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〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
第六章「黒兎伝」
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一話「妨害屋」



 犯罪者の楽園、悪徳の都、現世の魔界。

 その名も魔界都市。


 中央区の大通りを平然と歩く1人の少女がいた。

 住民たちは奇異の目を向けるが、次には肩を竦めて通り過ぎる。


 何だ、この娘も「住民」かと。


「お腹が空きました……」


 少女は黒い兎耳が付いたフードを上げる。

 可憐な美少女だ。年齢は十代前半ほど。

 濃い色合いの金髪がなびく。灰色の双眸が眼鏡の奥で輝いた。


 少女はゲートの前で止まる。

 世界最強の傭兵が経営する大衆酒場だ。

 少女はここの常連だった。


 中に入ると大いに賑わっている。

 豪快に酒を飲んでいる傭兵たち。妖怪や獣人、亜人など。

 少女は遊んでいる妖精たちにお願いしてその上を滑空する。


 そうしてカウンター席まで辿りついた。

 妖精たちにお礼を言うと、ぴょんと席に飛び乗る。

 そして手をあげた。


「ネメアさん、お腹が空きました。何時ものお願いします」

「ん……黒兎(こくと)か。何時ものでいいんだな?」

「はい」


 新聞から視線を外した金髪の偉丈夫、ネメアは立ち上がる。

 厨房に入っていく彼を見届けながら、少女──黒兎はソワソワと肩を揺らしていた。

 ほどなくして、ネメアが料理を持ってやって来る。


「ほれ、天ぷらうどん大盛りに野菜ジュース」


 特大のえび天が二尾、豪快に乗った温かいうどんだ。

 飲み物は果汁入りの栄養満点野菜ジュース。


 黒兎は灰色の瞳を輝かせると、箸を持ち、頭を下げる。


「いただきます」


 行儀よく、しかし瞬く間に平らげると、野菜ジュースを飲み干す。

 最後にパチンと両手を合わせた。


「ごちそう様でした」

「おそまつ様でした」


 ネメアは受け取りながら笑う。


「お代はアイツに付けておく」

「本当にいいのですか?」

「ああ、お前は気にするな」

「……ありがとうございます」


 微笑む黒兎。

 ネメアは口元に野菜ジュースが付いているのに気付き、ハンカチで拭いてやる。

 黒兎は警戒せずに受け止めた。


「……ありがとうございます」

「気にするな」


 微笑むネメア。

 黒兎はおもむろに彼の手を見つめた。


「……ネメアさん。何時もの、お願いしてもいいですか?」

「ん? ……ああ」


 ネメアは黒兎の頭を優しく撫でる。

 黒兎は気持ち良さそうに目を細めた。


「やっぱり気持ちいいです。ネメアさんの手は魔法の手です」

「そうか」


 ふと、黒兎の前に三毛猫が現れた。

 二足歩行の浴衣を着た猫又だ。

 彼は必死に頭を下げる。


「お嬢ぉぉぉ!! 助けてくだせぇぇぇ!! お嬢しか頼れる御方がいねぇぇぇ!!」

「……落ち着いてください。ミケさん」


 一波乱あるようだ。



 ◆◆



 ミケは情報屋である。

 多種多様な情報を正確に、且つ最速でお客様に届けることを信条としていた。


「……なるほど、魔界都市を脱出したい客人がいる手前、最短ルートと用心棒を紹介したものの、追手の殺し屋が尋常では無いと」

「そうです!! 追手があの、あの大和の旦那なんです!! まさかこんな小さい仕事に入り込んでくるなんて!! 完全に予想外で!!」


 ミケはだみ声を上げながら頭を抱える。

 ネメアはため息を吐いた。


「アイツは筋さえ通っていればどんな仕事でも受ける。今回は諦めたらどうだ?」

「そうはいかないんです! あっしも商売人だ! ミスした手前、そのままとはいかねぇ!」


 ミケは黒兎に深く頭を下げる。


「お願いしやすお嬢! お嬢の力を貸してくだせぇ! 2分でいい! 大和の旦那を足止めして欲しいんです!」


 ミケのお願いに、ネメアが顔を顰めた。


「ミケ。お前、大和とこの子の関係を知って言っているのか?」

「勿論でさぁ!」

「お前──」


 怒気があふれ出る。

 ミケは跳び上がった。

 酒場にいた客人たちも静まり返る。


 傭兵王の逆鱗に触れてしまい、怯えるミケ。

 そんな彼を庇う様に黒兎は抱きかかえた。


「怒らないでください、ネメアさん」

「しかし……」

「私は妨害屋。殺し屋や傭兵を邪魔するのが仕事です。それに、困っているミケさんを放っておけません」

「お嬢ぉぉッ……!!」


 泣きつくミケをよしよしと撫でる黒兎。

 ネメアの表情は依然険しかった。


 立ち上がり踵を返す黒兎に、彼は言う。


「危なかったら連絡しろ。すぐに行く」

「大丈夫ですよネメアさん。私、強いですから。それに、あの人のことはよく知ってます」


 実の父親ですからね──


 そう言って酒場を出ていく。


 デスシティ特有の職業──妨害屋。

 中でも随一の実力者である彼女は、世界最強の殺し屋の娘だった。



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[一言] 今はほぼ改訂前 どう変わるか期待です
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