四話「魔女VS殺し屋」
魔界都市の日が暮れる。
濁った夕明かりが不気味に揺蕩う。
西区にある古びたアパートの屋上に、大和は佇んでいた。
羽織っているマントがバサバサと靡く。
「で、誰だお前」
灰色の三白眼が映すのは、ローブを着込んだ得体の知れない存在だった。
ふと、目の前で不可解な空気の圧力が生じる。
身を反らすと、背後にあった鉄格子がひしゃげてボロボロになった。
「あぶねぇな、何すんだよ」
気怠げに聞く。
「何故だ」
返ってきたのは女の声だった。
「何故私の存在に気付けた。気配は完全に消していた筈だが」
大和は鼻で笑う。
「もう少し練習しな。バレバレだぞ」
「……」
「あと匂いだ。柑橘系の。前に嗅いだことがある」
「……どこでだ」
「殺したチンピラから」
「何故殺した」
「依頼があったから」
「……もういい」
凍えるような声と共に、魔女は全身から魔力を迸らせる。
魔力──森羅万象に満ちる第五元素「エーテル」を万能エネルギーに変換したものだ。
魔術師や魔女が扱う超常の力の源である。
魔女は殺意を込めて叫んだ。
「殺されたあの人の無念を晴らす……無様に死ね!! 犬畜生が!!」
同時に背後から巨大な何かが現れた。
ゴーレムだ。
建造物と岩石で構成されており、全高30メートルはあるだろう。
大和は面倒臭そうに頭をかいた。
◆◆
その頃、右之助と幽香たちは現場を離れていた。
右之助は幽香に話しかける。
「いい感じに稼げそうか?」
「おう! 大和も右之助も殺し方が上手いから、買取り価格を期待できそうだぜ!」
死体が山積みになった荷車を引っぱりながら嬉しそうに笑う。
右之助はサングラスを取って遊ぶ幽霊の頭を撫でながら聞いた。
「大和とは上手くやれてるか? アイツ、なんだかんだでキツいところあるから」
子供幽霊たちは「?」と首を傾げる。
一同を代表して幽香が言った。
「なんでだ? 大和めちゃくちゃ優しいじゃん。時々おやつくれるし、仕事よく回してくれるし!」
「あい! 姉さんの言うとおり!」
「大和優しい!」
「見た目怖いけど!」
「キツいところは、優しさの裏返しなのかなって思います……」
「優しいから怖い時怖い!」
子分たちの言い分に幽香は満足げに頷く。
「大丈夫だぞ右之助! 私たちは大和が大好きだ! だから、だいじょうぶ!!」
右之助は目を丸めた。
しかし次には表情をやわらげる。
「……そうだな、お前らなら大丈夫だな」
右之助の言葉に、幽香はニッと歯を出して笑った。
「さてと……」
右之助は振り返る。
「お前ら、死体は中央区まで持ち帰るんだろう?」
「そうだぞ!」
「それならダッシュだ。ほれ、後ろで大和が戦ってる」
幽香たちも振り返る。
遠くで巨大なゴーレムが拳を振り下ろしていた。
「でけぇ!! なんだありゃ!? ゴーレムか!? でけぇ!!」
「でかい!!」
「ロボット! でも格好悪い!」
「ロボットじゃない、ゴーレム! でもデカイ!」
「あわわわわっ」
「大和さん、大丈夫でしょうか!?」
右之助は腹を抱えて笑った。
「ハッハッハ! 大丈夫かって? 大丈夫に決まってるだろ! アイツは世界最強の殺し屋だぞ!」
次の瞬間──ゴーレムは空を飛んだ。
比喩表現ではない。
本当に空を飛んだのだ。
ゴーレムはゆっくりと幽香たちの頭上を超えていく。
少しすると地震にも似た衝撃が辺りを揺らした。
口をあんぐり開けている幽香たちに対して、右之助は逃げの姿勢に入りながら言う。
「俺は逃げるぜ! お前らも早く逃げろよな! ダッシュ! 右之助ダッシュ!」
走り出す右之助を見て、幽香たちも慌てて走り出す。
「おいコラー!! 右之助ー!! 置いていくなよー!!」
「薄情ものー!!」
「あほー!!」
「まってー!!」
「あわわわわっ!!」
「ダッシュ!! 幽霊ダッシュです!!」
子供幽霊たちも急いでその場を離れていった。
◆◆
アパートの屋上で。
大和はゴーレムを投げ飛ばした右手を払う。
「質量に任せた雑な攻撃しやがって」
合気を用い、運動エネルギーを後ろに流した。
『合気』
中国では化勁とも呼ばれている。
相手の力を吸収し、受け流す高等技術。
これを極めた者はあらゆるエネルギーを受け流す。
それどころか、力の向きすらも操作してしまう。
大和に単純な物理攻撃は一切通用しない。
「しかも逃げやがった」
転移魔術を用いて退散している。
大和はふと、空を見上げた。
「面倒くせぇな、オイ」
曇天を裂いて現れたのは小惑星。
上空の分厚い瘴気を溶かして落ちてくる。
炎の衣を纏いし破壊の権化。
地上に着弾すれば辺り一帯が焦土と化すだろう。
あまりにも規模が大き過ぎる。
大和はその場に深く屈んだ。
そして天高く跳躍する。
衝撃で足元のアパートが木っ端微塵に砕け散る。
瞬く間に巨大隕石までたどり着いた大和は先端に両足を付けた。
「宇宙まで飛んでいきな」
炸裂するドロップキック。
巨大隕石がまるでサッカーボールのように飛んでいく。
遥か彼方、太陽系の外まで飛んでいった。
大和は真下の道路に着地する。
あまりの衝撃に道路が砕け、地面が割れた。
「一線は越えたぞ、あの女」
その声は驚くほど冷たかった。




