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砂漠の梟  作者: CANDY
幸運の星
20/28

我は嵐を待っている

 嵐が来ない。

 風は強いけど、空は晴れ渡っている。

 遠くに雲はあるけれど、あれは近くに来ないだろう。

 そんな事を考えていると、砂船が見えた。

 きっと水売りの子達は準備して場所取りだね。

 庭園から見る砂船は、まっすぐこちらに飛んでくる。

 ゆっくりと揺れる羽に、ふわっと浮かんだ客室。

 大きな浮遊鉱石が円をいくつも描いて船体を回る。

 水に浮かぶ船と違い、ゆらゆらと空気を泳ぐようだ。


 ラウロは簡単な返事だけを返す。

 リプア神官様が根気強く質問をすると、短い返事をするか答えない。

 答えない事も返事だ。

 リプア様が言うには、彼の体の半身を覆う入れ墨は、誓約紋というらしい。

 簡単に言うと、呪いだ。

 そして、彼の半身と同じ物が、誰かに同じように描かれている。

 彼は、その誰かの命を人質にとられている。

 そう、リプア様は教えてくれた。

 魂の先が繋がっていて、こちらで彼がしたことで、繋がった先の人が死ぬかもしれない。

 だから、捕まっている方がいいのだ。


 では、リカラ・アマドの尋問はどうなったのか?


