ヨランダにて
砂船の高度を下げる事はできる。
けれど、基本は地面に着けない。
安全面と全ての浮遊石の稼働を停めると、種火を失った竈のように再稼働に時間がかかるからだ。
だから、砂船の停泊所、港は塔と相場が決まっている。
ア・メルンは岩山の上、遺跡上の城塞だから、停泊所は城塞外壁とくっついている。だから、見た目はそれほど突き出た感じはしない。
ヨランダの場合は、係留塔に補給用の足場が組まれている物だ。
それが水場の街から天に向かって生えている。
砂嵐に耐えられるような骨組みだけの塔に、腐食を押さえる鈍色の塗料が塗られている。
高所で地面まで視界が開けているから怖い。
もちろん物を運べる頑丈な足場だけど、基本、格子、棒が組まれているだけなのさ。
街の人達が点なのよ。ごひゅ〜って風音が耳を通り過ぎていくのだ。
足が動かないです、お船に帰るかな。
灰色の首にひっついたら、襟を咥えられた。ぷらん。
「いやいやいや、それ、運んでくれるのわかるけど、怖いから、こわいぃ」
騒いだら、ぷらんって振り返って渡される。
渡された相手は、受け取った中腰のまま固まった。
「兄ちゃん、悪いけど運んでくれる?さすがに護衛が両手塞がるのは駄目だから」
オルトバルお姉さんが、ほれ、早く降りようって促す。
渡された相手は、そのままゆっくりと姿勢を戻した。
面紗の向こうから困惑が伝わってくるのだ。
荷物のように脇に抱えるのは失礼?
背中に背負うのは、客に失礼か?
いや、普通に両手で抱えるかな?
って悩んでるのが伝わる。以前のクゥなら悩まんで荷物運びか肩車だな。アデイムさんから、お客だからねって預かった子供だ、どうしようって考えてそう。
「お薬の色が移っても平気だよ、肩車で大丈夫」
ホルホソロル装備のクゥは、綺麗な模様に塗られている。
それも気にしていたみたいだから、一応、言ってみた。
すると、ちょっと首を傾げて、肩車。わーい、更に高いし怖いぃ。
ガシッと張り付く私をそのままに、スケスケの足場を気楽に降りていく。
さすがクゥだね。
地面よ早く早くぅ。
無事、上陸。
大丈夫じゃないよ、灰色や。子犬じゃないんだから、ぷらんはだめだよ。
何、早く行こう?茶色、待ちなさい。そのまま街に走り込んだら、怖がられるから。
「大丈夫、オラ・ゾエルには誰も手を出さない」
そなの?
灰色が頷く。
「ヨランダあたりから、発掘労働者や余所者以外は、砂漠民が殆だ。オラ・ゾエルに絡む輩はいない」
「いても死ぬしなぁ」
とは、オルトバルお姉さん。
そんな事しないよな?しない、うん、そうだよね。
何?仲間が齧られたらヤル?
まぁ、生で丸かじりしてくるのは砂蟲か。
それは仕方がないかな。
「あちらが検問所になる」
指さされた先には、ヨランダの壁外に作られた丸っこい建物がある。砂にだいぶ埋もれているけど大丈夫なのか?
「わざとだ。夜目には目立たなくなる」
「人間とか生き物?」
それにクゥの頭が少し傾げられた。
「そうだ。街に不法に入国しようとする輩から目立たなくしている。それと人間の匂いを砂が消すので、片付けない」
「ア・メルンでは片付けたけど」
「街の中は同じだ」
なるほどぉ。
同じ船に乗っていた商隊が先に並ぶ。
遠慮してたけど、商売が優先でしょ。こちらは観光している風、情報収集だもの。
建物の中には、ヨランダの兵隊さんが並ぶ。
ここはソロン領でも獣人共同体が兵士を出してる。
だから、色鮮やかな装備と様々な獣人種の見本市みたいだ。
まぁ一言で言えば、山賊とか盗賊の親玉大集合みたいな感じ。
ギラギラした強面のオジサンが並んでいて、面紗の下の顔を拝見。
身体検査に荷物を拝見。
旅鑑札を拝見。
税金の計算をして徴収。
って言うのが手順。
先頭はオルトバルお姉さんで、王家親衛隊の身分証を出せば、終了。改めもなくて、オジサン達が敬礼。
次にリカラ氏が旅鑑札を出すと、何人か知り合いだったらしくて挨拶して終了。
灰色と茶色は、凝視して終了。
そして私の番、なんだけど顔を見たら、にっこり笑顔が帰ってきて終了。身体検査は?旅鑑札は?ないの?
