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砂漠の梟  作者: CANDY
幸運の星
28/28

船旅にて

「今日は荒れそうだから、客室にいたほうがいいね。酔止めの薬は先に飲んでおくようにってさ。揺れるからって食事は抜いちゃ駄目だぞ、消化の良い物を頼んであるからな。それから二匹は、船内で移動する時は注意な。天井にお嬢様が衝突しないように。首の骨を折ったなんて洒落にならん」

 と、朝一番に言われた。

 今日は船旅の中間地点であるツエルパオに到着するという朝だ。

 一つ前のカレラは夜に補給だけして通過してしまったので、どんなところか見ることはなかった。

「次の街には降りられないの?」

「ちょっとした嵐らしい。磁気を含んだ砂嵐じゃなくて、南から来る風の強い雨雲のヤツだってさ。雷雨になりそうだって話だ。下船する客も、乗り込む客の方も問い合わせたらいないって話でな。通過になったってさっき教えてもらった」

 雨だって!

「まぁお湿り程度だろうけどな」

「どこか船内で見える場所あるかな」

「娯楽室か食堂かな。外には絶対でるなよ、お前らは平気でもお嬢様は吹っ飛んじまう。落ちて遭難とか嫌だからね。二匹がいれば平気で旅ができそうだけど、私が怒られちまうよ」

 そこまで無謀な旅、というかそんな苦しい旅は嫌だよ。

「雷だと砂蟲の活動も少ないからね、距離を稼いで次のジュミテックでの停泊を長くするそうだ。あの城塞からの乗降客が一番多いからね」

 なるほどぉ。

 と、言うことで、食堂に移動してご飯を食べたら、そのまま居残る事にした。

 外が見える大きな窓があるのだ。

 街が見える方向と砂漠が見える方向、どっちがいいだろう?

 オルトバルお姉さんは他の兵隊さんとお仕事のお話をしに離れると、私はちょっと考えた。

 お昼ごはんまで外を眺めるのだ。

 もちろん、笛は装備している。

 食堂の人にも断りをいれてるよ、もちろん、料理人の人の邪魔にならないように端っこにいくし。

 で、どうせなら通過するツエルパオの岩山と滝が見えるという東側の席に移動した。

 すでに東の空は朝なのに暗い雲が流れている。

 砂は波打ち影をつくり、不穏でどきどきするような感じだ。

 岩山は西側とは違って黒い姿だ。

 砂の海の遠くに黒い背を見せている。

 風も少し強くなっているのか白く煙って見えた。

 その景色を見ながら基本の音階を吹く。

 相変わらず、ぺぱ〜とか変な音だけど、一応ちゃんと出るようになってきた。

 うむ、茶色はやっぱり部屋の反対側にある敷物に寝転がる。

 灰色も我慢しなくていいよ?なに、もう、なれた。ありがとう。

 そうそう、オルトバルお姉さんやクゥと一緒の兵隊さん達は、食事も寝ている場所も別なんだ。

 一般客室と食堂の方らしい。

 お姉さんは護衛だから、私と一緒だけどね。

 だから、兵隊さん達とは甲板とかに行かないと会わない。

 じゃぁ他に一緒になるのは、今の所、あの商人のお爺ちゃんやアデイムさんの一行だ。

 他は船長さんとか船の偉い人、それにやっぱりお金持ちとか貴族な人達かな?それも南に向かう便なので少ないんだって。

 今日は誰も自室に籠もるようで、お茶をしている人も遊技盤などで遊ぶ人もいない。

 貸し切りな感じなので、次の食事の時間まで笛の練習し放題だ。

 外を見ながら笛を吹く。

 時々、大きくふわっと揺れる。

 でもガタガタするような揺れはなくて、思ったよりも悪くないぞ。

 それに珍しい荒れた暗い空が、とても綺麗だ。

 綺麗って言い方、変かな?

