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〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
第一章「黒鬼伝」
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五話「世界最強の殺し屋」




 魔女は20kmも離れた場所に転移していた。

 何十回も転移を重ねることで追跡されないようにしている。


 魔女はフードを取り素顔をあらわす。

 小麦色の肌が眩しい、南国特有の美少女だった。

 滑らかな金髪が頬に垂れ落ちる。


(バケモノめ……だが貴様の人生も今日で終わりだ)


 魔女は勝利を確信していた。

 何故なら、大和を殺せる必殺の呪法を完成させたからである。


(バケモノとはいえ、呼吸し食事をする生物。であれば、最上級の致死の呪いを避ける手段は無い)


 己の寿命の半分を引き換えに発動できる禁忌の呪術。


 ゴーレムを片手で投げ飛ばし、小惑星を蹴り飛ばす理不尽の権化。

 殺すには同等の理不尽を叩きつけるしかない。


(我が命を懸けた呪いは必ず貴様の魂を滅ぼすだろう。悔いろ、あの人を殺したことを──地獄の底で詫び続けろ)


 魔女は嗤う。

 中央区の路地裏に不気味な笑い声か響き渡る。


 それに反応した者がいた。

 誰でもない、あの男だ。


「随分と嬉しそうだな」


 魔女は思わず舌打ちする。

 振り返ると、灰色の双眸に見下ろされていた。


「早いな。先ほどとは違い、匂いも完全に消したはずだが?」

「ああ、なんとなくな」

「なんとなく、だと?」


 訝しむ魔女。

 大和は答える。


「お前の声や目線、思考。色んな情報をまとめて次の行動を読んだ。読心術の一種さ」

「……」


 絶句している魔女に、大和は追い打ちをかける。


「お前は今、「俺を殺せるであろう呪術」を完成させた。そうだろう?」

「ッ」


 次の一手すら読まれている。

 読心術とかいうレベルの話ではない。


 動揺を隠しきれていない魔女に対して、大和は告げる。


「逃げるなら今のうちだぞ」

「……?」

「その代わり、二度と俺に関わるな」


 魔女は放心した。

 大和が何を言っているのか理解できなかったからだ。


 正気に戻ると、凍えるような声音で吐き捨てる。


「馬鹿が。二度目なんてないんだよ。さっさと死ね」


 何の躊躇いもなく致死の呪いを発動する。


 ──しかし、


「……何故だっ」


 魔女は驚愕と、それ以上の恐怖で声を震わせた。


「何故死なない……ッ」


 確かに発動した。

 確かに寿命の半分を支払った。

 確かに大量の呪詛を注ぎ込んだ。


 それなのに死んでいない。

 目の前のバケモノは、


「ハァ……」


 大和は呆れてため息を吐いた。

 諦めも含まれていた。


「闘気っていう力がある。お前ら魔術師で言うところの魔力だ」


 大和は全身から真紅のオーラを発する。


「闘気は闘気以外の全ての「力」を無効化する。……俺に魔術は効かねぇよ」

「そんな……!」


 あまりの内容に魔女は叫ぶ。


「そんなのありえない! 出鱈目だ!」

「ありえるんだな、実際」

「……謀ったな、貴様っ」


 魔女は恥辱で顔を歪める。


「最初から殺されないとわかっていたのか!! だから!!」

「だから、どうした?」

「っ」

「お前は俺を殺そうとした。十分だ」


 大和は手を振り上げる。

 鎌鼬が魔女の体を通り抜けた。


「……へ?」


 魔女は呆けた声をあげる。

 眉間に直線が入り、遅れて体が二つに裂けた。


 痛みすら感じない。死んだことすら自覚できない。

 魔女は泥のように眠った。

 そして二度と目覚めることはなかった。


「おやすみ、お嬢ちゃん」


 夜が訪れる。

 数多の犠牲者を見届けた太陽は、ゆっくりと地平線に沈んでいった。



 ◆◆



 翌日。

 真夜中にもかかわらずデスシティは大いに賑わっていた。

 闇の眷族が多いこの都市は夜に真の姿を見せる。


 大衆酒場ゲートで。

 緑色の肌をした宇宙人がミートソーススパゲッティを頬張り、洗練されたフォルムのアンドロイドが高級燃料をストローで飲んでいる。

 鉈や大砲を背負った賞金稼ぎたちがテーブルを囲って大富豪を楽しんでいた。


 カウンター席で。

 純白のスーツを着た大男がため息混じりに紫煙を吐き出していた。


「ねぇ、右之助さぁん。今夜暇ぁ?」

「ちょっと! 私が言おうとしてたこと言わないでよ!」

「右之助さぁん、今夜こそいいでしょー?」


 狼の獣人、妖精に淫魔など、人外の女たちから熱烈なアタックを受けている。


 右之助は気が乗らないのだろう。

 あからさまに嫌そうな顔をしていた。


「やめろ、引っ付くな。あー……俺よりも男前な奴が目の前にいるだろう? 口説くならそっちにしてくれ」


 女たちはカウンターの奥を見る。

 金髪の偉丈夫がいた。ネメアだ。

 彼もまたあからさまに嫌そうな顔をする。


「まさか俺のことを言っているのか? 右之助」

「そうだよ。たまには女と遊んでみるってのはどうだ?」

「ふざけるな。俺に女の話題をふるんじゃない」

「あ~あ、毎回こうだもんなぁ」


 ネメアの女嫌いは魔界都市でも有名だった。

 そこがいいという女性も多数存在するが……


 ウェスタンドアを開く音と共に褐色肌の美丈夫が入ってくる。

 女たちの黄色い悲鳴が響き渡った。


 群がる女たちを適当にあしらって、大和は右之助の隣に座る。


「よ、待たせたな」

「全然、むしろ助かったぜ」


 大和はラムとつまみを頼む。

 右之助は興味本位で聞いた。


「野暮用は済んだのか?」

「ああ、復讐しにきた奴がいたんだよ」

「復讐ねぇ……」


 右之助はあらかじめ頼んでおいた冷や豆腐に箸を通す。

 日本酒を口に含みながら聞いた。


「殺したのか?」

「殺した。逃げればよかったのに」

「そうか……それはしょうがねぇ」


 大和の言い回しで全て察した。


 本人が選択したのだろう。

 それ以上言うことはない。


「……」


 話を聞いていたネメアは、なんとも言えない表情をしていた。

 彼は昨日起きた事を知っていた。


 その魔女には同情する。だが擁護はできない。

 それが、ネメアの出した答えだった。


 ネメアはそっと魔女の存在を忘れた。

 彼女の死を悲しむ者は、この都市にはいなかった。



《完》




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