 まず、虫が腹に入る前の記憶。

 彼はいつもどおりの発掘調査隊の調整役としてヨランダにいた。

 そこまでの記憶はしっかりとある。

 十八期(今年)三十七回目探索までは、リカラ・アマドであった。

 現地の案内人と物資調達、発掘の作業員の手配に前回の決済。

 彼はいつもどおり、忙しかった。

 ヨランダでの事務作業を終えて、明日にはまた現場に戻るという夜で、正気のリカラは終わっている。

 最後の晩に酒場で飲んだ記憶、誰かと一緒だったこと。

 酒場での誰かの喧嘩を仲裁したところで、彼の意識は消えた。

 次に覚えているのは、腸を食い破る虫だ。

 焼け焦げるような痛みと一緒に、意識がどんどん痺れていく。

 すると体の主導権は奪われて、リカラは何もできなくなった。

 覚えている事はいくつかある。

 暗い穴蔵に何かがいた。

 穴蔵は暖かく何かが満ちていた。

 とても恐ろしい景色を見たはずで、誰かの悲鳴と懇願が耳に残っている。

 何もできずに目にうつす、それは無限地獄のようだった。

 朧げな景色が心を砕く。

 ア・メルンに戻っても地獄だった。

 自分の記憶を引き出され、誰も彼もに売り渡す。

 仲間を親を売り渡し、毒を混ぜては喜んで。

 楽しい楽しい楽しいと、嬉々として嘘を振り撒いた。


 リカラの虫と同じく、寄生されていた者もいた。

 だが、簒奪を計画していた多くは、唆されたとはいえ、自分の意思で賛同していた。

 ヤカナーンの一族は大きく二つに分けられる。


 オルロバとニラガの双子の直流と呼ばれる家系。

 直流はシシルンの血統と古参直臣の婚姻による長子相続で保たれている。

 古参直臣でも、外部の血が入っていないのが条件だ。

 クゥは外部の血と直流の子供なので、本来は相続条件に入らない。

 ここでいう相続条件とは、シシルンの墓守という意味だ。


 そして、この直流の家系以外の外様がヤカナーンにはいる。

 古参直臣で外部と婚姻をした者達だ。

 彼らは、遺跡関連の利権はなく、ア・メルンの土地相続からも外される。


 これが大まかな不満の要素だ。


 墓守の義務を知らないと、直流と一部の直臣が利権を独占しているように見えるだろう。


 何故、クゥにシシルンの義務が移ったか。その理由も元は同じと言える。


 直流の子供と言えるのが、現在はオルロバとニラガの双子のみ。

 それは先代公爵とその他親族、直流が死んでいるからだ。

 三世代続けての不幸という偶然の重なりである。

 それまで直流といえる兄弟姉妹は多くいたが、戦争、疫病、そして遺跡での活動で死に絶えていた。

 外からヤカナーンを見れば、確かに親族家族は多い。

 だが、直流といえる親族はいないのだ。

 近親婚も血族婚も数を減らした原因だが、それでも父親の公爵が義務を果たしていれば双子のみになる事はなかったろう。

 しかし、前公爵は放蕩の限りを尽くし、旅先で客死。

 ヤカナーンとして生きる事を恐れたのか、単なる気質だったのかは不明だ。

 正妻の女性との間に双子をもうけると、彼は遊興に身を投じ、全ての責任から逃れア・メルンを後にした。

 これも一族内の分裂を招いた。

 収益だけを食いつぶす男に、誰もが反感をもった。

 だが、本当の意味でのヤカナーンは、前公爵と双子だけだ。

 そして曲がりなりにも、直流の血族で一番血が濃いと判断されたのはクゥである。

 双子の母親は生きているが、彼女が再婚したとしても、その子供に墓守の義務は背負えない。

 呪いといえば、これも呪いと言えるだろう。

 次にシシルンの血となれるのは、双子と古参直臣の血族と婚姻し生まれた子供だ。

 クゥの場合は、直流が死に絶えたからこそ権利が移譲されたが、本来は墓守にはなれない。

 ただ、彼は今の所、双子以外で一番の血だ。

 これも何か理由があるのだろうが、彼はシシルンの恩恵も受けている。


 話はそれたが、そうした内部分裂の種はあった。

 唆せば、容易く火がつくので、リカラが正気に戻れば、不穏分子をあぶり出し放題だ。

 それも裏切り者の記憶だけは残っていたからだ。

 リカラに取り憑いていたモノは恐ろしい。

 唆しておきながら、心底、そうした裏切り者を嫌っている。

 リカラの記憶に残っているのが証拠だ。

 魔物のような人間の事だけは鮮明という皮肉。

 そうして、リカラの意識が鮮明になり、調書の裏付けがとれた者から処罰が行われた。


 これで、少しは変化しただろうか?

 誰も死なない明日は来るのだろうか。

 クゥは、元気かな。

 きっと義兄弟の安否を心配してるよね。


 猜疑の仮面の話しから、ニラガ姫様の話は色々飛んだ。

 水柱の街、地下の遺跡の街についても話した。


 流浪民を住まわせたのも、元は、盗掘を防ぐ目的だった。

 ア・メルンは地下水脈にあわせて造られた街である。

 と、言うふうにした。

 シシルンの墓に街ではない。

 水場に街があるのだ。

 そして流浪民を入れて遺跡を住居に変えた。

 元々、ア・メルンは掘り返さないと決めているのだ。


 しかし、西は違う。


 西の遺跡群は広大で、岩山の間に入り口がある。

 岩窟や亀裂、険しい岩山の間に広がる遺跡には、区画をもうけて分けている。

 どの区画も表層二から三は発掘探査は終わっている。

 ただ、把握できないほど広さで、ほぼ同じ間隔で三十で区切っている。

 一つの区画を掘り下げるのではなく、発掘探索事に場所を移動する。


 何故、ア・メルンは発掘をせず、西は掘り返すのか?


 それはもちろん、手に入れたいモノがあるからだ。

 シシルンの遺跡群は、広大な彼女の墓だ。

 同時に、ある目的の為に造られた場所だ。

 セトの慰霊とクラヴィスの形見を収める為だ。


 シシルンは、セトの彫像を砕いて分けた。

 頭部はア・メルンの墓に入れ、永遠に蘇る事なき眠りを願った。

 ア・メルンは遺跡を発掘しない。

 それはセトの復活を許さない為だ。

 昔、五臓と脳を壺に入れて一つに埋葬した。

 それは死後の復活を願ってだ。

 その風習から、セトを復活させない為に彫像を分割して埋葬。

 頭部だけをア・メルンの墓に入れる。

 そうして慰霊と共に、ヤカナーンは封じたのだ。


 では、西の遺跡は何であるのか?