「オラ・ゾエルの客人、ようこそいらっしゃいました。存分に砂漠の楽園をご堪能ください。」
本物の山賊みたいなオジサンが言う。たぶん、偉い人。
「羊肉の料理がおいしいよ、いっぱい食べておおきくなりなさい」
いや、そういう話ではなく。
「今回はヨランダに客人を案内する。船の補給が終わり次第戻る事になる。遺跡作業員の収容施設の方は、問題がないか?」
「問題なく、数人の体調不良者がでておりますが、そちらは指示通り隔離中です」
「了解した。引き続き警戒を怠らぬように」
と、クゥとのやり取りで気がついた。
そりゃ、おおもとのホルホソロルの隊長さんだ。ヨランダの警備体制側である。
荷物も持たない短時間滞在で、保証人つき。
お姉さんなんて、更に上の階級の人だ。
顔見るぐらいになるか。
「どうした?」
クゥのお顔は相変わらず見えない。
検問所でも面紗をとらずに終了。
「お兄さんのお顔が見たかったです」
正直に言ったら、通過者の記録をとっていたオジサンが吹き出した。
「自分の顔なぞ、面白くもなかろうに」
「喋らないと区別できないっ」
ホルホソロルの兵士達は色鮮な上に、獣の特徴部分が砂よけで隠れている。
それをお腹の筋肉とか、腕とかで判別するのはちょっと嫌なのである。
「腹の肉で判別」
先に通過していたオルトバルお姉さんも笑い出した。
陽に焼けぐあいも同じだし、黒子を探すとか匂いかぐとかで見分けるの?
「それは止めて欲しい」
ため息をついたクゥは、街の入り口に並びながら、面紗をめくった。
そして私の方へ顔を向けると、あきれたように眉を上げた。
「あらためて、クスコ・ガルダだ。妙なお嬢さん」
「サリーヤだよ、笛の上手なお兄さん。それでどうして顔を見せないの?」
面紗を戻しながら、クゥは答えた。
「ホルホソロルは昼も夜も顔を隠す。そういうものなんだ」
変なの。
「そうだな、変な習慣だな」
勇ましい顔化粧だったけど、優しい垂れ目は変わらずに、キラキラと薄い緑の瞳が輝いていた。
ヤカナーンの双子様とも似た輝きだ。
湖面の月のようで、優しくて静かだね。
そうして白茶けた外壁をくぐる。
そこからは別世界のように緑と水が溢れていた。
***
砂漠の街というと、どんな事を想像する?
