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砂漠の梟  作者: CANDY
幸運の星
16/28

アナタは誰ですか?

 蜘蛛騒動の次の日、ニラガ様がお休みの日にしましょうと言った。

 灰色と茶色が朝から機嫌が悪くて、部屋で伸びていたからだ。

 でろ~んって伸びてて、ご飯もいらなぁいって感じ。

 病気になったのかもと慌てていると、ニラガ様が来た。

 今日も朝から神々しいお姫様は、転がる二匹に言う。

「あらあら、そうですわよね。サリーヤと遊びたいですわよね。美味しい物を食べて、自由に走り回って遊びたいですわよね。そうそう、今日はお休みにしましょう。

 サリーヤも自由にしましょう。

 誰か、私の可愛い従姉妹に外に出る準備をしてちょうだい。

 それからお二方には、輝く幸運の星を送りますわ」

 そういって準備されたのは、星型の鑑札だ。

「これで、どこのお店に入っても支払いはお兄様個人が行うと証明できますのよ。サリーヤが欲しいと思う物は何でも用意できましてよ」

 何いってんの、怖い。

「いらないです、姫様」

「あらあら、お手伝いのお給金ですわよ。サリーヤも見たのでしょう?あんな異物が兵士に混じっているなんて、恐ろしいこと。灰色様や茶色様は、よくお働きになってくださったのです。存分に、兄様の財布から毟ってくださいませ!」

