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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
99/115

記録.99『穏やかで優しい日常』

 

「いやぁ、困ったねぇ」


 ヨミ君はそう言って、足を前に出しながら空を見上げた。

 俺はそれを奴の胸の中で見ながら、ころころと小さな飴を口の中で転がした。


 ()()()と化した俺は、酷い無力感と共にヨミ君が視線を移す空へと目を向けるのだった。




 ――新世界は、旧世界とは一線を画す。

 廃人共が、口を揃えて言っていた言葉だ。


 曰く、新世界の魔物は厄介な力を持っている。

 曰く、新世界のアイテムはあらゆる上位の物へと加工が可能である。

 曰く、新世界という場所自体が、限りなく文明遺跡に近い性質を伴っている場合がある。


 酷く小さな自分を手を見ながら、ふぅと息をつく。

 まぁ、別に俺が死ねば、姿は元に戻る。なんとなく、そうなのだと脳味噌が理解を促すからな。このゲームは、そうやって前提ルールをプレイヤーに理解させることがある。どういう技術なのかは知ったこっちゃないが、気味が悪いことには変わりはない。


「エビふりゃーともはぐれちゃったしね」


 ヨミ君がズレかけた眼鏡を定位置に戻しながら、そう言った。

 あぁ…そうだな。

 恐らく、奴一人で俺達を救出することは不可能だ。廃人共が揃い踏みでも無理だろう。なにせ、奴らが揃っても未だ新世界の街が解放されていないのがいい例だ。


 未だ、俺達は新世界を攻略する術を持たない。

 それがいつしか牙を剥くとは思っていたが、こうなるとは誰が想像できたっつーんだ。


 容姿変更チケットも無効だし、ナイフが握れない。使えるもんっつったら《血液操作》くらいだ。まぁ、主力のそれが使えるだけマシっつー話だろうがな。


「うーん、詰んでるね僕ら」


 あぁ、そうだな。

 ヨミ君の言葉に俺は肯定する。正直なところ、どうしようもない。ヨミ君は確かに不可解なスキルを持ってはいるが、それはエビふりゃーみたいな一騎当千のスキルとは違うと分かる。


 しかしよぉ、だからっつってここで死ぬのもあまりに惜しいぜ?


 今度はヨミ君が俺の言葉に首を縦に振った。

 新世界のここまで深くに来れる事は滅多にない。今回ここに来れたことだって、再現性があるかと言われたら首を横に振らざるを得ない。


 俺とフローが新世界で街を見つけた時と経緯は同じだ。

 偶然が俺達をここに呼び寄せた。前回は”万来の魔女”という存在がいたからこそ良かったが今回もそうなるとは限らない。

 だが、しかし…裏を返せばその可能性もあるということだ。


 なにせ―――、


「新世界は手付かずのイベントフラグ獲得地点(ポイント)がそこら中に転がっている…」


 ヨミ君が俺の言葉を先取りする。

 俺はヨミ君がそう呟くのを聞きながら、遠くに見えるとある人影を視界に映す。


 ヨミ君もそれを見て、瞳を薄く細くさせ、口角を吊り上げた。


「…だからと言って、こうも都合が良いと何かを勘繰りたくなるけどね」


 そう言うヨミ君の左目の中には、光り輝く星のマークが浮かんでいるのだった……。


 ◇■◇


 俺とヨミ君は、遠くに見えた人影に接触することにした。

 結局、このままいってもジリ貧で死に至るだけだ。それならば、例えどうなろうとも接触してみた方がいいと判断をした。


 おい、ヨミ君。

 俺は赤ん坊のフリをした方がいいのか?それとも、普通にプレイヤーとして接触した方がいいか?


