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砂漠の梟  作者: CANDY
幸運の星
15/28

悪魔と呼ばれる神の獣

 初めて食べる果物だ。

 緑の皮に緋色の果肉。

 ほんのり冷たくて甘い。

 うぅん、贅沢になれると困るな。

 誰もいないア・メルンでも、勝手に漁って贅沢してたし。

 もし、クゥの十日が無事に終わって、普通の暮らしに戻ったら困る。

 今後の課題は、いかに楽しくお安くで量を食べるか。

 賄い付きのところで働くのもありかなぁ。

 でも、先に確認が必要な事がある。

 ア・メルンの水売りである私は、いたのか?って事。


 泉で目覚めなかった私。


 護符を手に入れたクゥは、自分が元に戻ると思っていた。

 あの終わりの世界に。

 でも泉で目覚めなかった私。

 それはクゥにも言えるはずだ。


 クゥは護符を手に入れた。


 それは護符を手に入れられなかったルフト・スウェナムの世界になったって事。

 ただ、この時期だとは思わなかった。

 墓荒らしをする前に、どうやって護符だけルフト・スウェナムは手に入れたのか?


 誰もいないア・メルン、私は嵐の後だと思っていた。

 そもそも、そこから違っていたのかもしれない。


 クゥは墓に到達後に護符の力を借りて、ルフトが崩壊を引き起こしたと考えている。

 だが、巻き戻るのは変化のあった時間だ。

 ルフトが護符が無いとわかる時間だ。


「美味しいですか、サリーヤ」

「おいしいです」

 たぶん、オルロバ様と差し向かいでなければ。

「良かったです、こっちのも食べてみてくださいね」

 公爵様自らの接待である。

 泣きそうだ。

「害虫退治のお礼ですよ、気にしないでね。今日は関連施設もお願いする事になります。」

 お作法に自信が無い。

 そして私を挟む、灰色と茶色は遠慮なく、ガツガツお肉を齧っている。

 香ばしくて美味しそうな串肉を給仕の人が切り分けてくれるんだ。

 知ってる、これ高い奴だ。

 羊なんかの肉を味付けしてお肉を重ねて焼いてる奴だ。

「サリーヤもお肉にしますか?」

 大丈夫、だって朝ごはん食べた後だもん。

「もっと食べないと大きくなれませんよ」

 ここでも栄養問題が、っていうか人より食べてるのです。

「さて、今日は城の使用人が多い場所から、行政府と領主兵の所へ行きます。お弁当は用意しましたし、お供もいっぱい付けますからね。私は一緒にいけませんが、よろしくお願いしますね」

