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〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
第三章「武人伝」
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一話「魔界都市たる所以」



 デスシティの中央区。

 多種多様なネオンサイトが輝き、濁った夜空を彩っている。


「……」


 男はハンチング帽を被り直した。

 暗器術を修めた歴戦の殺し屋である。


 彼は依頼を受けて魔界都市にやってきていた。

 内容は、世界最強の殺し屋「大和」の暗殺。


 大和──殺し屋を営んでいれば嫌でも耳にする。


 曰く最強。 曰く無敵。

 その力は神話に登場する英雄そのもの。

 人間でありながら人外と渡り合う、正真正銘の化け物である。


 男は以前から興味を持っていた。

 はたして本当に、人間が神秘の存在に勝てるのか? 


 男は修行時代、本物の仙人に会ったことがある。

 その時の絶望を、今でもよく覚えている。


(怪しいな)


 所詮は人間。所詮は殺し屋。

 自分と同じ類の者が本物の神秘に勝てるとは到底思えない。

 往々にして、殺し屋とは尾ひれが付きやすいものだ。


(化けの皮を剥がすいい機会だな)


 男はやる気だった。

 しかし顔色が悪い。

 今いる場所が、世界最悪の犯罪都市だからだろう。


 魔界都市デスシティ。

 ありとあらゆる悪が集まる場所。

 人と、人ならざる者が同居する異界。


 所々で勃発する銃撃戦。

 民間人が当たり前のように武装し、ただの喧嘩が殺し合いに発展する。


「ハァ」


 男は大きな溜息を吐いた。

 暴力、麻薬、淫行、人身売買──

 ありとあらゆる悪行が、この都市では日常化している。


 この都市にいると、気分が悪くなる。


 そう呟くと、男は大衆酒場ゲートの前に立った。

 ここに標的(大和)が頻繁に現れるという情報を得たからだ。


「──ネェ」


 ツンツンと、肩を突かれる。

 咄嗟に懐に手をのばした。


「……ッッ」


 振り返り絶句する。

 三メートルを優に超えるバケモノが間近にいたからだ。


「オマエ、オモテセカイカラ、キタノ? スゴク、イイニオイ、スル」


 落ち武者のような髪型、異様に膨れた太鼓腹。

 まるで餓鬼のようなバケモノは、醜悪な面を喜悦で歪ませた。


「オイシソウ、イタダキマス」


 男は暗器を振るうが、届く前に首が食い千切られた。

 残った肉体は大きな口の中に放り込まれる。

 怖気が走る咀嚼音が辺りに響き渡る。


 飲み込むと、バケモノは皺だらけの手をパチンと合わせた。


「ゴチソウサマ、デシタ」


 中央区の名物の一つ、「人食い三太夫(さんだゆう)

 表世界の人間を好んで食らうバケモノである。


 中央区はデスシティでも比較的安全だが、危険なところには変わらない。

 ここは、表世界の住民が生きていけるような場所ではないのだ。



 ◆◆



 デスシティの北区はギャンブラーの楽園だ。

 様々なカジノが自慢の看板を掲げている。

 世界中のゲームが楽しめるこの場所は、デスシティの住民からも愛されている。


 カジノ以外の商いも賑わっていた。

 中でも人気なのが、奴隷市場だ。


 奴隷はどの時代でも一定の需要がある。

 ここ(北区)はデスシティの闇の深さを垣間見れる場所だった。


 カジノから褐色肌の美丈夫が出てくる。

 店の前で客引きをしていたバニーガールたちは一様に見惚れていた。


 大和はその場を離れながら肩をグルグルと回す。


「たまにはスロットを回すのもアリだな」


 目をつぶって回せば暇潰しになる。

 そう言って大きな欠伸をかく。


 ふと、スマホが鳴った。

 知り合いだったので応じる。


『やぁ、久しぶりだね大和君』

「久々だなぁ、努ちゃん」


 大和は親しみを込めてその名を呼ぶ。

 スマホの向こうにいるのは大黒谷努(だいこくだにつとむ)

 日本の首相──内閣府の代表その人だ。


 彼は野太い声で笑う。


『君くらいだよ。僕をちゃん付けで呼んでくれるのは』

「嫌か?」

『嫌じゃないよ。フレンドリーに接してくれるのは、ね』


 画面の奥で微笑む大男。

 容姿的年齢は四十代ほどか。少し丸いが彫りの深い顔立ち。太い眉、短い鼻。腹は出ているが腹筋は彫刻のように割れている。

 全体的に筋肉質で、特に胸と腕のボリュームが凄まじい。

 まるで歴戦の相撲取りだ。


「で、何の用だ? 別に世間話でもいいが」

『仕事に関わる話だよ』

「ほぅ、依頼か?」

『正確に言えば依頼じゃないんだ。少々面倒なことになってね』


 大和はなるほど、と片目を閉じる。


「気にするな。俺とお前の仲だぜ」

『申し訳ない』


 謝罪を入れると、話をはじめる。


『官僚の人間が不審な動きをしている。どうやら、君の命を狙っているようでね』

「ありゃま」

『こちらの不手際だ。こちらでどうにかする。ただ、一応連絡をと思ってね』

「わざわざすまねぇな」

『君は良きビジネスパートナーだ。当然だよ』


 大和は笑う。


「心配するな。こっちに来た場合はこっちでどうにかする」

『いいのかい?』

「ああ、任せときな」

『……ありがとう、助かるよ。でも、できる限りのことはするからね』

「おう。じゃあ、またな努ちゃん」

『うん、またね』


 通話を終える。

 大和は顎をさすると、一人呟いた。


「女と遊んで待ってるか」


 刺客を差し向けられるのなんて慣れている。

 大和はそれまで自由に過ごすことにした。



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