 ウフッっとか可愛く笑うけど、オルロバ様の日頃のご苦労が見える。

 それから二匹は星型の鑑札をおとなしく付けてもらうと、急に元気になった。尻尾をたてると、ソワソワしてウロウロ。

 時々見に来ていた、この緑光庭園にいる女の人達や子供に、急に愛想が良くなった。

 それまでは無視か、でろ~んだった。

 駄目犬の見本みたいに、ご飯以外反応なしだったのだ。

 それが子供を見かければ、ガウガウと喋りかけ、女の人を見かければ、胸の鑑札を見せている。

 何だろう、恥ずかしい。

 こういう子供いるなぁって。

 そう言えば、灰色は人間が嫌いって態度、あまりみなくなったなぁ。

 今も、いつもどおりだよ。

 跳ね回って庭園の花とか食べちゃってるし。

 で、そんな感じで外に行くことにした。

 やっと外に、街の確認に行けるのだ。

「帰りは日没までに正面の方へ。それから一人だけお供をさせますが、誰が良いですか?」

 困った、誰でもいいんだけど。

 すると、ウォンと灰色が吠えた。

 吠えて急に部屋から出ていった。

 そして暫くすると、一人、咥えて帰ってきた。

「何してんのぉ!」

 もう、床に伏せて謝ったら、灰色が驚いてお爺ちゃんを口から放した。

「いや、驚きましたが、大丈夫ですぞ」

 兵隊さんが追いかけて来てるし、灰色は賢いと思ったけど、こんなところでお馬鹿さんになるとは。

「ごめんなさぃ」

「ほほほっ、じゃぁ爺やが、サリーヤのお供ね。

 爺や、サリーヤが今日は外にでるわ。一緒にお願いして良いかしら」

「はい、もちろんにございます。謹慎中の身ではありますが、精一杯勤めさせていただきます」


 行き先は二匹の自由。

 私としては公園の様子、神殿、教会のオバチャンに神官様達。アルラホテの水売りの元締めの所、下の十七番井戸に、西の通路、それの確認がしたい。

 でも、アマドお爺ちゃんが一緒だから、保留だね。

 二匹がガウガウしながら先導する。

 私とお爺ちゃんが後からついていくって感じになる。

 主に茶色が何かを発見、突進。

 食べ物か変な動きの物に興味を引かれてガウガウ。

 灰色も合流。

 買い食いして、発見、突進、時々、街の人に絡む、やめろぃ。

 という周回作業。

 アマドお爺ちゃんを休ませながら、私も食べ物をいただきながら、セルナトからアルラホテに入る。

 馬車や獣車に荷車、人の行き来。

 改めて感じる、人の流れや喧騒が、とても素晴らしく見える。

「ニラガ様のお達しで、色々話す事を禁じられておりましてな」

 アルラホテのお茶のお店に腰を下ろす。

 二匹は噴水に堂々と浸かるという暴挙を実行中。

 それを私達は眺めていた。

 そして街の人は、何故か二匹に投げ銭してお祈り。

 何だろう、私の知らない風習があるらしい。

 流浪民って案外、そうした地元風習から離れてるから、知らない事があるんだよね。っていうか、お前ら、温泉じゃないんだからいい加減にしなさい。

「それでも、貴女と一度話そうと思いました。

 サリーヤ様、何かお困りの事や、気にかかる事はありますかな?」

 もう、十分、お世話になってます。ほら、お前ら、近寄った子供に水を掛けるんじゃない。

「私の受けた恩をお返ししたいのです。

 私は、真実から目を背けておりました。その間違いが、何に繋がるかも考えずに。

 ですが、貴女が希望を運ばれて、私はやっと息がつけました」

「何もしてないです、してるのは、灰色と茶色」

「違いますよ」

 アマドお爺ちゃんは、お茶を飲むと続けた。

「オラ・ゾエルは恵みを齎しますが、多くが怒りで消えるのです。その怒りは人との繋がりで変わります。

 例えば、貴女が彼らを犬として可愛がる。それだけで彼らの中で人間像が良くなっていく。これだけでも、私達は十分恩恵をうけるのですよ」

「逆に、二匹に世話になってる場合は」

 それにアマドお爺ちゃんは笑った。

「仲良くしてるだけで十分ですよ。

 彼らは保護した子供を大切にします。

 それだけで彼らの理性は戻るでしょう」

「ある人が、二匹をイルキステとノモメナスって呼んでいたんです、それってどういう事なんですか?」

「ほぅ、それはニィ・イズラですね」

「ニィ・イズラの人が、そう呼ぶって事ですか?」

「ニィ・イズラの儀式は、オラ・ゾエルが認めるかどうかです。

 オラ・ゾエルには数種類の群れがあるそうで、その群れごとに付けられた名前ですね。

 知能が高く、武器を使用する相手、つまり人間相手でも怯まぬ群れがイルキステ・オラ。灰色様のような毛皮の個体ですね。

 そして好戦的で尚且、火薬や火などにも怯まない群れがノモメナス・オラ、茶色様のような毛皮ですな」

「南の人だと知っているって事ですか?」

「砂漠地方だけですな。神獣として神殿が認めたのは古いのですが、生息地域が大砂蟲の巣がある奥地です。

 ニィ・イズラを含めて、その生息地域で活動する人間そのものが少ないのです。ただ、時々、怒りに触れる行いをする罰当たりが天罰を受けるのです」

「天罰?」

 温泉に浸かるように、噴水に浸かって、頭だけ縁にのせてる犬どもが?

「彼らの仲良くしていた村に盗賊が来れば、彼らは縄張りをあらされたと激昂します。

 彼らの立ち寄る水場で、諍いが起こり戦争があれば、彼らは邪魔者が出たと怒り狂います。

 そして、彼らが保護した子供が、たまたま通りかかった商隊に拾われでもしましょう。

 善意であっても何も知らずに、連れ去られれば、彼らは群れをなして追いかける。

 話し合いの余地があればよいのですが、勘違いの末、兵士との戦闘になれば、無残な結果になります。」

「灰色達が殺されちゃうって事ですか?」

「まさか」

 アマドお爺ちゃんは、茶菓子を私にすすめると、ため息をついた。

「大砂蟲を見たことがありますか?」

「直接は見たこと無いです。皮とかお店で見ました」

「奥地の大砂蟲は、大型の砂船より大きいのです」

「山が動いたって船乗りの人が言ってました」

「オラ・ゾエルは、それを殺すのです」

「どうやって」

「私にはわかりません。本当かと言われても、聞き伝えですからね。」

 見えない。

 お肉大好きの犬である。

 一緒に寝て、涎をつけると、しょんぼりするけど我慢してくれる賢い奴で。時々、お腹を出して寝たりもする。

「難しく考える必要はありません、貴女と犬は仲良しである。これだけの話です。ですから、周りの者の事は気にする必要はありません。

 ただ、その仲良くする貴女も又、オラ・ゾエルと同じく、良き幸運の星なのです」

 じゃぁ灰色と茶色の元の飼い主?はどうしたんだろう。

 探しているのかなぁ、でもどうして彼らも一緒だったんだろう?

