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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
94/115

記録.94『俺達【終着駅】創設メンバー!』

 

 ―――遥か遠い記憶の端、たった一人で空を見上げる奴がいた。

 空は希望に満ちている、そう言った奴を多くの者たちは嘲笑し、上辺だけの応援の言葉を述べて奴から離れていった。


 それでも、奴は諦めなかった。

 淘汰されようと、馬鹿にされようと、仮想世界の空には無限の夢が内包されているとそう信じて――。





『きっと、ラピュタを一緒に見つけようね』




 そう言った奴の顔は、一体どんな表情だっただろうか―――。


 ◇■◇


「…君は…?」


 プロペラが、紙飛行機を胸に搔き抱いて俺を見る。

 その瞳にはありありと警戒心が込められているのが手に取るように分かる。


「俺ぁルート君だ。おめーの事は知ってるぜ、空を夢見るよだか……”空の人”君よぉ」


「……るーと、ルート。聞いた事がある。ゴミスキルのルート、確かそんな呼ばれ方をしていた筈だ」



 ……ぁあ?

 ちょっと…待て待て待て…?

 何かおかしいぞ?何故、俺にもうそんな不名誉なあだ名がついている?さっきまでこの世界はβ時代最初期だったはずだ。そんなすぐに俺の名が広まる訳がない。


「お、おい…プロペラ…。最近あった一番デカい事ってなんだ?」


「ぷ、プロペラ…?いや、えーと…最近で言えばやっぱりゲームのロールバック?初期化?…みたいな一度はじめからになった事じゃないかな」


 ―――。

 んんんんんんんん……。


「…ねぇ?」


 あ、悪い悪い。

 ちょっとどデカい用事が出来ちまった。

 また今度な、プロペラ。暇あったらすぐに会いに来る。


「え、あ…うん…」


 俺はプロペラに背を向けて、その場からゆっくりと離れていった。

 その後ろ姿を、よだかと呼ばれる少年の瞳はじっと見つめ続けていた……。


 ◇■◇


 最初っからおかしな点はあったんだ。ただそれに気付けなかった。

 手を顎にやり、俺は街の中を歩きながら考えた。


 しっかりと自分と周囲を見直せば、おかしな所ばかりだ。


 何故、俺は最初、刀という不便さの極みの武器を帯刀していながらスムーズにベンチに座れた?

 ――それは、俺の持っている武器が刀では無くなっていたからだ。


 何故、プレイヤーが発展が遅い筈の食べ物の屋台を経営していた?

 ――それは、既に発展するほどの時間を有したからだ。


 何故、俺の悪名が既に広まっていた?

 ――それは、時間軸が先までとは異なるからだ。



 そう、そうだ。

 プロペラと初めて出会ったのも、何も最初期じゃない。

 一度、ゲームが初めからになったその後だ。つまり……、俺が今いるこの場所は…、


「時間が進んだβ時代の中盤期…。何もかもの基盤が整い始め、そして――」



 ――【終着駅】というギルドが発足した時期だ。

【終着駅】というギルドは何も初めから名を轟かせていた訳じゃない。ターミナルの言葉と、エビふりゃーの力が廃人共を惹きつけたのだ。

 ギルド創設当初、ターミナルとエビふりゃーは俺+数名に「ギルド発足に必要な最低人数が足りない」とのたまり、一時的ではあるがメンバーが集まるまでの間、【終着駅】に入って欲しいと懇願された。


 色々な条件を付け、俺はその願いを飲み、メンバーが集まるまでの間のみ名目上は【終着駅】のギルメンとして活動した。

 ここが本当に一度ロールバックが起きた世界ならば、俺は確かに【終着駅】に入っている筈だ。


 俺はとりあえずとばかりに【終着駅】のギルドハウスがある場所へと行ってみたものの、扉は鍵が掛かっていた。βテスト時代の駄目なところは、ステータスから所属ギルドが見れないところだ。つくづく不便だ。


