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砂漠の梟  作者: CANDY
幸運の星
25/28

運の総量

 骨が出た。

 オルトバルお姉さんの言う新鮮な骨って言葉が耳に残る。

 いやぁ、大人な冗談だね。

 冗談じゃない?

 建物の外に出る。

 中は、ウエルズさん始め、職員さん警備の兵隊さん、皆ワーワー。

 そりゃそうだ。

 見なかったけど、結構な大きさの箱に人骨が詰め放題だったらしい。

 この詰め放題発言も、オルトバルお姉さん。

 お姉さんは、ずっと傭兵や兵隊さんで食べてきたから、動かないなら人骨でも平気らしい。

 新鮮で死んだのに動き回ってる輩の方が嫌だそうだ。

「死んでも動くの?」

「大人から聞いてない?」

 聞いてても怖い話は逃げちゃうから。

「東の腐った土地の話は?」

「あ〜神官様に」

「それですよ、死体は必ず火葬する事と、灰の処理も神殿へ持ち込む事ってやつです」

「いや、もう、聞きたくないです」

 大陸東側の利権争いで大規模な戦争が続いていた。

 中央と群島国家と周辺の小国でね。

 けれど数十年前に、突然、その土地の人々が死に絶えた。

 戦争での虐殺とかじゃないよ、奇妙な死に方をしたんだ。

 頭がおかしくなったとか、共食いをしたとか、様々な噂が流れたけど真相はわからない。

 あっという間に、その土地の周辺に長大な壁を築いて、それぞれの戦争していた国は手を引いた。

 緩衝地帯を設けて、中を観察したら、死に絶えた後、死体が動き出し、何か得体のしれない物がさまよう場所に。

 さらにその死体が蠢く一帯の環境も変化して、とても人間の住めるような土地ではなくなったって。

 オルタス随一の肥沃な土地は、戦争の末に腐った土地、腐土領域と言われる絶滅領域となった。

 絶滅領域とは人間の住めない土地ってこと。

 利権争いの戦争は中断、人は死んだら火葬が法律になった。

「さて、サリーヤお嬢様。まぁもう、見つけたんで帰りましょうか」

 いいのかなぁ。

「いいんですよ、何があったとしても人間がやった事です。化け物が箱詰めして骨を運んだわけじゃないですからね」

 魔物に唆されたか、取り憑かれたのかも。

「よぉ〜く聞いたこと思い出してください。ここの神官様は、天罰くさいって言ってたんでしょ」

 天罰かぁ。

「大人が働きゃぁいいんですよ。さぁ、昼も食ってる事だし、何かおやつを探して帰りましょうか」

「おやつはいいんだけど」

「じゃぁ待ちますか?」

 クゥはどうしたかなぁ。

「部屋に侵入してた身元不明の三人を見たほうがよくない?」

「見なくてもいいって事で案内されないんですよ。神官様が先に見て、こりゃぁ中央から来る人間に任せたほうがいいでしょうって決めたんですから。

 サリーヤお嬢様は見なくてもいいって事です。こいつら二匹も見なくてもね」

 そうかぁ。

 それにお姉さんは付け加えた。

「たぶん、元々、盗掘を請け負っていたのかもって事ですよ。ヤカナーンとしてのお取り調べは必要ですけれど、彼らを助けようって事ではないんです。身分詐称ってのは、犯罪なんですよ。

 だから、誰から請け負ったのかが重要であって、彼らの天罰に関しては、神様におまかせって事です。

 無辜の無実の人間だったら、お嬢様とコイツラを呼びますけどね」

 でもなぁ、クゥ、大丈夫かなぁ。

 女神様、怒ってたからなぁ。

 あれ、女神様でいいんだよなぁ。

 私が考え込んでいると、オルトバルお姉さんが笑った。

「お嬢様、迷う時は、そいつらに聞いてみたらいいんですよ。私の意見や、まわりの意見をきいて、自分の考えた事に迷うなら、お嬢様には此奴らがいます。お嬢様の味方に聞いてみましょうや」

