表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の梟  作者: CANDY
幸運の星
19/28

第五の選択

 井戸の争いが起きた。

 でも、前より遅い。

 セドリック様はいない。

 それでも既に井戸の争いは仲裁が入っている。不穏な事が起きていないか、ヤカナーンの方で注意してるからね。


 変化は色々ある。


 まず、遺跡近くの街、ヨランダからの乗船客がいた場合だ。

 砂船が到着してからのお調べが厳しくなった。

 そして遺跡付近からの物品の持ち込みもね。


 加えて、遺跡調査が一時中止になった。

 人の行き来を止めたのだ。

 本来なら、遺跡と調査隊がどうなっているか、早急に新たに人を派遣するところだ。

 けれど、シシルンの呪いが外に広がっているなら、それはできない。

 まずは、立ち入り禁止にし、監視を置いてからとなった。

 それは遺跡に働く全員の撤収を意味し、多くがヨランダに滞在しているそうだ。


 また、ア・メルンでも変化はある。

 リカラ・アマド氏が回復した。

 それによって、ヤカナーン内部の調べが進んだのだ。

 オルロバ様の陣営と対立する人達。

 その中から異常な者を取り除ける機会ができた。

 立場の違いで対立している人の中で、ヤカナーンそのものに害が及ぶような過激な思考の人だ。

 リカラ氏の活動に賛同する、破壊や破滅思考の人物がわかったのだ。

 これで、嵐の後の出来事が違ってくるだろう。


 そして気がついたけれど、ラウロが捕縛された事で、アデイム・ガルダ氏がア・メルンに来ない可能性だ。

 それかアデイムさんだけは来るかもしれないけれど、クゥが来ない可能性。

 クゥなら遺跡に向かう。

 当然の事に気がついて、心配になった。

 クゥの護符、護符が必要なのはクゥだ。

 今、私が持っている護符。

 遺跡の異変を調べる人に渡すつもりはない。

 誰が、正気かわからないからね。

 おかしくなっている事を灰色達が完全に見抜けるのか、ラウロの事を考えると疑問。


 リカラ氏とラウロに話を聞いた方がいいよね。

 そして、事によってはオルロバ様に、アデイムさんとのつなぎをとってもらう。


 嵐は、まだ、来ない。


「今日はオットー・カドリスの工房に行きましょう」

 と、言ったのはニラガ様。

 リカラ氏とラウロへの面会を申し出たらの返事?

