表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
外伝「天使伝」
39/58

十二話「焔の如く」





 大和が紫煙をふかしていると、斬魔とえりあがやって来た。

 斬魔は大和に怒鳴り声をあげる。


「少しは加減しろ!! 死ぬかと思ったわ!!」

「ハッ! ボロボロじゃねぇか! 大丈夫かよ!」

「うるせぇ!!」


 えりあはため息を吐く。

 そして大和に聞いた。


「終わったの?」

「ああ、アレだろう?」


 大和は消し炭になりかけている天使教の幹部を指す。

 えりあは冷たい視線を送った。


「まだ死んでないわね……よかった。色々と聞きたいことがあるから」

「おー、こわ」


 大和は肩を竦めると、斬魔の前までやって来る。

 全身を確認した。


「なんだよ……」

「ジッとしてろ」


 人差し指で斬魔の胸を突く。


「いってぇぇぇ!! 何すんだよ!!」

「動けるか?」

「……!?」


 あばらを含め、数ヵ所は骨折していた筈だが──最早痛みすらない。


「経穴を突いて気を整えた。応急処置だから後でちゃんと医者に診てもらえよ」

「仙人かお前は!!」

「武術は医術に通じるんだよーん」


 大和は落書きみたいな顔でヘラヘラ笑う。


 唐突に、えりあが二丁拳銃を取り出した。

 大和と斬魔は何事かと振り返る。


 天使教の幹部が意識を取り戻していた。

 霊子型ナノマシンの回復力が仇となったのだろう。


 人型の消し炭が怒りの咆哮を上げる。


「おのれェっ、おのれおのれおのれェェェェ!!!! よくもッ!!!! この私を!!!! 地に這わせてくれたなァ!!!! 万死に値するぞ殺し屋ァァッ!!!!」 


 のたうち回る。

 四肢が焼き溶け、立ち上がることもできないのだ。


「私は天使教の幹部だぞ!!!! 新人類の導き手となる崇高な存在なのだぞ!!!! それを貴様ァァァァッ!!!!」

「ハァ……」


 大和は侮蔑と哀れみの視線を向ける。

 こうも典型的だと笑うことすらできない。


 そんな幹部の身に突如として異変が起きた。


 右肩の肉が膨張し、弾ける。

 次に腹が裂けた。溢れ出た内臓には魚のヒレや虫の足がワシャワシャと生えている。


 幹部は絶望した。

 この症状を、彼はよく知っていた。


「そ、そんな……ッッ、よりによってこの私がッ!! 何故だァァァァッッ!!!!」


 霊子型ナノマシンの暴走──天使病。

 膨張し、口も塞がれ、ただのバケモノに成り果てていく幹部に、大和たちは吐き捨てた。


「傲慢だろ」

「傲慢だな」

「傲慢ね」


 七つの大罪の一つ、傲慢。

 歪んだプライドが発症の引き金となったのだ。


 ロンドンに残っている霊子型ナノマシンが一点に収束する。

 とんでもない怪物が生まれようとしていた。



 ◆◆



 穢れた太陽が空に浮かぶ。

 触手をフレアの如く伸縮させ、目玉を黒点の如く明滅させている。

 羽を生やし、角を生やし、腕を生やし、脚を生やした、全長500メートルを超える肉塊。


 それが、ロンドンの上空に浮遊していた。


「でけぇ……」


 斬魔は思わず呟く。

 えりあも冷や汗をかいていた。


「最下級だが純天使クラスか?」


 大和は顎を擦ると、二人に聞く。


「どうする? お前らには厳しい相手だ。俺が倒してやろうか?」


 斬魔とえりあは顔を見合わせた。

 次には笑う。


「冗談はよせよ」

「わたしたちは天使殺戮士」

「天使病の患者は必ず殺す」

「それが、わたしたちの唯一絶対の使命だから」


 両脇を通り過ぎる二人。

 大和は笑った。

 期待通りだったのだろう。


 二人の背を叩く。


「ならサポートしてやるよ」

「どうするの?」

「アレは天使の羽衣(エンジェルベール)を重ねて展開してる。お前らにアレを突破するのは難しいだろう」


 二人は巨大患者を注視する。

 神聖文字の障壁が幾重にも展開されていた。

 ジークが纏っていたものと同じだが、密度も枚数も段違いである。


「俺がアレをぶち抜く」

「できるのか?」

「任せとけ」

「OK」

「わかったわ」


 二人は頷き、大和の両サイドに移動する。

 大和は異空間から得物を取り出した。

 己の身長以上ある強弓である。


 大和の得物は全て世界一の鍛冶師、百目鬼村正(どうめきむらまさ)が手掛けた一品だ。


 この弓もそう。

 五人張りの強弓である。

 しかもただの五人張りでは無い。

 怪力自慢の巨人族による五人張りだ。


 矢をつがえ、優々と弦を引く。

 世界樹(ユグドラシル)の木で製造された本体が圧力で軋みを上げる。


 巨大患者が反応した。

 100本を超える触手を大和に飛ばす。


 しかし、斬魔とえりあが蹴散らした。

 抜刀術で斬り伏せ、銃撃で爆散させる。


 大和は吼えた。


「いくぞ!! 準備しろ!!」


 二人は頷き、構える。

 大和は矢を放った。


 全力で手加減しても星を消し飛ばし、銀河を貫いてしまう必滅の一矢。

 かつて「万象穿つ」と魔王から絶賛された、「武神」の二つ名の所以。


《神穿ちの矢》


 何人たりともこの一撃を防ぐことはできない。

 避けることもできない。

 放たれた時点で、既に対象は穿たれている。


 幾重にも展開されたエンジェルベールも意味を成さない。

 身体の半分を消し飛ばされた巨大患者。その中心部に、幹部だった男で形成された核があった。


 天使殺戮士たちが躍り出る。

 えりあの「祝福儀礼済み劣化ウラン弾」が躍動する肉を抑え、回復を許さない。


 隠せない核、その前に現れた漆黒の美青年。


 愛刀「羽根落とし」を鞘から放つ。

 銀光一閃。

 万魔を断つ斬撃は、そのまま核を両断する──筈だった。


「!!」


 苦し紛れの一枚のエンジェルベール。

 神聖文字が刃を阻む。


「クソったれ……!!」


 己では決して断ち切れない聖域の顕現だ。

 いくら腕に力を込めても刃が進まない。


 焦燥する斬魔に、何者かが囁きかける。


『負けるな。お前はオレたちの希望──天使殺戮士だろう』

「!!」

『俺の魂は偽りの神聖を断ち切る。信じろ──』


 斬魔は笑う。

 今は亡き友の声が確かに聞こえた。


「……ああ、信じるぜ!! ジークっ!!」


 斬魔の愛刀「羽根落とし」の乱れ刃が揺れる。

 焔を纏った刃はエンジェルベールを断ち切った。


 断末魔の悲鳴が響き渡る。

 肉が崩れ、骨が溶けていく。

 偽りの太陽が沈んでゆく。


 曇天が晴れ、陽光が顔を覗かせた。

 遠くから一部始終を見ていた大和は嬉しそうに笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最初は到着して邪魔になるかと思ったら、そりゃ足枷にはならないですね 次回も期待しています
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