 真っ黒くて重たい雨雲なんて、滅多に見る事がないからね。

 ぼこぼこってしてる重そうな雲が、強い風に押し流されていく。

 砂嵐とは違うね。

 砂嵐はさ、赤茶けた煙が地平線にわきあがるんだ。モワモワとした壁が出来上がって、それが徐々に上に向かって大きくなる。生き物みたいに空に立ち上って暗くなっていくんだ。

 まるで全てが終わるような気持ちになる。

 あれだって自然の美しさってのがあるけどさ。でも、何だか頭から埋められていくみたいで、息苦しい。

 じゃぁ今、目の前で荒れていく空は怖くない?

 いや、怖いけどね。

 そんな荒れ模様の天候を見ていると、砂漠を渡る商隊が見えた。

 もうすぐツエルパオだからね、きっと急いでいるんだろう。

 荷駄を引く騎獣が走っている。がんばれー!


 ふと、思うんだ。

 これから私はどうするのが一番なのかなぁってね。

 護符の事だよ。

 クゥは私に必要だと思ったから置いていった。

 なら、何も知らなくてもさ、今度はさ、兄弟を探しに行くだろうクゥに返すのが本当だと思う。

 だよね。

 クゥはきっと探しに行く。

 でも、今、これを渡していいものか、迷っている。

 幸いにも私が持っている事はばれていない。

 着替えもお風呂も、二匹がひっついているからね。首から何か下げているのは分かっているかも知れないけれど、それが護符だとは気が付かれていない。それに護符の部分を小袋に入れてる。聞かれるとお守りだよって答えてる。

 どうしようかなぁ。

 ピロピロとだんだん笛の音らしくなってきた。

 船の振動と外の音だけで、まるで人がいなくなったみたいに静か。

 あのア・メルンみたいだ。

 寝ている灰色によりかかる。すると視点が変わって、窓から流れる空だけが見えた。

 あの窓から聞こえた笛の音を真似してみる。

 楽しげで小鳥が鳴いているみたいだった。

 あれは誰が吹いていたんだろう。

 心残りは、最後まで会えなかったことかな。

 きっとお城の中を進んで、あの笛の音や竪琴の主を探しても、きっときっと見つからなかったのかも。

 影が彷徨っていたように、きっとあれは。

 さびしいよ、たすけてっていう私の声を拾ってくれたんじゃないかって思う。

 あれも、影、だったのかなぁって。

 あの楽師のお姉さん達の誰かだったんじゃないかなぁって。

 シシルンは、きっと怖いけど、優しいと思うんだ。

 神様は、怖いけど、きっと優しいんだ。

 だから、怖いよっていう、私の声も届いたんじゃないかなぁ。


 伝声管の一つから、何か音がした。おきあがると岩山がぐっと近くなり遠目にツエルパオが見えてきた。

 濃い緑に白い岩山が傍にある。

 東の方向は低い山がずっと南の方向に続いていた。

 遠目に滝の筋が何本か、その山から落ちるのが見える。水源地が近いんだ。

 だから、砂漠が突然途切れるようにして緑が濃い色を見せる。

 街はその白い岩山に張り付くようにあった。

 綺麗な白い壁に緑が点々と見える。きっと街の中も緑と水が巡っているんだろうね。

 今は嵐の前のせいか、少しくすんで見えたし、遠目にも張り巡らされた外壁が閉じられているのがわかった。

 船の係留地は、あの岩山の上のあたりかな。

 けれど、それも強風の中では危険だものね。いくら低空便でも完全停止して地上に剥き出しで抑留とかはできないよ。大きな港はア・メルンとジュミテックと南都だけだ。緊急回避する場合でも、地上に着地は無いんだよ。船が地面にあるってのは色んな意味で危険なんだってさ。