 どうも、面会はできないって事らしい。

 代わりに、ルフト氏の仕事場を見に行く事になった。

 もちろん、ニラガ様が工房に行くわけではない。

 私と灰色と茶色が行くって意味。

 すでにヤカナーンの調べが入った後だ。

 今日もオルトバルお姉さんと一緒にお出かけである。

 ロレアナさんがお弁当を持たせてくれた。

 お弁当係は、茶色だ。

 最近、茶色がお姉さんに素直だ。

 荷物を括り付けられても、無心である。耳が横になってるね。

 お姉さんは、どうやら突っかかってくる茶色がお気に入りだ。灰色は気配を消して私の側に静かにしている。賢いね。


 工房は砂船の港に近い場所だった。

 アルラホテの北西部に立てられている砂船の港は、城壁を越える高さだ。

 風に強い作りって話で、奇妙な形をしている。

 係留する船を嵐の時に収容する場所は、更に北側の城の方向へ続いている。

 アルラホテの街からは見えない、外壁の外側だ。

 そして、工房は港の東北側にあった。

 倉庫街の裏だね。

 繋がれたままの馬を放すのに、通り過ぎていた。

 倉庫の一つだと勘違いしてたね。

 外見は石積みの壁に、屋根の近くに熱を逃がす窓。あけられた木の扉を見上げる。

 人通りの多い通りからずっと奥にある。

 住宅の通りからも遠くて、作業するにはいいのかな?それに港に近ければ、荷物も運び込み安い。

 ルフト氏の家からも近いしね。

 入り口に向かうと、兵士が一人立っていた。

 連絡は行っていたようで、中へと直ぐに入る事ができた。

 話を聞けば、工房の人達は全員お調べに呼ばれている。

 呼ばれているというか収容されてしまったらしい。

 一人ひとり調べるのに時間がかかっているのと、何かが憑いて広がる事を懸念してらしい。

 私には知らせない事だろうけれど、関係者の家族や知人も調べているようだ。

 考えてみれば、原因は全く予想外の遺跡の何かだった。けれど、行いは謀反、反逆だ。

 この程度のお調べで済んでいるのは、幸いなのかもしれない。

 だって、理由関係なく処刑した方が簡単だもの。

 処刑だなんて酷い?

