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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.96『その男から何も奪うなかれ』

 

 最近ね、なんか忙しかったの。


 やれ遺跡大好きグループをどうにかしろとか、やれ文明遺跡にれっつらごーとか、随分とやりたくもないことをやらされていた訳よ。

 俺達は自由の名の下のプレイヤー様だぜ?そんな強制イベントにずーっと囚われてちゃ溜まったもんじゃねーよ。


 なぁ、分かるだろ?なぁ。


「…分かんないよ」


 俺の愚痴に、パックマン…正式ネーム『パクロー』が嫌そうな顔をしながらそう言った。

 奴は手に持った泡立て器でボウルの中の何かをかき混ぜていた。


 しゃかしゃかしゃかしゃかと、金属が擦れ合う音が響く。


「久しぶりに見たと思ったら、本当にどうでもいい話題をもってくるね、お前」


 俺だって別にお前に放そうと思ってたわけじゃねぇし、他の連中にも話したわ。

 でもな、廃人共は悲しいかな動き回ってんだよ。俺が奴らの動きにずっとついて行けると思うか?どりゃ無理な話だぜ。精々、ついて行けても一時間が関の山だ。しかも、ついていけなくなったら俺は新世界に一人置き去り…。酷な話だろーよ。


「βの戦闘民族共は揃いも揃って気味が悪いな。僕や文ちゃん明ちゃんくらい落ち着けばいいのに」


 アー、ウンウン、ソダネー。

 正直、β組の時点でこいつも他の連中も信じていない為、俺は適当な相槌を打った。

 その間にも、パックマンは着々と手を動かす。


 ってか何作ってんの?

 お前が料理人ってことくらいは知ってっけど、自分の店はどうした?お前の店やってなかったら、ブチ切れるだろ、廃人共が。


 パックマンはβ組の中でも頭一つ抜けた料理人だ。

 しかし、その分他と比べると多少値が張る為、ルーキー共はこいつの店に余り寄らない。しかし、その逆で廃人共はこいつの店に足繫く通う。その理由は、こいつの料理のバフ効果が、他の料理人と比べてデカいからだ。デカいといってもほんの少しだが、バトルジャンキーはその僅かを求める習性があるからな。


 そんなこいつが、自分の店を閉めてまで路地裏で簡易キッチンを広げてお菓子作りに精を出している理由、コレが分からない。


「あー…まぁ、キレてるだろうけど。あのゴミ共は僕の事を切れないし、別にいいんだ」


 まぁ、廃人共の強さはお前が保っている節もあるしな。

 …んで?最初の質問答えろや。お前はここで何作ってるわけ?


「…ハロウィンだよ。ハロウィン。そのお菓子の試作」


 ぁあ?ハロウィンンン??

 俺は驚きを隠す事無く、顔を歪ませてパックマンを見た。


 おいおいおい、ハロウィンにお菓子を配るって?お前頭バグってんのか?

 誰が好き好んで、β料理人のお前からお菓子を受け取るってんだよ。どうせ毒でも入れるんだろ?β時代、それでヨミ君と二人で高笑いしてたじゃねぇか。俺は陰からお前らの悪行を見てたぞ。


 それを聞いたパックマンは、露骨に不服そうな表情を浮かべる。


「なんでお前らにやらなくちゃいけないんだ。ルーキーたちに配ってあげるんだ。あの子達はこれからの時代を担う者だ。いつもは僕の料理が食べられずとも、イベントの時くらいは良いものを食べないと…」


 …ふ~ん。

 随分とお優しい考えなことで、俺は感動したよ。パクロー君よぉ。


「あぁ、そうかよ。それなら僕から離れてくれないか、焼却屋。βの空気は体に障るんだ」


 いーや、嫌だね。


「あ?」


 俺がパックマンの言葉を拒否すると、奴は青筋を立ててこちらを睨みつけた。


 お前だけルーキー共の好感度を上げようとしたってそうはいかねぇ。

 ルーキー共は確かにネギ背負ったカモだがな、それにはそれなりに愛着っつーもんがある。毎日毎日、俺の血液の為に動き回ってくれる奴らの為に俺も一肌脱ごうじゃねぇか。


 腕をまくり、パックマンの隣に座ると、俺は亜空間から簡易料理キットを取り出して、《料理》スキルをセットした。


「なんで隣でやるんだ。…はぁ、まぁ良い。いいか、絶対に僕に触るなよ、何があってもだ」


 へいへい、分かってるよ。

 お前に触ったところで何か減るもんじゃねぇだろうに、随分と気にすることで…。あ、なんかお菓子の素材下さい。


「…はぁ」


 パックマンは、深い溜息をつきながら亜空間に手を突っ込んで幾らかの素材を俺に投げ渡した。

 見覚えのあるアイテムもあれば、初めて見るアイテムもある。


「これ、失敗作だからつまみとして食べていいぞ。その代わりにこれ食べたら少しは参考にしろ」


 パックマンはそう言って、様々なお菓子を俺の横に置いた。

 そして、まだ足りないとばかりに巨大な紫色の袋にはいったクッキーも追加でそこに置いた。


 おお、気が利くじゃねぇか。

 β産の廃人の癖に一丁前に優しい人気取りか?


