第二波発生1時間前~RedZone~
「公安調査庁は警視庁に秘密裏に公安部と合同の対策本部を設置し、
"犯人を特定するための下地を作る"、"コンビニ本部を突き崩す"の2つの作業を進めていた矢先、
コンビニが忙しくなる時間帯である正午のラッシュを迎えました。
そして、少し間が空いて"第二波"が発生しました。
――――――この瞬間、アメリカの9.11を超えた、と後に海外のメディアは取り上げることになります。
そして、同時にあることも取り上げることになります・・・」
ラジオでは有楽町をはじめとした5つの場所で発生したテロ事件のことをずっと伝えていた。
ファミリーメイトの品川区を担当する富永雅士は自分の担当の店舗へ車を走らせながら、ラジオに耳を傾ける。
本来であれば、この時間は旬なニュースにパーソナリティーがニュースに詳しい有識者を招いて話を聞き、時には切り込む番組を放送しているが、急遽組まれた特別編成で早朝のニュースのまま、今の時間に至っている。
『繰り返します。たった今、入ってきたニュースです。ただいま、東京都内のコンビニエンスストアで相次いで爆発が発生し、警察と消防はテロなど事件の可能性も視野にいれ、事件事故両面で捜査と救出を行っています』
さっき、営業部長が対応に追われていたのはこれか、と富永は直前にミーティングが中止になったのはこのテロ事件への対応に追われ、それどころではなくなったのが原因なのかと察する。
とはいえ、コンビニは"社会インフラ"と自分がいる会社が言う以上は自分の分担する店舗は維持しなければならない、と担当する店舗へと車を走らせていた。
だが、やはり、余波はあるらしく、普段、通る道が警察や消防が対応するために通行止めになっており、遠回りをせざるを得なくなっていた。
『えー・・・こちら、ほしぞらエフエムの第3スタジオですが、有楽町を眼下にできるスタジオとなっています。そのスタジオから、燃え盛るコンビニエンスストアが見えます』
そういえば、有楽町のラジオ局の近くにあったな、と思い出して、信号待ちの時にボリュームを上げた。
やはり、場所が近いのか、その詳細が語られていく。
『第3スタジオから見えるコンビニエンスストアですが・・・スリーセブン有楽町ほしぞらエフエム前店で、スタッフや出演者もよく利用するコンビニとしても知られたお店です。えー、買い物に行った当ラジオ局の番組スタッフのフナサキ・アキノさん、セキ・ヒロシさん、トミヤマ・ミツノブさんと連絡が取れなくなっております。また、「パラダイスの楽園」に出演予定だったアイドルグループ、パラダイスのMINAさんがメンバーに「コンビニに行って来る」と行ったきり戻っておらず、連絡が取れない状態です』
時間は気づけば11時を回り、いったん、向かっている店舗へ連絡を取るために路肩に車を止め、ハザードをつけて電話をする。
富永が担当している店舗のファミリーメイト品川ビルヂング店に一報を入れると、どうやらそこのオーナーも事情を察しており、ミーティングも中止にしても良いと提案してきた。
しかし、できるだけ今日から販売開始となった地域活性化チケットの話をしたいと最悪、夕方ごろにでもやろうということで納得した。
ここでラジオは先ほど触れたアイドルグループ、パラダイスのメンバー、SANAとTOKUKOが連絡が取れないMINAがコンビニに行った経緯とおかれている現状から呼びかけ始めた。
TOKUKOのほうはずっと泣きじゃくり、鼻をすする音がその悲痛さを訴えている。
気丈に振る舞うSANAもあまり普段のパラダイスのことを知らない人でも元気がないことがうかがえるほど声が低かった。
『MINAは電車に遅れそうになって朝食を抜いてきたということで、マネージャーさんに許可を取ってまだ時間があるので朝食を買いに行ったっきり連絡がつきません。MINA、このラジオを聴いていたら、電話して!』
