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砂漠の梟  作者: CANDY
幸運の星
17/28

さても長き旅路の末に

 ルフト・スウェナムを名乗る男は、特に何も言わずに拘束を受けた。

 私の目には、縛られているようにまったく見えない、ふてぶてしい男が見えている。

 私と灰色と茶色に凝視されて、男がちょっと目をそらした。

 これが悪の権化?

 灰色と茶色が私に何とも微妙な顔をする。

 まじまじと男を眺め回して、ふっと鼻で笑う感じかな。

 危険な感じはあまりしない。けど、本当のルフトはどうなったのか?

 答え如何によっては、クゥの敵になる奴だ。

 幸い、船の人員に不審な人も物もなかった。

 唯一の謎が目の前の人物。

 至近距離での凝視に、男は両手をあげた。

「二匹も揃えるとは、流石に偽装も通じぬか」

 現状、誰一人として、彼を別人だと認識できていない。

 と、困った状態。

 アマドお爺ちゃんの指示で拘束したのはいいけれど、彼らには本人にしか見えない。そこで灰色と茶色で面接、私は手の届かない場所で皆さんと一緒に凝視。

「ルフト・スウェナム本人は何処に?」

 私の問い、男は首を横に傾けた。

「小さいのに偉いな」

「小さいのは余計です、誰も貴方を別人と見る事ができないので」

「そうだろうな、して、どうする?」

「ルフト氏の所在。貴方の目的を教えて下さい」

「嫌だと言ったら?」

「灰色、この人、本当は悪い人じゃないの?」

 灰色の顔が更に男に接近し、瞬きもせずに見つめる。

 たぶん、二匹の息がかかってると思う。地味に怖いだろうね。

「ヤカナーンの血統と長命種の血、この二つに嘘はつかなかったでしょうが、貴方はルフト・スウェナムでは無い。

 ルフト氏の所在と、この行いの目的を教えて下さい。

 因みに、答えない場合、二匹にお願いするです」

 と、実は、囲む皆さんには、私の声だけ普通に聞こえている。

 皆さんには、きっとルフト氏が、困惑して文句を言っているんだろうな。

 私にはルフト氏の声は聞こえない。

 この不審者の声だけが聞こえる仕様。

 でも、灰色と茶色が、悪い物として排除はしていなくても、あんなに興味を覚えているという事実。

 そして、ここ数日の化け物騒ぎのおかげで、兵隊さんもアマドお爺ちゃんも信じてくれている。

「何をお願いするのだ?我を殺すか」

「そんな怖い事させる訳無いでしょ。何か悪い事しないように見張ってもらうんです」

「見張る?だけか」

 え〜いやだなぁって灰色と茶色が渋い表情を私に向ける。

「だって、その人、ルフトさんじゃないんだもん。皆に見分けがつかないんじゃ怖いでしょ」

 怖いの?

 って感じで灰色が首を傾げた。

「だって、ルフトさんに化けられるなら、他の人にも化けられるでしょ」

 私の主張に、囲む人達がざわつき、灰色と茶色が驚く。

 何でいまさら驚くのかなぁ。

 なに、その口を半開きにして、そうなのって顔。

「見分けられる人が見張るしかないでしょ」

 何、茶色、頭をふってんの。

「嫌なの?しょうが無いじゃない、どっちにしろ私も一緒に見てるしかないし」

 えっ!って顔した灰色は、改めて不審な男に顔を向けた。

 そして牙を剥き出しに。

「おい、何だ。急に」

 茶色も不満顔をすると牙を向けて男に近づいた。

「まだ、何もしていないだろうが!」

「何かするんだ」

「揚げ足をとるでない、我は身代わりに過ぎぬ」

 あっ、吐いた。

 灰色は体を震わせて唸りつづける。

 何だか焦げ臭いなぁ。

「サリーヤ様、少し下がりましょう」

 アマドお爺ちゃんに腕を引かれた。

 何ぞ?と、思っていると、灰色が喉奥で唸り、バシッと弾ける音がした。

 一瞬、目の前が光ったような感じ?

