十一話「格の違い」
「ハハハハハハハハ!!!!」
幹部は笑いながら大和の顔をぶん殴る。
ゴキンと、金属を潰す様な音が響き渡った。
そのままラッシュを浴びせる。
人外の筋肉がもたらす拳撃は、一撃一撃が山河を砕き海を割る威力だった。
衝撃で地面が砕け、空気が振動する。
「どうした! 手も足も出ないかね!」
肝臓に左アッパーを打ち込み、追撃の右ストレート。
大和は大英博物館に衝突する。
世界的な歴史を誇る博物館が呆気なく崩壊した。
巻き上がる土煙を吹き飛ばし、幹部は更に追い打ちをしかける。
未だ倒れない大和のテンプルに渾身のフックを二発叩き込んだ。
「世界最強の殺し屋──貴殿は何のためにこの地へやって来た。この腐った世界で、貴殿は一体何を成そうと言うのかね!? 人間は尊い自然を破壊し、貪り、挙句の果てには戦争を引き起こす! 一見平和な国も、私腹を肥やす薄汚い政治家共の巣窟だ!! それを知らない愚民共は更に愚かで醜い!!」
ラッシュ、ラッシュ。
暴力の嵐が吹き荒ぶ。
最後に渾身の右ストレートを放ち叫んだ。
「我ら天使教が新たな人類を導き、世界を統治する──それこそ我らが信条!! 我等が教義!!」
最早幹部は人間を逸脱した存在──魔人に成りつつあった。
一方、大和は一度も倒れていない。
ガードもしていないのに、血すら流していない。
そのかわり──呆れてため息を吐いていた。
「言いたいことはわかった」
パシン、と迫りくるる剛拳を軽く掴む。
瞬間、辺り一面の瓦礫が吹き飛んだ。
幹部は驚き表情を変える。
大和は幹部の右拳を握りながら言った。
「お前らにはお前らの考えがある。それはいいぜ。だがこんなやり方をして誰が納得する?」
「……ッッ」
幹部は拳を戻そうとするができない。
大和の化け物じみた握力に勝てないのだ。
握られている拳がメシメシと嫌な音を立てる。
「離せぇ!!」
空いている左手でフックを放つ。
しかしその前に大和が手を放した。
行き場を失った力は暴走し、幹部は後方に吹き飛ぶ。
傍から見れば勝手に飛んでいったように見えるだろう。
「テメェに天使殺戮士はもったいねぇな。俺で十分だ」
起き上がった幹部は怒りで全身を震わせた。
◆◆
違和感はあった。
いくら全力で打ち込んでも倒れない。
拳に伝わる感触は人間を殴るものではない。
まるで鋼鉄だ。
目の前の男に勝てるビジョンが全く浮かばない。
「オオオッ!!!!」
恐怖を掻き消すように右拳を放つ。
それは大和の頬にクリーンヒットした。
しかし──大和は平然としていた。
幹部は慌てて距離を取る。
体から大量の脂汗が出ていた。
「満足したか?」
首を傾げられ、幹部は震える。
大和の言葉は、プライドを深く傷つけた。
「私を──この私を!! なめるなァァァァッ!!!!」
突撃する幹部。
その勢いは空気を焼き、熱波を生むほどだ。
大和は大きな手で拳骨を作る。
「本物のパンチってやつを教えてやるよ」
迫り来る幹部の顔面に右拳を被せる。
芸術的なクロスカウンターだ。
ギザ歯を剥き出す。
肩から腰、爪先まで捻って拳をねじ込む。
大気が吹き飛び、曇天が二つに裂けた。
遥か彼方、地平の先にまで拳圧が突き抜ける。
世界最強の男が放ったパンチは、衝撃だけでロンドンを完全に崩壊させた。
大和は懐からラッキーストライクを取り出し、火を点ける。
紫煙を吐き出していると、背後から何かが降ってきた。
顔面を陥没させた幹部だ。
摩擦熱で原型を留めていない。
短時間で地球を一周してきたのだ。
大和は紫煙を吐き出しながら笑う。
「どうだった? 世界一周の旅は」
応答は無い。
当然である。
文字通り、格が違った。




