七話「到着」
数時間後。大和たちは魔都と化したロンドンに到着した。
ロンドンは地獄の底のような有様だった。
バケモノたちが我が物顔で徘徊している。
生存者はほぼいない。
此処は既に人間が生きていける場所では無かった。
倒壊している建物。くすぶる焔。所々で起こる大爆発。
昼にも関わらず空は一面暗黒色で、赤い稲妻がところどころに奔っている。
ロンドンの名所の一つ、バッキンガム宮殿は巨大化した患者の寝床と化していた。
芋虫状の体形、腹部には無数の人面が浮かび上がっている。
巨体の内部で死にきれない犠牲者たちが喚いているのだ。
阿鼻叫喚の地獄絵図を前に、斬魔は険しい顔つきになる。
「ひでぇな」
「ほんとうに」
えりあの顔つきも何時にも増して険しかった。
大和は二人の横顔を見て思う。
(……そういう反応ができるなら大丈夫だな)
怒りと悲しみの色はある。だが絶望の色はない。
大和は斬魔たちに告げる。
「俺は先に行くぜ」
そのまま天使病の患者がひしめく広場に跳んでいった。
えりあは目を丸める。
「俺たちも行こうぜ」
「……ええ、天使病の患者は殲滅する。それが、天使殺戮士の使命だから」
斬魔は黒金の大鞘を、えりあは二丁拳銃を、それぞれ携え大和に続いた。
◆◆
斬魔の一閃が生温かい瘴気諸共患者を両断する。
余波は倒壊していた建物もバターのように斬り裂いた。
チンと、納刀の音が響き渡る。
視認すらできない超速の抜刀術。
えりあの銃から放たれた「祝福儀礼済み劣化ウラン弾」が患者たちを問答無用で爆散させる。
銃撃の反動を全て乗せた回し蹴りは専用弾に勝るとも劣らない威力を発揮していた。
二名の猛攻は続く。
物言わぬ肉塊の山を積み上げていく。
大和の方にも患者たちが押しよせてきていた。
その数、およそ100体。
大和は下駄の爪先で地面を叩くと、軽く振り上げる。
豪脚が赤い稲妻と化し、異形の群れを消し飛ばす。
そのまま跳躍し、バッキンガム宮殿で寝そべっている巨大患者の頭を地面に叩きつけた。
「大人しく死んどけ」
巨大患者の頭が弾け、血の津波が起こる。
バッキンガム宮殿は完全に崩壊し、患者の腹の下で粉々になった。
衝撃でよろけてしまった二人は思わず呟く。
「一人だけスケールが違うな」
「世界最強の殺し屋は伊達じゃないわね」
本当に、一人だけ次元が違う。
斬魔は大和の背を見つめながら思った。
「このままじゃ埒が明かねぇ」
「おっと、アンタでもか?」
「やろうと思えばできるが、ロンドンが地図から消えることになる。勿論、お前たちもだ」
「マジか」
「……」
大和は肩を竦める。
「得手不得手だ。こういう時は誰か頼るに限る」
大和はスマホではなく呪符を取り出すと、ある女性に連絡を入れた。
◆◆
遠く離れた場所。
巨大観覧車ロンドンアイの最上部から、三名の様子を眺めている美女がいた。
「おや、覗き見がバレたか。流石は兄弟子殿」
連絡用の呪符を取り出しながら嬉しそうに笑う。
その背には先端が赤毛の九本の狐の尾が広がっていた。
輪廻。
大和の妹弟子である。
「嬉しいぞ。誰でもない、お前様から頼られるのじゃからな」