 アイワカッタって感じで灰色が頷く。

 私も一応頷く。

 つまり、昨日と同じく、犬達に色々探してもらうってこと。

「実は、後、数日後に帰ってくる、在る人物を見てもらうのが本来の趣旨です。」

 直刀の小刀でオルロバ様は果物をきれいに切り分けていく。

 手慣れたもので、果物はあっという間に、お花や蝶、それに動物になった。

「はい、どうぞ。

 その者が帰ってきたら、彼がヤカナーンの一族かどうか、見ていただきたいのです」


 私は綺麗な鳥の形の果物を齧ったまま固まった。

 食い意地を発揮している場合ではない。


「西のアッシリという地域があります。その更に西に遺跡があるのですが、そこの調査に加わっている者です。

 名をルフト・スウェナム。このア・メルンで医師を勤め、また、古代の遺跡の探索を任せています。

 我がヤカナーンは、古代の遺跡の探索に出資をし、その歴史を保存管理する事を責務としているのです。

 彼は元々、このア・メルンで官吏として採用された人物です。

 そして我がヤカナーンの事業である、遺跡の発掘調査および学術研究に加わる事になりました。

 当初は医師として、次には発掘調査、文化研究の者として」

「優秀な人、ですね」

「そうです。彼は南部の学問所出身で、その成績によって中央にも留学しています」

 中央って王都だよ。

「でも、どうして、私と灰色、ううん灰色と茶色がその人を見ると、ヤカナーン様ってわかるのですか」


 ずっと思ってた疑問。

 それにオルロバ様は首を傾げた。

 あれ?って感じ。

 すると護衛に徹していた、ホランドさんが咳払いをした。


「何だい、ホランド」

「失礼しました、サリーヤ様は本当に知らないのでしょう」

 視線を微妙にそらしたまま、ホランドさんが言う。

 あっけにとられたような公爵様に、彼は続けた。

「考えてみてください。この城塞の子供で知らぬ者もいましょうが、それで条件が埋められましょうか?」

「無理、だな」

「南部の子供は無理ですし、他の地域の者にはもっと難しゅうございますな」

「では、説明しないほうがいいのか?」

「お伺いしては?」

 と、灰色と茶色をちらりと見て、ホランドさんは目をそらした。

 オルロバ様は笑顔のまま固まった。

 それから、絞り出すように言った。

「やんわりとなら、よろしいか?」

 茶色がげっぷをした。

 灰色は鼻息で返した。

「どういう意味だと思う、ホランド」

「了解したという事では」

 頭痛がするみたいに、オルロバ様は指で眉間を揉んだ。

「端的に言えば、オラ・ゾエルという生き物は、悪いモノがわかるのです。

 病気や、悪意、毒、その他、この世の、負のモノが感じ取れるのですよ。だから、神殿の方々の代わりに、お願いしたのです」

 へぇすごいねぇ。

 撫でろって、うん、わかった。ちょっと果物で手が汚れてるけど。舐めるのか、舐めるか、よしよし。

「全然、知りませんでした。賢くて偉い犬なんですねぇ」

「犬、では」

「もう、びっくり」

「えぇ、そう、ですね」

 ここで少し考える。

 灰色は、まだ、会ったことのない渡り神官のセドリック様から預かった犬だ。

 そして茶色は彷徨いてたのを拾ったわけだし。

 でも、この時間だと、それはどういう扱いになるのかな?