 …しょうがねぇ。

 フィールドに出て、ターミナルやらを探すしかねぇか。

 俺はキョロキョロと周囲を見回して、見知った顔がないかを探しながらフィールドへと足を向けた。






 自分の所持スキルを確認し、亜空間から武器を取り出す。

 今の俺の武器は手斧だ。ちっこい癖に火力はあるが、何分リーチが短い。このゲームは基本的にリーチが短い武器は全て産廃だ。戦えるっちゃ戦えるが、普通に長剣やら槍を使った方がよっぽど強い。


「んん……」


 とりあえずとばかりに廃人共を数人狩りながら、俺はフィールドの奥へと進んだ。

 最初期に比べりゃ随分と強くなっちゃいるが、まだPSはおこちゃまだ。


 なぁ、タップストレイフの一つくらいしてみろや、おい。

 倒れ込んだ廃人の首筋に手斧を突き付ける。


「んだそれはよぉ…。放せやゴミカス」


 はっ!弱い犬ほどよく吠えるたぁよく言うぜ!

 お望み通り放してやるとも、現世からの呪縛からな!

 手斧を思い切り振るい、廃人の首目掛けて振り下ろす。


「甘ぇ」


 しかし、その瞬間、廃人の身体が突然爆発するように回転し、俺を弾き飛ばした。


「せ、《旋回》…!くそッ…強スキル持ちやがって…!」


 物凄い勢いで回転した廃人は、その勢いのまま地面に着地するや否や腰から銃を抜き取り発砲する。

 俺は咄嗟に手斧で防ぐが、数発が腹に直撃する。


「ぐ、くそ……!」


「詰めもスキルも、何もかもがあめーんだよ」


 廃人はそう言って、手負いとなった俺の頭を何回も打ち抜いた。



 ……。――……ふぃー。

 戦力分析完了って感じっすわ。なるほどね。中々…思っていたよりは強いじゃねぇの。まぁ、俺は本気出してないし?つーか何?強スキルに強武器使ってて楽しいわけ?無いわー、弱ぇ選択肢を組み合わせるから楽しいんだろーが。


 俺は愚痴愚痴と呟きながら、幽体となって自分の死体を見る。

 廃人が俺の死体を足蹴にして、どこかへ去っていく。俺はそれを憎悪を孕んだ目で睨みつけた後に、〔サイショ〕の街でリスポーンしようと顔をあげる。すると、



『………』


 俺の目の前に、一人の幽霊がいた。

 両目を薄紫の髪で隠し、口元には不敵な笑みを浮かべている。風でふよふよとスカートが揺れている。パンツが見えそうになり、俺は即座に奴の下へと回ろうとする。

 しかし、奴はそれを見越すように俺の降下と同時に高度を下げる。



 ……こいつを、俺は知っている。

 何せ、つい最近現実の方でも話題が上がったばかりの女だ。まさか仮初の文明遺跡で先に再開できるとは思わなかったぜ。


 俺の睨みつけるような瞳を見て、奴は再びにこりと笑うと〔サイショ〕の街の方を指さした。


 あぁ…そうだな。

 幽霊じゃ話が出来ないもんな。一緒に魂の器を取りに行こうぜ、――”目隠れ”フィルラ…。


 ◇■◇


「ルート君、道草食べてちゃいけないよ」


 蘇生されて直ぐ、小さな子供を諭す様に目隠れはそう言った。

 人差し指を上に突き出して注意するその様は、遠い記憶の奴の姿と一致した。どこか懐かしいものを感じ、俺はエモい気分になった。


 しかし、それはそれ。これはこれだ。

 目隠れと偶然邂逅したからと言って、そのままポエムを詠む訳でもねぇし、俺の視点でこそこいつの姿は久方振りだが、こいつからすりゃ昨日今日に会っていてもおかしくない。


「あぁ?道草ぁ?」


 そう考えると、下手な事は言うもんじゃねぇ。

 今やるべきことは、情報収集だ。現状がβ時代中盤期と分かった以上、そこから更に派生した情報が欲しい。


「もしかして…ルート君…ターミナル君とエビ君が話してたの聞いてなかったの?」


 目隠れが、人差し指を頬につけて首を傾げる。

 俺はそれに頷いた。


 知らねぇも何も何一つ聞いてねーもん。

 何?何すんの?ターミナルとエビふりゃーが何?


