事件発生直後~インフェルノ~
「こうして、東京のオフィス街のコンビニで爆発が発生し、テロであることは明らかでした。
しかし、テロであることをまだ理解できない、テロであることを認めたくない人たちがいました。
その人達は"コンビニがテロの標的になる理由がない"、"狙ったメリットがわからない"、"ガス管の破裂ではないか"など、
現実を受け入れようとはしませんでした。しかし、テロに巻き込まれる理由は充分にあったのです。
その現実を突きつけるため、2人の男が公安調査庁にスカウトされることになります。――――――」
東京都内
車内にスマホの着信音が鳴り響き、マコは車を路肩に止めて電話に出る。
ノイズキャンセラーのついていない社用のスマホの電話の向こうではかなり慌しく、電話の着信音が鳴り響き、電話をかけてきた相手も少し誰かと話しているらしく、間があった後にマコに話しかける。
『申し訳ない。もしもし?新内か?私だ。五島だ』
マコの上司である営業部の部長、五島秀宣である。
「はいっ!新内です!」
まさかの五島の登場に一気に緊張したマコは何かをやらかしたのか、と一気に緊張が走った。
『・・・よかった。無事だったか。実は今、都内のオフィス街の店舗で爆発が起きた店舗があって、新内が担当している店舗が該当しているので安否を確認していた。どうやら・・・無事だったようだな・・・』
店舗で爆発とは?と疑問に思ったが、訊くのは野暮だとスルーして頷くだけだった。
『ひとまず、今日は・・・早退で良い。あまりにショックだろうからな・・・』
未だに何が起きているか理解できないマコは五島との通話が終わると、しばらく考え込んだ。
自分の担当店舗で爆発事故が起きたのであれば、何かしらニュースになっているはずだと自分がよく移動中に聴くラジオ番組が終わって切っていたラジオのスイッチを入れる。
『・・・ュースです。ただいま、東京都内のコンビニエンスストアで相次いで爆発が発生し、警察と消防はテロなど事件の可能性も視野にいれ、事件事故両面で捜査と救出を行っています』
相次いで爆発が発生して、というワードに引っかかりを覚えたマコはこれから自分が向かおうとしていたスリーセブン新橋一丁目店の店長の佐藤の携帯へ電話をかけた。
だが、電話は繋がらず、店の電話も繋がらなかった。
逆に先ほど立ち寄っていたスリーセブン有楽町ほしぞらエフエム前店に電話をするも、これも繋がらない。
そんな折、ショッキングな一報がラジオから飛び込んできた。
『えー・・・こちら、ほしぞらエフエムの第3スタジオですが、有楽町を眼下にできるスタジオとなっています。そのスタジオから、燃え盛るコンビニエンスストアが見えます』
マコは自分がつけたラジオ局がたまたまほしぞらエフエムで、ちょうど自分が担当している店舗の前のラジオ局であった。
信じたくはないが、以前、第3スタジオから有楽町ほしぞらエフエム前店が見えることを店長の松尾から聞いていた。
『第3スタジオから見えるコンビニエンスストアですが・・・スリーセブン有楽町ほしぞらエフエム前店で、スタッフや出演者もよく利用するコンビニとしても知られたお店です』
キャスターの口から決定打となる一言が発せられ、マコはシートに深くもたれた。
放心状態でしばらくボーっとしていると、容赦なくラジオから自分が担当する店の状況が知らされる。
買い物に行った番組スタッフが戻っていない、出演予定だったタレントが「コンビニに行って来る」と行ったきり戻っていないなどの情報が伝えられ、次第に自責の念に駆られた。
「・・・警察です。何をなさっていますか?」
運転席のガラスをコンコンと叩き、警察の警邏隊がマコに声をかけた。
近辺で相次いで爆破"事件"が起きているため、付近を警戒していた交通課の警察官達でマコがハザードをつけてずっと路肩に止めていることを不審に思ったようだ。
マコは免許証を見せ、呼気をチェックされた。呼気にはアルコールが含まれていないことから、今度は何故、路肩に止めていたのかを訊かれた。
正直に取り調べに自分がコンビニの本部の人間であるという身分を明かした上で、自分が担当していた店舗がその爆破"事件"に巻き込まれたことを話す。
「・・・なるほど。心中お察しします。我々としては、現在、テロ事件と睨んでの捜査と事故としての調査の両面で動いております」
マコに事情聴取した警察官が無線を飛ばし、路肩に止まっていた車は爆破"事件"とは何も関係がないこと、マコがコンビニの本部の人間であることが伝えられた。
しかし、本部からの無線を受けた警察官から思わぬ返答が伝えられた。
「新内、マコさん・・・警視庁のほうまで一緒に来ていただけますか?」
マコは警察官のその一言に戸惑った。
東京都内で発生した事件の捜査や事故の調査を行う警視庁に来てもらうということは待っていることはほぼ1つしかなかった。
(私、疑われている?)