 私とクゥと犬達。

 クゥが何処に戻ったのかはわからない。

 私と犬は戻ったけど、その戻る事でどういう扱いになったんだろう。

 一番早いのは、下に行ってみる事だね。


 今日はロレアナさんと一緒だ。

 ニラガ様の侍女で一番偉いというか身分のある人なんだって。つまり、貴族様だね。

 そのロレアナさんとお出かけ。

 あと、オルロバ様の親衛隊の兵士の皆さんだ。

 皆、ニコニコ。

 お弁当も持ってる。

 よし、行くぞ。ってお城の正面から出発。

 いや、何で正面。

 私は灰色を掴んで、茶色は私の服の裾を咥えて進む。

 たぶん、帰る頃には服はシワシワになっているだろうね。

 この微妙な行列のまま、階段を降りる。

 誰もいなかったア・メルンの蚯蚓モドキの蔓延る階段だ。

 今はツヤツヤのピカピカに磨き上げられ、お花と緑が美しい。

 色んな人が、灰色と茶色を見て、びっくりして固まる。そして、わざわざ頭を下げて、匂いを嗅いでくれって来る。

 そういう何かお達しでもあるのかな。

 よかろうって感じで灰色が近寄って、ウムウムって感じで通り過ぎる。

 暫く滞在していただけるそうですよって、お弁当を持っている侍女さん達から聞いて喜んでたり。

「あの、灰色みたいな大犬って、何か縁起がいいとか?」

 気の所為かロレアナさんの笑顔が固まる。

「はい、神殿の方からも、オラ・ゾエル様方は吉報を運ぶとのお墨付きがございます」

 だから、高価な犬ってセドリック様が言ってたんだ。

「わぁ高価な犬なのかぁ、盗まれないように気をつけないと。アルラホテでも飼い猫とか盗まれる事、よくあるって聞きました」

 あれ、何だろう、ロレアナさんが両手で顔を隠してるよ。

 どうした茶色、何、見てんの。

「最初はア・メルンの官署に向かいます。その続き棟が兵営になります。一日で終わらせる必要はございません。宗主より無理なく進めて欲しいとの事にございます」

 控えていた侍従の人がササッと予定を告げてきた。

「大丈夫、灰色と茶色。安全確認できる?」

 何を言ってるんだって感じで灰色が頭をゴンゴンしてくるので、胸の毛をワシャワシャしてあげた。

 そして、公園には寄らずに、あの骨が出てきた建物に向かった。


 当然、砂みたいな物になってる人はいない。

 忙しそうに動いてるお役人に街の人達。そして今日は灰色が私にひっつき、不満たらたらで茶色が動き回っている。

 もう、散歩してる途中で逃げ出した犬みたいに、跳ね回っている。

 私が注意しようと立ち上がると、灰色が押し留めて座らせる。

 これこれといった感じだ。

 それをみて、おもしろくないのぉ〜って感じで建物の中をかき回す茶色。

 お仕事の邪魔だよね、本当に、その咥えてるのは、変な物だから咥えてきたの?遊びで持ってきてないよね。

 すっかりふてくされて、一階が終わる頃には玄関口で寝転がって動かなくなっていた。

 でも、ここはオカシイ人は見つからず、二三の書類と小さな鉢植えが茶色の気に触ったようだ。

 可愛い覇王樹だと思うのに。

 私がじっと見ていると、灰色が前足で鉢植えを転がした。

「あっ、割れちゃ、う?」

 にょきって、にょきって鉢が割れたら、中から覇王樹が出てきた。

「肉食擬態ですっ、焼却、誰かぁ、火だ、火をもって来い!」

 ぎゃぁ、ナニソレ。


「誰が持ち込んだのか、禁輸生物ですね。覇王樹に似ていますが寄生生物です。南部領地の奥地に生息、この大きさなら鼠や虫を食べる程度ですが、大きくなれば人間も食べます」

 灰色がやれやれという顔でしがみつく私を見る。

「でも、口とか無いです」

 見分けがつかないよ。

「根を潜り込ませて寄生するんですよ。結構素早いので、背後から取り付かれると厄介ですよ」

「そういう茸知ってる」

「それの攻撃的なやつですね」

 買って置いてた人は直ぐに見つかった。

 出店で買ったんだって、女の官吏の人で、もう、どうしようって絶望。

 でも、わざとじゃないし。

 え?お家と職場、立ち寄った場所も消毒作業とお調べが入るんだって。

 まぁ、寄生されてないか確認してもらったほうが安心だし。

 頑張ってって言ったら、拝まれた。何で?

 そして二階へ。茶色が拗ねちゃったので、一緒に二階へ。

 今日はとても明るい。

 階段をのぼると鮮やかな緑の鉢と、開け放たれた窓。

 白い壁の対比で、この踊り場が広く感じた。

 あの時の重苦しさが無い。

 二階は上級官吏の個別の仕事部屋。

 一部屋づつ茶色が入って荒らす。

 ごめんなさい、本当に真面目にやってるの?

 やってる、そう、じゃぁ今夜も櫛で毛並みを揃えてやるぞ。はいはい、灰色もな。

 廊下に掲示されていた地図は無くて、そこには今月の集める税金の種類が書かれていた。

 あぁ、違うんだなぁって思いながら、それを見ていると、茶色があの部屋に突入した。

 そっと覗く。

 部屋の主は、茶色の動きを見守っている。

 もう、遠慮なく色んな物に頭と体ごと突進しているので、壺が割れないか心配。

 あの、壺はあった。

 そして、この部屋の主さん。

 あぁ、予想外。

 眼鏡をかけた女の人だった。

 真面目そうな中年の人族の人だ。

 公証人の人。

 二十七年前の処刑の記録。

 どんどん、思い出していく。

 茶色は、彼女の机の引き出しを遠慮なく引っ張り開ける。

 そして、あの紙。

 紙を咥えると、こちらに飛ばした。

 ぺらっと飛んできた紙。

 予定表だ。

 あの時と同じ?

 じゃないなぁ、面会する人物が少し変わっている。

 アマドのお爺ちゃん、それから、それから。

 わからないけど、茶色が取り分けた物と一緒にする。

 茶色は色々嗅ぎ回った後、彼女の前に座った。

 緊張する公証人の人。

 見つめ合う人と犬。

「茶色、からかうの止めなさい」

 ちぇっって感じで部屋から出ていく。

 そう言えば、と、思って予定表の紙をもう一度見てみる。

 裏側の走り書きが無い。

 うん、まだ、先の事なのか、それとも何かが影響したのか?

 二十七年前の処刑記録。

 今更気になるけど、保管庫?