 オルロバ様は、まだ、この状況が管理できると思っているから、お慈悲を与えているね。

 でも多くの国、領主様は、お慈悲よりも国を守る事を優先する。だから、得体の知れない何かを調べるより先に、処分して排除する。

 処刑を最初にしないのは、これからも遺跡とかかわって生きていくからだ。


 ヤカナーンの当主になりたいのなら、なってほしい。

 代わりに遺跡を守る義務を肩代わりしてくれって、きっとオルロバ様は思ってるかも。

 そんなオルロバ様は、謀反が本意では無い事に安堵できたかな。それとも関わり続ける義務がある、遺跡からの脅威を不安に思っているのだろうか。


 建物は低い仕切があり、全体は一つだ。

 入り口から左右に、遺跡関連と医療関連に分かれている。

 ルフト氏は個人の専属医師で、ここでは薬の調合や開発をしていた。

 遺跡関連は、彼が許される範囲の生物素材と出土品の中でも彼が鑑定できる物を研究。

 それぞれ助手を雇い、ルフト氏が遺跡から持ち込む物や資料、薬の素材を、工房長のオットー・カドリス氏が作業監督していた。

 カドリス氏は、現在、城の工房で治療中との事。

 どのような治療かはわからないが、どうも、不味い事になっているらしい。

 聞いたけど、教えてもらえなかった。

 たぶん、子供は聞かないほうがいい話らしい。

 そんな事言われると、想像してかえって怖いぞ。


 さて、そんな怖い現場だけど。見ると言っても、いつもどおり灰色と茶色が嗅ぎ回るだけの事だ。

 重要な書類等、危険な薬剤や物質は等の昔に運び出された後だ。

 あとは、普通の調査でわからない見落としを探すって事。

 当然、私とお姉さんはお弁当の番だ。

 暇である。


 お弁当はたくさん作ってもらっている。

 灰色と茶色のお肉類に、お姉さんと私の物もいれたとしても、最大量じゃないかな。飲み物も壺だよ。

 宴会の量に達している。

 仕方ないので、見張りと警備に残った兵士の人も加えて食べることにする。

 工房の入り口近く、お客を迎える為の場所があったので、そこにお弁当を広げた。

 入り口の兵隊さんは恐縮してたけど、温かいア・メルンで、お弁当を残すのは捨てるのと同じだ。

 なら、皆で食べたほうがもったいなくない。

 ご飯の準備をしている内に、二匹が戻ってきた。

 まだ、収穫物は無い。

 先にご飯だねって事で、皆でご飯にした。


「もともと、私は市中巡回警邏が役目だったので、ここの工房長とも顔見知りで」

 オットー氏を知ってますか?の質問したらの答え。

 つまり、オットー氏の普段の様子を知っていたので、担当になったらしい。

「元は恰幅のよい人物だったのですが、ここ半年ほどで体調が悪いのか、げっそりと痩せて」

 肉を咥えたまま、灰色も耳を傾けているのか兵士さんを見る。それに兵士さんが面白そうに見返す。

「奥方が昨年、無くなったからだろうって思っていたんです。でも、何だか工房の人達の様子もおかしい感じで」

「どんな風にだい?」

 オルトバルお姉さんの質問に、彼は灰色から視線を外すと考えるように言った。

「助手の一人、顔色が悪いのがいたんで聞いたんです。そうしたら眠れないって事をいってました。寝たら寝たで悪夢ばっかりだって」

 悪夢?どっかで聞いた気がする。

「工場長の奥方の死因は何だい?」

「衰弱死と聞いています」

 お姉さんは食べるのを止めた。

「それって自殺かい?」

「衰弱死とだけ」

「人種は?」

「人族の方ですが、詳細は私もしりません」

「どうしたんです?」

「ここの工房長は人族の長命種だ。奥方が同じ人種なら、衰弱死ってのは無い。

 残るは自殺か、魔憑きの症状で体が変化したかだ。

 悪い方に変化してるなら、奥方が灰になったか、火葬されたか確認せねばならない」

 それに兵士さんも食べるのを止めた。

「新しい法令ですね」

「あぁ魔憑きが出てから、公王勅令でだされた奴だ。勅令前でも確認した方がいいだろう」

「でも、食べてからね」

 と、私が言うと、兵士さんが笑った。


 食事の後、再び灰色達が嗅ぎ回る。

 今度は地下の倉庫の方だ。

 また、ぐちゃぐちゃにするの?壊さない程度にね。


 沢山の棚、室温が保たれるようにと風の流れもある。

 整然と並ぶ資料と保存瓶。

 出土品でもヤカナーンが収蔵しない物の標本も並ぶ。

 茶色の好きそうな謎の物体が色々箱にまとまっていたりもした。

「消毒は終わってるから、舐めても平気って話だけど、あんまりガブガブすんなよな」

 お姉さんに注意されても茶色は箱に頭を突っ込んでいる。

 特にやることもない私は、上に戻る事にした。

「お茶にでもしますか?」

「食べてばっかり」

「滅多に無い骨休めだね」

「お仕事忙しいの?」

「怪我をして休んだからね、忙しい方がいいんですよ」

「お仕事で?」

「そっ、もう嫌な事ばっかりあってね。だから、移籍したんですよ」

 等と話ながら上に戻る。

 すると、入り口の兵隊さんが交代に。

 新しい兵隊さんとも話す。

 やはり工房長とは顔見知りで、最近、自宅の方も閉めっきりだったって話を聞いた。

 それから本当に、お茶をしながら、ここで働いていた人の話を聞く。

 工房の下働きは、結構な数がいた。

 そして通いのお医者様が二人、遺跡の研究を手伝っていた人が三人。

 何れも通いの人で、アルラホテ暮らしの人だった。

 様子がおかしくなったのは、主に下働きの人と工房長。

「違いはどうしてだと思います?」

 お茶とお茶菓子もお弁当と一緒に入っていた。それを交代の兵士さんと食べる。

 焼き菓子だが、歯応えが良くてほんのりと甘い。

「お医者様がたは、通う日数が少ないですね。遺跡研究の人達は交代でルフト医師に同行していたので、工房にいる時間も短かったかと」

 工房長と下働きが、ここに常駐していた。

 そして夜間、下働きは順番でここに泊まり込んでいた。

「じゃぁ、もしかしたら工房長も泊まり込んでいた?」

「ありえますね、奥様がお亡くなりになった後、自宅は真っ暗で閉めっぱなしですから。こっちで寝起きしてたかもですね」

「工房長の机は?」

「あの中央のですよ、両方の監督をしたり来客の応対をしますからね」

 と、指さされた場所は、左右の仕切りと小部屋を分ける真ん中の通路の突き当りだ。その右手下が倉庫への階段。左手が水回りだ。

「泊まり込みの下働きの人は、何処に寝てたんだろう?」

「お嬢様、たぶん、この応接用のここですよ。ほかに食事がとれて横になれる場所がないもの」

 ここかぁ。

「どれ、ちょっと見てみるか」

 お姉さんは椅子から立ち上がると、壁の収納へと向かった。

 引き扉を次々とあけていく。

 すると下の方の収納に軽い寝具と角灯があった。

「見回り用のかな、やっぱりここで寝てたね」

「原因は何でしょうね、遺跡から持ち込んだ物でしょうか」

「何ともいえないよ、遺跡にある物で病気になるって事もあるから、運び込む品は一旦地上で保管して、日数かけて観察するって話ですよ。それにルフト医師は曲がりなりにも、本職ですからね。医者であり遺跡発掘の」