 長子クラヴィスと妹シシルン、彼らは別に育ったが、二人共すぐれた呪術師であった。

 皮肉にも彼らは父親のセトの能力、王の血筋を継いでいた。


 ここまで聞けばわかる。


 長子相続に拘り、墓守の責務を課すのは、セトの力と同じ物を生まれながらに持っているからだ。

 神鳥に与えられたと伝わるが、つまりはセトと同じだったのだ。

 そして親子で争い、シシルンは生き残った。

 シシルンは自分の墳墓に、セトの彫像の残りと不都合な物を全て埋めた。同時に、兄の形見もだ。

 そして子孫へと遺言を残す。


 兄の形見を探し出し、それをもって終わりとする。

 ヤカナーンの墓守の責務を終わりとし、セトの慰霊は果たされる。


 ヤカナーンが土地に血筋に縛られる事を無くすのが目的なのだ。


 その形見が何かはわからない。

 遺跡は迷宮となっていて、迎えるはセトの悪意だ。

 シシルンの墓を守る番人も、命を奪う罠も、セトの遺産なのだ。

 セトの遺産、憎悪と悪意を乗り越えて、長子の求めた自由を手にする。

 それがシシルンの子孫の本当の目的だ。

 今回、多くの離反者を生んだ後、オルロバ様は悩んでいる。

 ヤカナーンの成り立ちを何処まで、親族に伝えるかだ。

 さらなる離反、無理解、断絶、伝えても起こり得る。

 シシルンの遺跡が何であれ、利益も得ているのだ。

 そして、伝えた上で信じない者には、そんな過去の言い伝えなど、都合の良い言い訳なのだ。


 何で、そんな重要な事を教えちゃうのだ。

 この間のリプア神官様と同じく、呻きながら頭を抱える。

 ありがたいのだが、もっとやんわりと遠回しでいいのに。


 ニラガ姫様の言動は、毎日の呪術的お告げだった。


 これだけ教えてくれればいいのに。

 あの捻れが取れた日、彼女は幸運の星がやってきたとわかった。

 運気が最大に良くなる風だ。

 これを逃してはいけないと、ウキウキしながら私を回収した。

 二体もオラ・ゾエルを従えた子供だ。

 踊りだす勢いで城の各所にお告げを飛ばす。

 オラ・ゾエルが二体も来た。

 それも子供が一緒である、吉報じゃ吉報じゃ!


 ニラガ姫様のお告げは、セドリック渡り神官様の迷惑込みの奴とは違って、皆が嬉しくて楽しい感じらしい。

 言葉を覚えた頃から、良いお告げを連発してきた。

 だから、彼女が楽しそうにしていると、皆も楽しくなってくる。


 教えてもらったが、実は、悪い事が分かった時は、騒がずに対処している。

 情報操作を幼い頃からしているのだ。

 そんな彼女は、話の最後に私に言った。


「かつて貴女は嵐に見舞われた。しかし、その嵐はもういない。彼女は最後に悔い改めた。

 遅き懺悔ではあったが、これにより貴女に星が戻った。

 それまで奪われていた貴女の幸せは、この禍事を押しのけるほどの輝きが在る。

 ありがとう、サリーヤ、私達の所に来てくれて。

 ごめんなさい、サリーヤ、私達の所為で。

 でも、心から願っているのも本当の事。

 貴女が幸せであれば、私達も幸せ。

 砂漠の星、希望の花、サリーヤの明日が幸せでありますように」

 よくわからないけれど、姫様も幸せならいいよ。

 クゥの妹や弟が幸せなら、クゥも幸せ。

 そしてア・メルンが平和なら、私も平和。

 だから、そんな悲しい顔はしないでほしいのだ。


 そんなやり取りの後、久しぶりの大型の砂船到着を知る。

 活況するア・メルン。

 私は首を捻った。

 嵐、来てなくない?

 いや、来なくて良いんだけど。

 大型の砂船が港に入るのを、お城の内壁から眺める。

 船の発着見物に、ヤカナーンの子供と混じって眺めた。

 最近は、灰色と茶色と子供達どうしがやっとなれた。

 子供達は親から相当言い含められているのと、大きな犬に恐れをなしていた。それがやっと近くにいても喰われないよね?程度に。

 灰色と茶色は、子供達に触ってこられても我慢できる位に。

 そして時々、こっそり遊んでいる。

 灰色と茶色に触る遊びである。

 そして触られた二匹が、子供が逃げる前にベロンってする遊び?だ。

 あくまでも二匹は動かなくて、触った子供が逃げる前に舐める。

 舐められなかったら勝ち?なんだけど、舐められると縁起がいいらしいから、何だかよくわからない遊びだ。

 日数を数える。

 嵐は、来ないのか?