 まぁ今回は少し流されるかも知れないけれど、飛行したまま避けるんだってさ。

 その点、この先のジュミテック城塞は戦用の城塞拠点だから、中に港があって完全に停止できる船渠があるんだって。大きな砂嵐の予兆があったら、ともかく運行は停止してジュミテックか中に港がある都市から動かないのが一番って事。


「何で低空飛行便なんだろ、高空もあるのかな?」


「無い」


 驚いて振り返るとクゥが戸口にいた。

 風の音が大きいので、気配に気が付かなかったようだ。

「驚かせたか」

 飛び上がった私に、クゥの面紗が傾げられた。

「ううん、大丈夫だよ。何かよう?」

「これからの予定を伝えに来ただけだ」

「ふーん」

 何でだろ?色々、疑問だね。

「護衛はジュミテックと通信中だ。様子を見てこいと言われたんだよ」

 なるほど。

 きっと接待係になっちゃったんだね、クゥ。

 アデイムさんからの命令かなぁ。

 私は嬉しいけど、クゥは困ってるね。笑えるぅ、顔が見えなくてもわかっちゃうんだよね。

 今のクゥは、子供の私を持て余している。

 困ったなぁって思ってそうだね。

 たぶん、嫌いとか好きとかじゃなくて、子供、が謎の生き物みたいに感じてるんじゃない?

 笑えるのは、それを見抜かれていないと思っている。のが分かっちゃうからだよ。

 なんだろう、今のクゥのほうが何を考えているのか、あの頃より、よく分かるんだ。へんなの。

「じゃぁお外を見ながら、お昼ごはんまで休めるね?」

 そう言ったら、少し笑った気配がした。

 窓際に作られた段差に座る。

 飽きた茶色は本気で寝に入っていた。

 灰色は面倒そうに、私とクゥの間に体を割り込ませると伏せる。

 揺れはふわっと上下に相変わらずあるが、考えてみればゆりかごみたいで、寝るのにはよさそうだ。

「部族会議の招集は、既に通信で連絡済みなんだ。だから、サリーヤが向こうについて体調を整えたら直ぐに始まる。実質、参加は半日で顔合わせしておわりだ。あの三人の囚人と同じだから、これもすぐに終わる。