「…いや、赤ん坊護衛のクエストがこの世界には存在する。前者でいっても問題ないなら、そっちでいこうか」


 おーけー。

 俺は今から一般オギャリベイビーだ。ルトちゃんとでも呼んでくれ。


「分かったよ。ルトちゃん」


 ヨミ君が俺を強く抱いて、偽名を呼ぶ。

 自分から言ってなんだが、俺は奴がそう呼んだ瞬間酷い寒気の様なものが背筋を走った。気味の悪さと気色の悪さが俺の身体を何度も行き来する。


 予想外の気持ちの悪さに震えていると、ヨミ君がその人影へと近づいて、接触した。


「こんにちは」


「……あ、貴方は…?」


 ヨミ君の挨拶に、その若い男は酷く怯えた様子で応答した。

 ふぅん…、第一印象は”Notプレイヤー”だ。あまりにも怯え方が自然すぎる。だが、廃人の中にも演技が上手い奴はごまんといる。新世界のこんなところにまで単独で来れる奴はいない筈だが、俺達みたいな場合がある以上、警戒するに越したことはねぇ。


「あぁ!これは失礼…僕はヨミ!こっちの赤ん坊はルト!以後、お見知りおきを」


 そう言って、ヨミ君は薄く笑みを浮かべて、会釈をした。

 俺もそれを追うように「キャッキャ」と明るい声を出した。それを見た男は、酷く安堵したような表情を浮かべて息をつくと俺達の方を見て、


「わ、私はしがない旅人です。〔サイショ〕の街付近の朽ちた遺跡を調べていたら、突然足元が光って…」


 その話を聞いて、俺とヨミ君はちらりとお互いの顔を見る。

 そして、何を言うまでもなく俺は気付かれないほど小さい動作で頷いた。それを見たヨミ君の口角がひくりと動く。


「なるほど!それでは僕らと一緒に行きますか?僕らも事故でここに来てしまった身ですが、数は多ければ良いでしょう!」


 余所行きのスマイルと口調でヨミ君は、その旅人へと提案した。


「本当ですか!ありがたい限りです…是非とも」


 旅人はぺこぺこと頭を下げて、その提案に乗っかった。

 ふぅん…、俺は近づいて来る旅人の装備を見ながら小さく唸った。


 腰に携えた新品同然のメイス、ローブの下に見える防御力の欠片も無い普通の服、タコのない奇麗な手…。

 あまりにも典型的なこのゲームのNPCだ。〔サイショ〕の街付近のNPCと言われればその通りだと納得できる。


 〔ョミョ:クエストだといいね〕


 旅人と歩き始めたヨミ君からそんなメッセージが届く。

 俺は奴の顔を見るが、奴は笑顔で旅人と会話をしており、こちらを向く気配はない。


 確かに、この旅人が一定の条件を達成した場合にクエストを提示してくるNPCの可能性だってある。奴のメッセージはそのことを示唆しているのだろう。

 俺は口の中の飴を嚙み砕きながら、メッセージを返す。


 〔ルート:あぁ、そうだな〕


 俺は、適当にあしらう様にそう返した。

 旅人とヨミ君の話し声だけが新世界の草原に響く。


 くけけ…。

 俺は堪え切れないとでも言う様に小さく笑いを零した。

 その笑みの裏…、上を見るとそこには酷く暗い笑みを浮かべるヨミ君の顔があった…。




 姿が変わろうとも、魂だけは変われない。


 ◇■◇


 別に俺が赤ん坊になったからと言って、そこまでの不自由を強いられているわけじゃない。

 必要最低限のプレイヤーとしての権利は認められている。そうじゃないと、あまりにもクソゲーまっしぐらだからな。


 飴は噛めるし、言葉も話せる。

 ただ歩けはしないし、年相応に非力だ。ただ、俺の場合は赤ん坊になった事で、とある非常に大きなメリットが生まれた。


「ルトさん、可愛いですね」


 旅人が、俺の顔を覗き込んでそう言った。

 しかし、俺はその旅人の瞳から逃げる様にヨミ君の胸に顔をうずめる。だーれが男の顔を間近で見たいなんて思うよ。気持ち悪いったらありゃしねーぜ。


「あらら、眠いのかな。すいませんね」


 俺の不敬な態度にヨミ君が謝罪を入れる。

 しかし、旅人は首と手をぶんぶんと振って、その謝罪を否定した。ここだけ見りゃ随分と謙虚なNPCだと言える。


 俺はちらりと盗み見る様に旅人を見た。

 奴は未だに俺の事を見ており、俺と目が合ったことに気付くと嬉しそうに手を振った。俺はそれを無視して、瞼を閉じ、周囲の索敵に集中した。


 幸いにもここら辺は魔物が少ない。

 それは、暗に街が近い事を示している可能性もある。街の近場には魔物が湧きにくいというシステム面もあるし、新世界にいた”万来の魔女”は自分の意志で魔物を間引いていた。あいつにそれが可能ならば、街にもそれくらいの事をするNPCがいる可能性だってある。


 何はともあれ、俺とヨミ君で倒せる魔物には限りがある。

 ヨミ君が強力なスキルを持っていても、フィジカルで押してくるタイプには策を弄しても意味がないからな。

 そんな事を考えていると、突如ビビッと俺の脳裏に電流が走る。


 こ、これは…!

 俺の《敵対知覚》に二つの反応が呼応するように出現した。俺は即座にヨミ君の服を引っ張って、それを伝える。


 ヨミ君はすぐにそれを理解し、笑みを浮かべた。そして、


「失礼、少々荒事です」


 ヨミ君はそう言って、亜空間から揺り篭を出すと、そこに俺をそっと置いた。

 揺り篭の中で寝転がると、何処からともなくEDMが聞こえてくる。な、なんでEDM…?教育に悪くない?