 ***


 砂船の到着を見た後、今日の予定は、ラウロへの面会とリカラ氏の見舞い。

 リカラ氏は、一応処罰を受けて謹慎だ。

 これに納得しない人達も多い。特に処分された親族の方だが。

 そこで、あのお腹に巣食ってた虫を公表した。

 シシルンの呪い虫として、リプア神官様がね。

 元々、遺跡でシシルンの呪いである発狂は、一族内では当たり前の知識だ。

 そして発掘の一時中止の理由としても、この呪い虫とした。


 ただ、リカラ氏に唆された方は自己責任である。

 だって謀反だもの。本来は死罪で近親は連座だ。

 でも今回に限り、労役や権利の縮小などの処分にしている。

 呪い虫が元の原因だからね。

 なのでリカラ氏に文句を言うなやお前らって事。


 私の訪問、というか灰色と茶色の訪問は、二人の真偽をはかる為って名目。

 呪いの影響を見るためだ。

 特にラウロは、偽装を失敗しているし遺跡から人が撤退した事を、相手がどう考えたかわからない。

 今の所、ラウロと繋がる相手の命脈が切れていない。だから人質も無事だ。

 どうにかして、ラウロの持っている情報が分かればいいなって事でお犬様召喚である。

 まぁわかったらいいね、ぐらいでリプア神官様はいいよって言ってくれている。

 あとリカラ氏は、精神的に死にかけているので励まし。

 罪悪感と謹慎中に仕事のし過ぎでだ。

 まぁ単なるお見舞いである。


 今日の予定はそのくらいで、オルロバ様とニラガ様の二人と晩餐の予定。晩餐と言うか夜ご飯を一緒に食べましょうねっ!っていう姫様のお誘いだ。


 うむ、今日も順調に贅沢になっている。

 これではいけないので、何か仕事を見つけなければ!って言ったら、何故かオルトバルお姉さんに頭を撫でられた。

「働かなくていいなら、子供は遊んでりゃぁいいんだよ」

 子供じゃねぇです。

「はいはい、じゃぁ最初にクソ生意気なラウロの牢屋へ出発」

 子供じゃねぇです。

「茶色いの、ほら、お嬢様が拗ねてるから舐めてやれ」

 ベロベロするなし、灰色はカミカミするなし!


 ***


 ラウロのいる部屋は、地下牢から軟禁用居室に変更。

 普通の部屋の戸口や窓に鉄格子があるだけ、他は何も変わらない。まぁそれだけで十分だけどね。

 そして彼自信は首輪をされ鎖が部屋の中央にある太い柱に繋がれている。

 自殺防止を考えたら、その鎖はまずいけど、ラウロは自分が死ぬと繋がっている相手がどうなるかわからない。

 だから、殺されるのも自殺する事もできない。

 何とも難儀な事だ。

「おぅ、坊主、生きてるか?ざまぁねぇなぁ、おら、お嬢様がわざわざ来てくださったんだ、膝をついて出迎えな」

 相変わらずの悪人言動のお姉さん。

 ニヤニヤと笑うと、美人なだけに犯罪者っぽく見える。

 それにラウロは、そっぽを向く。けど、私には頷いた。

「礼儀知らずが、殴られてぇのか、おい」

「まぁまぁ、じゃぁ灰色、お願いするよ」

 灰色がズイッと側に寄る。

 何故か見開いた目を瞬き一つしないで、ラウロに近づける。

 あれ、灰色を知らなかったら、凄く怖いよね。

 と、灰色が私を振り返った。どうした?

「お話しても大丈夫?」

 それに灰色がゆっくりと頷いた。

「何か異変?」

 それにも灰色がゆっくりと頷き吠えた。

 ウォンと吠えて私を見る。

「お姉さん、側によるよ」

「坊主にか?わかった一応押さえる」

 念の為にお姉さんにラウロの腕を押さえてもらった。

 ラウロが抵抗する事はなかった。

 茶色もノソノソと側に寄るとしきりにラウロの匂いを嗅いだ。

 何だろう?

 たぶん、灰色は私を呼んでいる。

 近寄るとラウロの瑠璃色の瞳を覗き込んで灰色が吠える。

 何かあるのか?


 瑠璃色の瞳は、まるで人形にはめ込まれた硝子玉のようだった。

 じっと見つめると、煙が見える。

 なんぞなんぞ?

 じーっと見つめていると、それが徐々に霧散する。

 瞳の奥に自分の顔が見えるくらい見つめると、その奥に女の子が見えた。

 ラウロと同じくらいの同じ肌色の女の子だ。

 暗い部屋の中で、何人かで固まっている。

 隣には、北の地方の肌色の女の子も見えた。

 なんだこれ?

 ふっと言葉が入ってきた。


 我が墓に女子供を隠したな。

 罰当たりめ、罰当たりめ、我が墓に弱き者を盗んで隠したな!

 呪ってくれるわ、罰当たりめ!

 醜き姿になるがいい!

 その魂の有り様どうり、醜い姿になるがいい!