「悪質すぎるPK集団殺して、【終着駅】の認知度を上げようって話。もう皆集まってるよ」


 …ふーん。

 お前は、俺を探すためにデスペナ省みず態々死んで、幽霊になってまで探しに来たって具合か。そりゃ悪いことしたな。んじゃ、さっさと行こうぜ。場所はどこだ?俺知らねーから道案内しっかりしてくれよ。


「ルート君は方向音痴だからね」


 目隠れはそう言って、俺の前を歩き始めた。

 俺は奴の後ろ姿を見ながら、思考の整理を始める。


 ふ~ん…。粗方分かった。

 やはり睨んだ通り、【終着駅】の結成は既に行われていた。そして、【終着駅】の臨時メンバーである俺と目隠れは、今奴らに協力中って訳だ。


 そこまではいい。

 問題は、β時代最初期の頃の俺の扱いはどうなってるかだ。

 俺の不名誉なあだ名がついていたり、目隠れが俺を認識している以上、時間軸はほぼ正史に乗っ取って動いている。しかし、問題はこの遺跡に入って直ぐのβ時代最初期の俺の行動だ。


 あの時の行動が果たして今に影響を与えているか否かが重要になってくる。

 といっても俺がかかわって変わった現象は酷く少ない。


 強いてあげるとすれば


 ・エビふりゃーとの最悪すぎる初対面

 ・狐面を早々に覚醒させる


 この二つくらいだ。

 もしも、この二つが影響を及ぼしている可能性があるならば……と考えるが恐らくそこまで問題はないだろう。

 元々、エビふりゃーとの出会いは最悪だったし、狐面だって覚醒が早まっただけだ。


 何も問題はない筈だ…。

 一抹の不安を抱えて、俺はそう結論付けた。


「…今日のルート君は元気ないね?いつもはもっと絡んでくるのに」


 怪訝そうな顔で奴は俺の顔を覗き込んだ。

 奴の前髪が揺れ、その中にある瞳が一瞬見えそうになる。


「しぃッ!」


 俺は、目隠れの目を見てみたいという好奇心を抑えきれずに、直ぐ近くにある奴の顔目掛けて手を振るった。

 しかし、その手が前髪に掛かる直前に俺の手は目隠れにキャッチされ、そのままがっちりと手の平を掴まれる。


「乙女の秘密を暴いちゃ駄目だよ」


「なーにが乙女だ。化け物め」


「酷い言い草だね」


 目隠れは俺の手を離す事無く、再び歩き始めた。

 奴は少し歩いてはちらと俺の方を向き、にやにやと笑みを浮かべた。こいつはずーとそうだった。俺の弱みを見つけてはそこを何度も何度も執拗に突いてくる。嫌ったらありゃしねぇ。


「もうすぐ見えると思うよ」


 目隠れが俺の方を振り返った。

 奴の握る手がぬるりと汗を分泌する。こいつ、エビふりゃーと同じで手汗を結構かくタイプ…!