 本人ならね。

「その点を配慮して、こちらの工房も消毒をしました。ただ出土品等に関しては、破損する可能性が高いので、標本になっている物以外は城の工房に持っていったと」


 やけに自己主張の激しい仮面と目があった。

 壁に並ぶ木の仮面。

 それぞれ何だか微妙に表情がある。

 ケケケッって笑いそう、怖い。

 これも出土品。

 なんだか、変な感じだな。

 誰かがこっちを見てるみたい。

 これも持っていった方がいいのかなぁ。


「じゃぁ、これはいいのかなぁ」

 私が指差すと、お姉さんと兵士さんがそれを見上げた。

「複製品?」

「どうでしょうか」

 この応接する場所の壁には、複数の木の仮面とルフト医師の部屋にあった幾何学模様の絵が置かれていた。

「見てみますか」

 手袋のかわりに布巾を手にすると、兵士さんが仮面を壁から剥がす。

「裏側に複製とは無いですね」

「灰色ぉ」

 呼ぶと凄い音がした。

 何かを蹴倒して階段を登ってくる。確実に何かが壊れた音がした。

「ごめん、見てもらおうかって」

「まぁいいよ、ここにいる人間は、工房の人間じゃないし。緊急だ」

 何々?という感じでやってきたのは灰色と茶色。茶色も来ちゃったね。そうだよね、寂しいよね、ごめんごめん。

「これは大丈夫?」

 仮面を指差すと、灰色はちょっと変な顔をした。

 それからゆっくりと口にそれを咥える。

 兵隊さんがおっ?って顔をしたけど、そのまま灰色は近くにあったごみ箱に、仮面を捨てた。

「どういう意味だい?」

「えぇっと、たぶん、価値なし?」

「じゃぁついでに、この壁の絵は?」

 ちらっと見た灰色が、フッて鼻で笑う感じ。

 人間で言う、何いってんの?

 っていう仕草だ。

「大丈夫そうだね、ごめんよ、続きお願い」

 疲れたから、いや?