「あのぉ」

「はい、何でしょう?お嬢様」

 お嬢様じゃねぇです。

「この官署の古い書類の保管庫ってあるんですか?」

 私の問いに、彼女はハッとした。

「そうでした、そこも見てもらったほうが、よろしいですね」

 何か勘違いして、はいはいと彼女は部屋を出た。

 そして案内された先は、一階の玄関口側にある仕切りの向こう側。何も無いように見える一角の床が、扉になっていた。

「古い記録だけを保管してる場所です。その他の重要な品や書類は、事務部屋の奥の方に」

 それは茶色が突撃して、今、事務方の人達が整理し直している。ごめんなさい。

 階段を数段降りると、天井の低い石造りの部屋がある。

 羊皮紙から木片、変わったところでは石版、そして最近の紙の類までが、層をなして保管されていた。

 茶色が意地になって奥に突っ込んでいく。あぁ書類の整理を担当する方々、申し訳ない。

 それとは別に、やっぱり二十七年前の処刑記録というのが、気になっていた。


 ここで、重要なのは、人種別の成長の仕方。

 普通の獣人は、成人までは短命種人族と同じ、年数で成長する。

 つまり十五年から二十年だね。

 そこから種族寿命などで成長と老化の速度が変化する。

 たまに、私のように、混血の影響なのか、その基礎成長に著しく差がでる場合もあるけどね。

 人族の成長と同じ年数で成長する基礎成長が、私は長い。

 神官様にいわせると、二倍遅いらしい。

 つまり、成人後の老化停止が、基礎成長の今から始まっちゃっている。まるで長命種みたいにね。

 もしかしたら私の血統にも長命種の因子があるかもって話。

 そう、栄養問題だけではないのだ。

 で、クゥの場合は多分、標準成長だと思う。

 彼の外見は成人している若い男だ。

 だから、二十七年前という言葉に当てはめる場合、ちょっと違うと思う。

 この二十七年前の記録っていうのは、前の公爵の子供を生んだ人の記録を消したって意味かなぁって。

 二十七年前に妊娠して、標準の獣人の産み月で出産した場合、クゥの外見は合うけれど、実際の獣人の年齢としてはまったく足りない。

 大陸標準年齢に当てはめれば、二十五六前後だろうけれど。

 本当は、もっと生きているってこと。

 これはルフトさんに当てはめても同じ。同年代だからね。

 じゃぁ、この二十七年前って、関係ないし、そもそも違う意味だった?

 これもちょっと引っかかる。

 あのア・メルンの出来事は、どう考えても、私が見なくてはいけない場所と、知らなくてはならない事が並べられていたように思うのだ。

 クゥは引札と言っていたが、寄り道がすべて当然の場所だったような、それこそシシルンの指図どうりのような感じだ。


 じゃぁ答えから当てはめていく。


 これは、前ヤカナーン公爵の子供を身ごもった女性が、記録を改竄した痕跡だとする。

 二十七という数字は、大陸共通年齢換算で考える。

 二十七という数字から、人族と同じ成長速度の十五から二十を引く。

 のこりの年齢数は、人族の三から五倍年数が当てはまるので、十二から七に、三倍から五倍を掛ける。

 そして十五から二十の基礎年齢にたす。

 そうすると大陸共通年齢の二十七は、獣人の標準でいう五十一から五十五歳ってなる。

 二十七年前の記録、ではなく五十年前の記録ってこと。

 妊娠中の期間もあるから、膨大な資料を調べる事になる。

 該当者は、公爵に面識があり、かつ、非常に親しい獣人の女性で、処刑となった人物ってなる。

 いや、調べるの大変だよね。


 寿命に差があるって事を忘れがちだけど、付け加えると、成長到達点と老化の法則も個体で変化する。

 長命種は老化しない人もいるんだ。

 これは獣人種にも一定数いて、お年寄りでも外見が若い人っているのさ。

 外見で判断すると、駄目ってこと。

 そして私は幼女ではないのである。ここ大事。


 話は戻るけど、そこでもしクゥのお母さんの名前、もしくは、ニィ・イズラの女性がいたらアタリ。

 そしてアデイムさんの奥さんとは別人って証明できたら、普通に解決できるだろうね。


 そして、この真面目そうな公証人の女性は、調べたんじゃないかなぁ。

 今も茶色と一緒に、あっちこっち説明してる、あの熱心さ。

 むむっと考える。

 ここでその話をするべきだろうかって。

 この記録書類の探索で、公証人さんが狙われたと思うとためらう。

 でも、クゥの無罪証明などが切掛って事だったはず。

 否、そうじゃないのかな。

 毒殺の事、血筋の事、順番が思い出せなくなってる。

 まぁ全部、想像の事で、その二十七年前っていうのも、まったく別の事を指しているのかも知れない。

 それに五十年前の資料とか、そんな保存できるわけないしね。

 問題が起きた時に、注意で良いのかな?