「厚意を嫌味にしか受け取れないのか、お前は」


 その言葉を最後に、パックマンは再び作業に戻った。

 俺は横に置かれたお菓子をじっとみつめて、不意にカップケーキを手に取って、口に放り込んだ。



 ぐッ!…うっ!こ、これは…!


 ――う、うまぁ……。

 えぇ?これ失敗作なのぉ?こいつどんだけ望み高いのぉ?嫌いだわ~。良い作品出来てる癖に、満足しない職人タイプ…気に入らねぇわぁ。


 ……!そうだ!

 俺は右拳を左手の平にポンと置き、頭上に電球を光らせた。

 ルート君の頭蓋骨の中に収容された天才的な頭脳が高らかにこれからすべきことを叫んでいる。


 俺は適当にパックマンからもらった素材を鍋にぶち込んで、よく分からない料理を作る。



 あー!失敗しちゃったぁ!やーっぱ俺料理向いてないかもー☆

 向いてねーんじゃしょーがねーや!いつまでもここにいても仕方ないしなー!さっさと帰るわー。んじゃ、ソユコトで~…ばいばーい!


 簡易キッチンを片付けて、すくっと立ち上がると、すたこらと俺はパックマンの傍から逃げる様に離れていった。


「……あいつ、失敗作全部持っていきやがった」


 何とも取れない感情の籠った言葉が、路地裏に静かに響いた。


 ◇■◇


 はーい、お菓子配りやってまーす。

 優しい優しいルート君印のお菓子をどうぞ―。


 俺はフィールドを練り歩いて、ルーキー共にカップケーキやらクッキーを投げつける。


 ルーキー共は最初こそ、俺の事を変な目で見ていたがそのお菓子を口に運ぶと目の色を変えて俺の事を褒めた。


「たまにはいい事するじゃん」

「いつもそうしとけやゴミが」

「うーん、50点!」


 奴らはそんな事を言いながらも、俺に近づき再びお菓子を受け取った。

 そんなこと言いなさんな。俺からの日頃の感謝ってやつさ。美味しいだろう?そうだろう?ルート君印のお菓子はさぞ味蕾を刺激するだろう。


 くっくっくと笑みを零しながら、俺はお菓子を次々と投げつけた。


「本当にお前が作ったのか?これ」


 ふと、一人のルーキーが訝しむ様にそう言った。

 それを聞いた俺は心外だとばかりにそいつの頭を血液腕で握り潰す。顔にびしゃりと真っ赤な液体が飛び散りながらも、俺はお菓子をルーキー共に投げつけながら口を開いた。


 お菓子―、お菓子―、カップケーキにシュークリーム、生チョコにサクサククッキー。美味しいお菓子がだいしゅ~ご~。ルート君印のお菓子はいらんかね~。


 返り血を物ともしない俺をみて、ルーキー共はたたらを踏んでその場からそそくさと離れていった。


 ……フン。

 俺はそれを見て、鼻息を鳴らした。

 この程度で逃げやがって…別にお前らが逃げたってな、他のルーキーはそこら中にポップするんだよ。


 俺がそう考えた途端、再び降って湧いた様にルーキー共が姿を現した。


 さーて、ルート君印のお菓子をあげようね!

 ここいらで少しくらい好感度を稼いだって、誰も文句は言わんだろ!元々、このお菓子は失敗作らしいし、俺に有効活用される方がお菓子も作り手も嬉しかろう!


 口元に笑みを浮かべて、クッキーとカボチャ型のグミを握り、俺はルーキー共に近づいた…。


 お菓子…ルート君印のお菓子はいらんかね~!





 恐怖!他人のお菓子で好感度調整を図る怪物…!


 ◇■◇


 あ、終着駅のクズ共じゃん。


 俺は新世界と旧世界の丁度狭間でお弁当を食べる終着駅共を発見した。


 おーい、げーんきー?

