十話「死美人VS撃ち狂い」
金色のメッシュが揺れる。
パンと、風船ガムが割れた。
サーシュはガムを咀嚼しながらえりあに話しかける。
「天使殺戮士、中々の実力者って聞いた事があるわ♪」
両手を広げて天を仰ぐ。
「ステージは最高よ! 阿鼻叫喚の大地獄! 後は役者だけ! ……ねぇ、天使殺戮士さん♪」
意味深な流し目を向けられるが、えりあは無視して二丁拳銃を構えた。
「邪魔をするなら、痛い目を見てもらうわ」
「~ッッ♪♪」
サーシュは歓喜で震える。
「ヤバッ♪ ちょっと濡れちゃった♪ クフフッ♪ さぁ始めましょう!! 楽しい楽しい殺し合いを!!」
「……」
サーシュは二丁魔銃を回して構える。
えりあも銃口を向けた。
二人の発砲音が重なった。
◆◆
「アハハハハ!! やるじゃない♪ たんのし~ッッ♪♪」
崩れた建造物を飛び回りながら魔銃を乱射するサーシュ。
えりあも向かい側の瓦礫を飛び移りながら乱射していた。
互いの弾丸がぶつかり合うことで、潰れて静止する。
ハイレベルな銃使いのミラーで起きる現象だ。
両者は時折拳銃を振り回して発砲し、弾丸の軌道を曲げていた。
曲射。
更に、あらぬ方向に撃って銃弾を数度跳ねさせている。
跳弾。
「キャハハ!!」
サーシュは回転し、四方八方に弾丸をばら撒く。
弾丸は曲がり跳ね返り、最終的にえりあに密集した。
四方八方360度、完璧に囲まれる。
えりあは「避ける」という選択肢を捨てた。
二丁拳銃をトンファーの様に持ち替え、飛来する弾丸を叩き落す。
サーシュは瞳を輝かせた。
「うわ!! すっご~い!! バレットアーツまで修得してるなんて!! 昂っちゃわ~ッ♪ ゾクゾクしちゃわ~ッッ♪♪」
自分を抱きしめた後、持っている魔銃に禍々しい銃剣を生やす。
「私もバレットアーツ得意なのよ〜♪ だから一緒に踊りましょ♪ 踊って、踊り狂って……最後に逝かせてあげるから!! そしたら私もイッちゃうからッッ♪♪」
「……」
イカれた女だ。
えりあは何も答えない。
互いに距離を計る。
刹那、極光一閃。
彼方から放たれた灼熱の斬撃に、両者は吹き飛ばされる。
凄まじい熱波で吹き飛んだ瓦礫と共に、サーシュとえりあも空に跳んだ。
宙で絡まり、超至近距離の銃撃戦を始める。
銃口を突き付け合い、それを弾き合う。
互いに一発も当たらない。
視線誘導。射撃のタイミング。肩でのフェイント。
面白いように当たらない。
更にえりあは銃身で打撃を、サーシュはバヨネットで斬撃を繰り出していた。
重力に合わせて二人は着地し、銃を構える。
着地した場所はロンドンブリッジだった。
全長283mに及ぶ橋梁の上が、二人の決着の場となる。
サーシュはニヤニヤと笑った。
「さっきの光線、あの牧師ちゃんの攻撃ね♪ いや~強い強い♪ もっと遊びたかったんだけど、依頼主サンが駄目って言うから諦めたの。悔しかったわ~っ」
えりあの眉が跳ね上がる。
ジークのことだ。
「……そう、キミなのね。彼を貶めたのは」
「半分正解♪ 苛めたのは私だけど、疑似天使病のウイルスを注入したのは依頼主デ~ス! 天使病に感染した時のあの絶望した表情ったら、堪らずオ〇ニーしちゃいました!」
ケタケタと狂ったように笑うサーシュ。
えりあの瞳に明確な怒りが灯った。
「……死なない程度に壊す」
それを聞いたサーシュは魔物のような笑みを浮かべた。
◆◆
腕が絡まる。
至近距離で睨み合った二人は、全く同じタイミングで発砲した。
一旦距離が離れたかと思えば、また近付く。
クロスレンジでの制圧戦。
大量の薬莢が地面にばら撒かれる。
「クフフッ! キャハ♪ キャハハハハハハハハハッ!!」