 茶色、お腹を見せても駄目だよ。早く終わらせて帰りに何かお店によろうよ、そうそう。

 二匹が再び地下に消えるのを見送った。

「よかったよ、街中の遺跡の品を追跡とか、嫌だからね」

「あぁありえますね。その時は自分たちの仕事だなぁ」

 壁を見上げてため息をつく二人。

 私はごみ箱から仮面を拾い上げると謝った。

「ごめんね、ちょっと趣味の悪い形だけど、お土産にはいいかもだし」

「壁に十二個もありますね。これ全部価値なし?」

「大層に飾ってあって、塵判定かよ」

「あっ!」

「どうした?」

「持ったら半分に割れた!どうしよう、壊しちゃった」

「あぁいいよいいよ、どうせ嗅ぎ回って壊した奴はお咎めなしだし。ついでだ、壁の塵もとっちまおうぜ」

「駄目だよ、工房のだし」

「いいですね、オラ・ゾエル様方が廃棄しろってことですから」

「そうそう」

 等と調子よく言うとお姉さんと兵士の人が、壁から仮面を全部とった。

「あれ、これ割れちゃう」

「それ複製だったら不良品ですね」

「塵だからどうでもいいよ」

 手渡された仮面は、全部半分に割れた。

 なら、取り置いても逆に煩いから、捨てちゃおうとお姉さん。

「まぁ教官にバレなきゃ大丈夫だねっ、バレても奴らが塵って言ったで通そう」

 いや、私が壊したって言うから。

 言わなくてもいいよなぁ〜と、兵士さんに同意を求めるお姉さん。それからガハハって笑いながら、工房裏の焼却炉で手早く焼く姿は、慣れていた。

 たぶん、お姉さんは教官さんにいつも怒られているんだろうなぁって分かったよ。

「灰色達が取り分けた品と一緒に、仮面の事も言っておいてください。私が割った事も」

 兵士さんに言うと、笑いながら頷いてくれた。


 工房から灰色達が見つけたのは、小さな土偶と書付が三枚。

 土偶は手のひらに握り込める小さな物で、あのシシルンに守護を与えた片翼の鳥だ。

 そして書付には、奇妙な線がいっぱいに描かれており、私が見ても何もわからない。

 成果はその程度で、後は、灰色達と街を見て歩いて終わった。


 ***


 母親が死んでから、彼は何もやる気がおきない。

 父親は家に帰らないし、別人のようだ。

 けれど職場は同じだし、顔を見る事はできる。

 工房も以前とは違って、何だか雰囲気が陰気だ。

 誰も喋らないし、食事もバラバラだ。

 どうしてこうなったのか、よくわからない。

 母が突然、死んだのも納得がいかない。

 砂にならなかったのは、天罰だと父親が言い出したのが辛かった。

 長命種だって全員が砂になる訳ではない。

 条件は人それぞれで、天寿を全うした者が良き死に様になるのだ。

 死に様だけで判断されては浮かばれない。

 あの前ヤカナーン公爵が良い例だ。

 首を落とされ、残りの体は砂になった。

 死に様が砂なら善き人か?

 冗談ではない。

 放蕩三昧で嫌味な男だった。

 それを見てきた父親が、死に様を持ち出した事が辛かった。

 こんな人間が父親だったのだ。

 死んだ母も浮かばれない。

 その母親の死も唐突だ。

 ルフト医師は衰弱が原因というが、寿命でもない。

 そして心を弱らせるような事も思い当たらない。

 さも、家族が原因という語調。

 この男は信じられないと、初めて思った。

 ずっと付き合いのあった男も、父親も、心が冷たく思いやりの欠片もない。

 そしてそんな人間を信頼してきた自分が情けなかった。

 下働きのジャックが体調を崩して、泊まり込みができないと言う。

 代わりに連続して工房に泊まっていた。

 酒を持ち込み、泊まり込む。

 特に貴重品は無いが、薬品類もあるので念の為の泊まり込みだ。

 自分が泊まるとわかると家に帰る父親。

 最近は別人のように背中を丸めて、落ち着きがない。

 最近思う事がある。

 父親が殺したのではないか?と。

 砂にならなかったのは、毒を盛ったのではないか?

 工房から薬を持ち出して。

 そんな事を考える。

 そして薬品の管理が不十分だったルフトは誤魔化すつもりなのでは?

 この考えが頭から離れない。

 だとしたら?