 俺はそんなことを思いながら、遠くに映る人影を視野に入れた。


 太陽が照り付ける。

 街にいるとあまり感じなかったが、だだっ広いフィールドだと影の一つもないから余計に熱く感じやがる。


 じんじんと柔肌が焦げる感覚がする。

 何も過去だからって季節まで再現する必要はねーだろーが…。そんな愚痴を心の中で吐きながら、陽炎の向こうに映る連中を俺は目を細めて睨みつけた。


「終わったらみんなでアイス食べに行こうね」


 目隠れがにこりと笑って俺の手を強く握った。


 あぁ…そうだな…。

 お前の暑苦しいお手々繋ぎもそうすりゃ少しは涼しくなるだろうよ…。


 俺の言葉に、目隠れは酷く幸せと言わんばかりに笑みを浮かべた。


「――あ、あー!おい!クソ目隠れ!ルートさんから手ぇ離せ!」


 遠くから、プリン頭が何かを叫び散らかしながら顔を真っ赤にし、こちらに走り寄ってくる。

 あー…そういやいたな、臨時メンバーの中にこのプリン頭も…。


 俺はこちらに走り寄るプリン頭の奴を見て、ため息をついた。


「”プルメル”ぅ…いいからさっさと終わらせよーぜ」


 目隠れと俺の繋がれた手をチョップで切断するプルメルへと俺はダルさを隠す事無くそう言った。


「あ!そうですね!早くしましょう!」


 プルメルがぱぁっと花を咲かせたような笑顔を浮かべる。

 そして、その後ろから二人の人影がのろのろと歩いてきた。


「いヤー、あっついねェ」


「遅刻常習犯か?ルート」


 ……あぁ、悪いな。

 お前らと違って重役出勤なんだよ、俺は。別にお前らだって暇だろ?”ターミナル”、”エビふりゃー”。


「ゴミゴミも来たシ、さっさと行こうカ」


 ターミナルがそう言うと、俺達はぞろぞろと歩き出した。


 なぁ、場所分かってんの?そのPK野郎共がいる場所~。

 俺がそう言うと、ターミナルは「だいじょーブ!」と元気よく言った。


 さっさと終わらせてくんないかなぁ…。

 つーかこれ、今の俺にとってなんか意味あんのかよ…。

 そんなことを考えながら、俺はターミナルたちの後ろにくっ付く様にのろのろと歩いた。





 ターミナルとエビふりゃーが遠くを指差しながら何かを話し合っている。

 その間、俺と目隠れとプルメルは木陰に座り込んで、休憩をとっていた。


「ルートさん!私もお迎え行こうとしたんですよ!でもこのクソが先に死にやがって…私も死のうとしたらターミナルさん達が『一人行ったからもう死ななくていいよ』って!このクソ女さえいなければ私がお迎えに上がって、おんぶだって…!」


「わーった。分かったから黙れ。熱意が暑苦しい。おい、プルメルお前アイス持ってない?」


 俺は暑苦しいプルメルを押しのける。


「…アイスですか?えーっと…確か…」


「ルート君、終わったら皆でアイスを食べに行く約束だよ!今食べては感動が半減しちゃう!」


 あ、あぁ…?

 お前なんて面倒臭い考え方をしやがる。

 アイスがあるならば今食うに越したことはねぇだろ。それに今食って、終わった後にも食えばいいだろーが。感動云々なんて犬に食わせろ。んで、あるか?プルメル。


「ソーダ味のアイスキャンディーだけならありますよ!」


 あぁ、それでいい。

 奴らが場所の特定をしている間、それ食って涼んでよーぜ。


「いいですね!」


 プルメルがアイスキャンディーを取り出して俺に渡す。

 そして、幾つかの文句を吐きながら渋々目隠れにも渡した。目隠れは、感動云々と未だに言っていたがアイスキャンディーを一口食べるとそれも無くなった。


 木漏れ日の中で、俺達はアイスをしゃぶる。


「すげーのどか」


「そうですね…」


「暇だねぇ」


 俺達は空を見上げて、ぼーっとした。


 正史と展開が随分違う。

 俺は思考停止したがる脳味噌でそう考えた。

 実際の展開は、さっさとPK集団が見つかって即討伐だった。にも拘らず、今回は随分と難航している。恐らく、俺が遅刻したために発生した蝶の羽ばたき(バタフライエフェクト)みたいなもんだろう。