 何食ってんのー、俺にも一口くださーい。

 俺がそんな事を言いながら、手を振って近づいていくと、奴らはさっとお弁当を俺から見えない位置に隠して、こちらを睨みつけた。


 おいおい、ひでぇな。

 揃いも揃って弁当の中身見られたくないタイプか?蓋を壁にして飯を掻き込むタイプか?今時古いんだよ、そんなの。


 そんな事を言いながら、じりじりと奴らに近づいていくと一番近くに座っていた廃人が俺を睨みつけながら、


「おい、ルート。弁当が欲しいなら等価交換だ。お前が何かを出すなら、俺も何かを提示する」


 お弁当等価交換の法則。

 廃人は、俺にそれを提示する。

 ふぅん、確かにその通りっちゃその通りだ。筋は通っている。これがルーキーの言うことだったら、バイキンマンが如く問答無用に食らい尽くしたところだが、相手は俺の敵わない廃人共だ。ここは乗るしかない。それに、丁度()()()()()()()も持ってるしな…。くけけ…!


 俺は両手を上げて、廃人共の傍に寄って行く。


 おーけーおーけー…。

 その誘い、乗った。俺から出すのは美味しい美味しいお菓子の山だ。お前ら好きなだけ取ってっていいぞ。その代わり、クッキーだけかなり量が多いから、クッキー+αって感じのセットで持ってってくれよな。


 そう言って、亜空間から大量のお菓子の山を召喚する。

 パックマンは何を考えたか、クッキーだけが他のお菓子の数倍の量あり、消化しきれる気がしないのだ。


「おぉ、お前にしては中々いいもんじゃねーか、んじゃ出し巻き卵やるよ」


 そんなことを言い出した廃人を皮切りに、終着駅の面々がぞろぞろと俺の元に適当なおかずを納品し、ごっそりとお菓子を取っていく。

 終着駅は、腐ってもトップギルドだ。奴らの昼食の弁当は一流の料理人…それこそパックマンレベルの数少ないトップシェフが作っている。


 新世界産の野菜に、サシが入った肉、一粒一粒が際立った米…。

 どれもが現状の超一級品だ。恐らく、トップ連中しかお目に掛かれない代物ばかりだろう。ここで貰ったものを全て仕舞って、別のところで売り捌いてもいいが、流石に俺も空腹でステータスがダウンし始めた。ここは素直にこいつらに交じって遠足気分になろう。


 エビふりゃーが誰よりもクッキーを大量に取っていくのを見届けながら、木陰でもきゅもきゅと鮭を頬張っている抹茶の横に腰を下ろした。


「……」


 すると、抹茶は箸を咥えながら薄目で俺を見てくる。


 んだよ、そんな目してもなんもやらねーぞ。

 俺はそう言って、大量に盛られたおかずの山を抹茶から隠す様に背中を向けた。こいつはそう言うところがありやがる。人のものを欲しがるいやしんぼめ。


「違いますよぅ。…今度は何企んでるんですか、ルートさん」


 あぁ?企んでるぅ?

 俺は身に覚えのない事を言われて、疑問符を浮かべる。


「だって…そうでしょう?どうせお菓子に何か仕込んだに決まってます」


 お、お前なぁ…。

 俺は呆れたように訝しむ抹茶を見る。確かにほとんどの終着駅の面々がお菓子を取りに来ていたが、こいつはこの場から動いていなかった気がする。そんなこと考えていやがったのか…。


 良いか、抹茶。他の連中を見ろ、だーれも怪しんでねぇじゃねーか。食べ物に毒を仕込むっつーのはこのゲームじゃ難易度が高いんだよ。余程運がいい料理人か、腕の立つ料理人じゃねーと毒料理はできねーの。βの頃とはちげーんだよ。だからこそ、奴らはそれほど警戒もせずに俺の菓子を食ってるわけ。