 母親がくれた神像が割れた。

 片翼の神像が壊れて、そうして呪いに押し負けた。



 オットー・カドリスには、息子がいた。

 息子はジュノス・カドリス。

 そろそろ初夏になるという頃に、ジュノスは工房で十二人を殺害する。

 父親を含めた下働きを中心に、そして止めに入った医師や遺跡調査の人員をだ。

 最後に、自殺をしたようで、発見者はルフト・スウェナム。砂船で遺跡調査から戻ったその日に発見した。


 死体は十三。

 仮面は壁に飾られ、それを見ていた。


 遥西にて風が吹く。

 運ばれた怨嗟と呪いが風を呼ぶ。

 そうしてヨランダにて砂船は足止めとなり、ア・メルンでは陽射しが途切れた。


 ***


「証拠隠滅成功!」

「なんで全部割れちゃったのかなぁ」

「粗悪な土産物だったんじゃないの?」

「あれ、灰色終わったの?何、仮面が気になるの、あれ、燃やして捨てちゃった。うん、いいの?いいなら、いいけど」

「げっ、燃やしちゃまずかった?」

「大丈夫みたい」

「ふぃ〜また、怒られるところだぜ」

「ごめんなさい」

「大丈夫さ、子供が触って真っ二つとか、ほんとに塵だよ」

「でもあれ、出土品でしょ?」

「でも塵なんだよな。おう、力強い頷き」

「お調べ中の工房の人達に、謝っとかないと」


 ルフト・スウェナムを語る者は現れず。

 神像が壊れる前に、オットーとジュノスは工房から引き離された。

 工房に訪れた幸運の星は二倍の輝きを齎した。

 その胸には妹を思う兄の心がうつされている。

 過去、同じように妹に与えた心と同じく、無事であるようにとの願いが揺れる。

 下卑た呪いなど、そこには届く事は無い。


 ***


 ニラガ姫様は朝一番に今日の予定を提案してくる。

 今日はここに行きましょう!って感じだ。

 そして今日はお休みですわっ!と、言う伝言を貰い。

 ついでに、ニラガ姫様のお部屋に招待された。


 ここ最近の色々と、お願いと知りたい事、教えたい事があるそうだ。

 つまり、やっと色々説明してくれるって感じかな。


 姫様の居室の一つで、奥まった北側の部屋。

 明るく静かで、人の気配は少ない。

 窓は小さくて、高価な硝子がはまっている。

 そこからは、遥か北の山が見えた。

 複雑な赤茶けた渓谷に、干上がった流れ。

 その先の遥か彼方の雪の山々だ。

 霞んだ地平は、藍色に滲んでいて、きっと深い森があるんだろう。

 その部屋には、大きな薄紅色の水晶があった。

 白い卓の上には、硝子の器に色とりどりの水晶の丸い石。

 窓の向こうの遠い山々に、大きな水晶と丸いキラキラした石。

 何だか不思議だ。

 ロレアナさんがお茶の支度をしている。

 私は灰色と茶色と一緒に座って、部屋を見ていた。

 姫様は何やら奥の棚をゴソゴソ探っている。

 そしてやっと見つけたらしい何かを抱えて戻ってきた。


「遺跡から出た記録の模写ですわ」

 よいしょと広げられた巻物には、年号と付箋がいっぱいだ。

「シシルンの出土品の種類は、神像類と生活用品が半分、残りは呪詛の品ですの」

「じゅそ?」

「そう、ノロイの品物ですわ。

 まぁ、他人を罵ってるような木切れとか、石版とかですわね」

「何でまたそんな」

「呪詛の形をした人避けですわ。つまり、暴いてはいけませんよっていう警告ですわね」

「あぁよかった、そういう理由で」

「過去の生活様式を調べたり、気候や生き物を調べるのは、大変意義のある活動ですって名目で、ヤカナーンは遺跡を調べているわよね」

「はい」

「私達の活動は、確かに学術的に重要なんだけど、もう一つ役割があるの。墓荒らしから遺跡を守る事ね。

 私達ヤカナーンを敵にしても盗掘をする者は、普通はいないの。砂漠の流通と水は命に関わる事ですからね。

 では、なぜ、ヤカナーン遺跡を守らなければならないのか、わかるかしら?」

「遺跡に人がはいらないようにする為?」

「そうね、遺跡ではなく、人を守るためですのよ」

 あぁ確かに、遺跡を守るというより、遺跡の脅威から人間を守る。なるほど、納得。

「ヤカナーンが調べるのは、どのような危険が潜んでいるかを明らかにする事でもあるの。

 他の人はきっとヤカナーンが古代の財宝を独り占めしていると考えているかもしれないわね」

「財宝があるんですか?」

「あると思う?」

 ニラガ様は笑っている。

「無いのですか?」

「それは私もわからないの。でも、私はいらないわね。