最後の一言は声が震えており、感情がこらえきれなくなったのがうかがえた。
そして、担当マネージャーに至っては無理にでも止めればよかった、とTOKUKO以上に泣きじゃくり、自責の念に駆らていた。
富永の運転する車が品川に入ったのは正午手前で本来ならばファミリーメイト品川ビルヂング店から先だが、ルートからファミリーメイト品川西口店から行くことになった。
駅にほど近い店舗でいつ行ってもオーナーも店長も忙しく店舗内を駆け回っている。
割と店舗自体は古く、そろそろリニューアルで店舗面積を広くしてこれからより多くの客数に対応できるようになる。
その打ち合わせもあるため、より時間を割くことになっている。
直近まで地方への長い転勤経験もある富永は駐車場がない店舗で少しやり辛さを感じながら、東京都内なので仕方がないと、近くのコインパーキングに停めて店舗へと向かう。
時間はちょうど正午で店舗に到着する頃にはかなり混雑した時間に着きそうだった。
「お疲れ様です」
能天気に挨拶して混雑する店舗に入店すると、気付いたオーナーの岩瀬が対応した。
それが、富永の視界に映った最期の世界だった。
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沖縄県那覇市
ファミリーメイト首里石嶺店
事務所内
―遅かった。対応がもう少し早ければ、防げたかもしれない。
春日は被害状況を確認し、うなだれた。
「・・・俺、やりますよ」
正恭が"第二波の直前"の映像を要求し、今、出来ることをしようと決意する。
春日は新たに映像を追加するべく、公安調査庁のネットワークから監視カメラの映像を見せる。
ここで正恭の能力が発揮されていく。
「・・・この人、朝の爆発の時にも居ました。服装は変えてますけど、歩き方が同じです」
すぐに先ほどの映像から絞り込まれた情報を引き出して、被疑者を割り出し、次々とピックアップしていく。
"第一波"の時に絞られた被疑者30人を11人にまで絞り込んだ。
「・・・決め手は、歩き方だそうですが、どの辺なんですか?」
気になった春日は正恭に訊き、それには正樹も興味が湧いてきた。
大きなため息をつき、説明に困った正恭はしばらく考えて、愛用のタバコを一本くわえた。
「ビミョーに歩き方、違いません?何かこう、右に寄ってるっていうか・・・」
素人目には同じように見えるが、よく見ると肩の動きがどこか右に寄ってる感じがした。
また、別の映像も「足を前に出しすぎてる」とこちらは比較的、分かりやすいようだが、普通に歩いているようにしか見えなかった。
しかし、心なしか爪先を投げ出すように歩いているように見えた。
「・・・動き方と、後は身長っすかね。ほら、大体同じっすよね?」
歩き方に加えて、身長も条件として追加され、より絞り込まれ、大幅に先ほどピックアップした人数を減らすことになったようだ。
他にも店舗を出た時のクセや、不鮮明な画質ながら辛うじて分かった顔の半分などで11人にまで絞り込まれ、すぐに春日は東京の捜査本部へと報告する。
第二波が起き、気になって帰るに帰れなかった美菜は正恭に訊いた。
「山里さん、どうして、こんなに絞り込めたんですか?どんな感覚なんですか?」
「まぁ、俺もよくわかんない。でも、感覚的には同じっていうか・・・ま、俺、天才ですから」
凄すぎて語彙力を失った美菜に正恭はマウントを取るようにSLAM DUNKの桜木花道のセリフを引用した。
その言葉を聞いてやはり、いつも通りの正恭だと思った美菜は笑ってしまった。
今まで張り詰めていた空気が少しだけ緩和されてか、春日や正樹はニコッと笑い、緊張が解れたようだ。
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東京都千代田区