 怒号に目を瞬くと、はっとラウロを仰ぎ見る。


「見えたよ、ラウロ。ラウロの家族とお友達が遺跡にいる。人攫いだね、盗賊だ、盗賊が遺跡に家族を隠したね。

 そこで魔物に言われたんだね、交換条件だ!」


 私の叫びに、ラウロは無言だ。

 無言のまま、歯を食いしばった。


「盗賊か、本当だったらジュミテックに知らせないとね。お前の部族が分かればなぁ」

「アミケ・タウロス」

 ラウロは小さな声で言う。

 私とお姉さんは顔を見合わせた。

 お姉さんは、ラウロの腕を放した。

 離された腕で顔を拭うとラウロは言った。

「嵐だ」

 どういう意味だろう?

「我は嵐を待っている」

 最大限、言える言葉のはずだ。

 嵐って、あの嵐?

「嵐が来なかったら?」

 ラウロは答えない。

「来なかった時の指示は無い?」

 ラウロは答えない。

「嵐は来ないよ」

 私の答えにラウロは口を開いた。

「我は嵐を待っている」


 灰色に見せてもらった事を一応報告。

 あと、アミケ・タウロス。

 タウロスという場所の、アミケの一族って意味らしい言葉もだ。

 砂漠地方には小集落や部族がいる。

 お姉さんによれば、タウロスとはジュミテックに近い、熱帯雨林近くらしい。

 亜人の集落も多くあり、獣人以外の集落に、ラウロのような先祖返りがいたとしてもおかしくはない。

 長命種族との混血は、中々長命種として誕生しないが、無いわけではない。

 見えた事が正解とは限らない。

 でも、ラウロは来た。



「私はきっと見ているんですよ、何で思い出せないのか」

 青白い顔に隈が浮いている。

 リカラ氏を交えてのお茶だ。

 顔色が悪いを通り越して、土気色。

 死なない?

