事件発生直後~絶望の一秒前~
「警察と消防の捜査協力に3社のコンビニ本部は消極的でした。
それはコンビニ本部としては損失につながるあることが協力の条件になっていたのです。
この事態に水面下で動いていたのは、公安調査庁でした。
公安調査庁はまず、作業を2つに分けました。1つ目は"犯人を特定するための下地を作る"、2つ目は"コンビニ本部を突き崩す"の2つです。
そのうち、1つ目の"犯人を特定するための下地を作る"は概ね成功しました。
―――――そして、2つ目の"コンビニ本部を突き崩す"ための公安調査庁の戦いを、後に関わった人たちはこう言いました。"絶望の1秒前"の争奪攻防戦、と」
東京都千代田区
警視庁本部庁舎
交通警邏隊に誘導されて来たマコと、捜査一課の警察車両に載せられたフミは警視庁の本部庁舎へと連れてこられた。
本部庁舎に着いたところで他の警察官に引き継がされ、会議室のような場所に通された。
会議室にはすでに何台もパソコンのモニターが設置され、職員が忙しく動いていた。
そして、マコとフミの2人の前に職員が2人現れるが、方や名刺、方や警察手帳を見せた。
「警視庁公安部の常守黄介です」
「公安調査庁の神田です」
それぞれ自己紹介され、公安調査庁と警視庁が合同で捜査をしているのか、と2人は驚いた。
マコとフミもここでが互いに自己紹介することになった。
「加藤、フミと言います・・・」
「新内マコです・・・」
急に連れてこられてきたためか、よそよそしく挨拶すると2人が本題に入るタイミングだと思い、口を開く。
「さっそくですが、2人には共通して、"コンビニ業界で働いている"という共通点がありますよね?それでぜひとも、我々に力を貸していただきたい」
神田の一言にマコとフミはホッと胸をなでおろす。
それまで2人とも自分が今回のテロを引き起こした犯人として扱われたのではないか、と思っていた。
「それぞれ、加藤さんはファミリーメイトの店舗スタッフ、新内さんがスリーセブンの営業部の社員だと・・・調べはついています」
神田がすでにそこまで調べがついているのか、とマコとフミはゾッとした。
そして、具体的にどういうことに協力して欲しいのかを説明が始まった。
「まず初めに、コンビニ本部は今回のテロをどう捉えていますか?」
「あー・・・えっと・・・テロというよりも、ガス管か何かが爆発したとか、と言っていました。でも、ガス管ってそんなに広範囲に爆発するものなんですか?」
「そんなはずはないです。これは明らかなテロです。ですが・・・それを確実な証拠として押さえるために監視カメラの映像が必要になるんです」
マコは思い当たる節として、五島が話していたことを思い出し、それを神田に伝える。
コンビニ本部の平和ボケに神田は呆れながら、話を続ける。
「その監視カメラの映像を貸し出す許可をコンビニ本部側は出していないんです。というのも、これは日本国民全員に周知する必要があるので、"いかなる情報も公開する"ということに難色を示しているんです」
「いかなる情報も?・・・」
「えぇ。コンビニ店舗のセキュリティー上の問題から本部の運営上の問題まで全てです」
マコはそれは絶対に本部からは許可が出ないと確信した。
常に世間に対して良いブランドイメージを保っておきたい本部としては、国の方針であっても企業のブランドイメージをあの手この手で保ちたいという魂胆が見える。
「監視カメラの映像だと、見る人が見れば、すぐにおかしな点に気付きますね」
実際に店舗に立つフミの一言に3人は納得する。
「もしかすると、犯行の手口もそこで判明するかもしれない。だが、コンビニ本部としては警備会社での視聴は認めるが、そのデータをUSBなどに入れてコピーなどの持ち出しは出来ないと言っている。仮にこっそりやれば、逆にこちらに対して法的措置も辞さないのが見えている」
常守は警察と言えど強硬手段に出れば命取りになるのが見えていることを話す。
そこで実際にコンビニの店舗と本部で働いている2人に事情を聞き、コンビニ本部をいかにして崩すかを考えたいようだ。
そんな折、神田のスマホに着信が入った。