自分が東京都内のコンビニを爆破した犯人と疑われているのでは、と思うも、今の自分には潔白を証明するものがないので渋々、従うことになった。
――――――――――――――――――――
事件発生から1時間後。
沖縄県那覇市
ファミリーメイト首里石嶺店
4月であるにも関わらず蒸し暑い気温の沖縄にも東京都内で発生した爆破"事件"のニュースは伝わっていた。
テレビもラジオもこのニュースをずっと伝えており、その光景はどこか2001年にニューヨークで起きた同時多発テロ事件のようでもあった。
『予定を変更して東京都内で発生しました連続爆破"事件"をお伝えします』
本来であれば、テレビでは主婦向けのワイドショーが放送される予定だったが、そのままテレビ局の報道局からニュースが伝えられていた。
報道部のスタッフがあちこちを走り回ったり、電話をかけている風景をバックにニュースキャスターが今回の"事件"が発生した経緯と事件の経過を伝えていた。
「東京は大変だな・・・テロじゃないば?」
首里石嶺店の店長の島袋正樹は電子タバコを吸いながら店の事務所に置いたラジオに耳を傾けていた。
朝のラッシュを終え、納品も終わり、ちょっとした休憩がてら一服していた。
「よしてくださいよ・・・俺、元々は東京出身じゃないですか・・・」
深夜勤務スタッフの上村和也が発注用のタブレット端末であるSATで発注をしながら正樹の一言に反応する。
和也は深夜勤務からあがり、ダラダラしながらSATで発注をしていた。
しかし、和也は店に入り浸っており、この発注が終わっても帰るつもりはなく、コーヒーマシンで淹れたコーヒーをチビチビ飲みながらわざとサービス残業をしていた。
「よし・・・いくか・・・」
正樹は電子タバコを吸い終わり、ため息をつくと売り場へでようとした矢先、スタッフの知念美菜が事務所のドアを開けてきた。
「店長、何か・・・山里さんに用事があるって人が来てるんですけど?・・・」
「えぇ~?」
美菜に案内され、売り場に出ると、この蒸し暑さにそぐわないスーツを着た男がいた。
「どうも。私は公安調査庁の春日と申します」
公安調査庁の人が何の用だ?と思っていたところで運よく、件の山里正恭が現れた。
「え?なんすか?」
能天気に正恭は正樹と美菜、そして春日と名乗った男を見た。
「東京でコンビニを狙った"テロ"が発生したのはご存知ですよね?」
春日は正恭に訊く。
「え?そうなんですか?」
普段からニュースを見ていない正恭からしてみれば、どれだけ大々的に報じられても知る由もない。
まずはそこからか、と春日は改めて発生した経緯を話す。
そうした上で本題に入ろうとしたが、先に正恭の方が不審に思いつつも本題に切り込んだ。
「で?俺に何の用があるんですか?」
信用ならない相手からか、ぶっきらぼうな言い方で春日に本題は何かと問う。
「我々の調べでは・・・あなたは、以前、那覇市松山コンビニ店員殺害事件を解決した民間人であることがわかっています。是非とも、今回も捜査に協力していただけないでしょうか?」
春日の本題は事件と事故両面で追っている警察と消防に対し、公安調査庁はすでに"テロ"という"事件"として追っているようだ。
以前、那覇市の歓楽街である松山で起きたコンビニ店員の殺人事件を解決した正恭に"テロリスト"探しをしてほしいということらしい。
「ちょっと待ってくれ。うちの山里が?あの殺人事件を解決したって?」
正樹と和也にはにわかに信じがたく、戸惑っていた。
さらに言えば、正恭にはそれが出来るとは到底思えない理由があり、もしかすると、この春日という男自体、実は詐欺師か何かじゃないか、とも疑い、変なのに引っ掛かったな、と正恭に同情すらあった。
「あー・・・。そういえば、山里さん、前に殺人事件を解決したことがあるみたいこと話してましたけど、あれ本当だったんですねー」
