表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
100/115

記録.100『その炎は空を夢見て』

 

 …まぁ、つまり俺とヨミ君が倒しちゃった旅人君―――。

 そいつは何らかのクエストのフラグ、又はそれに準ずるものだったんだろうよ。


 パフェの底に溜まった溶けだしたバニラアイスとコーンフレークを掻き出しながら、耳を傾けるエビふりゃーへとそれとなしにそう言った。ちなみに俺はもう赤ん坊の姿じゃない。一回死んだから、元のルート君に逆戻りだ。


 酷く適当に言葉を連ねる俺とは裏腹に、エビふりゃーのパフェを食べる手は止まり、目を大きく見開いて俺の言葉を傾聴していた。


 ふやけたバニラ味のコーンフレークを口に運びながら、俺はスプーンを振る。


 だが、倒しちまったもんはしょうがねぇ。

 奴はNPCだから復活こそしないが、ヨミ君が美味しい情報をたらふく吐き出させてくれた。ヨミ君は俺にその情報を渡すと同時に開示権利を譲渡し、その代わりに新たに発見した街の命名権を得た。

 だから俺は今、言いたくもない情報を言いたくもないお前に話してやってる。


「あぁ…」


 これは償いだ。

 《ペナルティドロー》を奪っちまった件はこれでチャラ。寧ろお釣りがくるくらいだ。だけど、俺は優しいからな。あ、バナナチョコクレープいっこ追加ね。


 通り過ぎようとする店員に、指を一つ立てて追加注文する。

 そして、再びテーブルに頬杖を突きながら、話を戻そうとする。しかし、


「何故、お前らは早々に手を出した?もっと泳がせてもよかっただろう」


 …一理ある。

 エビふりゃーの言うことは最もだ。NPCの癖して、あの旅人はそれほどの強さではなかった。拘束するのも、気絶させるのも、やりようは幾らでもあった。


 でもな、俺と一緒に居たのは”良い人”さんのョミョ君だぜ。


 にぃ、と笑顔を浮かべて、エビふりゃーを見る。

 ヨミ君は良い奴だとも。あいつは努力は実を結ぶべきと考える常識人だ。常識人という核に狂気に満ちた外套を羽織っているに過ぎない。だから奴は人でころころ遊べども、人の努力や蓄積を甘く見ねぇ。


「……」


 おいおい、黙るなよ。分かるだろ?


 テーブルに足を乗せ、椅子の背凭れに腕を置いて、俺は飴玉を口に放り込む。

 もうこの世にいない旅人君は俺達に向けて、こう言ったんだ。



『わ、私はしがない旅人です。〔サイショ〕の街付近の朽ちた遺跡を調べていたら、突然足元が光って…』



 ……”朽ちた遺跡を調べていたら”?

 そりゃねぇぜ。何百、何千、何万回の調査と試行の上に立つ文明特化のプレイヤー連中を馬鹿にしてんのか?調べる程度でそんなことが起こったら、このゲームはクソゲーじゃねぇ。


 奴は、ゴミなれど文ちゃん明ちゃん達を愚弄した。

 別に俺はそれでもいいさ。でもな、努力を軽んじないヨミ君は違う。だから、俺は諦めたよ。どうせヨミ君はそれを聞いた時点で旅人君を許さなかっただろうしな。


 俺とエビふりゃーの座るテーブルにクレープが運ばれてくる。


「おい、ごみ溜めさん。テーブルの上に足乗せんな。場をわきまえろ」


 あ、はい。すんません…。

 俺はクレープを持ってきた店員にそう言われて、しょぼんとする。


 ……まぁ、ここまでは良い。

 新世界で発見された街はこれで二つ。結局、一つはフローの独占、もう一方は俺とヨミ君の独占っつー形にはなっちまったが、前進したことには変わらねぇ。


「ここまで、……か」


 俺の言葉に、エビふりゃーが反応する。


 あぁ、そうだ。

 今までの話は別にどうってことはない。今回、一番問題視しなきゃいけないのは”ョミョの能力”だ。正直、これを秘匿しといても俺に旨味は少ねぇ。さっさと廃人共に流して、解明してもらう方がよっぽどいいぜ。


 いいか、エビふりゃー。

 耳の穴かっぽじってよーく聞け。

 俺は、ちょいちょいと指でエビふりゃーをこちらに手繰り寄せて、顔を近づけさせ――、


 俺が観測した限り、ョミョにはレア職業紛いの能力(ちから)が―――…。


 ◇■◇


 ◀ 獲得!▶

 〔プレイヤー「ピピピピピ」から《釣り》を獲得〕


 むくりと立ち上がり、頬に刎ねた血を手で拭う。


 随分と手間取らせやがって…。

 俺は、粒子となって消えていくルーキーにぺっと唾を吐きかけながら、ちらりと横を見る。


「死ぬっす~!」


 そこにはルーキーの腹の上に馬乗りになって、軽快な笑顔と共にナイフを振るう猫埜の姿があった。

 猫埜はルーキーの胸に幾度と無くナイフを突き立てては抜きを繰り返している。俺はそんな奴の傍に近づいて、しゃがみ込む。すると、「がぼっ」と血を口から吐きながら、死にかけのルーキーが俺の方に向けて腕を伸ばす。


「た、ず……け…」


 漏れ出る血液の合間からはそんな言葉が聞こえた。

 うんうん、なるほどね。分かる、分かるよぉ。ルーキー君…。

 俺は、何度も首を上下に振り、死にかけルーキー君の言葉に同調する。


 でもねぇ、駄目なんだよぅ。

 伸ばされた手を杜撰に叩き落とし、俺はビー玉の様に光を失っていくルーキーを見た。

 腹に伝わる感触はどうだ?幸せか?少しでも夢を見れたか?温かい陽だまりは心地良かったか?