 現にだーれも死んでねぇじゃねーか。

 それが良い証拠だ。疑いすぎなんだよ、てめーはよ。


「…そうでしょうか」


 そうだよ。

 お前はいっつも考えすぎんだよ。もっと気楽になれや。

 俺はそう言って、亜空間に一つだけ残っていたカップケーキを抹茶に渡す。


 抹茶は箸を口にくわえこんで、もにょもにょと唇を動かしながら、それを受け取る。

 俺はそんな抹茶を横目に見ながら、一級品のだし巻き卵を箸で掴んで口に運んだ。


「……はぁ、まぁいいです。折角ですし、これあげます」


 パクパクと唐揚げやら何やらを口に運ぶ俺を見て、抹茶は深く考えることを馬鹿らしくでも思ったのか、小さく溜息をつきながら、俺の前に鮭の皮を置いた。

 そして、カップケーキをはむはむと口に運びながら、揺れる木の葉を見ていた。


 お前鮭の皮食わないタイプかよ。

 そういうタイプは大体エビフライの尻尾も食わねーんだよ。

 ハムスターと化した抹茶を見ながら、そんな事を口走り、《火魔法》持ちの奴に皮を炙って貰おうと立ち上がる。それと同時に風が吹き、髪が揺れる。


 俺の視界が、揺れる髪で不明瞭になる。

 そして、俺はふと遠くの丘の上に人影を見つける。

 その人影は、片目を髪で隠しており、残り一つの瞳でこちらを見つめていた。


 あれは……パックマン…?

 姿風貌は、間違いようもなくパクロー本人だ。しかし、なぜ奴がここに…?

 俺がそう考えた途端、背中をぞくりと何かが伝った。

 こ、これは…この感じは…、この圧倒的なくらいの嫌な予感は……!!


 俺のパッシブスキルが発動する。

 嫌な予感が心を支配し、遠くに見える奴の一挙一動から目が離せなくなっていた。

 奴は、そんな俺に見せつける様に左手を空へと掲げて、何かを掴もうとでもしているような開かれたその掌を、




 ―――ぎゅう、と強く握り込んだ。




 その瞬間、視界一杯にいた終着駅の連中が口から血反吐を吐いて、倒れ込んだ。


「わ、わ、わっ…!」


 突然の光景に抹茶が驚いたように声を上げて、立ち上がる。

 カップケーキと弁当が地面に転がり、その中身をぶちまける。


「る、ルートさん…!やっぱり貴方って人は…!」


 抹茶がキッと表情を強く締めて、俺を睨みつける。しかし、肝心の俺は…、



 や、やられた……ッ!!嵌められた…ッ!!!


 やっとこさ、理解した。

 パックマンの奴…、何らかの魔法干渉をお菓子に仕込みやがったんだ…!抹茶だけが生き残ってるところを見ると、恐らく仕込まれていたのはクッキーのみ…!量の多さから違和感に気付くべきだったんだ…!


 しかし、何故食べてすぐに発動しなかった…?

 ルーキー共だって食べて何も起きてなかった。まるで、タイミングを計られていたみたいに…。


「る、ルートさん…!何固まってるんですか!」


 抹茶が固まった俺の頭を、大きな杖でガンガンと叩く。


 パックマンは、タイミングを見計らっていた…?

 いつを…?決まっている。廃人が食べるタイミングだ。しかし、何故…?いや、それよりも奴の力だ。拳を握り締めた瞬間、廃人共は血を吹いた。つまり、仕込んだものを取り込ませさえすれば、奴は生殺与奪の権を握り締め続けられるんだ。


 そんな事、普通の料理人にはできやしない。

 つまり…奴は…、


「レア職業…?」


 それならば納得がいく。

 またはユニークスキルだ。何はともあれ、最悪だ。

 廃人共がこうなってるってことは、最初に配っていたルーキー共もこうなっている筈だ。


 ……フン、好感度調整失敗…ってね。


「――…もうっ!ルートさんッ!」


 抹茶の持つ杖の固い部分が、俺の頭に直撃する。

 ちょ、痛い痛い。お前の杖、結構凶器だってこと自覚してくんね?それ魔法補助道具ってより、ただの鈍器だからね。

 たんこぶ出来たよ、たんこぶ。


「反応しないそっちが悪いですよ!ほら、せめて死んじゃった人達蘇生するので、手伝ってください」


 えぇ~…、別によくな~い?