 俺はそんな事を思いながら、俺と旅人を守るように前に立つヨミ君の傍らに血液腕を出現させる。


「そ、それは…?」


 旅人が、突然何もないところから現れた血液腕を不安そうな視線で見つめながら、ヨミ君へと問いかける。


「あぁ、大っ丈ッ、夫っ。これはッ、安全でッすよっ」


 血液腕に全身を殴打されながら、ヨミ君はそう答えた。


「え、えぇ…?」


 困惑の色を隠せずにいる旅人を無視して、ヨミ君は俺を見た。

 俺は仕方ないとばかりにヨミ君を殴るのをやめて、敵の気配がする方へと血液腕を向けた。しかし、


 〔ョミョ:大丈夫、それ消していいよ〕


 ヨミ君はそんなメッセージを俺に送りながら、視線を血液腕に向けた。


 …ふーん、自身がおありな様で。

 俺は奴をジト目で睨みながら、生成していた血液腕を全て消した。ヨミ君はそれを見ると、嬉しそうにうんうんと頷きながら、俺の顔を見た。


 奴の瞳は、先程までののっぺりとしたものとは違い、左の瞳に再び星の形の輝きが宿っていた。俺はそれを見た瞬間、ぶるりと身体を振るわせて―――、


「くせぇ…」


 つい一言漏らしてしまう。

 幸いにも旅人には聞こえていなかったが、下手な事はするもんじゃねぇ。俺は自分の口を塞ぎながら、旅人からヨミ君へと視線を戻した。


「ん-っ…」


 ヨミ君が俺達の前に立って、大きく背伸びをする。

 両腕を空に上げ、鼠色の髪を揺らす奴の姿は何がどうして酷く自信ありげに見えた。


「さて…、もう少しくらいは良いところを見せなくちゃ……ね」


 ヨミ君が両目をカッと見開く。

 それに呼応するように左目の星がより一層強く強調される。そして、ヨミ君は両手をパンッと畳み、正面を向く。


 しかし、奴の目の前には何もいない。

 にも拘らず、俺の《敵対知覚》やらの索敵スキルは必死に敵がいる事を訴える。俺はそこでようやく気付いた。何故、奴が《血液腕》による助けを断ったのかを。


「食らい尽くせ」


 ヨミ君が勢いよく両手を開く。

 その瞬間、奴の手の平から黒い球が勢い良く射出された。そして、何もない場所をその球が縦横無尽に駆け巡る。

 しかし、その球が突然何かに弾かれた様に吹き飛ばされる。ヨミ君はそれを見て直ぐに両手を打ち鳴らし、


「”僕は言い終わってからの2秒間、ミラーホロゥの攻撃を受け付けない”」


 そう宣言した。

 言い終わると同時に、ヨミ君の眼前に真っ黒な火花が散った。そして、握った両手を再び開け、その中から再び球が飛び出す。


 …透明の敵か、こりゃ平気そうだな。

 俺はヨミ君の戦いを見て、そう太鼓判を勝手に押した。


「んなら、俺はこっちを片付けなくちゃって事だ」


「は、あッ!!?」