 ルーキーの腹の上で、猫埜がナイフを振るう度にビクンビクンとルーキー君が痙攣する。


「ど………して…」


 その言葉を残して、ルーキー君は天に召された。

 あぁ、力無き哀れな蟻んこよ。どうして、とそう問いますか…。そんなもの決まってるじゃないですか。


「師匠!《釣り》スキルドロップしたっす!」



 ただただ、釣りがしたい気分だっただけだよ!





 ダイパリメイクで釣り(ヒンバス)の極意は習いました!


 ◇■◇


 ルーキー共から盗み取った釣り道具で、俺と猫埜は釣りを始めた。


 いいかい、猫埜ちゃん。

 MMOにおいて釣りがないゲームはクソだよ。細々としたコンテンツがあるから、俺達はMMOをプレイし続けられるんだ。


「おぉ~…」


 俺の言葉に猫埜が目を輝かせる。

 そして、そんな猫埜の竿がぐんっと引かれ、奇麗な弧を描く。


「あ、あ!き、きたっす!し、師匠!きたっす!」


 うんうん、良かったね。

 俺は、このゲームにおいての釣りの正解を知らない。…なんたって、今初めてやってるからね。他の連中が釣りしてんのは見たことあったが、自分でしたことはない。だが、俺は腐っても猫埜の師匠だ。分からない、じゃ許されない。


 とりあえず、それっぽくすりゃ釣れるぞ。勢いだ、勢い。

 なんとなく玄人感を出して、俺は自分の竿をくいと動かした。


「勢い…勢い………そいやぁっ!」


 猫埜の瞳の中がぐるぐると回転しだす。

 ぶつぶつと何かを呟いたと思った次の瞬間、猫埜は駆け引きのクソもなく釣竿を引っ張った。釣り糸は勢いよく水面に飛び出し、その先には立派な青い魚が引っ掛かっていた。


「し、師匠…!釣れた、連れたっす!」


 猫埜が嬉しそうに、地面に打ち上げられた魚を指差す。

 お、おう…、良かったな。その調子だ。バンバン釣ってけ…うん。


 猫埜が嬉しそうに魚をつんつんとつついている。

 俺は、そんな光景と自分の微動だにしない釣竿を見ながら、冷や汗をかいていた…。






 釣りは浪漫だ。

 釣りして、キャンプして、船乗って…そんな動画を見たのがつい数時間前だ。


 いいじゃん。

 やってみたくなったんだもの。

 掲示板の釣り穴場の座標を確認して、猫埜の引き連れて突撃したさ。案の定、奴らのスキルも道具も全部奪えたさ。


 順調だった。

 全ては順調だったんだ。…そうだ、俺は何も間違っちゃいない。釣りは勢いだ。そうだ…そうだろう…そうなんだよ……きっと、きっと……。


「し、ししょー……」


 すぐ隣で、泣きそうな声の猫埜が俺の横顔を潤んだ瞳で見つめていた。

 奴の背後にはこれでもかというくらいの大量の魚がぴちぴちと飛び跳ねている。こうしている間にも、猫埜の竿はアタリを見せ、くいと猫埜が竿を引くと、大きな魚が猫埜の後ろのお魚の山に仲間入りした。


「……」


 俺は何事も無いように糸を垂らす。

 なーに、釣りってのはな辛抱なんだよ。何時間も釣れないことだってきっとあるだろうよ。運が悪いだけさ。


 ぷるぷると震える声で、俺は猫埜にそう言った。


「師匠…もう、帰ろうっす…」


 しかし、猫埜は酷く悲しそうな声色で俺の服の裾を引っ張った。


 …おいおい!猫埜ちゃん、もうリタイヤか!?

 そりゃないぜ!まだまだ俺はできるよ!ここの主を釣り上げてやろーぜ!なに、ヒンバス釣りよかよっぽど簡単だろうよ!


「で、でも…」


 俺の服の裾を引っ張る猫埜の視線が、俺のすぐ横にあるクーラーボックスの中に移る。

 そこには、魚の一匹も入っていない奇麗な水面があった。



 ……分かった、分かったよ。

 あと十分。十分やっても俺がアタリを引けなかったら、諦めよう。そしたら、そこら辺の料理人とっ捕まえて猫埜ちゃんが釣った魚を捌いて貰おうな。それでいいか?


