第一波発生直後~DESPERADO~
――――第一波発生直後。
東京都千代田区
警視庁本部庁舎
東京都内の警察署を管轄する警察本部の役割を果たす警視庁に公安調査庁の職員がぞろぞろと現れ、公安部が急遽手配した部屋へと通す。
同時にパソコンなどのAO機器を運び込み、すぐに公安調査庁と警視庁公安部の異例の合同捜査本部が設置された。
今回、このような形式を取ることになったのには、このテロ事件が犯人に対してあまりにも情報が少なすぎるためである。
まず、犯行声明が出されていないため、右翼なのか左翼なのか、海外からのテロリストなのか、カテゴライズが出来ないためである。
情報の収集と整理を図る目的で手を組むことになったのだった。
「公安調査庁の三浦鷹志です・・・まぁ、この場では本名を名乗りますが、情報提供者の前では"神田"と名乗らせていただきます」
「公安部の常守黄介です。そうなりますよね」
"三浦鷹志"こと神田は常守に挨拶を済ませる。そして、神田はもう一人、常守に紹介する。
互いにテロリスト相手に情報を収集する業務のため、妙な親近感があった。
「この後、すぐに沖縄に飛ぶんで手短に紹介します」とすぐにでも出掛ける用意をしている男が常守の前に現れる。
「これから接触する情報提供者の前では"春日"、普段、他の情報提供者の前では"生田"と名乗っております。喜久川新一です」
"春日"こと喜久川は常守に会釈し、すぐに警視庁を後にした。
喜久川はこれから、沖縄にいるであろう重要な情報提供者―山里正恭に接触するためだ。
すぐに神田は警視庁公安部側の責任者である征陸史郎と今後の行動方針を決める。
「知っての通りですが、我々、公安調査庁の職員は逮捕権を有しません。そこで、警察官たる警視庁公安部の皆さんが頼りになります。ほとんどの警察官は逮捕権を有していますからね」
「つまり、我々はテロリストの確保を目的とし、あなた方はそのテロリストの情報の収集と整理、共同で行うは捜査ということですか」
「それにしても、よく見つけましたね。沖縄に"テロリストキラー"がいることに」
「沖縄で起きたコンビニ店員殺害事件は覚えてます?あの、沖縄県知事が定例会見でブチギレた事件ですよ」
「あの事件ですか。まさか、あの事件を解決したコンビニ店員がいるとは聞いてましたが・・・すでに目をつけていたんですね」
「警察に協力した民間人となれば、すぐに有名にはなりますから」
神田はフフッと笑いながらコーヒーを一口飲んだ。
沖縄で情報提供者を確保し、あとはコンビニの監視カメラを照らしわせることで、テロリストをあぶり出す方針で固まった。
だが、ここで思わぬ障害が立ちはだかった。コンビニ本部が監視カメラの映像に関して物言いがあるのだった。
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東京都千代田区二番町
コンビニスリーセブン本社
警視庁の捜査員が警備会社が出向き、本部の許可が必要ということで本部へとやってきた。
今回は任意の捜査協力で、警察であれば店舗同様、監視カメラの映像を見せてもらえるだろうという気軽な気持ちで許可がすぐに降りるものと思っていた。
「こちらが捜査協力でお願いしたいことです。事が事なので、協力して頂ければ助かります」
公安部の捜査員の住本と女性捜査員の雪平はスリーセブン営業部次長の前田五郎に資料を見せた。
しかし、すべて見て終わり、捜査本部側が提示した条件に前田は難色を示す。
「申し訳ないんですが、捜査には協力は出来ません。これはちょっと、企業の機密とイメージに関わりますので・・・」
前田が指摘したのは"事件に関する情報は国民に全て公表する"というもので、企業の機密に関わるものも含めることに難色を示した。
また、自分たちは被害者であるのに調べてみたら、コンビニの不備を突かれたとあれば企業のイメージダウンに繋がるというものだった。
同じく他のコンビニ本部も条件に難色を示した。
他の捜査員が交渉に失敗したことを電話で知った住本はそのことを雪平に伝えた。
「・・・他の捜査員も同様に失敗したらしい」
「この期に及んで、自社の利益を優先するとは・・・」
雪平は大きなため息をついた。
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東京都港区芝浦
ファミリーメイト本社
警視庁の公安部の捜査員である降谷と赤井も交渉に来たものの、担当である営業部の部長である的場勇一郎からどんな情報も開示するということに難色を示し、断られた。
まるで口を揃えたように「企業のイメージダウン」と「企業の機密事項」を理由に断ってきたのだった。
「はっきり言ってテロであることすら認めていない感じです。平和ボケも極まれりって感じです」
ファミリーメイト本社のビルを出た降谷は捜査本部へ連絡を入れた。
赤井は被害状況をタブレットで確認し、別の策を考えていた。
「降谷、俺に別の策がある」
赤井は降谷を連れ、再び、ファミリーメイト本社のビルへと戻り、担当した的場を訪ねるも、受付で「的場から別の者を介すよう仰せつかってます」として、研修課の都築哲雄を紹介された。
相手が変わったことが想定外だったが、やむを得ないとして2人は都築から監視カメラの映像の持ち出しの許可を取ろうとする。
だが、研修課の人間というのが2人とってかなりの障害になってしまうのだった。
「・・・まず、研修課というのは、どういった業務を行うんでしょうか?」
ふと疑問に思ったことを降谷は訊いた。
「簡単に言えば、店舗業務のマニュアルの策定、指導が主になります」
「つまりは、店舗の従業員の学習などを行う部署、ということですか」
赤井は全く関係ない人物をよこしてきた、と的場が都築を介すことに不信感を抱く。
「先ほど、我々と話をした的場さんは都合が悪くなったのでしょうか?」