 誰もいないア・メルン、動物は取り残されていた。

 その所為なのかなぁ?

「それで、何かお困りのことや、気になる事はありませんか?私でよければ、相談にのりますよ。

 何しろ、今は謹慎中で公務復帰は未定ですので」

 筆頭家臣謹慎中。

「今は誰がその穴埋めを?」

 毒殺の頃は、息子さんが代役、そして虐殺になった。

「今は誰というわけでもありません、家臣団全員で事に当たっております。今は、単独での采配も行動も良くないとの事で、人員は割かれますが、誰か一人に責任を置かないような采配にしております」

 よかった、そこも変化した。

「じゃぁ西の遺跡ってどんな所ですか?

 そしてルフト・スウェナムさんのお話を聞きたいです。」

「では、一度、私の屋敷に参りましょうか。外でするお話でもありませんし、資料がありますから。

 お二方、聞こえておいでですかな、我が屋敷にご招待したい、いかがかな?」

 それに灰色は立ち上がると体の水分を盛大に吹き飛ばした。

 近場の人達が濡れたぞっ!

「こらっ、ブルブルする時は、まわりにかからないような所に行ってから」

 茶色が飛び跳ねながら、少し離れた場所で水気を飛ばす。

 うし、おりこう。

 濡れた人に謝れ、謝らなくて大丈夫?いえいえ、躾が大事ですから。はい、いえ、そんな。

「何故に、喜ぶのでしょうか!」

「縁起が良いですから」

「何でもありなんですか!」

「ははは、特に子供の場合、舐めて貰えると無病息災と」

「毎日舐められてますが、臭いだけですっ」

「ははは」


 ***


 あのお家だった。

 そして走り書きの人は、人族の男の人だった。

 家令のストムウェルさん。

 ガッシリとした大柄の男の人で、アマドお爺ちゃんのお屋敷の殆どを取り仕切っている。

 使用人はお屋敷の大きさの割に三人なんだって、ストムウェルさんと料理人と雑役の人。

 そして他の二人がお休みの時は、住み込みのストムウェルさんがお料理とかお掃除までする。

 何でもできる人なんだね。

 小さな頃から、アマドお爺ちゃんのところで働いてきたんだってさ。

 で、アマドお爺ちゃんの奥さんが無くなって、息子のリカラが家を出て、ちょっと寂しい感じにお屋敷がなって、使用人を減らしたんだって。

 なるほどぉってお話を聞いていた。

 アマドお爺ちゃんが色々資料を集めてる間、お菓子と肉を用意してくれた。

 もちろん、肉は犬用。

 お菓子は初めて見るフワフワの柔らかいやつ。

 ストムウェルさんの手作り。

 今日は料理人さんのお休みの日なんだって。

 このフワフワは何でできてるのかなぁ。食べると溶けるのだ。

 美味しぃ、これは頭の中が美味しいに占領される。

 はっ、また、贅沢をしてしまった!

「お嬢様のおかげで、主様の懸念も払拭されました。お礼申し上げます、また、坊ちゃまの事でも、お慈悲をいただきまして、どう、御恩をお返しできればと」

 何もしてないのです。

 私は何もしていないのです。心苦しくてお菓子が食べれなくなるので止めてくださいなのです。

「おかわりはいくらでもございますよ。お腹を壊さない程度にどんどん、そうですねお土産にいたしましょう。そうしましょう」

 話をきくのですよ。あっ!

