんですが、なるべく情報が欲しいと思いまして、コンビニ業界の関係者に声をかけているんです」
何だ、そんなことか、とまた警察沙汰になるのか、と少し肝を冷やしたが、昨日でコンビニの仕事がクビになった以上、時間はたっぷりあるので協力することにした。
さっそく、神永が運転する車に乗り込むと、神永は協力に関する注意事項などを話すが、ほとんど想定していたことであった。
そして、和己は気になっていることを訊いた。
「報酬はあるのか?」
神永はバックミラー越しに待ってました、と笑みを浮かべた。
「我々の方で出せる分であれば、いくらでも」
神永は金銭だろうと思い、和己に答えた。
だが、和己は「金はいらん。協力して欲しいなら、やってほしいことがある」と条件を出してきた。
「一つは、沖縄のある企業を買収して欲しい。もう一つは、沖縄にいるとある女性を日本から葬ってほしい」
思った以上にとんでもない条件を出してきた、と神永は一旦、車を止めた。
「・・・上に確認を取ります。待ってください」とスマホで責任者である神田と征陸に連絡を取った。
現在、公安調査庁と警視庁公安部が是が非でも協力して欲しいところで、これが原因で断るような事態にはなってほしくなかった。
『・・・そうか。直接、話をさせてほしい』
神田は神永に和己に代わるように言い、神永は和己にスマホを渡した。
スマホを耳に当てた和己は神田に自分の要求を伝えた。
話がまとまったのか、和己は神永にスマホを渡し、スマホに出た神永は『条件は飲むことになった。警視庁へ早くつれてこい』と神田に言われ、すぐに警視庁へと向かう。
『第3スタジオから見えるコンビニエンスストアですが・・・スリーセブン有楽町ほしぞらエフエム前店で、スタッフや出演者もよく利用するコンビニとしても知られたお店です。えー、買い物に行った当ラジオ局の番組スタッフのフナサキ・アキノさん、セキ・ヒロシさん、トミヤマ・ミツノブさんと連絡が取れなくなっております。また、「パラダイスの楽園」に出演予定だったアイドルグループ、パラダイスのMINAさんがメンバーに「コンビニに行って来る」と行ったきり戻っておらず、連絡が取れない状態です』
車内のラジオでもずっとコンビニでのテロ事件が報道され続け、いかに今回の事件が日本に多大な影響を与えている事件かを伝えていた。
俺はこの事件の解決をするための一員になるのか、と少しワクワクにも似た感情が沸いた。
『MINAは電車に遅れそうになって朝食を抜いてきたということで、マネージャーさんに許可を取ってまだ時間があるので朝食を買いに行ったっきり連絡がつきません。MINA、このラジオを聴いていたら、電話して!』
アイドルグループのメンバーの悲痛な叫びが公共の電波に乗ったところで和己を乗せた車は警視庁へとたどり着いた。
すぐに神永は沖縄にいる喜久川に連絡を入れた。
「こちら警視庁の神永。"秘密兵器"のご到着です」
喜久川は「はい、はい、わかりました・・・!」と力強く返事をしてきた。
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『株式会社エデンズプロジェクト、パラダイス担当マネージャー、野々村です。弊社所属タレント、MINAは電車に遅れそうになって朝食を抜いてきたということで、まだ収録開始の時間より間が空いていたのノォォー、ウェエ、・・・で、許可を取ってェェエエ、チョホッ、朝食を買いに行ったっきり連絡がつきません。ッハアアアァアーー!!MINAにもしものことがッハアーーーー!あったら、沖縄のッヒョオッホーーー!!ウーハッフッハーン!!ッウーン!ご家族ブフッフンハアァア!!何と言ったらウグッブーン!!ワダヂが!命がけでイェーヒッフア゛ーー!!!・・・ッウ、ック。ブッヒィフエエエーーーーンン!!ヒィェーーッフウンン!! ウゥ・・・ウゥ・・・。ア゛ーーーーーア゛ッア゛ーー!!!!この事態を受け止めデーーヒィッフウ!! ア゛ーハーア゛ァッハアァーー!ッグ、ッグ、ア゛ーア゛ァアァアァ。ア゛ーア゛ーッハア゛ーーン!あのトッキ、我慢してクアアアアン!!!我慢してくれと言ってればッ!ヨダガんです!グズッ・・・グズッ・・・ヒック・・・無理にもホオオオオオオオオッ!止めとけばッハッハーン!!!』