「・・・そうですか。わかりました。すぐに警視庁の方に連れてきて下さい」
神田はスマホの画面の終話をタップすると常守にも伝わってきた情報を伝える。
常守はフミとマコの方を向くと「新たに2名、こちらに来ます」とタブレット端末から名簿を見せた。
新たにくる2名はオーソンのクルーであるが、1名は昨日付けで解雇、となっていた。
「あの・・・一人、クビになってる方がいませんか?」
マコはこの従業員は証言者として大丈夫なのか?と疑問を呈する。
その問いに神田は思わず吹き出して笑ってしまう。
「失礼。その方こそ、我々が最も探していた人物です。新内さんは聞いたことありませんか?店舗スタッフであるにも関わらず、元コンサルタントの経験と知識を活かして改善提案を本部に提出したという方を」
そんなスタッフいたっけ?と首を傾げたが、徐々に先輩OFCから聞いたことがある話を思い出していた。
そのスタッフは、粗捜しと言わんばかりに本部の運営上の問題点を列挙し、改善まで記したレポートをコンビニ3社に送ったが、それがファミリーメイトの子会社の社長の逆鱗に触れ、業界を追われそうになったという。
しかし、現場スタッフの人手不足で本格的に追われることはなく、今でもどこかのコンビニで現役のスタッフとして働いているという。
そして、スリーセブンに提出された改善レポートに記されていた内容は後々、現場に立ったOFCら本部社員が改善点として挙げ、改善されていったという皮肉な末路を辿っている。
「・・・"本部社員の天敵"、玉置和己!」
名前まで思い出したマコは自分の中でのその評価を一気に塗り替えた。
和己はついに"本部社員の天敵"と言われるまでになっており、かなり嫌われているようだった。
しかし、この場合の和己はたった一人で本部とやりあうだけの力がある人物と評価できる。
「この人!前に他のコンビニの店員助けてた人です!」
フミの口から語られたのは真逆の話だった。
コンビニ店員の間からは色んなコンビニチェーンを渡り歩き、コンビニの現場のことに詳しく、その知識や技能で厄介なクレーマーや買い物に苦労しているお年寄りなどを助けている"コンビニの救世主"と呼ばれる店員がいるという。
たまたまフミが見たのは厄介なクレーマーから助けている場面で、他の店舗に立ち寄った際、クレーマーに逆に絡みに行くことで助け、かなりケンカになっていた。
しかし、フミの経験上、普通のクレーマーの絡みよりも短時間で済んでいた。
「本部社員からは"天敵"、店舗スタッフからは"救世主"・・・立場が違うと真逆の存在ですね・・・」
常守は和己がそういう人物だとは知らなかったため、事前に調べていた神田や業界内での話を聞いてたフミとマコの話を聞いて人物像に驚く。
「我々からすると、どちらの意味でもありがたい。まぁ・・・さしずめ、"秘密兵器"と言ったところでしょうか・・・」
神田はLINEの着信音が鳴ったスマホをチラッと見て、席を立ち、部屋を後にした。
そして、2人の男を部屋へと案内した。
「・・・田中です。田中勇作です。オーソン恵比寿駅前店のオーナーをしています」
1人は小柄な初老の男性でこの日は出勤する予定はなく、自分の店舗が被害に遭ったことを本部から知らされ、ショックを受けたところで家に公安部の刑事が来たという。
そして、店の事情などを話しているうちにコンビニの現場の話が聞きたいという刑事らの力になろうと自ら進んでここに来たという。
タブレット端末の報告書からその話は書かれており、フミやマコなども含めたその場にいる全員が知っていることだった。
しかし、もう一人のコンビニ業界の証言者―和己は来るなり、全員を睨みつけ、舌打ちをした。
「玉置だ。玉置和己だ」
機嫌の悪そうな態度で常に誰かを睨みつけていた。
その言動にフミとマコはビクビクと怯えながら、軽く会釈する。
「それで?本当にやるんだよな?あ?」
機嫌の悪さを神田にぶつけつつ、どうやら神田達、公安調査庁に報酬を求めていたようだ。
その機嫌の悪さを物ともせずに神田はニコッと「はい。やりますよ」と答えた。
