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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
89/115

記録.89『カカミヤちゃん!?』

 

 俺とターミナルとムイは、三人見合って微妙な雰囲気になる。


「……」

「……」

「……」


 三人が三人、それぞれを見合って硬直する。


 特にムイとターミナルの間にある空気は最悪だ。

 まぁ、しゃーなしとも言える。ターミナルがいなくなって、最も被害を被ったのはそれこそムイ本人だ。エビふりゃーは何故か気にする様子も見せないし、決戦兵器だってその意向に従ったのか、ターミナルの話をしやがらねぇ。


 恐らく、今ムイがターミナルに出会うまで、βプレイヤーの中でターミナルがこのゲームに復帰しているのを知っているのは俺とプロペラくらいだ。

 しかし、製品版になってからまだ他の奴ほど絡んでいないプルメルやインテリ眼鏡、ゴミ堕ちした連中は知っているのかもしれない。


「お久しぶり、ですね」


 ムイが堅苦しい口調で、ターミナルに言う。

 それを聞いたターミナルはビクリと肩を大きく震わせせ、「あ、あァ」と拙い返事を返した。俺はそんな奴らを無視して、適当に書庫の先に続く扉へと向かおうとする。


 しかし、勝手に歩き始めた俺の腕をターミナルは目にも止まらぬ速度で掴み取った。

 奴の帽子の奥の瞳には、ありありと「助けテ」と書かれており、その頬には嫌な汗が伝っているのがよく分かる。


 しかし、俺はそんな切羽詰まった状態のターミナルを突き離すように、腕を振って、奴の掴んでいた手を振り解いた。


「ムイ、ほんの少し待ってろ。俺たちに話、別に聞いてていいから」


 俺は固まるムイにそう言うと、振り払われた手を空中に浮かせたまんまのターミナルに向き直った。


 そして―――、



「いいザマだ」


 瞳を輝かせ、歯茎を剝き出しにして、にっこりと笑って奴に言うのだった。


 くけけ……。

 俺がお前の味方になるとでも?βの好か何かで、お前に無償で協力してやる程のお人好しとでも?とんだ勘違いして貰っちゃ困るぜ、()リーダー様よぉ。


 俺の言葉に、ターミナルの顔は少しずつ険しくなっていく。奴の頬を伝う汗は次第に脂を伴って、奴の心を蝕む。


 未開放領域(リージョン)戦線の時は、ありがとよ。

 お前のお陰で助かったし、プロペラだってべらぼうに喜んでた。お前が復活したことは確かに喜ばしい事だ。


 でもな、あぁ。でもなぁ、俺は確かにあの時……世界の拡張が為されたあの瞬間(とき)()()()()だぜ?



 ――『正直、言いたいことだらけだけどな、()()()()遠慮しとくぜ』…ってな。



 俺は、卑しい目付きでターミナルを睨みつけて、張り付けられた笑顔が本物になるのを感じながら、奴へと言い放つ。


「――さぁ、徴税の時間だぜ」


 増え続けた税を、少しずつ払って貰おうか。

 我らの親しき隣人、ターミナル君…。


 ◇■◇


 ムイとターミナルが正座で向き合っている。

 俺はそれを尻目に、書庫にあるもう一つの扉の方へと向かった。


 …ターミナルに、言いたいことがある奴は多い。

 それこそ、プロペラみたいに喜びの感情からくる言葉もあれば、ムイのように恨みにも似た負の感情な事だってある。

 俺は正直、消えていた奴の事はどうでも良かったし、これから先このゲームをやっていくのであれば、奴に降りかかるのはそんな廃人共の数多の言葉だ。


 だからこそ、俺は奴に何も言うまい。

 俺以上に、心にため込んでいる廃人共は山ほどいるからな…。それこそ、ターミナル君主催、ターミナル君出演の劇場物語だ。


 くくく…。

 俺は心の奥底で含み笑いを浮かべる。

 ターミナルっつー玩具は廃人共の注意を引くのに持って来いだ。いつか、アイツを使って何かしでかすのもありかもしれねぇ。そうして、そっちに意識が向いているうちに出来る事は山ほどある。