「はい。何分、今、営業部は店舗の処理で忙しく、的場はそれに駆り出された形になり、話は私が承るよう言われました」
赤井は降谷に耳を貸すように合図をだした。
すぐに赤井は降谷に耳打ちをする。
「・・・こいつはただのレポ(連絡員)だ。何を言っても無駄かもしれん。引き上げよう」
赤井はこのまま進むのは得策ではないとして引き上げることにした。
だが、降谷だけは少し考えが違っていた。
「赤井、お前がやろうとしていたこと、やってみよう」
「何?」
赤井は無謀だ、と思いつつも警察学校時代からの付き合いもあり、一か八か乗ってみることにした。
さっそく、赤井はタブレットで現在の被害状況を説明した。
早朝の状況としては有楽町で2店舗、浜松町で3店舗、丸の内で3店舗、新橋で3店舗、恵比寿で3店舗の14店舗が被害に遭っていた。
「ファミリーメイトは現在、14店舗が被害に遭っています。警察としては現在、現場近くの企業や現場近くの駅を利用する方のご家族から捜索願を出されており、その数はすでに300件にも上るようです」
「先ほど、警備会社のほうで確認しましたが、1店舗当たり20人ぐらい、という感じでした。もっと具体的な原因の解明のため、科捜研にまわしたいのですが、持ち出しの許可をいただけませんか?」
「・・・私の一存では判断が出来ません。的場からの返答を後日、いたします」
2人は耳を疑った。
ここまで対応が後手後手なのか、と、それ以上に全く関係ないただの部外者をただの連絡員として使っただけだった。
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東京都品川区大崎
オーソン本社
公安部の捜査員、須郷と女性捜査員の霜月は受付の時点で現在、起きていることで対応に時間を取られており、全ての来客を断っているという建前で門前払いを食らっていた。
他の部署の人間であっても事情をよく知らないと一蹴され、徹底したガードで話す余地すらないようだった。
しかも、相手が警察であっても文書による回答をしている、としており、その文書は確かに警視庁の捜査一課宛てに送られていた。
「よりにもよって捜一に送るかね?!」
捜査一課に警察への対応を記した文書を送っていたことに霜月は憤慨した。
須郷は捜査本部へ門前払いに遭っている現状を連絡し、気持ちを落ち着いてもらおうと霜月に缶コーヒーを渡した。
渡された缶コーヒーを飲み、落ち着いたところで、次の手を考える。
「徹底した対策ですね。機械的と言うか・・・」
須郷も缶コーヒーを飲みながら、どうにか門前払いを突破する方法を考える。
そこで一つの方法を思いついた。
「コンビニの本部がダメなら、店舗から攻めましょうか」
須郷が思いついた策に乗ろうと、霜月は頷いた。
さっそく、近くのオーソンへ向かい、店舗の従業員をつかまえ、店長を呼び出した。
店長は2人を事務所に通し、まずは本部へ電話をかけさせた。
須郷が思いついた策とは、店舗側から本部の営業部の人間を呼び出し、店に来てもらい、事情を聞くことだった。
そのため、まずは警察の捜査で店舗に来ていることを店長に伏せてもらった。
だが、案の定、思った通りの返事として「今は対応が出来ない」という返答が返って来た。
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東京都千代田区
警視庁本部庁舎
コンビニの本部が警察の捜査に協力しないという事態にいきなり窮地に立たされた。
いつもなら、警察とコンビニ店舗の関係は良好で監視カメラの映像をすぐに提供してくれる。
だが、今回に関してはコンビニ店舗自体が被害に遭い、事実上、消滅したのも同然であった。
そして、警備会社からの通報があることから、まずは警備会社へと問い合わせるも、コンビニ本部からの許可が下りないと持ち出しは出来ないと言われたのだった。
そのコンビニ本部は情報の開示に関してそれぞれ難色を示した上、あの手この手で警察から逃れようとしていた。
「まだ、任意でしか出来ないか・・・」
どうしたものか、と征陸は現状、任意でしかコンビニ本部へ話が聞けないことに困っていた。
コンビニ本部へ家宅捜査をするには店舗の運営上の過失の可能性を証明しなければならなかった。
「こうなれば、関係者を集めた方がよさそうですね。外堀を埋めるというか・・・非番の店員や当該地域以外の店舗を担当している本部社員など、仲間として引き込むんです」
神田が考えた策は公安警察の得意技で関係者を仲間として引き込み、情報を得るやり方だった。
ただし、本来のやり方と違う点はあらかじめ、身分を明かしていることだった。
「やってみよう」という征陸の一言ですぐに公安部の捜査員はすぐに動き始めた。
そんな折、コンビニ業界を調べていた公安部の慎導から思わぬ情報がもたらされた。
「・・・"コンビニ本部の天敵"、という人がいるみたいです」
慎導はSNSから拾った情報らしく、征陸はその情報を確認した。
その情報によれば、コンビニ業界でスタッフの立場でありながら、改善提案書を提出したものの、全て却下された人物がいるらしく、それ以降は業界から干されたらしいようだが、たまたま訪れた店舗でトラブルシューティングをし、クレーマー退治をしているという。
クレーマー退治以外にも、買い物が不馴れな客の買い物の補助を行ったり、店舗従業員の負担になることをやってくれるらしい。
その反面、コンビニ本部からは顔の知られた存在で、目をつけられているため、人材不足の店舗で働いていたところを見つかり、店長にクビを迫った本部社員もいたという。
「名前はわかるのか?」と征陸が聞くと慎導から「玉置和巳というそうです」と返答が返ってきた。
「よし。すぐに探せ!」征陸は公安調査庁の職員を動員して捜索を開始した。