 男の叫び声のようなものも聞こえた。


 そして男は正体をあらわし、改めて拘束を受けた。


 ***


 アルラホテの神殿から、神官様が到着。

 知らない神官様だった。

 私の知っている神官様の名前を上げる。と、いらっしゃるとの答え。完全に違っていたら怖いと思っていたので、少し安心した。

 教会のオバチャンもちゃんといて、元気にご飯をつくっているって。

 時の捻れが治ったら、戻るはずだった場所。

 そこに私と二匹は戻らなかった。

 その齟齬がどう埋められているのかわからないけれど、この不思議がどうなるのか、少し、不安は減った。

 もし、教会に行って、私を誰も知らなくてもね。

 だって、皆、いるんだもの。

 いるなら、いいやって。


 さて、その神官様は、以前、ルフト氏の血統を見た人だ。

 背が低くて小太りの、何とも優しい感じの人だね。

 中央の本神殿から来ていたらしくて、もしかしたら、以前の私と会わなかっただけで、いたのかも知れない。

 ルフト氏に化けていた男を見る為、というか、もう一度見てもらう為に再び呼び寄せていたらしい。

 その神官様が牢屋に向かうのを見送って、そう、牢屋に男は送られたの、随時見張りつき。

 灰色が何かして、男は失神し正体を表した。

 そこからは騒然とした人達が、男を拘束、首輪と鎖で縛り上げて牢屋へ。

 あっと言う間だった。

 そして神官様がやってきたって訳。

 私はニラガ様の塔で二匹と休憩中。

 二匹はダラ〜ンと冷たい床に伸びている。

「でも、何故、ルフト・スウェナムとして申立をしたのかですわね」

 まぁ、たぶん、目的が違うんだよね。

 目的は遺跡だもん。

 ただ、あの男がどういう役割があるのかで、色々、考える事が増える。

 だって、クゥが遭遇した出来事に、あの男は登場していない。

 ニラガ様はウンウンと考え込んでいる。

 すると侍女の一人が竪琴を奏で始めた。

 私は、思わず、声を上げそうになって口を手で塞いだ。

 優しい茶色の瞳をした侍女の人で、ニコニコしながら窓の側で竪琴を奏でる。

 優しい静かな音色で、あの夜の間も流れていた。

「サリーヤは竪琴が好きなの?」

 ニラガ様の問いかけに、私は頷いた。

 すると今度は違う侍女さんが横笛を取り出した。

 小鳥が可愛らしく鳴くような音色だ。


 クゥは、行くなと言った。


 行っても誰もいないって。

 あれは時の捻れが見せた幻なのか、それとも無念の魂の影が、夜毎聴かせたものなのか。

 不意に悲しみがわきあがる。

 結局行かなかったけど、クゥは知っていたのかな。

 この眼の前の景色が失われた事を。

「竪琴と笛、教えてあげましょうか?」

 神官様のお調べが終わるまで、私も楽器を触らせてもらった。


「ヤカナーンの血筋で間違いなし、身元不明。と、ふざけた答えが届きましたの。同族となると拷問から始めるわけにも参りませんし、むしろ、ルフトであれば簡単でしたのに」

「姫様、ルフト氏の行方と男の目的が大問題」

「そこなのよね」

「また、灰色と茶色で聞いてみます」

「嫌ならいいのよ、今の拘束具は異端審問用のですから、人間なら逃げられませんもの、じっくりと拷、時間をかけて聞き出す事もできますから」

「笑顔が怖い」

「あらいやだ、偽装して我が城に入り込み、騒乱を招こうという塵に慈悲など。サリーヤは優しすぎますね」

「めちゃくちゃ怖い」

 そんなやる気満々なニラガ様が怖いので、神官様がいる内にと再度、男と会う事にした。


 罠にかかった獲物みたいに、ぐるぐる鎖で撒かれた姿が床に転がっている。

 口も塞がれてるから、喋れないし。

「いや、お嬢ちゃん、こいつ糞野郎でね。汚い言葉を神官様に吐きやがるから、ちょっと躾をしたところだよ」

 と、男前な言動をしているのは、神官様の護衛の人。

 長身で白金の髪をした絶世の美女って感じの兵隊さんだね。

「何だい、文句言うまえに這いつくばって詫びるんだよ、糞が」

 ただし、お口は悪い。

「オルトバル君、そんな乱暴な」

「あぁ気にしないでください、こいつ全然効いてませんから。頑丈な奴だね、おまえ、長命種で魔憑きだね。体が変わって調子こいてんだろぅが、獣人の力にも勝てると思ってんだろぅがあぁ?私はね、お前のような奴が嫌いなんだよ。わかってんのかあぁ?」