 俺は、これからの事を夢想してワクワクと胸を弾ませた。

 そして、そんな事を考えている内に俺とムイが入ってきた扉とは違う扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けた。

 ギィ、と言う音と共に扉が開く。その先には……、


「あ、ルート君」


 ほんわかしたゆるふわ女、カカミヤが真っ赤な返り血を浴びて、突っ立っていた……。



「きゃ、きゃーーーーー!!!!!」


 俺は内股になって、手の平を口元に持ってくると、甲高い声で叫び散らかした。


 カカミヤがいた部屋は、二階に繋がる螺旋階段だけがある部屋だ。

 俺達が入った玄関にも螺旋階段があったが、それと同種だろう。しかし、そんな事よりも、問題は……。


 か、カカミヤちゃん……。

 俺は、俺と言う輪郭がぷるぷると震えているのを自覚しながら、右往左往してカカミヤの傍に寄る。


 カカミヤの拳には、メリケンサックが装備されている。そして、それは酷く真っ赤な体液が滴っており、「この拳一つで殺しました!」と主張しているようにも見えた。


 俺は真っ白なハンカチを取り出して真っ赤っかなカカミヤの顔を綺麗に拭き取る。

 すると、別れる前までのとろんとした瞳に、ちっさいお口が俺の視界にはっきりと映り、安堵の溜息をついた。


 しかし、状況はあまりにも芳しくない。

 俺は周囲を見渡す。壁一面、床の隅に至るまで、この部屋は真っ赤に染まっている。


 カカミヤちゃん……随分と派手にやったのね…?

 俺は震える唇で目の前の少女に問いかけた。


「気持ちよかった」


 そ、そっかそっか。

 気持ちよかったか。そりゃ良かった。やっぱ人っつー生き物は、自分の気持ちよさを第一に考えないとな…。


 俺の脳裏に、トマトみたいに殴り潰されていくプレイヤーの姿が過る。

 俺はその中で、咄嗟にムイとカカミヤと言う人選をしたラック君のご尊顔を思い出す。


 ラック君…、お前の目は腐ってるらしいぜ…。

 俺はダンジョンの外側で戦っているであろうラック君に思いを馳せた。

 しかし、何時までもそうしているわけにはいかない。カカミヤは俺の渡したハンカチで首や腕などに付いた血を拭っている。俺はそれが終わったら、上に登ってみようと言いだそうとした、が…。



「おいおい、さっきの悲鳴はなんだ?へい、き……か…?」


 俺とカカミヤの上、正に螺旋階段を下りてきたプレイヤーが、部屋の惨劇と俺達を見て、歩みを止めた。

 その瞬間、背後から足音が聞こえ、俺は即座にしゃがみ込んだ。

 そして、しゃがみ込んだ俺の背中にカカミヤの右足が踏み込まれ、俺は勢いよく背中を真っ平のまま押し上げる。


 人力ジャンプ台と化した俺に乗っかったカカミヤが、螺旋階段の格子を破壊して、プレイヤーの頭をかち割った。

 再び、カカミヤの顔に血が飛び散る。

 頭をかち割ったカカミヤが、そのまま床に落下する。俺はそれを咄嗟に受け止めて、しっかりと立たせてやった。


 そして、俺達は互いが互いに見合った。


「…」


 カカミヤの無言の圧力が、俺に刺さる。

 その瞳の圧力は、ありありとこう告げていた。


『なんで自分で殺しに行かなかったの?』と。


 あの場面の正解は、俺が血液腕をプレイヤーの傍に出現させて、身柄を拘束した後に、そのまま握り潰すのが安定択だった。カカミヤは、失敗した時様に走り込んでいたに過ぎない。

 しかし、俺はそのどちらでもなく、カカミヤに無理矢理殺させる択を選び取った。


 俺はカカミヤの純粋な疑問の目の輝きに負けて、言うのだった。


「…む、ムイさんに不殺を言われてしまいまして…」


 一度でも俺が殺人を犯せば、ムイはもう俺にお年玉をくれなくなる。

 これは、あまりにもしょうがない事だった。申し訳ないとは思ってるぜ。あぁ、思っているとも。


 理由を聞いて、頬を膨らませるカカミヤを宥める様に言った。

 しかし、そんな理由を聞いたカカミヤは、更に頬を大きく膨らませて、


「私も殺すのやめるー」


 そんな世迷言を口にするのだった。


 あ、あぁ?