 俺の眼前、薄ら笑いを浮かべてながら俺へと手を伸ばしていた旅人を横から思い切り血液腕で殴りつける。

 地面に二転三転しながら転がっていく旅人をヨミ君が楽しそうに見る。


 俺はそれを忌々しいと感じながら、血液腕を傍に寄らせる。

 そして、赤ん坊の身体を抱えさせて、俺は()()()()()()()()


 旅人が殴られた頬を抑えながら、どうにか立ち上がろうとしている。

 俺はそれを下に見ながら、ゆっくりと近づいていく。


「なぁ、このゲームの運営はゴミだと思わないか」


 そんな事を言う俺を、旅人ははっとした様子で見た。

 血液腕に抱きかかえられた赤ん坊の俺の周囲には幾つもの、真っ赤な腕が浮遊する。


 《血液腕》っつースキルはな、自分の体重の1/4くらいの重さまでしか持ち上げられねーんだ。じゃあなんで今の俺は自分の身体をこんなにも悠々と持ち上げられる?


 …それはな、運営が杜撰な管理をしているゴミだからだ。

 つまり、《血液操作》の許容重量が()()()の身体情報を参照してるってこった。ひでぇバグだ。悪用し放題じゃねーか。


 ――なぁ、そうは思わねーか?


「お、お前は……一体…!」


 おいおい、そりゃこっちの台詞だろう。

 俺は少しずつポーカーフェイスで固めていた表情を自分の手で剝ぎ取っていく。ギラギラとした笑顔と共に、白い歯が旅人の瞳に映る。


 だが、まぁ良い。

 旅人、お前が名乗らないなら俺から名乗ってやるさ。それが人生の先輩としての俺の仕事ってやつだ。

 背後で「ふふっ」と言う笑い声が聞こえた。しかし、俺はそれを聞こえないふりをする。


 いいか、耳の穴鼻の穴目の穴かっぽじってよく聞けや。



 ――俺はルート。

 慈悲深き神の信徒、聖母の如き憂慮の化身、ルートさんだ。よーく覚えておけ、小童。



 血液腕を幾つもの小さな手に分け、天寿観音の様に後ろに配置する。

 ヨミ君が空気を呼んで、後光を出現させる。それを見た旅人はわなわなと震えながらも、こちらへと指を指し、震えた唇を必死に動かして――、


「お、お前が…、ルートっ…!”伝播する星座”っ…天秤!」


 …”伝播する星座”?

 おい、お前何言ってやがる?なんでてめぇが天秤を知っている?何故、その名を口にする?


「…う、うるさいっ!くそ、クソッ!最初っからこれか!」


 旅人はそう言って、立ち上がると自分にバフをかけるやいなや、背中を向けて逃げるように駆けだした。

 俺は直ぐに追いかけようとするが、ヨミ君が俺の肩を叩いてそれを止めた。


「大丈夫」



 そう言うヨミ君の瞳には、光り輝く星が内包されていた。

 そして、奴の両手には何十本もの焼き鳥がこれでもかと握り締められていた…。




 カービィかな?