 灰色と茶色はおりこうさんに座って待っている。

「今日もありがとうね、あの骨、みつけてくれてありがとう。あのね、私ね心配なの」

 クゥがね。

 どうしてだ?って感じで灰色が頭を下げて覗き込んでくる。

「だって、きっと知ってるんだよ」

 ルフト医師に何かがあった。

 ラウロやリカラ氏のような感じだったら、相手はクゥの事を知っているって事。

「大丈夫かなぁって」

 クゥがね。

 それに灰色は首を傾げた。左右にクリクリって感じ。

 何となくわかる。

 心配する事はないんじゃないかなぁって、でも、好きにしていいよ。どうせ一緒だし。

 こんな感じ。

 勝手に思ってるだけだけど、たぶん、灰色はどっちでもいいのだ。

 ずっと一緒だから。

 ガッシって抱きつくと、その隙間に茶色が頭を差し込んでくる。

「で、どうするんです?私はオススメしないけど、行くのはかまいませんよ」


 ***


 クゥとア・メルンからの兵隊さん、それにヨランダの兵隊さんが話し合っている。

 それにリカラ氏とウエルズさん、遺跡発掘で働いている職員さんは忙しそうだ。

 私に気がついたリカラ氏がやってくる。

「お医者さまと神官様を呼ぶことにしました。申し訳ありませんが、私はここで下船となりそうです」

 がんばってね、お腹に虫をはりつけないように注意してね。

「怖いこといわないでくださいよ、サリーヤちゃん。で、どうしました?」

「お兄ちゃんも下船なの」

「あぁ、クスコ殿は戻ります。ヨランダの総督と話し合いがあるので、私が残るんですよ。さすがにこうした事があると放置はできませんからね」

「運び込んだ人は、まだ、寝てるの?」

「眠っている感じでしたね、衰弱が激しいようなら、お医者さまの方で対処してもらうつもりですよ」

「灰色達に見てもらう?」

「う〜ん」

 リカラ氏は考え込んだ。

 たぶん、オルトバルお姉さんと同じ意見なんだね。

 私達が話し合っていると、クゥがこちらに来た。

「どうした?」

「お嬢様がさ、三人を見るかってさ」

 それにクゥは、灰色達みたいに頭を傾げた。

 相変わらず面紗ごしなので、顔は見えないけど、きっと眉を片方あげて、何いってんだ?って表情を浮かべてそうだ。

 それから、おいでという感じで手を差し出される。

 うむ、と、灰色が顎を乗せた。

 いや、当然のように邪魔しなくていいよ。

「通路の足元が悪いんだ。」

 茶色もクゥの手に前足を乗せるのを頑張っている。

 お前ら、手を繋いで案内してくれるだけだろうが。

「ライゾナ・デ・ホラのツアルトだ、私はツアルトの契約者だ」

 それに灰色が頭を戻した。

「三人は少し離れた場所に隔離されている」

 そう言うと、改めて私に手を差し出した。

 それを握り返しながら、私は聞いた。

「どういう意味だったの?」

 傍らをノシノシと歩く二匹。

「イルキステにもわかりやすい、私の保証人だよ。危ない目にはあわせないとね」

 一旦、発掘管理の建物から出る。

 案内された通路は細くて凸凹だった。それに地下へ向かい垂直に近い段差になっている。

 クゥは私の手を引き、段差で下ろす。

「随分と、妙な場所に入れたね」

 オルトバルお姉さんは壁を拳で軽く叩いた。

 焼き煉瓦みたいな見た目なのに、お姉さんが叩くと、甲高い音がカンカンとした。

「ここは特別に作った保管庫だ。ヨランダの街に特殊な遺物を運び込む時用だ」

「あぁなるほど、頑丈で外側も内側も手出しできないようになってるんだね」

「耳が少し嫌な感じになるが、そういう構造にしてあるんだ。空気の流れはあるが、中からの音は漏れないようになっている。それに硬度の高い材質で地下に埋めた。獣人の狂化にも耐えられる」

