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〜Past Glory〜  作者: パイナップルの妖精
始動
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魔界都市の路地裏で




 人気(ひとけ)のない路地裏で。

 不気味な瘴気が生温かさをともなって辺りを漂っていた。

 道端では合成獣の群れが腐った死体を貪っている。


 カランカランと、どこからともなく下駄の音が鳴り響いた。

 合成獣たちは襲い掛かろうとするが、身の危険を感じたのだろう。情けない悲鳴を上げて逃走する。


 音の主はこの世の者とは思えない美丈夫だった。

 容姿的年齢は三十代ほど。

 艶のある黒髪は後ろで丁寧に結われ、灰色の三白眼は鋭く、唇から覗くギザ歯は獰猛な肉食獣を彷彿とさせる。


 身長は優に二メートルはあろう。

 肉体は筋肉質ながら細身。戦うための筋肉のみで形成されている。 まるで大型のネコ科動物だ。


 服装は白と黒の着物をダブル。肩から真紅のマントを羽織っている。


 煙草を咥えながら歩く彼の目に、小さな屋台がうつった。

 古きよき移動式の屋台車。

 合金製の煙突からモクモクと白煙が出ている。

 かけられている暖簾には「おでん屋・源ちゃん」と達筆で書かれていた。


 暖簾をくぐると、厳つい壮年が満面の笑みで頭を下げる。


「いらっしゃい旦那。ご注文は?」

「焼酎とおすすめの盛り合わせ、頼むぜ」

「はいよ」


 店主はてきぱきと準備を始める。

 美丈夫、大和(やまと)とはいち早く出された焼酎を味わっていた。

 店主はおでんの盛り合わせを出しながら話しはじめる。


「今日のはとっておき。ミノタウロスの牛すじです」

「ミノタウロス? あの牛頭のモンスターか?」

「へぃ。三日前に馬鹿な科学者どもがサンプルを逃がしたらしくて。それがうちの前で暴れてたんですよ」

「一昨日の新聞に書かれてたな、そんなことが」

「うるせぇから細切れにしてやりました」


 鼻で笑う店主。

 しかしその肉体が雄弁に物語っている。

 まさしく筋肉の宮。

 二の腕には太い血管が脈打ち、筋肉は岩のように隆起している。

 背後には人斬り包丁と魔改造済みの対物ライフルが立てかけられていた。


 歴戦の強者である。

 彼はその厳つい顔を崩した。


「ミノタウロスを珍味として扱う奴らがいると聞いて、自分なりに挑戦してみたんです」

「お前が皿として出すんだ、美味いんだろう?」

「勿論でさぁ! デスシティ製の圧力鍋でじっくり煮込みました! どうぞ!」


 勧められ、大和はスジを口に放り込む。

 少々臭みがあるが芳醇な味わいだった。

 噛めば噛むほど野性的な肉汁が溢れ出る。


「うめぇ。やっぱイイ腕してんな」

「光栄です」


 世辞抜きの言葉に店主──源次郎(げんじろう)は照れくさそうに笑った。


 ふと、暖簾が上がる。

 現れたのは二十代ほどの美女。

 肩辺りで整えられた黒髪に丸みを帯びた目。

 日本人なのだろう、目鼻の形が小綺麗である。

 漆黒の制服と帽子はバスの運転手を彷彿とさせた。

 制服の上からでもわかる豊満なバストは、雄の本能をダイレクトに刺激する。


 死織(しおり)

 デスシティの交通機関の一つ、闇バス・闇タクシーの運転手だ。

 彼女は大和を見つけると嬉しそうに笑う。


「さがしましたよ、大和……」

「依頼か?」

「いいえ」


 隣に座った死織は言う。


「貴方を買いに来ました」

「マジかよ」


 大和は眉をひそめた。

 死織は頬を膨らませる。


「何ですか、その反応は」

「金で男を買う奴がいるかよ」

「この都市では普通ですよ?」

「知るか。貯金でもしとけ」

「いやです。だって貴方、何時も他の女性といるじゃないですか」


 死織はプンプンと怒りながら大和の顔を覗き込む。


「今夜は私が貴方の時間を買います。いいですよね?」

「いいや」

「どうして、」


 大和は死織の帽子のつばを摘んで落とす。

 そして言った。


「俺がお前の時間を買う」

「っ」

「いいな?」

「……はい♡」


 死織は嬉しそうに大和に身を寄せる。

 大和は源次郎にお代を手渡しした。


「ごっそうさん。美味かったぜ」

「お粗末様です」


 そのまま死織を連れて去っていく。

 源次郎は顎を擦りながら呟いた。


「色男だねぇ。ありゃモテるわ」




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― 新着の感想 ―
[一言] ノクターンやミッドナイトではなくこちらで連載なのですね。楽しみにしています。
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