 ◇■◇


 ヨミ君の左瞳の中に星が顕現している。

 俺はそれを隣で血液腕に包まれながら、じっと見つめた。


 …きなくせぇ。くせぇ、くせぇな、反吐が出る。

 《暴食》のスキルに付け加え、言葉を現実にする力、それに瞳に星が浮かび上がる謎…。このョミョとかいう男…βの頃と比べて、あまりにも不確定な要素を孕みすぎている。”遺跡憑き攻略戦”の時、裏で糸を引いていると分かった時から何かある何かあるとは思っちゃいたが、ここまで常識が通じない力を持ってるとは思わなかった。


 まぁ、しかし、別にいいさ。なにせ――、



「…見つけた」


 ヨミ君が、右手で吊り上がる口角を隠しながら、左手で遠くの森林を指差す。

 それを見て、俺も口元に笑みを浮かべる。



 ―――面白い玩具があるんだからな。遊ばなきゃ損だろ?




 あっちもこっちもゴミばっか。


 ◇■◇


 新世界に森林があった事は喜ばしい成果だ。

 見る限り、草原、草原、草原だった新世界にも、旧世界同様各種フィールドがある事が証明された。それは良い。諸手を挙げて俺も喜んでやろう。


 だがな、そんな事よりももっと嬉しい事があるだろう?


「だからさぁ……遊ぼうぜぇ。旅人ォ…!」


 俺の前方で、逃げる様に直走る奴へと俺はそう告げるのだった。


 いやね、別に取って食おうってんじゃねぇぜ?

 ただ俺はな、旅人…お前とお遊戯(はなし)がしたいなぁって思ってるだけだ。それなのになんでそんな必死こいて逃げんだよ。


 俺は悲しいぜ。なぁ、涙がちょちょぎれるってやつさ。

 俺は、よよよと小さな両手で目を覆い隠す。


「この世界のどこにッ…宙に浮いて喋る赤ん坊がいるって言うんだッ……!」


 旅人が両足を必死に回して、俺から逃げながら詰まる声でそう言った。


 ふぅん、そうか。

 お前は俺という存在を否定するんだな。それでもいい。俺だって好き好んでこんな姿になったんじゃねーしな。

 血液腕に抱えられ、超スピードで旅人の後ろに張り付く俺は亜空間からチュッパチャプス型の飴玉を一つ取り出して、それを咥え込む。


 ガリッと飴玉を噛んで、俺は右手を銃の形にして突き出した人差し指と中指を右から左へと静かに振った。

 その瞬間、走る旅人の右側から勢い良く表れた血液腕が、奴を思い切り掴み取る。

 拘束された旅人が、どうにかそこから抜け出そうと藻掻き苦しむ。しかし、血液腕の拘束は力強く、一人の力では到底外れるものではなかった。


 そこで奴はようやく、周囲の静けさに気付いた。

 先程まで追いかけていた筈の赤ん坊の姿はそこにはなく、ただただ静寂の木々の騒めきだけが耳朶を震わせた。


 そして―――、



 ―――なぁ、β組(おれたち)に喧嘩を売ったんだ。破滅する覚悟も、させる覚悟もあるんだろ?



 突然目の前に現れた顔面どアップの赤ん坊に、声にならない悲鳴を上げた。

 それと同時に、身体を拘束していた血液腕が旅人を勢い良く木々の間を縫う様に森林の奥へと投げつけた。


 達者でなぁ~!

 俺はそんな事を言いながら、飴を口から外して、血液腕共々大きく手を振るのだった。


 ◇■◇


 あ、レアっぽいやつあんじゃーん。

 俺は適当に強キャラムーブをかました後、森林に生っているよく分からん果物やら何やらを回収していた。


 一応、閃光弾と音爆弾の合体みたいな果物の前例がある為、血液腕で遠くから回収するが、どれもこれも見たことがないアイテムばかりだ。

 こりゃいい場所だぜ。

 闇市に売り捌きゃ、一大財産を作れるだろうし、ドクターに適当な法螺を吹いて売れば更に儲けが出ること間違いなしだ。くけけ…!やはり新世界は腐っても新世界…!未踏破地帯でこそないものの良い場所だぜ…!