「息子さんのお腹の蟲はどうなったのですか?」

 それにお菓子を切り分けていたストムウェルさんは、手を止めた。

「主様から何かききましたか?」

「聞き忘れてました」

「ふむ、たぶん、この後お話になると思いますが、お嬢様のおかげで、良き方向へと話が進みましたとだけ」

 蟲が完全に取れたのかな、ってあれ覇王樹に化けてた寄生生物みたいだよね。やだなぁ。

「さぁ、こちらは中に果物が入っていますよ」

「いえ、そんな、はい、美味しいです」

 材料を聞いたら、とんでもなく贅沢だった。

 食欲が落ちていたアマドお爺ちゃんに、栄養のある物をって考えてたんだって。

 だから、砂糖とか動物の乳とか、あとは植物の香料に香辛料など貴重で高価な材料が贅沢に使われていた。

 存分に食べました。

 遠慮という言葉は旅にでました。

 開き直ってお茶を飲んでいると、アマドお爺ちゃんが戻ってきた。

「お待たせしましたな、ストムの菓子は美味しいでしょう?店を持てと言っているんですが」

 等と言いながら、資料を長卓に並べた。

「どちらのお話がよろしいですかな?」

 西の遺跡の話も聞きたいけど、先に聞きたいのはこっち。

「ルフト・スウェナムさんを、灰色と茶色に見てほしいってお話でした。だから、ルフトさんの事を教えて下さい。」


 ***


 彼がア・メルンに来てから、二十年以上たっている。

 ルフトさんは、生き物を軸に研究していた学者さんなんだって。

 お医者で遺跡探索とかしてるから、そういう学問の人かと思ったら、まったく違う人だった。

 お医者の勉強は、国の援助が受けられるから。

 そして遺跡への同行は、ヤカナーンの援助が受けられるから。

 で、本当に研究したかったのは、南部地方の生物研究で、主に生き物でも菌類っていうのを調べてたんだって。

 あの覇王樹みたいなのも得意分野なんだって。

 お医者として数年発掘に参加している内に、どうも遺跡内の生き物に興味がわいたみたい。

 そこから発掘調査隊の生き物研究専門になった。

 当然、生き物、には例の番人とかも含まれているんだろう。詳しくなったんだろうなぁ。

 それに、西の遺跡群での調査なら、ニィ・イズラは同族だし親兄弟がホルホソロルだから、護衛部隊とも仲良くできる。

 仲良くってのは、クゥも言ってたけどシシルンの遺跡に関しては重要だからね。

 で、今までは、何の問題もなかった。


 ところが、今年になって、彼は突拍子もない事を申し立てた。

 自分がヤカナーンの血族であると。


「利益は何ですか?」

「そうですね、単純に相続財産とア・メルンでの権利が得られるでしょう。政治への参加もそうですが、様々な一族としての権利を与えられる事になりますな」


 当然、その申立に特別審判が行われた。

 特別審判とは、国が行う調停で審判官が取り調べを行うという事だ。

 そこで招待されたのが、二級審判官だ。

 等級があるんだって。

 一級は政治や重犯罪者専門の人で、人の意識や記憶を読み取れる人なんだそうだ。

 そんなびっくりな人が存在しているらしい。

 その一級は貴重だし、そうそう呼び出せるものじゃない。

 だから、次に嘘を判定できる、二級の人を呼んだ。

「それでも獣人のルフト医師には、不安でしたな」

「どうしてです?」

「二級の判定をなさる方は、相手の体の変化で判断するのです。体温や呼吸、心拍などを読み取れる方なのです。

 獣人の方の肉体変化を読み取ったところで、それが緊張や興奮とは限りません」


 ここで言う、肉体変化は、獣人の擬態能力のことだ。


 獣人には、重量獣種に中量、軽量、という分け方がある。

 私は亜獣人で軽量型、擬態と呼ばれる人型から、獣の姿にはなれない。

 中量獣種から、擬態を解いて、獣の姿になれる。

 更に重量とよばれる大型種は、四足歩行や著しい肉体の変化を行える。

 と、まぁこの他にも超重量種、先祖返り、超軽量って具合に色々あるんだけど、肉体を変化させる事は、獣人には当たり前って訳だ。

 軽量の私でも、人より多く重いものは持てるし、暑い気温に耐えられるのもそのせいなんだ。

 だから、二級だと誤魔化される可能性があった。


「そこで血筋の読み取りも再度行いました」


 ルフトは、そこで長命種人族の血であり、嘘は無いと判断された。


「それでもありえないと、皆思ったんですね」

「身元が確かだからこそ、これまでの経歴があるのですよ。どうやって留学するのでしょうか?

 どうやって官吏になる事ができるのでしょうか?

