八話「神話の英雄たち」
今回の騒動で中央区と西区は壊滅的な被害を被った。
しかし死者は千名弱と意外に少数で、住民たちの逞しさが窺える。
今回の死者、その殆どが表世界から来た者たちだった。
騒動から三日後、夜。
デスシティの様子はあまり変わらない。
何時も通り賑わっている大衆酒場ゲートに褐色肌の美丈夫──大和が現れる。
カウンター席に座る彼を見て、ネメアは眉をひそめた。
「やり過ぎだぞ」
「そう怒んなって」
「少しは周りのことを考えろ」
「ちょっと暴れただけだぜ?」
「営業妨害だ」
ネメアの顔を見て、大和はケラケラと笑う。
「そんな怒んなよ。ここは大英雄ヘラクレス様が護る店だ。大丈夫だろう?」
「神話の英雄ヤマトタケル様は、ある程度自重を覚えるべきだな」
「その名前は捨てたぜ」
「そっくりそのまま返すぞ」
見事な返しに大和は目を丸める。
次には肩を揺らして笑った。
「わりぃわりぃ! 流石にふざけすぎたわ!」
「わかったならいい」
大和は笑い続ける。気分がいいのだろう。
己と対等に話せる存在などほとんどいない。
ネメアは、いいやヘラクレスは、永遠のライバルであり終生の友なのだ。
しばらく酒を楽しむと、席を立つ。
「じゃあ、またな」
「おう、またな」
机に勘定を置いて去る。
外に出るとラッキーストライクをくわえた。
火をつけて紫煙を吐き出していると、背後から声をかけられる。
「やーまと♡」
「ん、ナイアか。どうした?」
「今夜、暇?」
「ああ、暇だな」
「♡♡」
ナイアは女の顔つきになると、大和の腕に絡みつく。
「じゃあ、今夜も僕と一緒にいようよ。ね? ね? いいでしょう?」
「駄目だ。今夜はゆっくり酒を飲む」
「えーっ! そんなぁ!」
目に見えて落ち込むナイアに、大和は笑いかける。
「付き合え。イイ酒にはイイ女があう」
「……っ。えへへっ、そっか〜♡ イイ女かぁ〜♡ ならしょうがないなぁ〜♡」
デレデレになったトリックスターを連れて、大和は摩天楼の中へと消えていった。
《完》