 あとは護衛と一緒に街を見て回り、それの巣を見に行くくらいだ。土産でも買い込んで、ア・メルン行きの航路便にあわせて帰る。こんなところだ。」

 そこでクゥとはお別れか、もしかしたら部族会議に行く前に、さよならかなぁ。

 あんまりお話できなかったなぁ。でも、今のクゥは何にも知らないしなぁ。

 そう考えながら、白い面紗を見上げる。

 奇妙な紋様は目みたいで面白い。

「面紗の模様、クゥのは目玉みたいだね」

「これは真実の眼と呼ばれる紋様だ。遺跡から出る五臓の壺に描かれている」

「五臓の壺?」

「埋葬する時に腑分けして詰める壺だ。」

「あのさぁ、長命な人って死ぬと灰になるんでしょ?」

「砂とも灰とも言われているな」

「どうやって、死体をさぁ」

「サリーヤの護衛に怒られそうな話題だなぁ」

「どうせオルトバルお姉さんが戻るまで、一緒にいろって言われているんでしょ。お外の景色を見ながらお話する以外、無いんじゃない?」

「まぁそうだな。じゃぁ、怒られない程度の話をするか。例えば」

「例えば?」

「最初の遺跡発掘の調査隊の話かな」


 ***


「ア・メルンのヤカナーンの一族が遺跡を守るようになったのは、気が遠くなるほど遠い昔だ。だが、本格的に学術調査と研究が行われるようになったのは、近年だ。

 ヤカナーンの代で言えば今の公爵の三代前だったかな。

 それでも長命種族の寿命を考えれば、歴史で言う千年戦争の頃だ。

 まぁ今の人間からすれば大昔の一言ですむが。

 ともかく、それでも長命種でいう近年だ。

 それまでは、墳墓である西の遺跡は何人も立ち入る事のできない場所だった。

 ヤカナーンの一族が支配し兵を置いて出入りを禁じていたわけだ。

 ところがだ、その三代前に遺跡の一部が崩落し、中に立ち入る事になった。

 出入りを禁じていたのは、入ってはいけないとの言い伝えがあったからだ。

 理由さえあれば、一度、調査をしてみたいと思うのは当たり前だろう。」

「それって誰でも知っているお話?」

「ヤカナーンと遺跡にかかわる者は知っている話だ。

 西の遺跡は、シシルンの墓であり、父親であるセトの慰霊の場所でもある。

 そこに無闇に人は立ち入ってはならないし、荒らすなどもっての他であった。

 だが、崩落は事故であった。

 そして事故で入り込んだ人達は、そこで石版と五臓の壺を見つけた。

 五臓の壺に収まった者は、大昔、シシルンに仕えた人間だ。

 もちろん大昔に埋葬された者だから、欠片も残ってはいない。だが、その五臓を収めたとされる壺と石版がたくさん見つかった。

 歴史的価値がある物だし、ヤカナーンが墓を守る理由を明確に、口伝ではなく示していた。」

「何が書いてあったの?」

「西の遺跡は広大な迷路、地下迷路を備えた墳墓である事。

 シシルンの墳墓であり、誰も立ち入ってはならない。

 ここに封じられた事々を表に出す事無く、墓守の役目を勤めねばならない。」

「勤めって?」

「墳墓を荒らせば、災厄が広がるが、墓守が領分を守っていれば眠り続ける。

 まぁ、盗掘を許さず、きちんと墓を守れってことだ。

 だが、この墓守の役目を継ぎたくなければ、同じく、この墳墓にあるだろうシシルンの兄の残した物を探すが良いとあった。」

「お兄さんの遺品?」

「それがあれば、墓にかかる呪いも墓に眠る災いも終わるとある。

 ただし、その兄の物が何であるかは記されておらず、これを探すのにはやはり墓に入らねばならない。

 矛盾を含んだ話で、終わらせる為に墓に入れば、結局、災が表に飛び出してくるってことだな。

 だから、覚悟がないのなら、立ち入らず、その墓を守り、誰も辿らせぬ事。

 シシルンの子は、この墓を守り封じておくのが使命という訳だ。」

「なら、封じて置くのが簡単だね。今までだってそうしてきたんだもの。でも、どうしてそうしなかったのかなぁ」

 ア・メルンに流浪民を入れたのも、その頃からなのかなぁ。

 自分たちの役割が想像以上に大変で、約束を違えると命を奪われる程だって自覚したのかも。

 でも、それなら誰も立ち入らせないのが一番だよね。

 それでも入り込んだのは、その約束からの解放ってこと?

 でもでも、それはヤカナーンじゃなくなる事でもあるし。呪いからだけでも逃げたかったから?

「その崩落した場所から、財宝がみつかったからさ。宝物だな」

「あ〜」

 それならわかる。

 価値ある未踏の場所を所有しているなら、十分、ヤカナーン一族内での総意は得られるよ。

 それに遺跡はア・メルンから距離がある。

 呪いが届く事は無いと思っていたのかも。

「人間は欲深いだろう?だから、そんなカビのはえたような警告に耳を貸す事はなかった。持ち主であるヤカナーンは考えた。この墓にある宝で、豊かな土地を目指せるのではないかとね」

