二話「魔性の色香」
少女はメイドからいくつかの忠告を受けていた。
しかしそのどれもが非現実的で……思わず鼻で笑ってしまった。
少女は思った。
取るに足らない、と。
自身の魅力と父の財力に屈しない存在などこの世にはいない。
男など所詮、顎で使える都合の良い存在だから。
◆◆
少女は一目惚れしてしまった。
彼は、大和は、これまでの男とは全く異なる存在だった。
完成された容姿、滲み出る色香。オスとしての純度がまるで違う。
見ているだけで目眩がする。
少女は今更ながら、メイドの忠告を理解した。
しかし、次の瞬間には忘我の彼方を彷徨っていた。
「おいおい、大丈夫か?」
心配されている。
どうして心配されているのかまではわからない。
思考がまとまらないほど魅了されていた。
大和は肩を竦める。
「お前も苦労してんのな、黒花」
「まぁね……ハァ」
傍に控えていたメイド──黒花は大きなため息を吐いた。
「貴方も大概だけど、新しい御主人様が……ね」
「同情するぜ」
苦笑すると、陶然としている少女の頬を撫でる。
少女は愛おしそうに頬ずりした。
「適当でいいよな?」
「任せるわ」
大和は頷くと、少女を抱きしめる。
雄の薫りを直に浴びた少女は気をやりかけた。
対象を自身の香りで上書きして、ティンダロスの猟犬を欺く。
魔性の色香を持つ大和だからできる出鱈目な方法だった。