 俺は仕方がないとばかりに、微笑を浮かべた。

 それを見た猫埜は、ぱぁっと満面の笑みを浮かべてぶんぶんと首を縦に振った。

 俺の言葉を聞いた猫埜は、とてとてと自分の竿のある場所に戻り、再び釣りを再開する。俺はそれを見届けて、ふと空を見た。


 ―――猫埜は陽キャで馬鹿な良い子だ。

 師匠の俺が魚を釣れず、自分が一杯吊り上げてしまっていることにどこか申し訳なさを感じていたに違いない。だからこそ、早く切り上げてしまいたかったのだ。


 ぼーっと釣竿の先を見つめる。

 そうか、俺は釣りの才能がないか…。いや、猫埜に才能がありすぎたか?

 隣でばしゃばしゃと魚を吊り上げる音が聞こえる。それを気にしない様に糸が垂れた水面を見る。…釣れる気配しねぇな。十分と言わずにさっさと諦めっか。


 俺はそう考えて、竿を上げようとしたその時―――、



 突然、竿を持つ右手にとんでもない引きが来た。

 それを理解した途端、俺は両手で竿を掴み取り、力を籠める。


 き、キタ!キタキタキタ!

 釣りの神が最後の最後で、微笑みやがった!猫埜!猫埜ちゃん!掛かった、掛かったよ!俺にも来た!


「ししょー!!」


 猫埜が満面の笑みを浮かべながら、自分の持っていた竿を放り投げて、こちらに近寄ってくる。


 ぐ、ぐぐぐぅぅ…!

 い、意外と重いぃぃ…、ね、猫埜ちゃんこんなに重い竿をあんなに簡単に引き上げてたのぉ…?お。俺の低レベル筋力が持ち上がる気がしない…!


 俺は早々に心の内で弱音を吐く。

 しかし、横を見れば、キラキラお目目の猫埜が釣果を心待ちにするようにうずうずと身体を震わせている。

 それを見た瞬間、俺の両腕に力が宿る。あぁ、そうだ。俺はこいつの師匠だからな…!無様な姿は見せられねぇな…!


 たった一人の弟子の為に……。

 ……あれ?俺には、本当に猫埜しか弟子はいなかったか?誰か、誰かまだいなかっただろうか。ちいせぇ身体の誰か……。


 ――頭の中で、何か罅割れる音がする。

 金属が、何かの圧力を受けて苦しむような音。南京錠が軋むような不快な音。


 一瞬、俺はそんな思いに脳みそを巡らせた。

 しかし、すぐにそんな思考を捨て去って、竿を思い切り引いた。竿が折れんばかりに曲がり切り、遂に水面から何かが―――!



「ブェぼぁぁっ…」


 ……それは、その糸の先にいたそれは、紛れもなくプロペラその人だった。

 気持ちの悪い声と共に水面を押し上げて姿を現した奴は、そのまま吊り上げられ、地面に打ち付けられると、きょろきょろと首を動かした。


「………ぁ…ぇぅ」


 立ち尽くす俺の横で、猫埜があわあわと泣き出しそうな声を漏らした。

 そんな声を聴いたのか、プロペラははっとしたような顔で俺と猫埜がいる方へと顔を向けると、身体をぴちぴちとくねらせた。


 そして―――、



 〔空の人:お魚、釣れたね!〕



 そんなメッセージと共に、プロペラはずぶ濡れのまんま小さくサムズアップするのだった…。


 ……。

 俺はそんな奴を見て、一筋の涙を零す。

 殺そうかと迷った。しかし、あまりにも救い様がないお頭に、俺は責任感を感じてしまったのだ。俺がもっとちゃんとしていれば、この子をマシにできていたかもしれない…。


 そんな思いが、俺の手を止めた。

 目元を隠し、嗚咽を漏らす。でもよぉ…、だからって…神様…ここまで酷くしなくてもよかっただろう…。せめて、常識くらいは詰め込める脳内容量をくれてもよかっただろう…。


 しかし、何を言ってももう遅い。

 俺は鼻をすすり、目元を隠していた手を取って、再びプロペラ君の方を見た。すると、そこには……、



「汚物は消毒…っすよね…!」


 高く、高く燃ゆる大きな炎の前で、小さな火種を掌に出現させた猫埜ちゃんが、サイコパススマイルを浮かべて、そう言った。


 ぷ、プロペラ……くん…。

 大いなる炎となったもうここにはいないプロペラ君の名前を呼ぶ。空へと舞っていく火花の一つ一つにプロペラ君の魂が宿っている気がした。


 そして、その(プロペラ)の炎に照らされて、


「師匠が悲しむものは全部なくなっちゃえばいいっすもん、…ねっ!」


 目をかっぴらき、酷く天真爛漫そうな笑顔と共に猫埜は言った。

 ふんす、と掌の上で燃える火種を握り潰しながら、猫埜は胸の前で手をぎゅっと握り締めた。



 ひゅー…猫埜パイセン、マジパネェ…



 空に届きそうなほど、高く燃える炎の前――。

 口笛と共にそんな事を言う俺の胸に、目に入れても痛くない可愛い弟子の猫埜ちゃんが思い切り飛び込んでくるのだった…。




 将来は暗いけど、今だけは明るいね!猫埜ちゃん!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