 事実、あの紙には、まだ、何も書かれていないし。

 アマドさんが日々、毒を飲むって事は、もう無いよね。

 主犯は捕まったし。

 いや、お腹の虫問題があるねぇ。


 結局、地下の保存庫からは、石版一つとア・メルン神殿からの埋葬記録を茶色は掘り返した。

 特別な保存料で加工された埋葬記録は、分厚い塊であった。

 公証人、お名前はスラハ・ズア女史は、その塊に目を通すと約束。

 いや、そんな何を探すのかもわからないのに。

「いえ、実は、神殿に依頼していた資料が手に入らない状態で、この過去の埋葬記録は、その代わりになりそうです。

 さすがオラ・ゾエル様にございます」

 と、女史に褒められ、胸をそらす茶色。

 お前、あの保管庫の書類の山崩れを見て、自慢できると思ってんの?

「しかし、この石版、いつの時代のものでしょうか」

 盛大に奥の棚を倒して引っ張り出した石版。

 それは白茶けて、表面の文字も削れてよくわからない。

「これって悪い物なの?」

 灰色に聞くと、クワッっと欠伸がかえる。

 まぁそうだよね。

 犬に聞くなし。

「あの鉢植え以外は、我々の欲しかった物を探してくださっているようです。ありがたいことです」

 ありがたいってよく言われるよね。なんでだろ。

「ご加護により、砂蟲でさえ避けると言われておりますからね。村々、いえ、国でも滞在があれば、喜ばしいと」

 はい?