美菜が以前、それらしい話をしていたことを証言するも、美菜自身も信憑性に欠ける話として受け止めていたようだ。
「おいおい。どうせ美菜ちゃんの前だから、カッコつけたんだろ?」
どうしても正恭があの事件解決の立役者とは思えず、正樹と和也は疑い続ける。
「まぁ、2人が疑うのもムリはないっすよねー。だって俺、知的障がい者だから。でも、すげー能力持ってるみたいなんですよ」
それまで言わんとしていたことである知能に軽度の障害があることをさらっと自ら言ったことに正樹と和也は頭を抱えた。
正恭はオフィスワークなどの複雑な作業が覚えられないという程度の発達障害を抱えていた。
「そうです。いわゆる、サヴァン症候群と言われていますが、こちらも軽度のものです。と言うのも、山里さんの能力は人の顔や名前、癖を瞬時に覚えられるもので、これによって先の殺人事件を解決に導いたそうです」
春日の説明にそういえば、と正樹と和也には思い当たる節があった。
ほぼ全てのタバコ客の吸うタバコを覚えていたり、高齢の客の嗜好や不自由な部分を覚えていては手助けをしているところを何度も見たことがある。
「さっそくですが、あまり時間もありません。捜査に協力いただけますか?」
「いいっすよ。やりましょ、やりましょ」
日本の命運がかかってるかもしれない依頼に対して、二つ返事での軽すぎる返答に正樹と和也は呆気にとられた。
春日は正樹の案内で事務所に通されると、カバンからノートパソコンを取り出して店長用のデスクの上に置くと、正恭をパソコンの前に座らせた。
「これから見せるのは、爆発が起きる前の店舗付近の監視カメラの映像です。東京都の条例で特定の区に設置されているんです。怪しい人物がいれば報告をお願いします」
「・・・あー・・・え?どういうことですか?」
「そうですね・・・コンビニ付近にいる人で、例えば、同じ共通点がある人を探してほしいんです」
「なるほど!」
正恭は監視カメラの映像でコンビニが映し出されている映像にのみ注視する。
それと並行して春日はもう1台のノートパソコンを取り出し、ポケットWi-Fiでネットに接続すると特殊なシステムを立ち上げた。
それを監視カメラの映像が流れているノートパソコンの横に置く。
「こちらは現在の映像です。警察の航空隊や消防の防災ヘリと設置された監視カメラ、地上の警察官や消防士などが装備しているカメラまでタブを切り替えれば見れるようになっています」
とんでもないものを出してきた、と正樹と和也は春日が本当に公安調査庁の職員で、テロ対策に携わる人間であることを実感する。
しかし、正樹としては正恭がこのままでは出勤できないのでは、と本業であるコンビニの仕事に支障が出ることを懸念し、時計を見ると正恭のシフト上の出勤時間が迫っていた。
「・・・俺、出ます」
和也は制服に着替え、いつでも出勤できる状態になった。
正樹は深夜勤務でヘトヘトなはずなのに少しインターバルを置いて出勤することに驚いた。
「何か、何もない俺自身が嫌になってきたんで、これで山里の助けになればな、と。代わりに出たシフトの時給は全部、山里につけてください」
「・・・上村?いいのか?」
「大丈夫です。ところで、山里って何時までですか?」
「10時から16時。昼ラッシュと3便納品を頼む」
安請け合いをしてしまった、と軽く後悔した和也は大きなため息をつき、事務所を出て売り場へと出て行った。
さすがに6時間はさせまい、と正樹はスマホでLINEを飛ばして、シフトを埋めてくれそうなスタッフを募る。
ちょっとした緊急事態に美菜が事務所に入ってきた。
「・・・あの、私、少しだけ残れます。なので、上村さんの出勤を遅らせるか、休憩を取らせてください」
売り場に出てきた和也から事情を聞いた美菜は正樹に提案した。
本来、美菜のシフトは和也と交代である7時から12時までではあるが、14時まで残れるという。