「運び屋は獣人かい?」

「ヨランダの牢も獣人用だが、呪い憑きを考えてこっちにした。」

「嫌な世の中だねぇ」

「遺跡発掘は昔からこうした危険があった。ここ最近の、おかしな風潮とは関係がないさ」

「それでもたぶん、ここも影響があったんじゃないのか」

「それを今度調べるんだろうな、まぁ確かに嫌な世の中だ」

 おかしな風潮?

「戦争はとうぶん起きないけれど、世の中が少し物騒になったって事ですよ。夜の旅は船だけで、なるべく旅人は野宿すんなって神殿からお知らせが出たでしょ」

 そなの?

「野宿は街道沿いか、集団で固まって。騎獣も戦える奴の方がいいってね。もしくは傭兵を雇えっておふれ」

 昔からじゃない?

「魔憑きの被害が南下するほど無いからね、皆、気にもしてないだろうけど。魔憑きみたいな獣も増えたんですよ。見たことも無い獣がね。それにさっきも言ったけど、腐土のおかげで死人が彷徨ってるなんて事もありえるからね」

 確かに嫌な世の中だね。

「でも、お嬢様なら大丈夫だよ。そこの二匹が許さないからね。」

「ずっと一緒にいられたらいいけど、二匹も故郷に帰るかもしれないし、本当の飼い主が迎えに来るかも知れないし」

「いや、それはないだろう。ずっと一緒にいるよなぁ?」

 灰色がゴスゴスと段差の下にいる私の頭に顎を乗せる。

 いてくれるのかぁ、ありがとう。茶色はぐりぐりしてくれるのは今じゃなくていいよ、通路狭くて、壁にこすれるし。ついでにクゥを押し出そうとするのやめなさい。

「オラ・ゾエルは長命だ。この個体なら、お前の子供や孫も可愛がってくれるだろう」

 手を引くクゥが言う。

「ずっと一緒?」

「オラ・ゾエルは守護した子供が大人になっても、忘れない。その願いを叶えようとするだろう。今と変わらず、彼らと対すれば、必ず答えてくれるだろう。」

 長生き、私より長く生きてくれるんだね。

 灰色も茶色も、元気で長生きしてくれるんだ。よかった。

「だから、不思議でもある。どうやってみつけたんだろうな」

 どういう事?

