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〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
第一章「黒鬼伝」
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三話「魔界都市の住民たち」




「契約を解消させてもらいます」


 用心棒は笑顔で言った。

 拍子抜けするほど気軽な声音だった。


 組長は目を丸める。

 辛うじて笑みを浮かべた。


「冗談にしては笑えないぞ?」

「契約を解消させてもらいます。今すぐに」


 組長の表情が歪んだ。

 脂の乗った顔が真っ赤に染まる。


「襲撃を受けた直後に……馬鹿かお前は?」

「申し訳ない、想定外です」


 あっけらかんに言う。

 組長は両手でデスクを思い切り叩いた。


「既に報酬は払っているんだ! せめて時間を稼げ!」

「ん~」


 用心棒はポリポリと頬をかく。


「何か勘違いしてませんかね? 旦那」

「……?」


 用心棒はサングラスを指で上げる。

 その青色の瞳を見て、組長は大量の脂汗を噴き出した。


 人間がしていい目ではなかった。


「アンタが俺を雇ったんじゃない。羽振りのいいアンタを、俺が選んだんだ」

「ッ」

「三羽烏が動いた。運が悪かったってことで」


 開き直る用心棒に、組長は怒りのまま叫ぶ。


「ふざけるなッ!!」


 数名の構成員が部屋に入ってきた。

 外で待機していたのだろう。


「あのね~」


 四方から銃口を向けられ、用心棒はやれやれと肩を落とす。


「俺に銃口を向けてどうするんです? 向けるのは下にいる奴でしょう。あと──」


 用心棒の体から冷たい殺気が溢れ出た。


「俺に銃口を向けるなって、契約書に書きましたよね? 馬鹿共が──テメェら全員、俺の拳の射程圏内だ」


 用心棒の両腕がブレる。

 岩石の如き拳は音を置き去りにした。


 室内は瞬く間に鮮血で染め上げられた。



 ◆◆



 その頃。

 大和は構成員たちを惨殺していた。


 物言わぬ肉袋と成り果てた彼らを一瞥し、二階を目指す。

 床に張った血が下駄の足音を不快なものにしていた。


「……」


 二階に続く階段は上下で交差しているタイプで、大和の位置から上段が見えない。


 一段目を上がろうとした瞬間、いくつもの銃口が上段から現れた。


 銃声が弾み、火花が吹き上がる。

 フルオートで弾薬がばらまかれる。


「……は?」


 間抜けな声は一人の構成員のものだった。

 彼だけが違和感を覚えた。

 恐る恐る天井を見上げると──


 褐色肌の鬼がいた。


「お前ら……!!」


 声を出そうとするが、その前に踏みつけられてぺしゃんこになる。

 他の仲間が気付いた時には既に遅かった。


 爪で頚動脈を裂かれ、首をへし折られ、指で目ごと脳をえぐり抜かれる。


 瞬く間に惨殺された構成員。

 大和は散らばった肉塊をまたぎ、二階の廊下に出る。


 丁度、走って逃げている構成員がいた。

 大和は転がっている拳銃を掴み、後頭部に投げつける。


 脳漿が弾けた。首から上は原型を留めていない。

 大和は生き残りがいないかゆっくり確認しながら先に進む。

 

 そうして組長がいる部屋の前にたどり着いた。


「……ん?」


 首を傾げる。

 扉を開けると、全てが終わっていた。


 原型を留めていない構成員が床に散らばっている。

 一番奥にあるデスクには、首のない死体が寄りかかっていた。

 ブクブクに太った肉体──おそらく組長のものだろう。

 首の断面を見るに、無理やり捻じ切られたようだ。


 この惨状を、いったい誰が作り上げたというのか? 


「丁度終わったところだ」


 綺麗なままのソファーに座る大男。

 その傷だらけの顔を見て、大和は思わず謝った。


「仕事の邪魔して悪いな、右之助(うのすけ)

「いいんだよ。不可抗力ってやつだ」


 用心棒──右之助はヘラヘラと笑った。



 ◆◆



 二人は知り合いだった。

 互いに認め合う仲である。


 大和は鮮血で染まった部屋を見渡し、肩を竦める。


「知らないフリをしててよかったんだぜ? お前以外を殺せいい話だ」

「冗談、わかっててもお前と対面するなんてゴメンだね。それに……」

「それに?」


 右之助は鼻で笑う。


「お前に依頼が来るような奴らだ。遅かれ早かれこうなってただろう」


 互いに知ってる関係だ。

 仕事のスタンスもわかっている。

 大和は嬉しそうに笑った。


 ふと、着信音が鳴り響く。

 死体回収屋のリーダー、幽香からだ。


『おーう大和ー! 仕事終わったかー?』

「予定より早く終わった。大丈夫か?」

『勿論! 三分くらいで行くぜ!』

「よろしく」


 通話を終えると、大和は右之助に言う。


「外出るか」

「だな」


 二人は揃って部屋を出る。

 残ったのは物言わぬ死体だけだった。



 ◆◆



 数分後、事務所の外で。

 二人は死体回収屋のメンバーと合流していた。


「大和だー!」

「右之助だー!」

「元気にしてたかー!」

「死体どこだー!」

「毎度、ありがとうございます……」

「お久しぶりですぅ」


 元気な子供幽霊たちである。

 わちゃわちゃと騒いでいると、リーダーである幽香が頬を膨らせた。


「お前らー!! 仕事中だぞ!! 集中しろ!! しゅうちゅー!!」


 幽霊たちは『了解です!!』と可愛らしく敬礼すると、事務所に入っていく。

 見送った幽香は、綺麗な桃髪を揺らして大和に振り返った。


「おっしゃ! 大和! 会計は明日終わらせるから、待っててくれよな!」

「おう」


 頷く大和に、幽香は何故か両手を重ねる。


「あのさ! お願いがあるんだけどさ!」

「ん? ……ああ、残ってるものか?」

「持って帰ってもいいか!?」

「いいぜ。右之助もいいよな?」

「おう」


 幽香は翡翠色の瞳を輝かせると、大和に抱きつく。


「ひゃっほーい!! さっすが大和!! 大好きだぜー!!」

「ほら、さっさとアイツらの手伝いに行ってやんな」

「おう!! いつもありがとうなー!!」


 幽香は手を振って現場へと向かっていく。

 一連のやり取りを見ていた右之助はニヤニヤと笑っていた。


「優しいねぇ~」

「茶化すな」


 肩を竦めながら大和は言う。


「右之助、暇なら飲みに行こう。奢るぜ」

「マジで?」

「迷惑料にしては安いがな。好きに飲んでいい」

「最高だ。ならゲートにしよう。あそこは酒も飯も美味い」


 二人は並んで歩き始める。

 しかし、


「……」


 柑橘系の香りを嗅ぎ取った大和は、灰色の三白眼を細めた。


「右之助、わりぃ」

「どうした?」

「野暮用だ。明日、この時間にゲートで集合でいいか?」

「…………」


 右之助は周辺の気配を探り、なるほどと肩を竦める。


「りょーかい、じゃあ明日で」

「サンキュー」


 右之助は離れていく大和の背に告げる。


「何か言われても気にすんなよ」


 大和は振り返らずに手を上げた。


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