「それって」

 ちょっと安心。人間らしいよね。

「事業にしようと考えた。貧しさに喘ぐこの土地に、人を集めて仕事にしようと考えた。

 独り占めしようと欲をかいたわけではない。欲深いが、それだけではなかった。だから、今まで続いているのだ。」

「いい人だったんだね」

「欲深いがな。欲が深い事も悪いばかりではない。さて当時、ヤカナーンから派遣された者とニィ・イズラの者が、遺跡を調べる事にしたわけだ」

「その頃から、ニィ・イズラの人が遺跡を警備してたの?」

「遺跡の警備の兵として雇われていたんだが、専任ではなかった。けれど、価値がある場所とわかって砂漠の民の中でも力のあるニィ・イズラに仕事がまわってきたんだ。」

「敵に回さずに、仲間に引き入れたって事だね」

「当時のヤカナーンは目端がきく人間だったし、砂漠の人間がどんな者かもわかっていたんだろう」

「砂漠の人間?」

「生きる為には非情になれる奴って事だ。だから、敵対すると執念深いし、面倒になる。なら、最初から仲間にしておけば問題が出ても、話し合いはできる。

 おかげで未だに砂漠は蛮族のたまり場と思われているな。まぁ確かに否定はできない」

「結構、楽しい人が多いのにね」

 慣れればとっても親切だし優しいのになぁ。

「頑迷な、頑固な男も多いだろう?女や子供にも辛くあたる奴も多いしな」

「それは別に砂漠の人じゃなくてもだよ。それより人見知りの人が多いよね。友だちになるとすごく喋るおじさんとかいるね」

「耳が痛い」

「えっ、どうしたの耳が痛いの?」

 クゥの頭を見上げる。

 格好良く後ろに寝て突き出ている耳は特に変わりはない。

「サリーヤ、耳は痛くないし、そこは私の耳ではない」

「なんですとっ!」

 そういって耳?のような部分をピンっと上に向けた。

「これは耳ではなく羽角だ」

「うかく?」

 ピコピコと動かして見せるとクゥは空を見上げながら続けた。

「耳のように見えるだけだ。本当の耳は別にある。見て気持ちの良い物ではないから、見せないがな。

 人族や亜人と同じではないし、普通の獣人とも少し違うんだ。それから耳は痛くないから安心しなさい」

 まぁ猛獣型以外にも、鱗のある人達やお水の中の方が元気の良い人もいるんだからね、あんまり詮索したら失礼か。

「でも、うかく?かっこいいねぇ」

「そうか?」

「兜の飾りみたいだね」

「その兜を被ると擦れて痛いんだよな」

「そっかぁ」

「五臓の壺という埋葬習慣、葬式の儀式は今でも伝わっている。

 土葬や水葬、風葬、今でも色々な埋葬方法、弔う方法だな、伝わっている。

 ただ、国が決めた今の法律は火葬だな。

 さて、この五臓の壺の習慣は、当時の人々の間では、金持ちの葬式の仕方だ。