「あの・・・お金とか、もらえるんですか?・・・」
「あぁ、そういえば。まぁ、協力金として5億円以内であれば、あなた方の言い値を用意できます」
サラッととんでもないことを言った、とフミは絶句した。
そして、同じようにマコも口をあんぐり開けたままで、開いた口が塞がらないようだ。
「俺は金はいらん。ただし、やるには条件があるって言ったよな?」
和己は神田を睨みながら訊いた。
「はい。存じております。5億円の範疇ということで、2つですよね?1つは、前職のコンサルティング先であったかりゆし屋.comの買収ですね。株の買収で3億、すでに3分の2を買い付けております」
フミはそんな金額で会社が買収できるのか、と疑問に思った。
しかし、大学で経済学を専攻していたマコは3億で株式の3分2を買い付けた点でそこまで大きくない零細企業だと見抜いた。
そしてもう一つの条件が気になったが、その条件を聞いたことを後悔した。
「その会社に勤めていて、沖縄にいる平良好美という女を、この日本国から葬ること。これが2つ目の条件だ」
この人は国に殺人を依頼したのか、とフミとマコ、勇作は背筋が凍るような気分になった。
そして、テロに瀕した国家の危機のために1人の日本国民を平気で葬るのか、と公安調査庁の神田や公安部の常守に軽い不信感を覚えた。
報酬が破格の金額なのもこのための口止め料であるためか、と3人は察する。
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沖縄県那覇市
ファミリーメイト首里石嶺店
正恭はコンビニから出て来た人物の絞り込みをしたが、それでも膨大な数にのぼった。
「首尾はどうですか?」
春日は正恭に訊く。
正恭は椅子の背もたれに深くもたれかかって、腕組みをしながら、ため息をついた。
「うーん。怪しいのは30人ぐらいですね・・・多過ぎてまだ絞り込めないです」
30人も絞り込んだ事だけでも御の字だな、と春日は絞り込まれた30人の画像に目を通した。
正恭が絞り込んだ条件としては「爆弾を設置してすぐに出て来た点ですぐに店から出て来た人物」、「複数店舗に被害が及んだことからそのままはしごした人物」で絞り込んだ。
その絞り込みがあっての30人だったが、煮詰まったのだった。
「やっぱ、店の中の映像ないとキビシイっす」
決定的となるのはやはり店の中の映像、いわゆる"絶望の1秒前"である。
その中にこそ犯人がいるのだが、その映像の入手に難航している。
だが、先ほど、コンビニ本部を突き崩せるかもわからない"秘密兵器"こと和巳が警視庁へと到着したという一報が入った。
時間はちょうど正午になったタイミングで、美菜が事務所に入ってきた。
「・・・こんなことやってたんですね~」
ひょこっと正恭の背後から2台の監視カメラの映像が流れているパソコンの画面を見た。
春日は遮ろうとしたが、遅く、美菜にほとんど見られてしまう。
そして、美菜は最近、聞きかじった知識からくる疑問を春日にぶつけてみた。
「東京の監視カメラってAIが搭載されていて、怪しい人を判断するって聞いたんですけど、それでは出来なかったんですか?」
「あぁ。それですか・・・確かに東京オリンピックのために導入はされましたが、最後はやはり人の手で探すことになりそうなんです。何せコンビニの監視カメラにまではついていないので。なので、山里さんの力が必要になるんです」
「あっ。そっか。東京都が管理するカメラの映像とコンビニが管理するカメラの映像を照合するため、ですか・・・」
美菜は春日の説明に合点がいき、納得した。
そこで正恭の能力が発揮されるのか、と美菜は疑問が解消されたと同時に「この事は内密に」と口に人差し指を当て、春日に釘を刺される。
美菜も人差し指を口に当て、それに対して了解したことを示す。
かわいい茶目っ気のある笑顔まで添えて返した時、春日のスマホに着信が入った。
春日は「わかりました」とだけ答え、すぐに現在の監視カメラの映像が流れるパソコンを操作する。
場所を市ヶ谷駅周辺に切り替えると、映し出されたのは地獄絵図だった。