ア・メルンだと遺跡の上にできた街だから、賑やかでいて整然とした街並み。白い建物に鮮やかな青、涼やかな緑に水が溢れている。下の下水道遺跡はゴミゴミしてたけど、まぁ旅人が訪れる北と南の混ざった不思議な街かな。
そしてヨランダは、南らしい入り組んだ作りの、古い街だ。
ア・メルンこそ古い街だけど、流通交易の拠点で豊かだから、どんどん上側が新しくなった。
けれど、ヨランダは良くも悪くも、そういう変化はない。
染料と香料の街で、西の遺跡関連の労働で成り立つ街なのだ。
街の南側には東方向から流れる川の子流が流れ込んでいる湖が広がっている。
そして、その水を利用しての糸生地の染め物が盛んだ。
染料の元となる植物は、香辛料としても利用できるので、両方がヨランダの地場産業だ。
大きな水源と川が東にあって、その子流がヨランダの湖に流れ込んでいるから、農地と放牧地もあって中々繁栄している。
西には遺跡があるので、その遺跡発掘の人々はここを拠点にして行き来するのだ。
このヨランダは水脈の上にも位置しているから、砂船の水の補給も賄っている。
「重要な場所って事だね」
「ここは昔から何度も争いの場になった」
湖の側にある染料の工房を見学。
天日にさらされた地面に、見渡す限りの染料の池がある。色とりどりの染料の穴に、糸が浸されては次の穴へと作業が繰り返されていた。
「排水は、湖と地下水と汚染しないように、別に溜池がある。もともと染料の原料が植物なので、溜池から耕地に流される」
耕地は外壁に沿うように広がっていた。
「凄いねぇ」
「ヨランダの監督は、交渉人としてすぐれている。ヨランダへ流れ込む水の確保を取り付けた功績によって、名誉総督となった」
次に訪れたのが、染料にも使われる香辛料が売られる市場だ。
通常の市場と分けられていて、見たこともないほどの香辛料が並んでいる。
買付の商人もいっぱいだし、人も物溢れていた。
量り売りのお店で買付の人と大激論。
その香辛料のお店の隣に、珍しく量り売りの果実のお店があった。聞いたら大半が、料理に使う果実で、香辛料扱いなんだって。そしてお店には、へんてこな秤があった。
重りで測る昔ながらの秤らしい。
奇妙な秤を見ていると、手招き。
なになに?と、茶色がお店のお爺さんに近づく。
それから何故か私を見る。
体重を図ってくれるの?何で私?
灰色が又、ぷらんって私を咥えた。お前は〜。
体重分の果物がもらえた。
そいでお爺さんに拝まれる。何故に?
「オラ・ゾエルの子供は、めでたいからだ」
もらった果物を皆に配る。
灰色と茶色は一口で終わった。
酸っぱ甘い。
「めでたい?」
「祭りの歌舞に選ばれた子供と同じだ。吉兆と神のご加護を得た存在。子供のうちの話だ、気にする必要はない」
「縁起物の置物?」
「そんなところだ」
さらに進むと北側は住宅地になっていた。
青い外壁に軒には花や緑の鉢が下がっている。それに同じ形の外灯がついてる。綺麗で可愛らしいや。
「元々は外壁と同じ薄茶色の家が多かった。だが、今の監督官、名誉総督になってから、立て直しや保修の企画を統一すると援助金を出した」
「観光用?」
「裕福な人間、商人や貴族が立ち寄れば、それだけ金を落とすからだ。貧民の生活にも力を入れている。盗賊になるような輩を減らす事が目的だ。
豊かになり、仕事が増えれば、大概の問題は小さくなる。
そして豊かになれば狙われるが、守ろうとする力も増える」
次に訪れたのが屋台が並び、食堂や酒場もある一帯だ。
「遊興の施設は通り向こうで中壁で区切られている。
治安維持の為もある。こちら側は女子供でも昼間なら、危険は少ない」
野菜と肉とを焼いたり炒めたりするいい匂いがする。
こちら側も、たくさんの人で溢れていた。
「陸路でも近隣の人々が集まっている。この一帯、西側は砂漠だが、東はもう少し進むと南領の荒野になる。そこから水源地の山になるのだが、小さな集落が多くあるのだ。
行商の者も多いが、出稼ぎも内地ではなくヨランダに来る」
さっそく屋台に突撃をする二匹の後に続きながら、クゥの案内を聞く。
リカラ氏は、先に遺跡探索の人員が留め置かれている場所へ向かっていた。ア・メルンからの兵士も一緒である。
オルトバルお姉さんとクゥの二人、それに連絡用の兵士さんはこっちだ。
観光で時間を潰しているって訳。
何故かって、つまり、この後に、遺跡から引き上げてきて隔離している人達の改めに向かう。だから、リカラ氏の準備が終わるのを待っているって事。
単に、美味しい物食べながら、ヨランダを見てるだけではない。ほんとだよ、ほんと、なに?それもおいしいの?
