一話「色男」
分厚い曇天が広がる。
喧騒、銃声、悲鳴が織りなす合奏曲は、今は奏でられていない。
魔界都市が賑わうのは夜からだ。
日中は殆どの者が眠っている。
青宮霊園にある噴水広場の前で、細身のオークが立っていた。
黒いバンダナと実戦重視の戦闘服を着た青年である。
この種族は不衛生で有名だが、彼はきっちりと身なりを整えていた。
オークの青年──ラースは頭を下げる。
歩いてきたのは純白のスーツとサングラスが似合う伊達男。
右之助だ。
彼は缶コーヒーをラースに渡すと、適当に座るよう促した。
「サンキューな、仕事を手伝ってくれて」
「いえ、右之助さんには色々助けてもらってるんで。お安い御用ですよ」
ラースの声音は優しかった。
とてもオークとは思えない。
右之助は笑いながら言う。
「貸し一つだな」
「そんな、別にいいですよ」
「馬鹿野郎。知り合いでも、そのへんはきっちりしねぇとな」
右之助に限らず、魔界都市の住民は貸し借りを重んじる傾向にある。
金では返しきれない恩を「貸し」にするのだ。
ラースは腕を組んだ後、右之助に言う。
「ならその貸し、早速使わせて貰ってもいいですか?」
「いいぜ、何だ?」
ラースは恥ずかしそうに言う。
「俺に、色男の秘訣を伝授して欲しいんです」
「……ハァ?」
思わず首を傾げた右之助に、ラースは興奮気味に語り始めた。
「だって右之助さん滅茶苦茶モテるじゃないですか! 男の俺から見てもカッコイイですし! 是非、その秘訣を教えて欲しいなと思って!」
「あー……なんだ、そんなんでいいのか?」
「はい! お願いします!」
深々と頭を下げるラースに右之助は苦笑しながら頷く。
「いいぜ」
「本当ですか!」
「なら今夜でも話そう。おでん屋「源ちゃん」って知ってるか?」
「知ってます!」
「21時にそこに集合だ。楽しみにしててくれ」
「はい!」
何故か「むふふ」と笑う右之助。
彼には妙案があった。
◆◆
おでん屋「源ちゃん」は中央区の路地裏で営業している。
危険な場所だが、店主の腕っぷしが半端ではないため普通に営業できていた。
暖簾越しに座っている右之助とラース。
「もうそろそろ来る筈だぜ」
「え? 誰がですか?」
首を傾げるラースに、右之助は笑う。
「スペシャルゲストだ。デスシティで「色男」と言えばアイツしかいねぇ」
「そうですねぇ」
右之助と源次郎はニヤニヤと笑う。
ラースはハッと唇を戦慄かせた。
「その人って、まさか……!」
「そぅら、来たぞ」
右之助は振り返る。
暖簾が上がり、褐色肌の美丈夫が顔を見せた。
「よう、集まってんな。で、コイツが……」
「ああ。色男の秘訣を教えてやってほしい」
予期せぬゲストの登場に、ラースは腰を抜かしかけた。
「や、やや、大和さん!!?」
ラースはまさか、あの大和が来るとは思ってもいなかった。