「死にませんね、長命種は回復が遅いですが、死ににくいんですよ。頭を叩き潰すか心臓を握りつぶせば死にますけど」

 それ、誰でも死ぬ。

 でも、それ以外は死なないのか。

「あと、出血死ですかね」

 何の話ぞ。

「はぁ、サリーヤ様、どうにかして私の頭の中身も覗けませんか?」

「無理、私、姫様じゃないから」

「姫様も覗けませんよ、占いですから」

「でも、あたる」

「はぁ、あたりますねぇ」

 ラウロへの質問を別の方向からする事になった。

 彼の問題が片付けば、彼の口は開くのだ。

 因みに、今、オルトバルお姉さんは席を外している。

 ラウロの件で、上司さんが来たからだ。

 今は灰色と茶色がリカラ氏の寝台に頭を乗せている。

 不穏な動きあらば、一口で齧れる状態だ。

 部屋の外には兵士さんが立ってるしね。

 護衛のオルトバルお姉さんは、廊下だ。

 私の話の確認に、上司さんが来たのだけれど。

 おじさんって呼んだら、上司さんはニコッと笑い返してくれたのに、オルトバルお姉さんが凄い勢いで却下。

 上司さん、おじさんをオジサンって呼ぶのは駄目で、隊長、教官、兄貴ならいいとか、訳のわからない事を言い出した。

 おじさんは、私に断りをいれるとお姉さんの頭を掴んだ。

 退席の断りと同時に、笑顔のままで頭を掴むとか、怖い。

「お前は何を考えているんだ。いいか、親衛隊となるなら、仕える相手に合わせた態度を会得しなければならん。新兵でもあるまいに、お前は」

「了解ですっ!教官はオジサンではありませんっ」

「話を聞いているか?そういう問題ではない」

「了解ですっ!教官は若いですっ」

「お前、大丈夫か?やはり療養が短かったか」

「いいえ、全然イケますっ!休暇はいらないですっ!」

 廊下の端で聞こえないように喋ってるんだろうけど、丸聞こえだ。

 ア・メルンの建築様式は通気性の良さが主だ。

 つまり、穴だらけ。

 自然と私とリカラ氏は黙って聞き耳。

「教官は無敵で最高ですっ!」

「あぁ、そうか、療養の後で加工がきれたか..仕方ないな、モルガーナ、種族特性で勘違いしている。暫くは、注意して行動しなさい。」

「了解ですっ!」


 戻ってきた上司さんは疲れたように眉間を揉んでいた。

「すみません、サリーヤ様。少々、オルトバルに問題が生じました。」

 リカラ氏と私は黙って聞く。

「少し前に、オルトバルは戦闘で負傷しまして、その後療養の為に病院にて収容期間があったのです。

 その間に必要な処置が切れていたようで、任務中の言動にいささか問題が生じる事になりました」

「必要な処置って何ですか?」

「獣人の極端な習性を緩和する処置です。これは軍人ですと当たり前の処置、加工です。疫病の予防処置に似ています。

 オルトバルの場合、群れの統率者に追従行動をとる強迫観念があります。

 今までは彼女の方が、群れの統率者の役割をしていたので、ここまで極端にはならなかったのですが」

「皆そうなんですか、私もですか?」

「いいえ、オルトバルの場合、負傷の影響でしょう。強烈な恐怖と死の体験で、特性が極端に出た。その時の同行者である自分への依存が表に出たのでしょう」

「元から大好きだからじゃないのですか?」

 それに上司さんは、照れる事無く頷いた。

「この娘は、自分を父親と思っているのですよ」

 そしてオルトバルさんも照れる事無く言った。

「お父さんではありません、ブロウ教官は、格好いい兄貴ですっ結婚してくださいっ!」

 上司のブロウさんは片手で顔を覆った。

「昔から、お前は馬鹿な娘だったな。申し訳ありません、サリーヤ様。言動以外は問題ないので、護衛を引き続き、オルトバルが努めます。ご無礼な言動があったら、自分に直ぐにおっしゃってください」

 ヤレヤレといった雰囲気でブロウさんは出ていった。

「護衛に専念しろ」

「了解ですっ!」

 真面目な顔で護衛に戻るオルトバルお姉さん。

 まったく取り合わない所を見ると、一連の言動は冗談にもならない類らしい。

「結婚の申込みをみたような気がしたけど、幻?」

「うん、私も見た気がしたけど、気の所為?」

 たぶん、正気に戻ったら彼女は転げ回るんじゃないだろうか。


 ブロウさんを目の前にしなければ、オルトバルお姉さんに変化はなかった。

 私は獣人だけど、自分がどういった習性とか体質をもっているのかわからない。だから、お姉さんの様子を見て、若干不安になった。

 でも、リカラ氏の所から帰る時、ブロウさんが又来てくれた。

 お姉さんに一度医療検査をさせる手続きをとったそうだ。

 そしてついでに、こっそり状況を話してくれた。

 オルトバルさんの言動は、本当に特殊である事。

 怖い思いをした事。

 ブロウさんもその時死にかけて、その姿を見た事。

 あぁいう言動をしているが、要するにブロウさんの前で、子供に返っているだけで、まったく他はちゃんと判断できている。って話だ。

 大人でもあまり恐ろしい目にあうと、心を守ろうという働きが出る。だから、少し大目に見てやってくださいって話をしてくれた。


 でもさ、ブロウさんが、優しい思いやりをもっているから、お姉さんは大好きなんだと思うよ。

 そして大好きだなぁって気持ちを、生きている内に口にしておこうって考えているんじゃないかなぁ。

 だって、荷物の時もそうだった。

 また、今度、ってのは無いかも知れない。

 生きていて、また、明日ってできないかもしれない。

 だから、お姉さんの本心が口に出ているんだろうなって思う。

 けど、それはお姉さんの気持ちだ。

 違うかも知れないから、言わないのだ。

 大人のブロウさんもわかっているけど、知らないフリなのかもしれないしね。

 まぁともかく、部下思いで教え子思いのブロウさんは、さっさとオルトバルお姉さんの再検査の手続きをした。

 結婚を申し込まれて、重症だと思ったらしい。あぁ〜。

「お姉さん、頑張ってね、元気だしてね」

「ん?おぉう、元気だし」

 でも、やっぱり、加工?ってのが終わって正気になったら、きっとお姉さんは転げ回ると思うよ。



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― 新着の感想 ―
[一言] まさかのモルガーナさん! ご無事でなにより! えっモルガーナさんも焼き焼き部隊だったのか。わぁ。 まあその、加工受けなおしたら、頑張って(肩ぽん) ハーディンさんもお久しぶりです! 手で顔を…
[一言] モルガーナさん元気で良かった! ハーディンさんがホント頼もしくて 子供に特に優しい過去のアレコレに涙が出ちゃうー 頼れる格好いい兄貴ですっ!
[一言] モルガーナさんそうだったのかー!いやおふたりとも生きててよかったです。冬の狼をまた最初から読み返しているのですが、わかることが多くなってすごく楽しいです。
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