「私の出身の村でも、成虫の砂蟲を討伐できるオラ・ゾエル様がいらっしゃると、良きことが起きるとお祭り騒ぎでございますよ」

 お祭り?いやいや、その前に不穏な言葉が。

「それにオラ・ゾエル様がいらっしゃると、不逞の輩もいなくなりますし。運が良ければ、一帯の害獣も全て消えますから」

 私は、寄りかかっている灰色を見上げた。

「そなの?」

 ウムって感じて偉そうに胸をはる。

「砂蟲やっつけちゃうの?」

 灰色は何故か横を向いた。

「犬でも砂蟲退治しちゃうんですか?」

「犬?」

 不思議そうなスラハ女史の代わりに、ロレアナさんがにこやかに言った。

「さぁお嬢様、ご飯にいたしましょう。大きくなるには、美味しいご飯ですよ。さぁさぁ、お外にでましょう、そうしましょう。はいはいはい」

 お淑やかな感じのロレアナさんが、やけに声を張っている。

 茶色はご飯に反応して、さっさと外に出ていった。

「あぁ、なるほど」

 と、スラハ女史が呟き、私に笑いかけた。

「砂漠の星、希望の花、貴女に良きことがありますように」

 なんぞ?まぁよくわからないけど、スラハさんにも、良きことがありますように。と、挨拶を返した。


 ***


 ご飯は官署にある大きなお部屋で食べた。

 同行した人達も、交代で食べた。よかった、私だけ食べたら気不味い。

 そしていよいよ、あの練兵場から兵舎、外壁へ続く衛兵所だ。

 あの記憶の通り、ただし、明るくて気持ちの良い風が吹く大きな部屋へ。官署と練兵場へと続く場所は、二階部分に資料の棚があって、今も、生きた人が忙しく働いている。

 濃い茶色の木造部分に、緑の鉢植え、そして白い石の壁。

 明るくて乾燥してて、暑くて気持ちが良い。

 カラッとした風に吹かれながら、私は少し感動する。

 皆、生きてる。

 クゥの言った通り、怖い事はおきていない。

 これからも、起きない。

 練兵場の人影の向こうに青空。

 ゆっくりと降りていきながら、あの時と同じ場所を目指す。

 ちょっと捻れた木の側、壁際のギリギリまで進み振り返る。

 笛が聞こえた、ニラガ様の塔。

 誰もいないと言っていた、あの塔の人。

 護符を手にして消えた時間。

 あの人は誰だったのか、それとも、影だったのか。

 そんな事を考えている私とは別に、茶色は渋々、また、兵舎へと入る。


 入ったら、茶色は直ぐに吠えだした。

「いるようですね。皆、外に出るように指示を。出られぬ者は選別後まいります」

 親衛隊の人が兵舎に走っていく。

 ロレアナさんと侍女さん達、私はそのまま木の側にいる事にした。

「灰色、茶色は大丈夫?」

 灰色は私の前に座った。

 怒ってはいないけど、体が大きくなっている。

「先に、表の者から確認できますでしょうか?」

 その問いに、灰色が吠えた。

 大きく体をうねらせると、集まりだした兵舎の人達を睥睨する。

 何だか、灰色の体どんどん大きくなって見えた。

「並べ、そして膝をつけ」

 親衛隊の人が声をかけると、兵士の人達が手と膝を地面につけた。

 ノシノシとそんな伏せた人達の前を歩く。

 すると、官署の入り口の方に並んでいた人に、灰色は前足を置いた。

 と、目にも止まらぬ速さで、その前足が振り抜かれた。

 何が起こったのか、私には分からなかった。

 だが、まわりの人は叫んで腰を抜かす。

 たぶん、私のまわりの侍女さんもわからなかったと思う。

 だって、血も何も出なかったからね。


 灰色は、その伏せた兵士の頭を叩き潰したのだ。


 本来なら、血しぶきに残骸と、恐怖をふりまく光景だ。

 けれど、見ていた私には、何だかわからない。

 頭の部分が消えただけだから。

 そして、その体が急に真っ黒な物になった。

 真っ黒になってモサモサって感じの足がいっぱい出た。

 蜘蛛の足だけモサモサ体から突き出た感じだ。

 だから、最初驚いていたまわりも、灰色が襲いかかったのではなく、そっちが化け物だってわかった。

「始末しろ、燃やせ」

 って声が上がり、あっという間に、それは灰になった。

 あぁ面倒って感じで、灰色が戻ってくると、私に頭をこすりつけた。

 おぉ、そうか、よくやった。びっくりしたけど。

「他にはおりませんか?」

 親衛隊の人の言葉に、灰色は反応しない。

 何だ、どうした。

 前足か、前足が痛かったのか?

 確認したけど、でっかい肉球もなんとも無いぞ。

「痛いのか?大丈夫か、お水か?」

 聞いたら、何だか急に元気になった。

「よしよし、大丈夫だ」

 ポンポン叩いていたら、茶色がガウガウしながら戻ってきた。

「おぉ、って、お前もか。その虫は気持ち悪いから、兵隊さんに渡してこい。ぎゃ、それ動いてるから」

 蠢いている黒いのを見せに来る茶色。

 犬とか猫とか、飼い主にもってくるのって、餌とか獲物を持ってきてるんだよね。

 子供じゃねぇし、その蠢いてるのは食べないし、戦利品としても却下。

「他にはいないのか?いない、そうか良くやったぞぉ」

「もし、兵舎の中を精査するのは無理そうですか」

「どう?」

 って、聞いたら頷いた。

 さっき何だか変だったぞ。

「大丈夫、無理してない?」

 それに灰色は珍しく尻尾を振った。

 砂埃が舞うぐらいの大きな尻尾なので、なかなか振らない。

 でも、機嫌が良いと振る。

 骨付きの肉と鳥の頭の水煮を食べても振る。

「良いみたいです」

「ありがとうございます、砂漠の星、希望の花」

 いや、その挨拶はちょっと。

 砂漠の星っていうのは、素晴らしい人っていう感じ。

 希望の花っていうのは、感謝しますって言う感じ。

 そんな外交官みたいなお世辞をいわれると、口が三角になりそうだ。

 ウム、モットウヤマエって感じなのは二匹だけだ。


 そうして官舎を調べると、蜘蛛、が九匹いた。

 その人が蜘蛛になったのか、蜘蛛に食われてしまったのかは不明。

 一匹だけ、生け捕りできたので、また、王宮の工房って所に送られた。

 交代で仕事中の人も調べたけど、そちらに変化はなかった。

 ただ、外にでている部隊や遺跡調査の人員が帰ってきたら、一時隔離する事になった。


 蜘蛛みたいな何かになった人って、遺跡調査にいつも行っている人達だった。


 原因は、西の遺跡って事だ。




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