 サリーヤが疑問に思う、長命な人達は死んでしまうと灰に、北だと砂になるというのにだ。」

「灰と砂って違うの?」

「言葉の違い、表現の違いだ。死んで本当に砂になるわけではなく、乾燥した粒になるからだ。

 砂漠の地方だと、砂と表現しないだけだな」

「なるほど、砂が死体みたいで怖いや」

「そうだ。さて、長命な人が死ぬ時すべてが、すぐに灰になる訳ではない。

 長く生きていると早く朽ちる。

 そして死に方でもかわる。

 朽ち方は、心臓の当たりからだ。」

「一瞬で全部消えちゃうと思ったよ」

「若いと一日二日はもつ。

 自然死以外だと死に方でも変わる。

 今だと、罪人の処刑の際には、薬や処置でも原型は保てる。

 はぁ余計な話だな、怒られる話題だ」

「大丈夫だよ、そんな子どもじゃないんだから」

「十分子どもだし、話す話題じゃないなぁ」

「男の子なら話すでしょ」

「まぁな、人が死ぬ話や戦の話ならおとなしく聞くしな」

「それ以外は聞かないの?」

「お前のまわりにいたのはどうだった?」

「食い物と金と喧嘩」

「どこもかわらん、少し大きくなれば、そこに女の話題だ」

「ほっほぅ」

「護衛に怒られる話題に戻ったな。

 まぁいいか、朽ちる前に壺におさめて来世での復活を願うという儀式を行う。

 臓腑の壺、五臓の壺、内臓、臓物の壺など色々な名前がついている。

 本来は、鳥獣の紋様がそれぞれに描かれた壺に収める。

 だが、シシルンの最初に見つかった五臓の壺には、この真実の目の模様が全てに描かれていた。」

「ちょと面白いよね、怖いっていうより奇妙な感じがする。一つ目の怪物みたいに、まるで表情があるみたいにみえるよ」

「ホルホソロルが顔を隠す時には、何種類かの規定の紋様があるんだよ。

 後は、部族や氏族の紋様でもいいんだ。

 この真実の目の紋様は、ガルダの氏族紋様だ。

 最初の発掘に携わった時に許されているので、この真実の目の紋様を許されているホルホソロルは、私と養父だけなんだ」

 疑問解決。

 つまり、アデイムおじさんとクゥだけが、この目玉模様をつけられる。だから、そんな模様を堂々とつける偽物はいないし、誰が見ても、二人しかいない紋様を偽装するのはお馬鹿さんという事か。

 そして喋らなくても、突き出た羽角?で見分けられる。

「羽角が見えなくて喋らなければ、偽物になれるんじゃない?」

「何を考えているかと思えば、それか。

 それは他のホルホソロルにも言えるし、顔を隠さない兵隊も同じ話だ。認識票はあるし、体にも死体になった時用に番号が彫られているよ。入隊の時には、体組織を判別ように提出してある。体の一部が残っていれば照合はできるし、検問通過時にすんなりと通っているのは、遺跡関連街に送り込んでいる人員が全部ジュミテック経由だからだよ。私を知っているんだ」