 俺は、露骨に嫌そうな顔を見せながら、抹茶から数歩引こうとする。しかし、奴はそんな俺の腕をつかみ取り、ジト目でこちらを睨みつける。


「い、い、か、ら」


 …ちぇ~。

 俺は渋々といった具合で既に事切れている連中の傍によって、蘇生がしやすいように抱えてやる。はぁ、これ生き返ったらボロクソ言われんだろーなぁ…。


 そんな事を考えていると、突如として俺の頭の中にファンファーレが鳴り響く。



 ◀ 獲得!▶

 〔プレイヤー「エビふりゃー」から《ペナルティドロー》を獲得〕



 ………。


 ごとり、と抱えていた廃人の身体を地面に落とす。


 だらりと酷く粘ついた汗が頬を伝る。

 脳裏にβ時代の思い出が颯爽と早馬の如く駆けていく。


「るーと、さん?」


 目を限界まで開き、顔を真っ青にした俺を見て、流石の抹茶もおかしいと思ったのか、先程とは比べ物にならないくらいに心配そうな表情と声色で俺の顔を覗き込んだ。


 ドクンドクンと心臓が鳴っているのがよく分かる。



 〔パクロー:いい気味だ〕



 パックマンからくるメッセージが、今や酷くどうでもいいもののように見えた。



 すぅー…、っはぁー…、すぅー…、っはぁー…。

 息を吸い込み、大きく吐き出す。

 そして、俺はようやく立ち上がると、心配そうに未だ俺を見つめる抹茶の手を取り、共にその場から駆け出した。


「え、えぇ!?」


 抹茶が転びそうになりながら、走り出す。

 俺は勢いよく、抹茶を掴んだ腕をぶん回して、抹茶を前へと放り出した。


「わ、う、わっととっ」


 何度かのステップを踏んで、抹茶はそのままスピードに乗って、地面を蹴り始める。

 俺は、それに無理矢理に追いつくと神妙な面持ちをして、奴に告げる。


「いいか、抹茶。お前はもう終わりだ」


「ぇえ…?」


 俺の言葉に、抹茶が不可解そうに首を傾げる。

 そりゃそうだ。なにせ、こいつは現状のヤバさを理解していないのだから…。


「いいか、今に見てろ」


 俺はそう言って、後ろを見る。

 抹茶も、俺が後ろを見るとそれを真似する様に後ろに顔を向けた。

 すると、遠くから砂塵にも似た砂埃と共に轟音が近づいて来る。その音は、どんどんと大きくなり、それに従って砂埃も肥大化していき――、


「――……、……い、おー…、おーい、おーい、おーい」


 何かが呼んでいる。

 何か、聞いた事のある声で、深淵からこちらを喚んでいる。


 そして、それの姿がはっきりと俺達の瞳に映し出される。

 その瞬間、俺と抹茶は本能的に足の回転率を上げて、前を向いた。


「抹茶、お前もかぁ」


 見たことのない笑顔を携え、あらゆる場所に青筋を立て、明らかに常軌を逸した速度でこちらに迫りくる暴力装置がいる。

 そう、奴は、奴の名は…!


「エビふりゃーくぅんんん…!」


 俺の喉から情けない声が漏れる。

 エビふりゃーのスキルを奪ってしまう、それはそのプレイヤーの死を意味する。それも、惨たらしい位の。これは決定事項だ。βの頃から変わらない常識だ。


 でも、俺一人なんて味気ないだろ?

 なぁ、そうは思わないか?俺の大好きなだーいすきな、


「し、死んでくださいいいいいいいい!!!!!」


 抹茶ちゃぁん……!


 旅は道連れ、余は情け…。

 俺と一緒に地獄を見ようや…。あの時に、俺の手を振り解かなかったのが運の尽きってやつだ。


「むぎぎぎぎぃ…!」



 ――なぁ、一緒に堕ちようや、どこまでも…一緒に、な。


 そう言った瞬間、抹茶の横を並走していた俺が、突然消える。


「は、え!?」


 抹茶は素っ頓狂な声を上げて立ち止まり、ぶんぶんと首を振る。

 しかし、砂埃が酷すぎて周囲の状況が一向に掴めない。


 まずい、抹茶がそう思った時にはもう全てが遅かった。

 抹茶の足は何者かに掴まれて、勢い良く転倒させられる。


「ぷげっ!」


 変な声と共に、視界の半分が地面で埋まる。

 どうにか立ち上がろうと、抹茶はその場に手をついた。すると、何かに掌が触れた。嫌な予感を胸に携え、抹茶はゆっくりとそちらに目をやる。すると……、



「俺達、運命共同体だよな」


 背中に大量の剣をぶっ刺された、剣山フォルムのルート君がそこにはいた――…。


「あ、あぁ…っ!」


 抹茶が、咄嗟に俺の背中から剣を抜こうとする。

 結局、抹茶は優しい子だ。最後の最後まで、他人の事を気遣ってしまう、典型的な幸薄系の可哀そうな子だ。

 俺は、薄れる意識の中で、せめて何かを残してやろうと――、


「―――後ろ」


 言葉を絞り、抹茶の背後に指を向けた。

 揺れる視界の中で、抹茶が泣きそうになりながら後ろを振り向く。そこには、





 満面の笑みを浮かべ、何十本もの剣を持ったエビふりゃー君の姿があった……。





 幸薄少女、抹茶ちゃんの明日はどっちだ!?

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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