 螺旋を描く段差を降りると小さな踊り場に出た。

 古びて見える通路とは逆に、扉は金属だ。

 それをクゥは叩いた。

 中からいらえがあり、扉の小窓が開いた。

「中に入ったら、彼らの側には近寄らないように。もし、何か異変があったなら、オラ・ゾエルの側にいる事。外に出ろと言われたら、オラ・ゾエルと逃げる事。いいか?」

 クゥの邪魔にならないようにするよ。

 前に約束したもの、クゥの邪魔はしない。

 扉の中は、やはり発光石の灯りで青白い。

 中の兵士の人は、クゥと話すと奥の人に声をかけた。

 室内は、やはり通路の煤けた感じとは違って、とても新しい感じだった。

 保管庫ではあるが、格子が入り口にあり、ちょっと牢屋めいている。

 その扉も一つではなく、それぞれに番兵が立っていた。

「厳重だね」

「普段からこうなのかい?」

 お姉さんの問いに、クゥが答えた。

「運び込んだ物の価値や、判別が不明の物、シシルンの墳墓奥の物はここに入れる。

 シシルンの墳墓、普段の発掘地よりも深い、または、隠された場所を深層と呼んでいる。

 深層から出た物の多くは、毒や得体の知れない害になる物が多い。それは西の現地で精査する。そこから出しても良いと判断した物をここに運び込んでいる。

 直接の影響は無いが、神官や学者、医者などに特に調べてもらわねばならぬ物だろうか。

 だが、少しでも危険な物をヨランダにタダ入れるわけにも行かない。そこで、ヤカナーンとヨランダ総督双方で、この保管庫を作る事にした。

 遺跡の影響も、ヨランダまでは追いかけてこないという事でな」

 追いかけて来ない。

 何となく怖い感じがする言葉だ。

 だってリカラ氏は喰われた。

 そうだ、ヨランダで喰われたのだ。

 なるほど、ここまで呪いは来ないけれど、呪いにかかった者はいる。

 盗掘者じゃなくてもだ。

 でも、リカラ氏の事があって、色々調べて、オカシイと分かったのが三人だ。

 だから、罪人として扱っているのか、なるほど。

 地下へ地下へと通路が下る。

「出入り口は他にヨランダの外側に出る搬入口がある。そちらはヨランダの兵が担当している。中央駐留もいるが、わざとヤカナーン以外の人間を置くようにしている。」

 遺跡からの曰く付きの品は、街の人達の目につかないよう運び込んでいる。

「ヤカナーン様の兵隊とホルホソロルのニィ・イズラが遺跡での警備を担当しているの?」

「発掘作業の警備はそうだ。身元を確かする事と、シシルンのまじない避けには、なるべく顔を知っている事が重要だからだ」

「顔が見えないけど」

 それにクゥは肩をすくめた。

「ホルホソロルのニィ・イズラ同士ならわかるから心配はいらない」

「その他の人は?」

「サリーヤお嬢さん以外はわかっているから心配はいらない」

「お腹の筋肉?」

「いちいち腹をみる方が面倒だろう。偽装を心配しているのか?」

「うん」

「まぁ、それに関しては後で話そう。ついたぞ」


 黄色味がかった壁に床。

 木の寝台に三人が寝ている。

 空気の流れをとる為か、格子のついた大きな排気口が天井に二つもあった。

 世話をしている人が二人。

 ここは水も引き入れているらしく、流しが隅にある。

 雑然と物が置かれており、病室に見えなくもない。

 けれど三人の横たわる寝台は格子の中。

 私達は格子を隔てて眺める。


 男が二人、女が一人。

 男性が獣人一人、残り二人は亜人だ。

「クゥ、何か変」

 呼んでから、前の呼び名だった事に気がついた。

 あ〜。

「灰色と茶色、変じゃない?」

 ごまかすように二匹に聞く。

 二匹もう〜んって感じで揃って首を横にした。

「どうした?」

「お姉ちゃんは、見て変だと思わない?」

 オルトバルお姉さんにも聞く。

 言われた彼女も寝台に横たわる三人を見る。

「何が変なんだい?」

「目がおかしいの、三人を見ると、何もないところがギザギザなの」

 世話をする人も含めた室内全員で見る。

「上の方かい?」

 オルトバルお姉さんが目を眇めると言った。

「うん」

「なんだろうね、湯気みたいなのが私にも見えるけど、部屋の所為かい?」

 それに世話をしてた二人が違うと言い、格子を開けて中に入った。

 三人の体の位置や寝具をなおしながら確認する。

 特にかわりは無いとの答え。

 でも、体を動かすと透明のギザギザも移動する。

「ちょうど大きさが、私ぐらいだね」

 そう言うと、クゥは中に入った。

「私には見えないが」

「う〜ん、胸の位置だね。あれが神官様が言う天罰かねぇ」

「灰色、あれって女神様のお力なの?」

 それに灰色は見つめ返してきた。

 何だろう、ちょっと違うのかな?