「お嬢様の体の、どこに消えていくんだろうねぇ」
オルトバルお姉さんと、おやつを食べた。
「う〜ん、やっぱりもっと内容を変えないといけないかなぁ」
「何の話?」
「獣人の子供はね、体質にあった食べ物じゃないと満腹にならないんだよ。肉食よりのもっと重い感じじゃないと、お嬢様はちびっこのままかもねぇ」
「肉かぁ、肉は庶民の食卓には並ばぬのですよ、お姉さん」
「大丈夫だよ、お嬢様。保護者になりたい大人はごまんといるし、二匹もいるじゃないか。なぁお前ら、お嬢様の肉ぐらいいくらでも狩ってこれるよなぁ。おまけに金にもなる」
「いやいや、いいって。本気にして、小奴らが何かしそうだから、やめやめ」
とか、無駄話しつつ、屋台の料理を食べまくった。
灰色と茶色も食べた。
山賊風の兵士さんオススメの羊肉が美味しかった。
そして辛かった。
クゥはお仕事中は食べないし、お昼は食べない派。
そういや、前も回数少なくて、私が小さいって話から食べてたなぁ、辛いのも苦手だしね。
まだまだ、見て回る場所はいっぱいあるんだけど、ご飯が終わった頃に、リカラ氏が戻ってきた。
場所が整ったので迎えに、屋台ご飯を渡すと喜んでくれた。
「少し、問題が出ていますので、先ずクスコ殿に来ていただきたいのです」
そう言って、食事をかきこむとリカラ氏は、クゥと先に隔離施設に。私とお姉さんと連絡用の兵士さんで、ゆっくりと向かうことになった。
ア・メルンの兵士さん曰く、ヨランダの宿屋街の近くに遺跡探索要員の為の施設がある。
しかし、今回は遺跡の発掘に携わっていた全員を隔離するために、宿屋を複数借り上げたそうだ。
出稼ぎの人もだね。
その人達にしてみれば、宿泊代と食事は出ても日当はでない。稼げないから、他の仕事がほしいって騒ぎになりつつあった。
今回のリカラ氏が途中で降りて、聞き取りと交渉調整が必要なのも当然だ。
けれど、たぶん、それが問題ではない。
クゥを先に呼ぶのは、解決や妥協点を話し合いで見つけるような問題ではないのだ。
ゆっくりと借り上げたという宿屋が並ぶ方へと向かう。
砂漠の移動手段である騎獣の店も並んでいた。
「雑食の二足歩行騎獣だね。高温乾燥地に適応した爬虫類型。改良してあるので、攻撃性は低いね」
騎獣で馬ぐらいの蜥蜴がいた。
灰色と茶色に凝視されたら、騎獣の動きが止まった。
「これで肉食だと体長が倍だね。集団で狩りをし、人間も捕食する。違いはトサカ部分の色と形かな」
凝視された騎獣が動かない。
そして二匹も動かない。
「灰色、あれは獲物じゃないからね。あれを獲ってきたら泥棒。」
わかったじゃないよ、さっきのお肉の話題はわすれなさい。
「改良段階で雑食になった奴は、肉としてはうまくないよ」
「お姉さん、食べたの?」
「死んだら食べないともったいないよ」
「確かに」
「筋が多くて、肉に苦味があったね」
「うへぇ」
「元の肉食だと、美味い」
「なるほど」
「討伐対象でもあるので、見かけたら積極的に狩る。そうしないと小さな村や遊牧民が喰われる」
「それ怖い」
「だから、肉食獣や害虫を避ける薬がお土産屋で売ってるんだよ、ほら、あそこ」
騎獣屋の隣の店先に、大小いろんな丸薬みたいなのが置いてある。
「用意はしてあるから、買わなくてもいいけどな。こういった薬の手持ちを常に考えておかないと、南の旅は駄目なんだよ。サリーヤお嬢様は獣の事は考えなくても大丈夫だけど、他の虫類は気をつけないとね。
体の強い私も、痒みには耐えられないんだ。顔なんぞ刺されたら、痛いし痒いし酷い目にあうよ」
そんな話をしていると、リカラ氏に同行していた兵士の姿が見えた。
合流して、案内を受ける。
発掘隊の宿舎は、移動用の天幕と焼き煉瓦の建物だ。
想像していたよりも大規模で、専有地として囲いがなされていた。
水場もしっかりあるし、ヨランダの中に小さな町を作っていた。
借り上げた宿屋は、その宿舎の一番近くにある二軒で、入り切らない人達は、宿屋の庭に天幕を置いて寝起きしている。
私達は、宿舎の囲いの方へと案内された。
天幕は風通しを考えて、昼間の今は布を巻き上げている。
それに宿舎の煉瓦の建物も、扉や窓が開けられているから、中がよく見えた。
中で休む人、水煙草を嗜む人、食事や洗濯などをする人。皆、どことなく疲れているように見える。
移動の制限も受けているから、うんざりしているんだろうね。
そんな様子の宿舎の奥。
寝泊まりする建物とは違って、ちょっと立派な横長の施設があった。
ヤカナーンの遺跡発掘調査の事業施設だ。
倉庫も見えるので、きっとここが本拠地になるのかな?