「ルートさん!私の膝使いますか!?」


 プルメルが、ぼーっとする俺を見たからか、自分の膝をぺちぺち叩いてそう促した。

 しかし、俺はアイスキャンディーを齧りながらそれを断る。


 嫌だよ。

 お前絶対俺の顔ガン見するじゃん。落ち着かねーんだよ、お前の傍。


「そ、そんな…!」


「あははは」


 プルメルがショックから崩れ落ち、地面に顔をダイブさせる。それを見た目隠れが、指をさして笑う。


「よシ!行くゾ!お前ラ」


 ターミナルがだらける俺達へと言葉を投げた。


 やっとかよ。おせーぞ。

 どんだけ待たせたと思ってやがる。


 俺は膝に手をついて立ち上がる。

 プルメルがしくしくと小さく呟きながら歩き出したターミナルたちの方へと寄っていく。

 しかし、何故か目隠れだけはその場に座ったまま俺の方を見た。


「おい、てめぇなにしてんだ。さっさと立ち上がれよ」


「起こしてよ」


 目隠れが、こちらにずいと手を差し伸べてくる。

 俺はそれを杜撰に振り払って、舌を出した。


 なーんで俺がお前に手を貸さにゃならん。

 そのくらい自分で立ち上がれや。子山羊じゃあるまいし……――、


「良いから…ね?”先生”」


「……ッ!…はぁ…」


 俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 そして、逆に目隠れはそんな俺を見て酷く嬉しそうに口角を吊り上げた。

 奴が差し出した手を俺はずいと掴み、勢い良く引き上げる。相変わらず、奴の手の平はどこか少しぬるついていた。


「よし、それじゃ行こう。プルメル君に見られたらまた怒られちゃうからね」


 目隠れは不敵な笑みを浮かべる。

 俺はそれを見て、舌打ちをしながら先に行くエビふりゃーたちに追いついた。


 ◇■◇


 あぁ、あいつら?


 木陰に隠れた俺達は、少し先の歩いている集団に目を付けた。


「あァ、情報にある特徴と一致してル。間違いなイ。とっちめて拘束しよウ」


「行っていいか?行っていいか?」


 戦闘大好きエビふりゃーがターミナルの横でうずうずとしている。

 しかし、我慢ならないようでしきりに茂みから出ようとしては隠れ、出ようとしては再び隠れと必死に本能とターミナルからの指示とで己の格闘しているように見えた。


「みんナ、準備はいいカ?」


「いいからさっさと終わらせましょー」


「大丈夫だよ」


 プルメルと目隠れが、ターミナルの言葉に返事を返す。

 俺はそれを無言で見ていたが、ターミナルはそれを咎めるように俺の方へと向き直り、言った。


「ゴミゴミも平気カ?」


「……あぁ、いいぜ」


 俺は手の平をひらひらと振りながらそう返事をした。

 それを聞いたターミナルはにこりと俺達に笑いかけて、再びPK集団の方へと向き直った。そして、


「ゴーゴーゴー!!」


 右手を真っすぐ前へと伸ばし、覇気の籠った声を放った。

 その瞬間、ターミナルの横にいたエビふりゃーが獣の如く飛び出し、疾風と化して駆けた。

 それを追い掛ける様に、ターミナル、目隠れ、プルメルが続く。


「相手は格下ダ!俺達なラ、赤子の手を捻るくらいに楽勝ダ!」


 ターミナルが冷静に叫ぶ。

 しかし、この中にそれを聞く者なんて誰一人いない。

 エビふりゃーと目隠れが腰の鞘から剣を同時に抜刀し、奴らの遠距離組を片しにいく。プルメルとターミナルは近場の連中を殺すことに集中している様だった。


「わぁ~、がんばれ~」


 そして、俺はその場に座り込んで奴らを応援する。

 遠くで一際無双するエビふりゃーと目隠れが見える。やっぱあいつら強ぇ~。


 エビふりゃーはやはり、天性のセンスと努力の跡が見える戦い方をする。奴の戦い方はあらゆる技術の応用が見え隠れし、敵に一切の反撃の隙を与えていない。

 その逆に、目隠れの戦い方は堅実だ。

 いなし、弾き、流し、打ち合い、その末に一撃で屠る。基本の基本を最大まで熟練したみてぇなつまらない動き。しかし、だからこそ奴は負けない。そういう戦い方をしているからだ。


 あ~……暇だなぁ。

 早く終わんねぇかなぁ…。


 あ!そうだ良いこと考えた!