 不思議でも何でも無い理由だった。

「発掘される物は多岐に渡るし、当初は金目の物を探すだけだった。だが、掘り出された物をそれだけで分けて残りを廃棄するような事はできなかった」

「しなかったじゃなくて?」

「文字は古く判別も難しいが、すべて警告と呪詛であった。だから、いかに欲に目がくらんでいても、頭から飛び込んで漁るという軽挙妄動、考えなしはできなかったんだ」

「元々、神聖な場所で入っちゃ駄目って事だったしね」

「だから、最初から神職の者に医者に学のある者を入れての調査になった。」

「最初の調査隊は神官様とお医者様と兵隊だったのかぁ」

「後は、ヤカナーンの一族で当時の公爵の叔父が指揮をとった」

「へぇ」

「最初の発掘調査報告書である手記は、写本を含めて重要な学術書として有名だ。

 それまで墓荒らしとされてきた埋蔵財宝の発掘を学術的な、つまり学問とした最初の書物となっているんだよ」

「さすがヤカナーン様だね」

「本人は変わり者で知られた人物だったそうだ。一族内でも趣味に教養に金を使う人だったらしい」

「だから、宝物より遺跡に興味をもてたんだね」

「そうだな」

「その手記って見てみたいなぁ、どうやって番人と戦ったんだろう。シシルンの呪いとか大変だったろうね。でも、そうかヤカナーン様だから大丈夫か」

 それに隣に座っていたクゥは、私の方へ顔を向けた。

「誰に聞いた?」

「何が?」

「シシルンの血族の話だ」

 あ、あぁそうか。

 これで嘘つくと駄目だなぁ。

「ヤカナーン様だよ」

 もちろん、ヤカナーンの双子の公爵様のお兄ちゃんである、クゥだけどね。

 その言葉に、クゥは力を抜いた。

「その話は誰にもしては駄目だ。他の誰かに言ったか?」

「ううん、クゥだけだよ。でも、番人や呪いは皆知ってるんでしょ?」

「番人や呪いも、深層と呼ばれる場所に降りる者だけだし、ヤカナーンでもシシルンの血を持つ者の話は、許された者しか知らない事だ。

 だから、サリーヤは話さぬ方が良い」

「わかった。でもさ、ヤカナーン様がいれば呪われないんでしょ。遺跡の探索はヤカナーン様がいれば大丈夫って事?」

「どこまで聞いているか知らんが、それは限定されているんだ。」

 クゥの話によれば、シシルンの子が暮らす場所なら、呪いも番人も出現はしない。

 ただし、それも墓をシシルンの子を使わずに開けば、呪いも番人も飛び出してくる。

 これはア・メルンの事だね。

 だから、地下に私達を置いて、街にしちゃった。

 これでア・メルンはお墓じゃなくて、シシルンの子の家になった。

 そして重要なのは、シシルンの子とは直系の血族を指している。

 発掘当初は、外の血も少なかった。

 だが、今の双子様を見れば分かる通り、直系は彼らだけである。

 クゥは直系の血を半分受け継ぐ婚外子。

 シシルンの呪いを和らげるのも限定される。

 祟られることは滅多に無いが、番人は襲ってくるし、罠も発動する。

 名ばかりの親戚ともなれば、何ら、ご利益は無い。

 それでもクゥは、シシルンの流れである。

 遺跡の狂気だけは寄せ付けない。

 ヤカナーンの双子様だけが

「どうした、サリーヤ?」

 まってまってまって。

 頭の中で、特大の警鐘が鳴り響いた。

 双子様は、主だ。

 でも、どんな風になるか、実際のところは、誰もわからないんじゃないの?

 物理的な余波、まわりの人間を害されれば、彼らだって無傷ではいられない。

 けど、それは誰でもだ。

 当主つまり墓守である直系の血が、罠や番人や呪いに対して無敵かどうかは、誰も確証を得ていない。

 だからこその謀反であり、内部の混乱を狙ったのか?

「遺跡の調査は代々ヤカナーンの当主様が指揮していたの?」

「あぁ、調査する事が一族の事業だからな。いつも、遺跡を調査する古物局の長は当主が着くものだ」

「発掘現場に当主様が行くの?」

「当主の代理が名代だな。一番最初の調査隊も公爵の叔父が現場の長だ。」

 とうぜん、劣悪な環境に未知の罠など、そんな危険な場所に、当主を送り込む馬鹿はいない。

 ならば、一族の血を知られていたとしても、本来のシシルンの子の力は未知だ。

 当主は世代ごとに一人で、死によって墓守の役目を受け渡していく。

 あの時、皆殺しの後に当主、シシルンの墓守の役目をクゥが手にしていた。

 だから、護符を手に入れられたんじゃないかな。

 あの時のクゥなら、答えが聞けたんだろうね。

 使わなかった護符。必要がなかったのかもしれない。

 免罪符であり、墓への鍵。

 クゥの時間では、この護符はシシルンの子が死守できなかった。

 この護符は時の捻れが持ち込んだ物だけれど、ここにある限り、同じ時間の中では2つと存在できない。

 ならば、当主ではないクゥには、絶対に必要だ。

「おっ雷だ」

 窓の方へと腹ばいになると遠ざかるツエルパオの空に雷光が見えた。

 紫の光りが横に走り、数度光ると地面へと落ちた。

 黒い雲が渦を巻き、実に恐ろしげだ。

 あの商隊は街に入れたかな。


「クゥ、欲しい物があるんだ」


 問題は、いろいろあるけれど、船の揺れが激しくなって、それどころではなくなった。

 よし、お別れの前、クゥが遺跡に行っちゃう前に、渡すのだ。

 それも内緒がいいね。

 敵方に知られたら、危険が大きくなるかもだし。


「買ってやるから、言ってみろ」

「いやいや、自分で買うし」

「任せろ、何でも買ってやるぞ」

「わぁ〜それアデイムおじさん譲りだね、今度、リカラ氏に伝授しておこう」

 呆れたように、灰色が鼻から息をブフッと吹いた。

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