 茶色は格子の方が気になるのか、齧ってみたり匂いを嗅いだりしている。飽きたんだね。

「まだ、身元はわからないの?」

「おおよそ何処から入り込んだのかは分かった。だが、個人の身元は不明だ」

「意識が戻ったら、どんな刑罰になるの?」

「証言にもよるが、最悪死罪、次に長期労役か。そんな所だ」

「盗掘とは関係がなかったら?」

「遺跡現場の発掘作業は辛い労働だ。

 賃金は高いが、炭鉱や鉱山に次ぐ厳しい仕事だ。

 そこに身分を偽装して入りこむ理由は、盗掘や利益を盗もうとする密偵、悪くすればこの地域と利益を反する輩だ。

 それに遺跡はヤカナーンの私財として扱われている。

 ヤカナーンの持ち物を盗み出す行為、スリでさえ両手を落とされるのだ。相応の罰になるだろう」

「じゃぁもし、本当に何か困った理由で仕事を請け負って、そして偶然、巻き込まれちゃった人だったら?」

「そんな間抜けがいる訳がない」

「いや、サリーヤお嬢様、何でそう思ったんだい?」

「間の悪い、利用されやすい人っているし、灰色がね」

 灰色がね、入った時に二度見したんだよね。

 三人の内、一人だけ、二度見して微妙な顔になったの。

 そしてさっきの質問で、見つめ返してきた時。

 どうしようかなぁって、目配せをしたのだ。

「真ん中の人だけ、灰色と茶色に見てもらっていいかなぁ」

 ガッシリとした体格の良い亜人の男の人だ。

 お髭が濃くて怖い顔だけど、3人目の反抗勢力となる背丈が慎ましやかな人だ。

「じゃぁ、あの男だけ格子の側に寄せて、お嬢様は下がる」

 オルトバルお姉さんの指示で、寝台から敷物ごと移動して床にその人を寝かせた。

 二匹はその人の頭髪の匂いを嗅いで、クサイ〜とかふざけた後、胸に前足を片方乗せた。

 大きな前足で押さえると揺する。

 ほら、起きろって感じ。

 寝たきりで意識のない人を乱暴にしちゃだめだよ。

 えっ、ちょっと何?

 ユサユサ体を揺すっている内に、胸のあたりに異様な物が見え始めた。

「お嬢様下がるよ」

 サッとオルトバルお姉さんは私を片手で抱えると入り口側まで、下がった。

 荷物のようにお腹に腕を回されて、一瞬で入り口まで跳んだ。

 素早い。だが、それよりも徐々に色を乗せて浮かび上がってくるモノに気をとられていた。

 最初は理解できかなかったが、それは猿のようにも見えたが、違う。

 クゥも腰の剣に手を置いたまま、凝視している。


 横たわる人の首に枯れ木のような細い手が巻き付いていた。

 干からびて茶色くなった人型の何かがしがみついている。

 ちょうど猿がしゃがみ込んで人間の首を絞めているようだ。

 でも、それには眼球は無く、顔は黒い穴が開いていた。

 首に食い込んだ両手が締め上げてる、怖い。それを胸にのせたまま、本人は眠っている。それも怖い。


「灰色、大丈夫?」

 それに灰色は頭を振った。大丈夫なのか。

 茶色は覗き込むように、その干からびたモノを見ている。

 二匹は私の方を向くと、じっと見つめた。

 何?