 私が裕福だからではないの。

 シシルンのお墓に埋葬されている物は、セトの五体と言われているのよ」

「セトって女神様の」

「父親のセトは、息子によって呪詛返しを受けて呪いによって果てたの。

 それでもシシルンの受けた呪いは残った。

 そこで兄のクラヴィスは、妹の代わりに呪いを受けて、塩の柱になった。

 発掘品の石版で、建国記の物を集めたものよ。ここね」

 巻物には細かな文字と絵が描かれていた。

 シシルンは泉の女神様と同じく可愛らしい女性だ。

 兄は長い髪を一つに纒め、長い杖をついている。

 そして恐ろしい姿をした男が膝をついていた。


「彼は、妹のかわりに呪詛を身に受けて、塩の柱になってしまった。

 けれど、犠牲により命を差し出した兄は、神の加護をうけた。

 だから、苦しまずに旅立ち、二度と戻らなかった」

「どういう意味ですか?」

「魂の巡る輪に戻らず、神の一部になった。だから、生まれ変わらず苦しみの世界に戻らず、そして遺体も残さなかった」

 それは何だか嫌だ。と、思った。

「まぁ言葉は悲しいけれど、つまり怨念や未練を残さずに死んだの。だから、塩の柱は残らず風に消えた。

 けれど、セトは違った。」

「死んだのに?」

「セトは、元々、妻と弟に陥れられ死から蘇った。

 けれど、生き返ったわけじゃないの。」

 私は、ハッとして傍らの灰色にしがみついた。

「それ、怖い話ですか、怖いですよね、怖い話ぃ」

「はいはい、怖い部分は省略しましょうね。ほら、灰色様が困ってますよ、飲み物が毛皮にかかって、ロレアナ、拭くもの頂戴な」

「それって死人ってのですか?」

「さぁ正体はなんであったのか、呪詛返しで力を封じられ、息子は自分と同等の報いを父に願った事で、同じくセトも塩の柱となった。

 けれど、消え去らなかったの。

 兄ならば妹も喜んだでしょうけど、兄は儚い塩の山になったのに、父親は塩の柱とは思えない醜悪な彫像」

「そんなの残ってたら、女神様も落ち着いて暮らせないですよね」

「そうよね、やっといなくなった厄介者の彫像なんて、ほんとうに塵にもならないわ。

 そこで禁域にして、その彫像に近づけ無いようにしていたんだけど、いざ、シシルンが年老いてくると、彼女と周囲は不安に思った。

 形だけとはいえ、このような姿を残してよいものかとね。

 供養すべきと考えたシシルンは、彼女の没後に、自分の墓に同じく入れようと考えたのね。

 それにセトの遺産と呼ばれる物も、彼女が死んだ後に争いの元になるかと、同じく墓に入れようと考えた。

 それが彼女の晩年の大事業となった、巨大な墓と迷宮の建造となったの」

「迷宮?」

 聞き慣れない言葉だ。

「それでこの間、燃やして処分した品ですが、その迷宮の出土品目録の品でしたの」

「あ〜やっぱり高価な品でしたか、ごめんなさい」

 それにニラガ様は笑って手を振った。

「いいえいいえ、焼却していただけてよかったってお話をしたくて」

 はい?

「迷宮出土品の中でも、呪詛が大きく神殿が受け取りを拒否する品が、一つ処分できたなんて、こちらこそお礼と報奨をと」

 はい?

「火に焚べても燃えない呪いの品ですのよ。おまけに処分しようとすると悪夢を振りまく上に、災いを招くと言われておりますの。ほら、ここですの」


 巻物の最初の方で、セトが大きな渦を生み出していた。


「セトが災いの嵐を生み出した時に使われたのが、その仮面と言われておりますの。最初は小さな渦を生みますが、それが人の命を消す度に大きな災いに育ちますの。

 大きな砂の嵐は、シシルンの故郷を砂に埋めましたのよ。

 あの仮面、遺跡から持ち出し禁止にしておりましたのに。どうやって持ち込んだのか」

「同じ品とは限らないんじゃ」

「オットーが意識を取り戻して証言しましたの。眠る度に悪夢が蝕んで、意識が歪んでいくと。気がつくと仮面の中から外を見ており、自由が失われたとね。

 仮面を割って貰った者から、意識を取り戻したのよ」

 勝手に割れました。そして怖い。

「大丈夫よ、神官様の護衛が燃やしたんでしょ。一つぐらい残してもらえたら検証できたんだけど。燃やせるうちに燃やしたほうが安全ですものね。

 ただ確認の為に、西の遺跡に現物があるかどうかを見に行って貰うようになるでしょうね。」

 上司の人に怒られてる、お姉ちゃんが目に浮かんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