 ガツガツと蹴りをいれている彼女は、発言通り獣人の人です。美人ですが、この様子だと相当荒っぽい感じ。

「オルトバル君、オルトバル君、僕はいいけど、子供の前でそんな乱暴な言葉は駄目だよ」

「あぁ失敬、ほら、お座りしな、クソ野郎。いい加減ヤラレタふりなんぞすんじゃねぇぞ、コラ。

 こんな場所に飛ばされて、こっちは苛ついてんだよ」

「ごめんね、オルトバル君。僕、一人で来ればよかったよね」

「いえいえ、ご一緒するのは光栄ですよ。ただね、行き先が真逆だったんで」

「何処か行く所だったんですか?」

「おぉう、お嬢ちゃんごめんよ、怖かったかい?

 いやね、本当は北へ行くはずだったんで、ちょっと苛ついただけなんだよ。お嬢ちゃんも神官様も悪くないし、悪いのは、こんなところで問題をおこす、この糞なんだよっ」

 適度に痛めつけながら椅子に座らせるという妙技に、私と神官様がひきつる。

 確かに、殴られようが蹴られようが、男の様子は平気そうだった。

「こいつは魔憑きっていいましてね、普通の長命種じゃぁありません。大方が頑丈で私達獣人と同程度の回復をします。厄介な事に魔憑きは、痛みを感じません。

 拷問は通用しないし、痛みを感じないので、死ぬのを怖がらない。けっして舐めちゃぁいけませんよ。

 そして魔憑きって奴は、いろんな力を持っている。

 これが危ないっていう特徴がバラバラだ。

 何か危険な兆候があれば、喉を掻き切るか脳天を吹き飛ばすのが一番です」

 椅子に座らせてから、笑顔で彼女が説明する。

 その間も男の頭髪を握っているのが、心底怖い。

 もちろん、無反応の男もだ。

「オルトバル君、もう一度話を聞きたいんだけど。それにサリーヤちゃんも、質問してくれるって。彼女なら、きっと彼も答えてくれるよ」

「了解しました、ただし、危険と判断したら始末しますよ」

「分かってるよ、僕にも権限が無いしね」

「あのぉ」

「サリーヤちゃんどうしたの、怖い?いいよ、無理しなくて。時間はかかるかも知れないけど、僕たちで彼から色々聞き出すから」

「いえ、大丈夫ですけど。処分するほど危険なのかなぁっていうのと、ヤカナーン様の罪人だから」

「あぁ」

 それにオルトバルさんが笑顔で答えた。

 傍らの男の顔に笑顔を近づける。

「よく聞いておけよ、私はほむらの使徒だ。

 不浄は消し炭にすると誓っている。

 そしてな、私は中央軍から抜けて、南領獣人王家のモルデンに仕えている。

 人族の貴族だろうが、何だろうが、不浄は消すと神に誓っているし、王国の貴族の命令は聞かないし聞く必要が無いんだ」

「えぇと、神官様、つまりお姉さんは、信者で獣人の王家の兵隊さんだから、公爵様に確認しないで、殺すって脅してる?」

 汗を拭く神官様。

「あのね、神殿としては穏便にね、今回も済ませたいとはおもってるんだよ。だからね、そこの人、ちょっとだけ協力的に話に付き合っていただけるといいかなって」

 それに漸く男が反応した。

 瑠璃色の瞳がこちらを向く。

 不思議な色合いの男だと思う。

 これで長命種だとは普通思わない。

 けれど、獣人の特徴は全く無くて、かといって亜人でもない。

 神官様の言う通り、長命種族なのだろう。

 口輪を外された男は、数度、口の中を確かめるように動かした。

「貴方のお名前は?」

 聞くと、返事がすぐあった。

「ラウロ」

「ルフト氏は?」

 答えない。

「何故、身代わりに?」

 答えない。

 神官様の問いに答えながら、ラウロは私を不思議そうに見ていた。

 神官様は護衛のオルトバルさんを押さえるような仕草をした。

 たぶん、彼女は態と乱暴なのかも知れない。

 そういう風に様子を見ながら、神官様と質問を続けているのだろう。と、思わないとお姉さんが怖い。

「私も質問していいですか?」

「はい、どうぞ」

「ラウロは、ヤカナーンを滅ぼしたいの?」

「いや」

「ラウロは、ア・メルンを壊したいの?」

「いいや」

「でも、ラウロ。このままだと、ヤカナーン様は喧嘩を始める。たくさんの人が困る。

 そして結局、誰も幸せになれないよ」

 不思議そうに私を見るラウロは、言った。

「我は望んではいない」

 なるほど。

「じゃぁ、誰かが望んでいるんだね」

 答えない。

「ラウロは答えられないんだね」

 答えない。

「じゃぁ、ルフトさんも同じかな」

 答えない。

「ラウロの事は質問しても答えてくれる?制限されていない事なら」

「あぁ」

「灰色、ラウロは大丈夫?」

 ぬっと側に又、寄る灰色。

 流石に嫌がるラウロ。

 痛みを感じないというより、鈍いだけで感じるのかな?