「お前ら、駄目だよ。お嬢様は近づかせないからね」

「これはシシルンの呪いか?」

 クゥの問いには答えず、灰色は私に向かって吠えた。

 そして干からびたモノを見る。

 茶色も私を見てから、それを覗き込む仕草をした。

 怖い怖い怖い。

 けど、言い出したのは自分だ。

 灰色達はお願いを聞いてくれただけだ。

 こわいよぉ。

「お姉さん、格子の側に寄って。一緒ならいいでしょ。言い出したの私だし」

「駄目だ。ここから動かないからね。お前ら、呼ぶんじゃねぇよ」

 お姉さんの怒声に、二匹がう〜んと言う感じをしてから、もう一度寝ている人を揺すりだした。

 すると、首を絞めあげていたソレは、ゆっくりと顔をあげた。

「なぜ、私を見るし」

 ひぃ、こわい。

「斬れるか」

 クゥが剣を抜く。

 それに干からびたモノがクゥを見た。

「いや、それ駄目。女神様、まってまって」

「女神じゃねぇよ、木乃伊じゃねえか」

 お姉さんの呟きが聞こえたのか、私の叫びが届いたのか、それは又、こちらを見た。

「あのね、その人とお話がしたいの。ちょっとだけ、お話していい?」

 干からびたモノの目と口の黒い穴が怖い。

 けど、よく見ると女の子に見えた。

 小さな私ぐらいの女の子。こわい、けど。

「もしかしたら、知らなかったかもなの。だから」

 それは首から手を放した。

 ケケケッって鳴きながら、手を外すと胸の上で身を落ち着けた。ちょうど猫が座るみたいな感じ。

 近距離で寝てる人の顔を覗き込んでる。すごい、怖い。

「灰色、その人、悪い人」

 う〜んって感じ。

 断言はできないけど、悪いし悪くない?