アイドルグループ・パラダイスの担当マネージャーが説明がままならないほど泣きじゃくり、パーソナリティに促され、退席した。
それをマコとフミは警視庁公安部が用意した部屋で聴いていた。
「え・・・パラダイスのMINAちゃん、行方不明なの?・・・」
パラダイスのファンでもあったフミはショックを隠し切れなかった。
フミの頬を一滴の涙が伝っている事に気付いたマコはフミを抱き寄せた。
「MINAちゃん、推しだったです。沖縄からやってきて、頑張ってて、公式チャンネルの料理動画は必ずチェックして、自分でも作ってみたりして・・・もう、もう・・・」
「いいよ。辛いよね・・・」
マコはフミの気持ちに寄り添おうとしながら、フミを落ち着かせようとした。
どうにか少しでも気が紛れれば、とマコは「私ね、仕事での目標があるんだ」と切り出した。
「私、埼玉の出身で、いつかは埼玉エリアを担当したいんだ。自分が育った埼玉の町を担当して、自分が好きな町に貢献したいっていうか・・・」
どこかマコの素性を知れたフミは少し心を開き、マコの話を聞く。
それを見てマコは落ち着いてきていると確認して、話を続ける。
「だから、どんなことがあっても気落ちしていられない。フミちゃんもポジティブにMINAちゃんが生きてるって信じよう。ね?」
マコの力強い言葉に少し勇気が出てきたフミは静かに頷き、気合いを入れるかのように自分の頬を叩いた。
そして、涙を拭いながら「ありがとうございます」と礼を言い、ニコッと今出来る精一杯の笑顔で返した。
「ところで・・・フミちゃんも何か目標はあるの?」
「えっ?何ですか?も~」
「だって、私だけ自分の目標を話すのってズルいじゃない」
邪な笑顔でマコはフミに訊き、フミは少し困った表情で笑った。
「でも、私、目標ないんですよね・・・」とフミは無理矢理捻り出そうと考え込んだ。
それを見たマコは「そこまで考え込まなくても良いよ」と笑いかけた。
「それにしても・・・あの玉置って人、ちょっとおっかない人ですよね・・・国に人を一人殺させる代わりに自分は仕事を引き受ける、なんて」
フミは基本的な事を訊かれている和巳を見ながら言った。
勇作は落ち着かないのか、その辺をうろうろして、時折くる本部や所轄署からの電話に応対している様子だった。
「相当、恨んでいるんだろうね。その、平良さんって人のこと」
マコは極力、フミ以外に聞こえないように小声で話す。
「いや。平良好美と玉置和巳は交際していたらしいですよ」たまたま話を聞いてしまった神永が2人の会話に割って入った。
「キャッ!!!」
思わずマコとフミは悲鳴をあげ、その場の職員が一斉に3人の方に振り向いた。
「あっ。いや、何でもないんで・・・大丈夫です」と神永はフォローし、2人にコーヒーを淹れた。
「交際関係なら、なおさらじゃないですか?ほら、ストーカー的な・・・」とフミは神永に言う。
神永はフミの言葉に首を横に振り、「玉置和巳は沖縄を離れてかれこれ3年は平良好美に会っていない。連絡も取っていないようです」と否定した。
「それに玉置和巳は一言でも"殺せ"とは言っていないですよね?」
神永は2人に訊き、そう言えば、と2人は記憶を辿った。
「でも、ニュアンスは同じじゃないですか?」とマコは食い下がるが、「それならわざわざ"日本から"とは付け加えないはずです」と返された。
ますますワケがわからなくなった2人は顔を見合わせた。
「沖縄から解析結果が出た!資料をまわす。各自、目を通すように!」
征陸から沖縄からの映像の解析結果がもたらされた事が伝えられた。
「神永、警備会社に行って店舗内の映像と比較してこい」と征陸の指示が飛び、飲みかけのコーヒーをぐいっと飲み、「では、また」と2人に挨拶し、征陸から資料を受け取って部屋を後にした。