 彼はずっと真面目に生きてきたのです」

「真面目な人なんですね」

「だからこそ、私やヤカナーンの一族は、主治医としても受け入れたのです」

「お薬は」

「毒を仕込んだのは、息子ですな。そのリカラに薬を渡したのはルフトだと」

「理由は何と?」

「わからない、というのですよ。そのまま窒息させてやろうかと思いました。親を殺そうとしてわからないとは、せめて何か恨み言でも言うのかと」

 アマドお爺ちゃん怒ってる。体に障るからとストムウェルさんがオロオロ。

「あの蟲は何だと?」

「記憶が混濁しているようで、ただ、西でだそうで。もしかしたら、前回の調査は失敗したのかもしれませんな」

「今まで、こんな事は?」

「罠や事故で亡くなった者はおりますが、あちらから何かを持ち込んでの、このような事態は初めてで。こうなると何もかも、疑わしく」

「変化は何時頃からでした?」

「年始めに戻った頃は、特段何も。前回の調査後でしょうか、申立も帰ってきてすぐでしたな」

「息子さんも調査隊で?」

「えぇ、息子は調整役でしたな」

 アマドお爺ちゃんは、疲れた笑いを浮かべた。

「サリーヤ様のおかげで、息子は帰ってまいりました。言い訳ができるだけでもありがたく、また、心が救われました」

 いや、本当に、何もしてないですよ。そこ大事。

「体の具合はどうですか?」

「さぁ、半分ほど喰われたようですが、あれでも長命種でございますから、早々死にはしないでしょう」

 半分ほど内臓がとか、怖いです。


 それから肝心のルフト・スウェナムの外見を聞いた。

 獣人族重量種、クゥと同じ大型の獣人。

 南部獣人に多い、緑がかった浅黒い肌色に赤い髪。

 金色の瞳に四角張った顔、一見、強面風だけど、お医者様らしく落ち着いた感じの男だ。

 父親のアデイムさんは髭を生やした厳しい感じだったから、似ているんだねきっと。

 そのまま軽食を食べながら、西の地域の話になった。


 まず、ア・メルンは中央大陸オルタスの西に位置している。

 大まかに、北が人族支配地、南が獣人支配地、二つを統合して中央王国となる。

 その西側の地域で、北と南を分けるように砂漠が広がっている。

 その砂漠の際にあるのが、交易都市であるア・メルン城塞。


 ヤカナーン公爵の領地は、このア・メルン城塞と飛び地のソロン領ヨランダ地区のみだ。

 耕作地も無く、本来なら領地としては最小となる。

 けれどア・メルンは重要な砂漠越えをする砂船の発着地点である。交易と税収入、水の権利などで十分な収入を得ていた。

 さて、ヤカナーン公爵は、西方辺境伯率いる辺境貴族派であるが、飛び地であるソロン領ヨランダ地区は、南部の獣人支配地である。

 ソロン領は乾燥地域と砂漠で、西方辺境伯の支配地域と獣人領支配地域が混在している。

 しかし、不毛の土地が殆どで、その地域全体を名目上はソロン領としているが、住人も治安維持も獣人王家が担っている。

 つまり、両人種が比較的協力し仲良くしている。


 そしてヤカナーン公爵の土地とされているヨランダ地区も、実質獣人社会であり、ヨランダの街の住人も獣人が占めている。

 では、何を公爵が専有支配しているのか、そう、遺跡だ。

 学術調査とヤカナーン公爵がシシルン、元の王家の血流であるとして、古代の遺跡の発掘調査をしている。

 つまり、ヤカナーン公爵の土地は、その遺跡なのだ。

 ヨランダ地区といっているが、そのヨランダ地区の中の遺跡が正確には公爵の土地で、その他は南部の獣人王家の支配地なのである。

 ややこしいが、つまり、西方辺境伯の土地の円と南部獣人貴族の土地の円が重なり合っているのが、ソロン領。

 そしてそのソロン領の中のヨランダ地区の一角にある遺跡がヤカナーン公爵の土地なのだ。

 では、このヨランダ地区は何処にあるのか?