 俺の頭上で電球が光る。俺は早速とばかりに近くの樹木へと近づき、ナイフを取り出すと早速作業を始めた。




 いいですか?これが働きアリの法則というものです。


 ◇■◇


「おい、ルート。終わったぞ」


 血まみれになったエビふりゃーが俺の前に立ってそう言った。

 奴は剣を思い切り振るい、付着した血を飛ばすと、そのまま鞘に納めた。


 意外と早かったな。

 あー…いや、まぁ面子が面子だしそんなもんか。

 俺はエビふりゃーの後ろで、拘束されたPK集団が土に埋められていく様をちらりとみながらそう言った。


 エビふりゃーに目隠れという現時点のプレイヤー間最強戦力に加え、オーダーのターミナルに痒い所に手が届くプルメル、皆の癒し枠ルート君だ。隙なんてあったもんじゃねぇ。


「飯食い行こうぜ」


 俺がうんうんと納得したように頷いていると、エビふりゃーが見当違いの方向を親指で指さしながらそう言った。

 きっとその指差しは〔サイショ〕の街を指しているつもりなんだろうね…、エビふりゃー君。でもね、そっちには海岸しかないんだよ…。


 俺はエビふりゃー君の馬鹿さにほろりと涙を流して、ゆっくりと頷くのだった。




 なお、エビふりゃー君が指さした方向は山岳地帯です。


 ◇■◇


「な、なんでこんな暑いのにうどんなんだよぉ」


 ひーんと泣き言を吐いて、目の前のうどんを指差す目隠れ。

 しかし、俺とエビふりゃーとターミナルはそんな奴を責める様に天ぷらを追加注文した。


「なーんであんたは冷たいうどん頼まなかったんですか…」


 そんな目隠れを見て、プルメルは呆れたように自分のうどんを啜る。

 俺はそんなプルメルを見て、うんうんと嬉しそうに頷いて、よしよしと優しく頭を撫でた。お前は賢い子だね。うどんの事をよーくわかっている。


「うわきゃ~!!!」


 プルメルが俺が頭を撫でるたびに奇声を上げる。


「むぎぎ…!冷たいのあるって教えてくれなかったよ…!!」


 そんな俺とプルメルを見て、目隠れが食い下がるように歯軋りをする。

 そんな奴の元に山菜やら海老やらの天ぷらが大量に届き、絶望するような表情を浮かべて橋を落とす。


「………」


 暫く固まっていた目隠れだったが、再び箸を持ち直すと自身に届いた海老天をおもむろに掴み、それを隣のエビふりゃーのうどんの上に置いた。

 エビふりゃーは自身のうどんの上に置かれた海老天を凝視し、その後にそれを置いた張本人の目隠れを見た。


 目隠れは、何の感情も詰まっていないエビふりゃーの瞳に気圧されながらも箸をカチカチ言わせながら口を開いた。


「共食い~……なんちゃって」


「んぶッ…フフ…」


 目隠れのあまりにもつまらないギャグがその場を凍らせる。

 しかし、ただ一人ターミナルだけがうどんを噴き出して笑いを堪えていた。


 ねぇ……今のギャグえぐくなぁい?