警視庁本部庁舎
沖縄から送られてきた情報を基に捜査員が動き出し、すぐに警察署や消防署へ通達がなされた。
だが、どうしても決め手が欲しい公安調査庁としてはもっと絞り込みたいと考えていた。
一番は犯行手口で、大勢でテロを起こしたとは考えにくく、数人でやるには効率が良すぎるのだった。
加えて第二波が発生し、絞り込みは出来たが、第三波が予想される。
この第三波を阻止してさらなる被害が出ないようにもしたい。
「・・・あの、第二波はどこで発生したんですか?」
気になったマコは神田に訊いた。
「確認しているのは、品川、市ヶ谷、西新宿、大崎、大手町の5か所です」
東京都の地図を広げた神田は被害に遭った5か所を指差す。
範囲はまるで山手線を回ったようになっており、オフィス街を集中的に狙っていた。
「なるほどな。オフィス街か。平日だから、より人が集まっているところを狙ったのか」
和己は地図を見るなり、すぐにそのターゲットがどの層か見抜いていた。
そして、時間にも注目して次の第三波も予測をしていた。
「朝の8時半、昼の12時とくれば、次は昼の3時と夕方5時以降だろうよ。何故なら、この時間はオフィス街の店が忙しくなる時間だ。サラリーマンとOLどもはヒマだからな。机にしがみついているだけで俺らよりいい給料をもらっている」
なるほど、と神田と常守は納得した。ただし、どこか自分の仕事を否定されたマコは少し憤慨する。
「ちょっと!」と口を開いたのも、すぐに遮られて、無視するように話を続けた。
「この事件の実行犯はかなり効率的だし、何より"コンビニの弱点"を徹底的に突いてきたな」
マコは自分の仕事を否定された怒りがどこへやら、もうすでに手口に関して見当がついているようでそれが何なのか気になった。
「あくまで、俺の想定だ。外れていることを前提で話す」として話を続けた。
「まずは犯行手口だが、コンビニ自体があれだけ密集していれば、店内に爆弾を放り投げて、逃げて、また別の店内に爆弾を放り投げて・・・を繰り返せば、少ない人数であれだけの被害が出せる。俺の経験上、朝のラッシュ時に店舗内にいる人数は大体、多くて20人ぐらいだろう。一斉にレジに並んで店員も動けないし、客は客でボーっとしていることが多く、危機感もクソもない。入口に突然、異物を放り込まれても、気づかないだろうよ」
そして、和己は核心を突く言葉を言い、それにフミは何となく納得する。
「いいか?コンビニの客は自分の事しか考えてない、自分の事しか思ってない、自分のことしか見えていない、自分の事しかやらない、他人のことなんか人間とは見ていない・・・何かの物体としか捉えてない」
勇作はオーナーの立場からそんな考え方の和己に嫌悪感を抱き、「君さ・・・」と言いかけるも、「あ?」と和己に睨みつけられ、殺意のそれを垣間見て言うのをやめた。
穿った見方の和己はさらにそのまま話を続けていく。
「自分の事しか考えない奴が、突然、転がってきた爆弾に気付くと思うか?このテロはコンビニに来る客のクソみたいな心理と、本部のしょうもない戦略のデメリットを突いた大量殺人テロだ」
一旦、話がオチた、と勇作は口を開くが、すぐにマコに遮られた。
「コンビニの密集って、もしかして、"ドミナント戦略"のことですか?」
マコは仕事用に持ち歩いている会社から支給されたタブレットから自社であるスリーセブンを含めた大手のコンビニが勧める"ドミナント戦略"のメリットが説明された資料を見せた。
これはスリーセブンの企業ホームページでも閲覧が可能で、そこにはメリットのみが記されている。
「・・・何だよ、ネーちゃん、わかってんじゃねぇか。ただのOLじゃねぇな」
ようやく和己は笑顔を見せたが、その笑顔は何故か他人を不愉快にする笑顔だった。
しかし、神田と常守はこれで本格的にコンビニ本部を突き崩せると踏んだ。