 灰色がバチッとした何かは痛かったようだ。

 茶色が私にのしかかり欠伸をした。

「ラウロは私達を襲うかな?」

「いや」

 灰色はじっと見てから、私に向かって吠えた。

 平気?なるほど。

「ラウロは自由になったら、帰る?」

「いいや」

「帰れない?」

「あぁ」

「帰ったら死ぬ?」

 答えない。

「返りたくない?」

「あぁ」

「じゃぁ、このままア・メルンにいたら、悪い事をする?」

「する」

「正直だね。でも、ラウロが手を貸したのは、きっと悪いことがもっと起きないようにって考えたからかな」

 答えない。

「でもね、ラウロ。きっと順調にできると思っても、所詮人間のすることだ。

 そしてね、ここの遺跡には、万を数える流浪民が暮らしている。

 もし、私が考える目的なら、流浪民の命は、命として数えないって事なのかな?」

 ラウロは私を見ながら、不思議そうに言った。

「何をすると思っている?」

「護符が見つからなかった、だから、ラウロが代わりに来たんだね」

 驚愕の表情。

 アタリだ。

 護符の代わりに、身代わりに、ラウロが来た。

 自分の代わりにする身代わりの人形だ。

「ラウロ、ルフト・スウェナムはどうしちゃったの?

 シシルンの遺跡の呪いじゃないよね。

 だって、シシルンはこんな邪悪な事はしないよ。自分の家族を殺すような事はしないんだ」

 それにラウロは椅子から下りた。

 オルトバルさんが掴むが、彼は膝を付き、更に体を伏せた。

 頭を下げた恰好に、彼女は困惑し、神官様を見た。

「サリーヤちゃん、どういう事?」

 どこまで話す事が正解だろう?

 今まで、クゥとのやり取りや、自分の事を話さなかった。

 それがどんな影響になるかわからないし、誰が敵に回るかもわからないって思っていたから。

 それに中々信じられない話だ。

「ラウロは脅されているのかな?」

 答えない。

「ラウロは、脅されていない」

「はい」

「ラウロ以外が、脅されてる」

 答えない。

「シシルンの呪い?」

「いいえ」

「ラウロが喋ると、誰かが死ぬかな」

 答えない。

「ラウロは捕まっていたほうがいい?」

「はい」

「神官様と話せる?」

「はい」

 ラウロは拘束を緩めたまま、地下牢へ入れた。

 見張りの代わりに、護衛を立てた。


 ***


 神官様とオルロバ様、ニラガ様にアマドお爺ちゃんが集まった。

 晩餐らしき後、護衛と侍女が退出する。

 残ったのは、ホランドさんとロレアナさんだけだ。

「墓荒らしが目的だと、そんな馬鹿な」


 だよね。

 目的が遺跡なんじゃないのかなぁって伝えた。

 最終的な目的はわからないけどね。

 ア・メルンの崩壊、ヤカナーン一族の滅亡?

 まだまだ、わからないことばっかりだ。

「流浪民の街が二層に渡って広がっている場所で発掘とかできますか?」

「無理な理由がいくつかある。

 まずは、流浪民が退去する必要がある。

 労働人口の殆どを占める彼らがいなくなれば、この城塞は破綻だ。

 次に、発掘作業を限定で行った場合も、地下二層は、人間が住めない代物になる。」

 シシルンの狂気発動が、オルロバ様により抑えられたとしてもだ。発掘により罠が発動すれば、住むどころではない。そして番人は関係なく元気に活動するだろう。

「ヤカナーンとしては、ここを発掘する利益が無いのだ」

「護符とは何ですか?」

 神官様の問いに、オルロバ様は言った。

「シシルンの遺跡には護符が一緒に埋葬されている事があります。これを持っていれば、シシルンの遺跡、墓での災いが降りかからないのです」

「護符が手に入らなかったからといいましたね」

 私に向けての問いに、皆、こちらを見た。

「ルフトさんは、遺跡を調べたい。

 けれど調べる時の護符が無い。

 なら、肩代わりしてくれる人を送った。

 それがラウロさんかなぁと。

 ただ、不思議だなぁって。

 どのシシルンの墓にも護符があったとしても、発掘がすすまないと手に入らないでしょ?