サーシュは気持ちよさそうに哄笑を上げていた。
対してえりあは無表情。
互いの体に銃創が刻まれていく。
血が飛び散り、地面を染めていく。
「いい!! 凄くいい!! 最高よ!! もうそろそろキちゃう!! 大きいのキちゃう!!」
サーシュは頬を赤らめ恍惚としていた。
自他を問わず痛みで興奮できる真性の変態。
殺すまでその癖は治らないだろう。
えりあは煩いとばかりに距離を詰め、サーシュの拳銃を薙ぎ払った。
怒りと嫌悪が凄まじい膂力に変換されている。
サーシュは驚き、大きく体勢を崩した。
えりあは拳銃を振り上げ、サーシュの頭蓋骨を粉砕しようとする。
何もできない筈のサーシュは、いやらしい笑みを浮かべて呟いた。
「狂い咲きなさい、死の棘」
突如としてえりあに異変が起こる。
銃創から無数の棘が生えて爆散したのだ。
骨肉をズタズタに引き裂かれる。
「ッッ」
たまらず片膝を付く。
想像を絶する痛みが全身を駆け巡る。
ニードル・ショット。
サーシュの愛銃「Hate & Scream」の専用弾。
対象の体内で棘を撒き散らし、想像を絶する痛みを与える。
動けないえりあの額に、サーシュは銃口を突きつけた。
「フィナーレよ♪ 逝っちゃいなさいッ♪」
無慈悲な発砲。
バシュンと、えりあの脳漿が飛び散る。
顔の半分が抉れ、目玉が飛び出る。
そのまま力なく倒れていった。
「アアア……ッ♪ きんもちぃぃ~~~ッッ♪♪」
サーシュは最高級の快感に打ち震えていた。
◆◆
「さーてさて、帰りますかね〜〜♪♪」
サーシュは上機嫌で帰路に着こうとする。
唐突にえりあの右手が跳ね上がった。
油断していたサーシュはモロに銃撃を食らってしまう。
倒れる彼女を尻目に、えりあは立ち上がった。
撃ち抜かれた顔は既に再生をはじめている。
死美人。
えりあは人間でありながら人間では無い。
既に死んでいる、歩く屍なのだ。
完全に回復したえりあは倒れているサーシュに歩み寄る。
しかし、サーシュも倒れながら発砲。
えりあは寸前で避ける。
「アー……最悪、最悪よ。折角の余韻が台無しだわ」
起き上がり、弾丸を吐き捨てる。
弾頭にはクッキリと歯形が残っていた。
歯で噛み潰して止めたのだろう。
サーシュは胡坐をかいて溜息を吐く。
「アンタ、不死身なの? どーりで……あー、このゲンナリした気持ち、当分治りそうにないわ」
萎えているサーシュにえりあは問答無用で発砲する。
サーシュは首だけ逸らして躱した。
気怠げに顎をしゃくる。
「お仲間さんが来てるわよ」
「……!」
気配で彼だとわかった瞬間振り返る。
斬魔が鉄鞘を杖代わりに近付いてきていた。
「目を離してもいいくらい、再生力には自信があるのね」
いつの間にか、サーシュはロンドンブリッジの上に佇んでいた。
笑いながら舌を出す。
「もうアナタとは戦いたくないから、絡んでこないでね天使殺戮士ちゃん♪ んー、そうねぇ。報酬分の働きはしたし、帰ろっかな♪ んじゃ、ばいば~い♪」
ヌルリと闇の中に消えていった。
完全に気配が消えたことを確認したえりあは、二丁拳銃をしまい斬魔に駆け寄る。
斬魔は笑いながらえりあに寄りかかった。
「なんだ、終わったのか……クソ、頑張って歩いてきたのに」
「ボロボロじゃない」
斬魔を支えながら、えりあは聞く。
「ケリは、ついたの?」
「ああ」
「そう……ならいいわ」
それ以上は何も聞かない。
「……いきましょう、大和のところへ」
「ああ、良いとこ取りはさせねぇ」
えりあは斬魔に肩を貸して歩き始める。
向かうは決戦の地だ。
この戦いに終止符を打つために。