「わかった。じゃあ、休憩を取らせてやろう」
「いろいろ凄いことになっているみたいですけど、私にできることだったら、協力します」
美菜のしっかりした眼差しに力強さを感じ、この店のスタッフ一丸となって乗り切ろうとしているのが見えた。
しばらく事務所は日本の命運がかかる場所になるのか、と正樹は思ったが、あることに気付いた。
「・・・あの、店舗の監視カメラの映像って借りられなかったんですか?」
その一言に「あっ」と声が漏れるほど正恭はその疑問点に同調した。
その疑問に春日はあまりつつかれたくなかったのか、怪訝な表情で答える。
「実は監視カメラを設置した警備会社へ問い合わせたんですが、コンビニ本部の許可が下りないと映像の貸し出しは出来ないそうです。今、本部への任意の捜査協力を仰いでいるところです」
店員である正樹ですら初耳で、まさか監視カメラの映像もコンビニの本部が管理しているとは思わなかったのだった。
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東京都港区
浜松町
駅の周辺に集中的に出店した結果、駅の近辺やオフィス街は地獄絵図と化した。
次々と付近の消防署から消防隊が駆け付け、救急や警察などが負傷者の捜索にあたる。
「こちら村田、現場に到着。救助活動を開始する」
愛宕消防署汐留出張所の消防士、村田信也は浜松町での爆破事件に出動した。
指揮官である村田を筆頭に増野、東野、小峠、小林らはすぐさま消火活動に入る。
だが、村田はすでにこれがただ簡単に消火が出来る爆破事件ではないことに気付いていた。
「増野。今回の火災、その範囲はどれくらいだ?」
「・・・それが、無線を聞く限り、かなり広範囲のようです。正直、我々だけで対応できるか・・・」
増野は地図を広げてその範囲を指差す。その範囲は1.6㎞で市街地の火災としては広範囲だった。
都市圏である以上、交通の便は良いのだが、それを緊急車両が行き来し、消火活動を行っている以上、マヒしている状態に等しかった。
また、事件現場派遣医療チーム(IMAT)や災害派遣医療チーム(DMAT)など救急医療チームもフル稼働で現場へ続々と派遣されてきている。
「ドクターヘリも2か所、付近の竹芝商業高校のグラウンドと芝公園に着陸しているようです」
増野は芝公園と竹芝商業高校のグラウンドを指差すが、その場所は現場からかなり離れていた。
「遠いな・・・」
救助したとしても搬送には時間がかかる。
また、消火も都市部なので至るところに消火栓があるものの、広大なその範囲を現時点での戦力で鎮火できるか、不安でしかなかった。
「ビルである以上、破壊消防も不可能ですね」
あらゆる可能性を探るうち、小峠の一言で一つの可能性が消えた。
付近の建物を破壊し、延焼を防ぐ破壊消防も高層ビル群である浜松町では大きな損害にしかならなかった。
「範囲が山火事と同じだが・・・要救助者が多く、窒息消火用の消火剤も使えない・・・」
早めに鎮火をしたいところだが、あらゆる手が封じられたようなもので、地道に火元であるコンビニを消火するのが良いようだった。
だが、消火を阻害する要因があった。
「・・・奥が相当、燃えている」
奥には何があったか、現地の対策本部に無線を飛ばすと、そこには揚げ物用の油とフライヤーがあったのだった。
どうやら、爆発と同時に引火し、燃え広がっているようだ。
「・・・どこのコンビニも奥が激しく燃えているらしい。揚げ物用の油が引火しやすい温度にまで上がっていたんだろう。最悪だ」
鎮火に時間がかかり、他の現場や救助活動に大きな支障が出ていた。
また、火元のコンビニが入っているオフィスビルにはまだ沢山のテナントの従業員が残っており、誘導にも時間がかかっていた。
病院などに搬送しようにも車両も足りていなかった。