 どうやって手に入れるのかなぁって。

 他所の護符でも効果があるとか?なら、どこかから手に入れてから来る?でも」

「護符は一つなんだよ、サリーヤ」

「一つ?」

「どの墓にもあって、どの墓にもない。だから、墓を発掘しても見つからない事もある」

「どの墓にもあるって思ってました」

「どの墓にもあるだろう。だが、誰かが手にしていると、他の護符は手に入らない。シシルンが見せる幸運の星。幻であり、幻でないと言われている。誰かが先に、何処かの遺跡、墓で手に入れていれば、それ以外の護符は手に取る事ができない。その護符の役目が終わらなければ、他の護符を手に入れることができないのだ」


 あの時、クゥの時間、護符を誰かが使った後だ。

 私の時間にもなかった護符だが、手に取れる状態だ。

 それが戻り、今、クゥが所有している。


「よくわからないのですが、その護符が無く、遺跡に入るとどうなるのでしょう」

 神官様の問いに、双子のヤカナーン様は答えない。

 皆、もしかして知っているのかな?

 アマドお爺ちゃんも知っているのかな、たぶん、知っているよね。

 死んだ人達は知っていた。

「サリーヤはどう思う?護符が無くて遺跡に入ったらどうなると思う?」

 ニラガ様は、困ったように問いかけてくる。

 言わないほうがいいのか、言ったほうがいいのか。

「私も聞きたい」

 オルロバ様は、苦笑を浮かべていた。

「シシルンの遺跡について、前に聞いたことがあります。

 その人はホルホソロルで遺跡に詳しい人です。ジュミテックから護衛で遺跡に行っていた人です」

 なるほどと、オルロバ様が頷いた。

「遺跡には番人がいます。そして罠もいっぱいです。

 護符があったら、避けて通れます。

 でも護符がなかったら、番人に襲われ、罠にかかります。

 ラウロは露払いの為の身代わりです。

 でも、ア・メルンには護符が無くて良かったです。」

「どうしてかな?」

「全部の罠を踏み抜き、全部の番人を呼び覚まし、ア・メルンを壊す事ができなくなりました。同じことをラウロがしようとしても、その前にラウロが死にます。だから、今回のラウロの役目は、入り口を探す事と、ヤカナーン一族様の内部分裂?」

 それにニラガ様とオルロバ様が顔を見合わせた。

「遺跡に潜る時は、信頼する相手と潜る事。罠を利用して相手を殺しにかかる輩もいる。シシルンの遺跡は、呪いがあるからって。それを有利に利用できる護符が、悪い相手に渡っていなかった。その証拠がラウロです。あの人がいつから入れ替わっていたのか、ルフトさんがいつからおかしくなっていたのかが問題」