 アマドお爺ちゃんに地図を見せてもらった。


 北にア・メルン。

 南に向かって扇型に砂漠が広がってる。

 砂船の航路が描かれていて、真ん中を割るようにはしり最後に東に曲がっている。

 西側に岩山が続き東側も点在する岩の山があるため、砂の渓谷を渡る感じだろうか。

 遺跡は西側の岩山の中程に記されている。

 そしてそこから少し東、砂船の停留地にヨランダとある。

 そこから更に東に行くと山に湖と南部らしい密林へと繋がっているようだ。

 ヨランダから更に砂漠を南下するとジュミテック城塞があり、そこを経由して東の南都へと航路が曲がる。

 色々書き込まれた地図によれば、更に西寄りの南下すると砂蟲の巣があるそうだ。

 クゥのいる、ニィ・イズラの暮らす場所は何処だろう。

 聞いてみたら、砂漠の南側に広がる山の近くだった。

 結構遠い。

 そして遺跡は、思ったよりア・メルンから近かった。

 砂船で三日ぐらいとの事。

 砂船の航路は、ア・メルンからヨランダ、ジュミテックとなる。

 途中に数箇所の中継地があるが、大凡が砂地をとおる岩盤の上にとられている。

 砂蟲の活動範囲から遠くするためだ。

 ヨランダとジュミテックを経由するのは、水の補給が可能な比較的大きな街と城塞だからだ。

 南都までの飛行日数は、二十日前後である。

 砂嵐や砂蟲の繁殖時期などにあたる場合は、欠航となる。

 しかし、東廻りや海上よりは格段に日数は節約できていた。

 ア・メルンの繁栄は、続くという事だね。


 そんな話をしてもらった日から、数日後。

 人員入れ替えの為の遺跡調査隊が戻る。

 砂船はヤカナーン公爵の持ち船で、定期航路便とは別だ。

 北側の城の停泊所に船が入ると、そこで改めが終わるまで荷降ろしと人員を留めた。

 先ずは、普通の検疫と同じく、役人の乗船検査が行われる。

 それから、停泊所別室に一人づつ誘導を行い、ここで灰色と茶色に見てもらうって話に。

 ただ、今回、その別室中二階部分で、私と灰色と茶色は控えている事に。

 直接会わないで、見るに留めるそうだ。

 まぁ、私達の滞在は直ぐにわかるだろうけれどね。

 それで乗務員や発掘調査の人達を一人づつ部屋に通し面談となった。

 彼らに今回のこうした検疫について、どう説明したのかはわからない。

 けれど、いつもと違う物々しさに、呼ばれた人達は硬い表情だ。

 でもさ、異変があるなら遺跡周辺にも知らせないとね。物々しくもなるよ。

 と、見ているとアマドお爺ちゃんが言った。

「ルフト・スウェナムです」

 灰色と茶色に反応はない。

 私は入ってきた男を見て、南の装束だなぁとぼんやり思った。

 だって、お医者様で研究者なら、もっと役人めいた恰好かと思っていたのだ。

 でも、男は半裸に砂漠用の服を着ていた。

 そして武器は大きな棍棒とも杖とも見える長い棒だ。

「アマド様、あれ、誰ですか?」

「ルフト医師ですな」

「あれ、人族の方ですよ」

「はい?」

「肌の色が茶色ですね、そして髪の毛は白いです。瞳の色は上からだと見えませんね。

 どうみても、獣人にみえません。」

「ルフトです、が」

「赤毛ではありませんね。白く染めたんでしょうか」

「赤毛ですが」

「半裸で下だけ履いてますね。武器は大きな戦棍とかいうのかなぁ。入れ墨が左の腕にありますね。灰色、危険かな?」

 何が?という顔をされる。ふむ。

「あれは悪い物?」

 灰色は反応しない。

 悪くはないが良くもないって事かな。

「あれはヤカナーンの一族かな?」

 それに灰色は吠えた。

 肯定の短い答えだ。

 茶色は飽きて自分の尻尾を噛もうとのけぞってゴロゴロしている。おい。

「私にはルフトに見えますが」

 アマドお爺ちゃんが蒼白になっちゃった。

「ガラの悪い南部の破落戸ごろつきみたいな恰好をした男に見えます。入れ墨と装身具は結構派手ですね。

 でも考えてみれば、あれでもし長命種なら、審判官の判別も無理がない」

 と、言ったら、お爺ちゃんが外の人を呼んだ。

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