「エグいです…。自分のうどんが熱いから場を冷ましてまで熱さを紛らわそうとしてるんですよきっと…」


 うわぁ~…、ないわぁ。

 目隠れちゃん、そりゃないわ~。


「ありえな~い…」


 俺とプルメルが、目隠れの向かいの席でこしょこしょと耳打ちをしあいながら陰口を叩く。

 ちらちらと奇妙なものを見る目をしながら目隠れを見ていると、奴は口をもにょもにょとさせたと思ったら、顔から耳までも真っ赤にして俯いてしまった。


 俺とプルメルは机の下で小さくハイタッチをして、再びうどんを啜り始めた。


「ふ、ふふ……んふっ……」


 静寂の中でターミナルの小さな笑い声だけが響く。

 エビふりゃーに至っては、未だに顔を真っ赤にした目隠れを凝視し続けていた。



「……そろそろ効いてくると思うんですが…」


 そんな俺達のテーブルに、そう言葉を出しながら一人の男が近づいてくる。


 あ?なんだお前……ってここの店主じゃねーか。

 なんだよ、追加注文でもしてほしいのか?この空気が分からねーか?今凍ってんだよ、この辺一帯がよぉ。


 うどん屋の店主は、普通のプレイヤーにしては珍しく視界が不明瞭になる黒子みたいな顔の前に黒い布を垂らす装備をしていた。


「なんで、……す…か…ぁ……zzzz」


 プルメルが言葉を発した次の瞬間、奴は突然うどんのどんぶりに顔を突っ込んで眠り始めた。


「……てめぇ、何しやがった」


 俺はそこでようやくおかしな状況に気付いた。

 さっきから顔を俯かせたまま動かないと思った目隠れは、白目を剥いて気絶してやがるし、エビふりゃーが目隠れを凝視していると思ったらこいつは石化してやがる。ターミナルはさっきから笑い続けていると思ったら、口から泡を吹いて動かなくなっている。


「ふふふ…」


 黒子姿の店主が不敵に笑みを浮かべて、亜空間からとあるものを取り出す。

 俺はそれを見て、驚愕する。お、お前…お前は…!


 奴は取り出した()()()()()()を黒子の布の下に装着し、エプロンを脱いだ。


「どうもこんにちは…ルート氏」



 ―――ど、ドクター!


「紹介預かり光栄です」


 まさかお前…うどんに毒を盛りやがったな…!

 俺の言葉に、ドクターは肩を揺らして肯定した。こ、この野郎…!


「眠り薬も、気絶草も、笑いの実も随分効力を発揮しますね」


 て、てめぇっ…街中での毒殺が許されると思ってんのか!

 すぐにてめぇは牢屋に―――、


「――はて?ルート氏何を言っているのですか?」


 ……ぁ?


「街中の毒殺は、自殺扱いなようですよ。ほら、現に衛兵が来る合図のアラートが鳴り響かないではないですか」


 ―――…ッ!!

 毒殺が牢屋行きの行為になるのは製品版からかっ…!くそ…、油断した…!


「ふみふむ、やはり効果は絶大…あとは――」


 ドクターが何かをそそくさとメモしている。

 そして、メモが終わったと同時に俺の方を向いた。俺は奴を睨みつけて、


「ん、が……ぼぉ、ぅ」


 喉から突如逆流する様に発生した濁流をそのまま受け入れた。


 あ、……ぁ?

 俺の手の平に真っ赤な血液が零れる。それと同時に視界が紅に染まり、涙の様な生暖かいものが目から零れる。


「毒薬、やはり効き目は抜群ですね」


 てめ、ぇ…。


「いやはやいやはや……皆さんのお陰で良い臨床実験が出来ました。まぁ、人を殺すためのものですがね」


 ドクターはくっくっくと笑う。

 奴のペストマスクの裏には一体どれほどの悪逆めいた笑みが浮かんでいるのか。


 俺はそんな事を考えながら、倒れ込んだ。

 ごぼごぼと喉から濁流が溢れ返る。や、やべぇ…、い、息が息が出来ねぇ…!


「それじゃあルート氏、皆さんによろしく伝えてください。まだ幽霊にもならず、皆さん死地を彷徨っているでしょうからね」


 ドクターが倒れ込んだ俺の背中を踏みしめて、店から出ていこうとする。

 俺はその後ろ姿を見て、心の中で呟いた。



 ドクター…、お前はいつも詰めが甘いんだよ…っ!