 …あ、そうだ。

 こんなにあんなら、あいつにもあげねーとな。

 俺はそんな事を考えながら、システムメニューを開いてメッセージを打つ。



 〔ルート:レアな食い物素材ゲットしたからなんか作ってくれや〕


 〔おはぎ:本当ですか!私なんかでいいのなら…是非〕



 うんうん、おはぎんは本当に謙虚で可愛いねぇ。

 俺は、おはぎの謙虚さとその命の在り方の美しさに触れて、酷い酩酊感を患う。麻薬にも近い優しさが俺の脳髄に入り込む。


 …やっぱドクターとか闇市連中に売るのをやめて、全部おはぎに渡そう。

 うん、それが良い。

 そうすりゃ世界から戦争は無くなるし、子供たちは笑顔に溢れる。そうだ、そうに決まってる。ピュヒュイ君とか杏とか、ぺろりん達を呼んでお菓子パーティをしよう。


 うん…うん…、そうだ。それが良い。それしかない。

 天才的だ…!

 世界が俺にそうしろと叫んでいる!神が俺にそう在れと強いている…!これだ、これこそが世界の真理だ…!


 この世のサイクルと、全ての理を理解した俺は木々になる果物を次々に回収しながら進んでいく。

 集めれば集めるほど、世界は豊かになるに違いない。

 俺の心に熱い使命感が宿り、どんどんと素材を毟り取っていく。亜空間が素材で一杯になろうかという時、血液腕に抱かれた俺の身体は木々がない場所へと辿り着いた。


 木々の葉が緩い風に揺られ、強い日差しの太陽が葉に当たり、優しい木漏れ日を差し込ませる。さわさわと心地よい音が耳朶に浸透すると共に、俺はその場所の最も太陽が当たる明るい場所を見た。


 そこには、背凭(せもた)れが倒された椅子に座り込んだ旅人と、その傍で優しい笑みを浮かべるヨミ君の姿があった。

 俺は血液腕を動かして、ゆっくりとその二人の傍に近づいていく。その時、一際強い風が俺の方に向いて吹いた。風に乗って、音が俺の耳に入り込んでくる。



「…あっ 星座とは あっ 異邦人が あっ 持つ力 あっ の呼称で あっ あり―――」


「ふぅん…」


 クチュクチュとヨミ君が、旅人の頭を掻き回している。

 木漏れ日が揺れる。

 草木が騒めき、風が優しく俺の頬を撫でる。


「よぉ、ヨミ君」


 俺が小さい手を上げる。

 ヨミ君は、その声で俺に気付いたのか手を止めて俺の方を見ると、嬉しそうな笑顔で手を振った。


 俺はそんなヨミ君を見て小さく笑うと、飴を再び口に入れて、そんな奴へと近づくのだった――。


「聞いてよルート。話したい事がたくさんあるんだ!えと、まずここから少し行けば街が……」


 うん、うん…。

 俺は、言葉を詰まらせるヨミ君を落ち着かせるように頭を撫でた。興奮する子供の様なヨミ君を、俺は優しい目付きで見た。


「あっあっあっ…」


 こんな、酷く穏やかな日がこれから先も続きますように…。

 木漏れ日を浴びて、優しい風を受けて、嬉しそうに舌を回すヨミ君を前にしながら、俺は空を見上げてそんな事を願うのだった…。




 一般βプレイヤー達のいつも通りの日常…。


 風が身体を吹き抜け、肌に優しい日が差す。

 ―――そんな当たり前の日々の中に彼らは生きているのです…。

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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