 クゥを偽物と呼び出したのは何時なんだろう。

「サリーヤは賢いねぇ、ちっちゃいのによっぽど大人より分かってる」

 それは前情報があるからですオルロバ様、あとちっちゃくねぇです。


 言わなかったけど、ラウロが送り込まれた事ではっきりした事がある。

 目的が、シシルンの呪いによるア・メルンの崩壊ではない事。

 たぶん、護符まで手に入れて遺跡の底まで到達したかったんじゃないかな。

 シシルンの呪いを押さえる血を殺してしまったから、相手は護符でごり押しに切り替えたんじゃないかって。

 ヤカナーンもア・メルンも終わりにするのが目的じゃなくて、あくまでもシシルンの墓に行きたかった。

 これじゃないかなぁ。

 だから、今回も内紛を煽って、ラウロを送り込んで、機が熟したら墓に潜る。


 墓の中身は、武器なのか財宝なのか。

 あの呪われ具合、狂気に陥らせる感じからすると、呪いの墳墓らしい品が出てきそう。

 私だったらいらないなぁ。


「これでルフト・スウェナムの親族申立は消えて、あのラウロの身元を確かめる事になった。

 ただ、そのルフトの行方がわからぬ。

 父親のアスラムに連絡をいれねばならん。」

 それから、と、オルロバ様は言った。

 彼の家を調べると。


 次の日、神官様に声をかけられた。

 午後から街へ行く予定。行き先は調べ終わったルフト氏の家。今は、ご飯前で暇。神官様は、ラウロの尋問の休憩時間中らしい。

 話があるとのこと。

 神官様はリプアさん。

 短命人族種で、もうすぐ地方神殿の神殿長になるんだって。

 灰色と茶色に嗅ぎ回られて、時々突かれているが、優しい人なので怒らない。

 怒っていいですよ。

「私に同じことしたら許さないよ」

 オルトバルさんに突撃しようとした茶色が止まる。

「毛を毟られたくなかったら、止めな」

 無表情で彼女が言うと、茶色がフッと顔をそらした。

「あと、後ろから飛びかかったら燃やす。他の女に同じことして転がそうとしたら、燃やす。いいね」

 そんな事しないも〜んって感じでこっちを見るけど、よく侍女さんに飛びかかってるよね。

 灰色は最初からやらない。

 怒る人は分かっているようだ。

「あと、この人間もそれ以上からかったり転ばせたら、許さないよ。これは私の群れだからね、わかったかい?」

 リプアさんを指差して、彼女が灰色に言う。

 灰色は神妙に頷いた。

「よし、じゃぁちょっと台所に行こうぜ、何だか美味い肉が入ったって言ってたからね。ん?お嬢ちゃんが心配。ならどっちか来いよ、貰ったら戻ってくればいいんだから」

 茶色が行きたそうにしているので、送り出す。それに灰色が大きなため息をついた。

「で、お話ってなんでしょうか?」

 神官様は何か言い渋っている。

 ここは一応、私が充てがわれた部屋になる。

 大きな窓に涼し気な布が下がって揺れていた。

「サリーヤちゃんは流浪民の集団にいたそうですね」

「はい」

「親御さんは?」

「わかりません。顔も覚えてないです、母親らしき人と一緒だったはずなんですけど、それも覚えて無くて。」

 それにリプア神官様は、う〜んと唸ってから、懐から紙を取り出して何かを書きつけた。

「私は、審問官の能力もあるんですが、神官の仕事が好きでね。だから、名付けや見極めもよくやるんです。そして、時々勝手に見えてしまう。」


 余計なお世話かもしれないけれど、と、言って彼は紙を手渡してきた。

 書かれている内容は、私の名付け、誰の血統かって事。


「ついね、この間、見た人と同じ流れが見えてね。たぶん、サリーヤちゃんの血族だと思うんだ。」


 私の親族、同じ血の流れ魂の形が見えるって人の名前と血族、それに暮らしている場所が書かれていた。


「えっと、これが私の家族って事ですか?」

「うん、こんな話を急に言っても信じられないだろうけど、こう見えて、僕は中々、見る事がうまいんだ。信じられないようなら、他の審問、いや、君の連れに相談してみて」

「連れ?」

「君の一番側にいる連れの」

 灰色が面白くなさそうな顔で私の頭に顎を乗せた。


 南領東部地域の人だ。

 リーヌス・セルバ


「ただ、問題もある」

「この人、犯罪者とか?」

「違う違う、逆。お金持ちで貴族だ」

 予想外。

「お金持ちで貴族で、独身なんだ」

「その人の親族って意味ですよね」

「この人の、実子だと僕は考えてる。だから、賢いサリーヤちゃんだと意味がわかるでしょ」

「お金持ちで貴族で、独身の人の隠し子」

「そしてね、彼の親族も当然、お金持ちで貴族なんだよ。君の幸せを考えると、中々。知らせないのも危険だし、知らせたら、サリーヤちゃんも大変な事になるし」

「もしかしてオルトバルさんを外したのは、けっこう有名な人なんですか」

「貴族だからね」

「人違い」

「だったらねぇ、僕も黙っていたいんだけど。さすがにこの人物ぐらいになると、黙っておくのはサリーヤちゃんも相手の人にも不利益になる。認める認めないじゃなくて、事実だと思うからね」

「本当、うん、疑うわけじゃなくて」

 それにリプアさんは言った。

「こういう話は疑いなさい。僕が神官でもね。

 神殿やここの方々、それに君の連れに相談してから、色々行動してね。

 ここで君に知らせたのは、僕が次に移動する時に、連絡をすると思うからだよ」


 私の明日も変わったようだ。

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