四話「魔女狩り」
その頃、大和は暇を持て余していた。
「長いな」
何本目かわからない煙草に火をつける。
ふと、背後から艶やかな声がかけられた。
「そんなに暇なら助けに行けばいいじゃないか。兄弟子殿なら余裕じゃろう?」
大和はため息を吐く。
「助けに行ってもいいんだがな」
「なるほど、安易に助けるのもよくないか」
大和の前に現れる女性。
驚くほどの美女だった。
容姿的年齢は二十代前半ほど。
美しさとあどけなさを両立した顔立ち。
赤眼でタレ目。片眼鏡をかけており、艶がかかった黄金色のショートヘアが目を引く。
バストは110センチはあろう。男を悩殺する破壊的なスタイルを誇っている。
服装は胸元を大きく開けた黒いライダースーツ、その上から赤いファーコート。
背中には二つの巨大な大鎌を背負っていた。
背に広がるのは先端が赤毛の九本の狐の尾。
頭の上からは同色の耳がひょっこりと生えている。
九尾の狐──それも格の高い存在だ。
輪廻。
魔界都市の殺し屋ランキング8位。
「死神代行」「真紅の魔狐」「不浄狩り」。数多の二つ名で恐れられる妖狐の超越者。
大和とは同じ師の元で研鑽を積んだ旧知の間柄である。
彼女は告げる。
「黄金祭壇じゃ、兄弟子殿。奴等は天使殺戮士を信じておらん」
「そういうことか」
大和は納得すると同時に忌々しい過去を思い出す。
魔女狩り。
16世紀に行われた魔術士の大虐殺。
当時、ローマ聖教が最盛期を迎える傍ら、天使病の患者も爆発的に増えていた。
当時のローマ聖教のトップ、ローマ聖王はこれを「魔女による呪いだ」と結論付け、世界規模で魔女たちの拷問と処刑を行った。
当時のローマ聖教の関係者は知らなかった。
天使病が「七つの大罪」を犯した者から発症する人類に対する呪いだということを……
魔女が信者を呪っているのではなく、七つの大罪を犯した信者が呪われているのだと。
当時から魔女の代表格だったエリザベスは、魔女狩りを即刻やめるようローマ聖王に直訴した。
しかし無駄だった。
神の信者とは名ばかりの醜悪な人間たち。
止まるどころか勢いを増す魔女狩り。
エリザベスは絶望した。
抑えていた力が開放され、■■■に至りかけた。
最悪の事態になる前に大和が皆殺しにした。
その時の怒りようがあまりにも凄まじく、「東洋の黒き鬼」と畏れられるほどだった。
結果、ローマ聖教は崩壊。大規模な宗教改革が行われた。
当時異教徒として監禁、拷問されていた男が新たに「カトリック」を設立し、初代ローマ教皇となった。
プロテスタントもこの時期に設立されている。
天使殺戮士が生まれたのもこのあたりだ。
輪廻は大和の顔を見て申し訳なさそうにする。
「伝えておかねばと思っての。……余計なお世話じゃったか?」
狐耳をしおらしく畳む輪廻。
大和は首を横に振った。
「なんでお前が謝る。むしろありがとうな。伝えてくれて」
「っ」
心が締め付けられる。
輪廻は誤魔化すように大和に言った。
「私にも声をかけるくらいじゃ、相当嫌がっとるのぅ」
「だろうな」
「どうする? 助けに行くなら力を貸すぞ」
輪廻の提案に、大和は首を横に振った。
「いいや、もう暫く待つ」
「いいのか?」
「ああ、これくらい乗り越えてもらわねぇと困る」
煙草がすぐになくなる。
大和はフィルターまで焼き切った吸い殻を足元に落とした。
◆◆
同時刻。
斬魔の前に一人の男が立ち塞がった。
容姿的年齢は二十歳後半ほど。絶世の美男だ。えりあに似た冷たい美貌をしている。
肩までかかる程度の漆黒のミディアムヘア。前髪が長いため十字架形の銀の髪留めでとめている。瞳の色は青紫。
長身痩躯。限界まで絞られた肉体は百戦錬磨の武術家の如く。
服装は黒のロングコートとスーツ、赤いシャツ。頭には漆黒のテンガロンハットを、首元には紅いマフラーが巻いている。
黒革のロングブーツの踵で銀の拍車が輝いた。
背中には鎖で縛られた巨大な金属製の棺桶を背負っている。
「はじめまして。現代の天使殺戮士」
「おいおい、マジかよ……」
斬魔の口元からニヒルな笑みが消える。
はじめて動揺しているところを見せた。
「俺の名はダンテ。ワケあって貴公の実力を試すことになった」
ダンテ。
デスシティ殺し屋ランキング7位。
「死神代行」「悪魔殺し」「ヴィランダスト」。数多の二つ名で恐れられる超越者。
神話の時代で唯一神に直接仕えていた聖人。
魔導書「神曲」の作者。
ダンテ・アリギエーリその人だ。
彼は魔改造を施した大口径リボルバーを抜き、斬魔に銃口を向ける。
「さぁ、見せてくれ。天使殺戮士の実力を……不足なら、ここが墓場になるぞ」