 俺はかろうじて動く腕で亜空間から手斧を取り出して、それをドクターの首目掛けて勢いよく投擲した。


「ん、ぁ?」


 ―――さくり、とドクターの頭と胴体が二つに割れる。

 ペストマスクをつけた頭がころんと転がり、偶然にも倒れ込んだ俺の目と合う。それと同時に、ドクターの身体がゆらゆらと揺れて倒れ込む。


 く、くけけ……!

 やはりリーチの短さは補える……!スキルの組み合わせ次第で幾らだってな…!

 ごぼり、と血が溢れる。

 衛兵召集のアラートが鳴り、数分後に俺は死に、教会で衛兵に拘束されるだろう。しかし、奴の尊厳さえ殺せればそれでいい…。


 ふわりと俺の身体が浮き上がる。

 ドクターが優しい表情で、そんな俺を抱擁する。



 ふん……昨日の敵は今日の友…ってか。

 俺とドクターは互いに認め合い、天へと召されていくのだった。





 まぁ、貴方だけはこの後捕まりますけどね。


 ◇■◇


 薄暗いよぉ。

 怖いよぉ。

 ひーん…泣いちゃうよぉ。


 俺は牢屋に閉じ込められて、しくしくと涙を流した。

 俺は悪いことしてないよぉん。なんで悪人の首を吹っ飛ばしただけで捕まらなきゃならんのだぁ。


 牢屋の鉄格子を両手に持って、えんえんと泣き喚く俺。

 俺の入った牢屋の向かい側の牢屋では、渋いおっさん面のプレイヤーが片足を上げてその上に腕を置くというかっこつけをしていた。


 そのおっさんが、泣き喚く俺をちらりと見る。


 ―――ビビッ!!!

 その瞬間、俺とおっさんの魂が共鳴する。


 俺がおっさんを見つめて、こくりと頷く。

 すると、おっさんも俺を凝視した後にゆっくりと頷いた。

 俺達は、ソウルリンクで繋がった。そうなれば、俺とおっさんがやる事は一つ……!



 俺とおっさんは、看守が通る度に鉄格子に顔をこすりつけて泣き喚いた。


 お゛お゛~ん゛、出しておくれよぉ~!!!故郷のお袋が待ってんだよぉ~!


 おっさんも何かを言っている。

 しかし、外から牢屋への音は遮断されている。それでも、その逆…牢屋から外…、看守には俺達の声が届いているのだ。それならば、俺とおっさんは共鳴し続ける。

 それが、俺達の生きる意味なのだから……!



 出しておくれぇぇぇい。うぇぇえええん…!

 そんな俺達の声も届かず、看守は酷く不気味なものを見るような目を向けて、そそくさと通り抜けていった。


「………」


「………」


 俺とおっさんが、看守の通り過ぎた静寂の空間で無言で見つめ合う。


 な、なんだよ…。

 俺が悪いってのか?違うね、悪いのは間違いなくお前だ。お前がもっとボンキュッボンの美少女だったら看守は絶対絆されていた。


 俺は看守が絆されそうな美少女の姿を思い浮かべる。

 すると、俺の目の前にほぼほぼ完璧な美少女が姿を現した。

 …あぁ、そうそう。こんな感じこんな感じ。黒いチャイナ服に、深いスリット、奇麗な黒髪に、豊満な胸…。このくらいの美少女だったら……―――。



 俺が言葉を紡ぐ中、目の前の南京錠が開錠され、鉄格子が開いた。



「ルートさん、だいじょーぶ?」


 鉄格子の外で、奴は心配そうに俺の名を呼んだ。

 向かい側のおっさんが血涙を流して、ハンカチを噛んでいる。


 お、お前は…、


「き、狐面…」


「はい…貴方のきつねですよ」


 狐面は、頬を赤らめてふにゃりと笑いながら、俺にそう言うのだった。





 映画版ジャイアン並みの清楚を発揮する臓物大好きちゃん。

アクセス数が0に近しい為、悲しいかなこの作品は打ち切る可能性がある事をご了承ください。申し訳ありません。

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