ここの作りは、ア・メルン風でツルッとした感じだ。ごつごつしたり温かみのある形とは違う、都風?
ヨランダらしい異国の感じはあまりなかった。
良くも悪くも官署らしい愛想のない建物だ。
中もア・メルンで見た作りと似ている。天井につけられた空気を混ぜる羽だけが違うぐらいか。
暑いヨランダは、高所のア・メルンとは風の流れも違うようだ。
中に案内され、施設の地下に案内される。
地下は、発掘物の保管倉庫だ。
上の建物よりも広く、地下三階。気温湿度が一定に保たれる上に、強固な鍵がかかっている。
この保管庫は、西の遺跡群にある保管庫に一定期間保存された後の品だ。
保存され、調べられた後なので、比較的危険は少ない。
展示保存や研究素材、その他の鑑定を受けた後に、このヨランダから運び出す。
ここでまた、ア・メルンと同じように物品を灰色達に見てほしいそうだ。
発見後の処理はア・メルンに来るであろう祓魔師と渡り神官様にお願いするそうだ。
「どういう事?」
案内してくれているのは、ヨランダの遺跡担当官吏でありリカラ氏の同僚だ。
陽に焼けた担当の人は、この当たりでは珍しい群島出身のウエルズ氏。ちょっと親近感を覚える背丈である。つまり、この巨人の多い南部での抵抗勢力だ、仲間発見。
「実は、この保管庫に無断侵入した者が三人いまして」
「泥棒?」
十日程前。
保管庫の一つ、同じ小部屋に三人の侵入者。
発覚は、遺跡発掘の人足全ての個人調査がきっかけだ。
口入れ屋を通しているので、その名簿から本人の確認をしていた。
確認できた者から数人で組ませて宿舎で収容。
組ませる事でお互いを監視するようにした。
すると、この三人だけ、妙に所在が不明になる時間がある。
不自由を強いられている状況での、所在不明があれば、報告はあがる。
そこで三人の行き先は、同じ小部屋だ。
時間はばらばらで、彼ら同士で何かのやり取りをしている訳ではない。
ここまでなら、単に行動制限中に勝手に不法侵入したって事で事情聴取。なんだけどね。
この後、どんどん不穏になる。
不穏なできごとの話は、リカラ氏とクゥが呼ばれた方ね。
この三人、急に体調が悪くなって隔離されてる。
呪い虫か伝染病かってお医者が呼ばれたけど、原因不明。
少なくとも、彼ら三人以外は体調変化は無いし、風土病とか色々検査したけど、何もひっかからない。
そこから宿舎の消毒と全員の体調検査など騒ぎになった。
そこで口入れ屋の名簿と鑑札を突き合わせるだけの確認から、鑑札の発行元への問い合わせをしたんだけど、その三人だけ身元が誰かわからない。
三人の鑑札は、死んだ人のだったからね。
これ、怖い話なのかって聞いたら、偽装だろうって。
色々理由は考えられるけど、お金で死人の鑑札を発行してもらったんだろうって。
まぁそっちの犯罪的な何かはクゥとか監督してるリカラ氏の担当。
こっちは、何をしようとしていたのか、何をしたのかを探して欲しいって事。
泥棒かと思って、無くなっている物を探したんだけど無い。
彼らの荷物を検査したけど、私物以外に何も隠していない。
じゃぁ何もしてないのか?