 茶色は胸の上に居座るソレが気になって、そっと前足で触ろうとしている。

 でも、灰色の尻尾がはたき落としていた。

「どうするんだ?」

 どうしよう。

 ちょっと考えてたら、寝てる人が魘されだした。

 魘されて何か喋っている。

 すまねぇ、すまねぇって言ってるのかな。

「何って言ってるかわかる?」

 クゥは剣を持ったまま、少し寝てる人の頭の方へと近寄った。


 すまねぇ、金が必要だったんだ

 こんなことになるなんて

 おもわなかったんだ

 俺は死んでもいいからよ

 ただ、金を、貯めてた金を

 すまねぇ、ミィシャ

 すまねぇ、ミィシャ痛いか?痛いんだな

 何とか、してやるからな

 金だけでも、渡して、くれ


「自分のためじゃないの?」

 灰色は首を傾げてみせた。

「自分のためでもあるし、誰かのためでもある。だから、罰はとうぜん?」

 灰色はじっとこっちを見てから、もう一度吠えた。

 ウォンと吠えて、前足で寝てる人を揺すった。

 何となくわかった。

「お姉さん、格子の側まで寄って。クゥは中にいるし、二匹は悪い事が起きないって思ってる」

「何でお嬢様が側に寄るんだよ」

「女神様と交渉」

「ありゃぁ木乃伊だっていってんだろ」

「ミイラって何?」

「埋葬された古い死体だよ。どうみたって墓荒らしして呪われたんだろが。神官を呼べよ」

「きっとご利益がある」

「どういう意味だ」

 クゥの問いに、私は答えた。

「今回の事は、女神シシルン様が関係してる。だから、お怒りを少しでも減らす事が大切。その人は、灰色達が選んだ。だから、意味がある。

 私を呼ぶのは、意味がある。」

 お姉さんは渋い顔だ。きっとクゥも同じ顔だろう。

 私はまったく関係が無いと思っているから。

 でも、関係があると思うんだ。

 お姉さんは渋々近寄り、クゥが寝てる人の側に更に寄る。

 でも、私は怖がっているけど、灰色達と同じく心配はしていない。

 何故なら、クゥの護符があるからだ。

 シシルンの呪い以外だったら、駄目だけどね。


 陽に焼けた顔、案外若いのかな。

 亜人の中でも働き者で大酒飲み、おおらかな性格の種族だね。

 お髭と頭髪はくせっ毛、細かく編んである。

 大きな手に力こぶがでそうな太い腕。

 顔は太眉で愛嬌がある。

 きっと、普通ならほがらかで人好きのする人だ。

 それが今は青ざめて苦しんでいた。


「ねぇ、この人は、どうしたら許してくれるの?」

 それに干からびたモノは、ケケケッと鳴いた。

「命以外だよ」

 猿みたいと思ったけど、干からびたモノは猫みたいに座ったままだ。

「女神様、もう一度やりなおしは駄目?」

 それに干からびたモノは、再び手を伸ばすと彼の首を絞めた。

「女神様、ごめんなさいって言う機会をちょうだい」

 干からびたモノは、首を絞めながら顔を上げた。

「ごめんなさい、わるかった。もうしません。悪いことをしました。だから、あやまって償います。それをこの人がする時間をちょうだい。」

 私を見る黒い穴。

 でも、何だか面白いねって見てる気がした。

「悪い事をした理由なんて、被害を受けた方は関係ないよね。嫌な事をされたんだもの」

 うん、そうだねって、ところでお前は誰だって思ってそう。

「だから、罰は当然なんだけど、呪いの方だけは先に許してほしいの」

 どうして、そんな事をいうのか?

「そりゃぁ、話を聞かなきゃ、何で女神様が怒ったのかわからないでしょ?」

 わからないの?

「わからないよ、だって女神様の声って誰も聞こえないもの。」

 なんで聞こえないの?

「神官様なら聞こえるかもね、だから、この人とお話して何があったか知りたいの。命を取り上げないでほしいの。ちゃんと刑罰を与えるから」

 皆、殺す。

 そんな返事がされた気がした。

「ねぇ灰色、他の二人とこの人は、何が違うの?」

 聞き方がまずかったかな、困ってる。

 それでも尻尾を引き戻し、格子の隙間から私を突いた。

「どういう事?」

 尻尾は器用に床に寝ている人と寝台の二人を指した。

 それから、灰色は自分と茶色、そして私を突いた。

「家族か」

 クゥの言葉に、灰色がウォンと返事をした。

「この男には家族がいる。だから、選んだ?子供か」

「女神様、命以外の償いってある?家族を悲しませない方法」

「無茶言うなよ、お嬢様。どう見たって呪いだし、呪いが話を聞くもんか」

 と、お姉さんの言葉がわかったように、それは私を見ながらケケケッと鳴いた。

 鳴くと男の顔を掴んだ。

 ブワッと風が巻き起こり、次の瞬間に、男の顔には入れ墨が真っ黒になるほど浮き上がった。

 それに灰色はウォンと吠え、茶色は男から前足をおろした。

 気がつけば、入れ墨を顔に浮き上がらせた男から、あの干からびた姿は消えていた。

「確かに命をとるよりかはマシだが、顔中に罰当たりと彫られるのは嫌だな」

 クゥが呟く。

 どうも古代語で、罰当たりの大馬鹿者と繰り返し彫り込まれているようだ。

 それにお姉さんが息をついた。

「もう、いないのか?」

 灰色が頷く、それから二人を振り返った。

「そっちにはいるんだな」

「そっちは駄目なの?」

 聞くと二匹、それも珍しく茶色がガゥっと返事をした。

 それから軽い足取りで、残る二人の寝台に近寄ると、それぞれ頭突きを食らわせた。

 ゴンっと重い音がして、注意する前に寝ている人の体が揺れる。

 すると同じく見えなかったモノが見え始めた。

「お嬢様、外に出るよ。クスコ・ガルダ後は任せた。外に出る」

 お姉さんが今度は問答無用で私を掴むと外に出た。

 振り返る事もなく、途中の格子門番には見えた途端に開けろと怒鳴りつける。

 そのまま一気に運ばれて、気がつくと明るい陽射しの下にいた。

「どしたの」

「どーしたのじゃぁありませんや。おい、お前ら、特に茶色。あんなモノみせんじゃねぇ」

 何が〜と茶色と灰色が首を傾げていた。

 私も、ちょっと浮き上がってきた所で運び出されたので、よく見ていない。

 荷物担ぎのままだったのを地面におろされる。

「何にも見えなかったよ、浮き上がってきたなぁってところで」

「そりゃぁよかったですよ」

「何が見えたの?」

「夜に厠に行けなくなってもいいんですか?」

「どっちかが着いてきてくれるから」

 オルトバルお姉さんは空を仰ぎ見るとため息をついた。

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