三話「東区」
東区は色の楽園だ。
魔界都市には多種多様な種族が存在する。
その中でも格別に美しい女たちが集い、欲望を満たしてくれるのが此処、東区だ。
正統派から少しアブノーマルなものまで……あらゆる技法、商法をもってして男たちを満足させる。
和漢洋、様々な娼館が建ち並ぶ。
その中を歩いていく大和、右之助、ラース。
大和は奥に佇む巨大な館を指す。
和式の荘厳な館、まるで城だ。
「あそこに入るぞ」
「へぇ、暗黒桃源郷か。東区でも一番の娼館だな」
暗黒桃源郷。
東区の頭目がオーナーを務める一番店である。
ラースは慌てて首を横に振った。
「すいません! 俺、あそこに入れるだけのお金を持ってないです!」
「何言ってんだ、俺の奢りだ。右之助は自腹だけどな」
右之助は目を丸めると、わざとらしく両手をこする。
「え~? 俺も金が無いんですよ~、お願いしますよ大和さ~ん」
「ケツを蹴るぞ?」
「冗談じょーだん、金ならあるぜ」
ケラケラ笑う右之助。
大和もつられて笑う。
ラースはどんどん話が進んでいくので混乱していた。
しかし二人に付いていくしかない。
暗黒桃源郷の前で、何やら騒ぎが起こっているようだった。
大和と右之助は顔を顰める。
「面倒くせぇな、オイ」
「仲裁してくるか」
拳をボキボキ鳴らしながら進んでいく二人。
ラースは顔を真っ青にした。
これほど頼りになる男たちはいない。
騒動の主には同情するしかなかった。
◆◆
暗黒桃源郷の前で。
暴力団の組員が喚いていた。
「なぁ姉ちゃん、いいだろう? 客引きなんかサボって俺たちと楽しもうぜ~?」
「いやっ、やめてください!」
「つれないねぇ。いいのかい? 俺たちが本気になっちまえばこんな館、すぐ瓦礫になっちまうぜぇ」
分を弁えない三下たちに、周囲の者は冷たい目を向けている。
他の店員は待機している用心棒を呼びに行っていた。
三下たちの背後に二名の巨漢が立つ。
客引きのケットシーの少女は嬉しそうに瞳を潤ませた。
「失せろ、チンピラ」
「死にたくねぇだろう?」
「アア゛?」
「何でぃ」
三下たちは背負っている得物を抜き放つ。
「いい度胸だ!! 周囲の舐めた奴らごと挽肉にしてやるよ!!」
そう言い放った三下たちの目に入ったのは、屈強過ぎる男たちだった。
褐色肌の美丈夫がニヤリと嗤う。
「いいぜ、やってみろよ。やれるもんならな」
世界最強の殺し屋、大和。
三下たちは飛び上がった。
すぐに逃亡する。
「「ヒィィ!! すいませんでした~~ッッ!!!!」」
情けない声を上げて逃げていく三下たち。
右之助は思わず笑ってしまった。
大和はケットシーの少女に声をかける。
「すまねぇな、手荒な真似しちまって」
「いえ! 本当に、本当に助かりました! ありがとうございます!」
猫耳をピコピコさせて喜ぶケットシーの少女。
一段落付いた。
◆◆
大和と右之助は会話を済ませると、背後で隠れるように待機しているラースを前に押し出した。
「コイツを頼む。一人前の男にしてやってくれ」
「俺と大和のお墨付きだ。唾付けるなら今のうちだぜ」
「ちょ!? お二人とも!?」
緊張でかちんこちんに固まるラース。
周りの娼婦たちは目を丸めた後、揃って黄色い悲鳴を上げた。
「いや~ん! 可愛い~!」
「オーク!? すっごくイケメンじゃない!」
「全然イケるよ! ねぇねぇ! 私と一緒に楽しまな~い?」
美女美少女たちに囲まれ、ラースは目に見えて狼狽える。
すると、奥から数名の女性が走ってきた。
「あ~!! やっぱりラースさんだー!!」
「やだ! ラースくんじゃない! なになに~? 遂に女に興味持っちゃった~? なら私選んでよ~! 絶対気持ち良くさせてあげるから~!」
「馬鹿! ラースは私の客だ! なぁラース。私、前からお前のこと気になってたんだ……どうだ?」
「え!? えええええ!!?」
ラースは目をまん丸にする。
エルフにサキュバス、獣人族まで……
どの娼婦も格別の美女だ。
「私がラースさんを楽しませるー!」
「駄目! 私がラースくんと楽しむの!」
「前から言ってただろ! コイツは私が狙ってるって!」
ラースは引っ張りだこになる。
大和と右之助は爆笑した。
「ハッハッハ! ラースてめぇこの野郎! モテモテじゃねぇか!」
「これは前から目ぇ付けられてたな! 隅におけねぇ野郎だぜ!」
「ええええ!!? 嘘ぉ!!?」
驚愕しているのも束の間、店内へと連れ込まれるラース。
大和と右之助はゲラゲラ笑いながら店の中に入って行った。
《完》