小部屋と言っても保管庫だ。
けっこうな広さがあるし、見落としだってあるかもしれない。
それにその小部屋だけじゃなくて、他にも通っていて、何かをしたかもしれない。
ところが、その三人は問いただしたくても、体調が悪くなり話もできない。
「呪い虫とか?」
ここのヨランダにある神聖教神殿の神官様は、呪詛など得意ではないそうだ。
名付けの儀式などは上手なのだが、遺跡の呪いに関しては、憑いているかいないかが見えるだけと。
「見えるだけで凄いと思うけど」
「もちろん、すごいですよ」
呪詛を見分ける事まではできるが、具体的にどうすればいいのか?という解決策はだせない。
シシルンの遺跡の呪いの場合、特に難しい。
「何でですか?」
「シシルンは女神、呪いではなく天罰。だから、神官様にはそれを阻止する、取り除くことが難しいと」
神官様、彼らは病気ではなく、天罰めいた物が見えるとおっしゃった。
じゃぁ三人は小部屋で天罰を受けるような事をしていたのか?
「そこで灰色と茶色が登場、匂いを嗅ぎ分けるべし」
祓魔師の人が来るには時間がかかるから、先に彼らがひっくり返った原因とか、何をしていたのか?
までは、わからなくてもいいから、危なくないか、確認してって事だった。
保管庫は、ウエルズ氏が言った通り、小部屋と言えども結構な広さだ。
灯りは熱を出さない発光石が青い光を放っている。
ちょっと一人で来たら怖いよねぇって思っていると、茶色が奥で何かを破壊する音がした。
「大丈夫ですよ、上からも許可を得ていますから」
と、ウエルズ氏。若干目がうつろ。
お前ら、少しは手加減、手加減できない?
しばらく、物を荒らす音が続き、飽きた私とウエルズ氏は、南部の家具が大きい問題を語り合っていた。
体の大きな南部の人用の家具だと、ウエルズ氏や私には椅子に座るのも苦労するんだよね。ほら、扉を開ける時がまた大変で。
そんな無駄話を暫くしていると、奥から吠え声がした。
「何かあったみたいですね」
灰色が無造作に咥えた何かを床に叩きつけた。
土器のようだ。
散乱している破片には触らない。
「これ、何か駄目なやつだった?」
うむ、という返事。
茶色が角をカミカミしている箱もある。
そこの上には数個の古い食器が置かれていた。
「箱の中身は?」
「あぁ、あちらを閉鎖する時に運び込んだ物ですね、なんだったかな」
目録はわかりやすいように、保管庫の出入り口に置かれている。
「一番最近の物になるので、あぁ、出土品で二十四番地区の生活用品類ですね、食器とあります」
「中身は」
「鍵はどこだったか、探します。上の土器類は片付けますので、それも少しお待ち下さい」
と、言ったが、茶色には通じない。
一気に上の土器を払いのけると、箱の蓋を跳ね上げた。
「あ〜ごめんなさいぃ、なんつーことをぉ」
箱の蓋を齧っていたところを見るに、気に食わなかったらしい。
「ちょっと待ちな、箱の鍵は?かかってなかったのかい」
「いえ、封済みの物は開封しないようにしているので」
「封済みってのは何だい?」
オルトバルお姉さんの質問に、ウエルズ氏が答えた。
「物品が繊細な物の場合、梱包後、調査する工房で開封するまで開けないように、開封不可の表示の紙を貼るんですよ。ほら、これも今破け..」
「鍵はかかってないし、中身が人骨なんだが。これは昔のかい?それとも新鮮なヤツかい?あぁ、サリーヤお嬢さんは見なくていいよ。お前ら、骨を咥えるな。いいな、顔を突っ込んだら殴り倒すからな」
驚愕のウエルズ氏の横から、私と灰色と茶色はおとなしく入り口に戻った。
「骨が出土品ならいいが、新鮮な奴ならここの兵士を呼びな。それから、物品のすり替えをした奴がいるんだから、中の奴らの尋問だよ。責任者のお前も含めてだ。
おい、上に行ってガルダを呼びな。問題ありだ。お嬢様も船に戻すと伝えな。」
骨って何、骨って。
「昔は人骨を食器代わりにしてたとか無いよな?」
お姉さんの問いに、ウエルズ氏が気の抜けた声で返した。
「そんな奇習があったら、ぜひ調べたいですね」