 お前何言ってやがる?

 俺は突然の宣言に混乱した様に言葉を漏らした。


 お前まで命を刈り取る死神役が出来なくなったら誰が不測の事態に対応すんだ?ムイは悪いが、取り込み中だ。暫くは帰ってこねぇぞ。


 俺は、不殺宣言をし出したカカミヤの頬を千切り取る勢いで抓りながら、責め立てる。

 しかし、一度決めたことは曲げない主義なのか、カカミヤは頬を左右に伸ばされながら、舌を出して俺を挑発する様に動かした。


「べろべろば〜」


 ピキリ、と青筋を俺は立てる。

 大丈夫…俺は長男…大丈夫…俺は平和の象徴になる男…。

 心の中で事実を何度も反芻し、心の平穏を保つ。


 俺は今一度、舌をべろべろと動かすカカミヤを見る。

 奴の顔を見るだけで虫唾が走ったが、やはり俺は我慢ができるいい子だ…!殺害衝動を抑え込み、笑顔を作り出すことに成功した。


「どうしても殺すの嫌ぁ???」


いふぁ(いや)!」


 そっか~。

 俺はうんうんと頷く。

 じゃあしょうがないね!カカミヤちゃんも俺と一緒に不殺の教えを学ぼう!


 パッとカカミヤの頬を離す。

 すると、カカミヤは酷く嬉しそうにこくこくと頷き、俺に笑顔を向けた。



 ……ふん。

 矜持も何も持っていないほんわか野郎め。

 俺は螺旋階段の周りをぐるぐると回るカカミヤを見ながら、心の中で呟いた。


 俺は奴とは違う。

 奴は今この瞬間の感情で不殺の意思を見せたに過ぎない。本当の危機、それこそ己が命の喪失を目の前にすれば、奴の拳には滅殺の炎が宿るに違いない。それぐらいの意思だ。


 しかし、俺は違う。

 心が小学生みたいにキラキラしている俺だけが不殺の教えを守れる。ジャンプ主人公が人を手に掛ける事が許されないのと同じだ。

 今の俺は、それ程までの”意思”がある。


「よ~し、それじゃいっくぞ~!」


 俺の腹の底に揺蕩う思いを口に出す事無く、右手を上に突き上げた。

「おー!」と言うカカミヤの気の抜ける声がその部屋に響く。そうして俺達は、カンカンと音を立てて、螺旋式の階段をぐるぐると上がっていくのだった。




「……ぁ?なんだ、てめぇら」


 階段を上がって直ぐ、俺達は再びプレイヤーと遭遇する。

 そして、そいつは運が悪い事にルーキーではなく、廃人…!


 や、やべぇ…!

 冷や汗をかく。


 俺は〔真っ黒外套(ススワタリローブ)〕を着ているからまだしも、カカミヤの奴は素顔丸出し…!良心で、そこまで目立つ奴じゃないからこそ逆に怪しまれない為にも顔を隠さない奴が必要なのは仕方がない事だが、その上で一番の障害になるのが”遺跡憑き内の廃人”だ。


 あ、最近ここに入りました~。よろでーす。


 両手を揉んで、挨拶をする。

 あ、後ろのこいつは少々人見知りな奴なんであんま見ないでやってください。喋るのも苦手なんすよ~。


「苦手だよ!」


「ふーん」


 俺の言葉と相反する様にカカミヤが左手をビヨンとバネのように上げて、返事をした。

 それを見た廃人が、俺をじろじろと見る。そして、先程の俺の言葉に従って、ちらりちらりと二、三度とカカミヤを盗み見るように瞳孔を動かす。そして、直ぐに盗み見るのを辞めると俺は踏んだのだが、何故か奴のカカミヤを盗み見る頻度はどんどんと増えていく。


 な、なんだ…嫌な予感がする…!

 俺は、目の前の廃人のその行動を目の当たりにして、ある種の確信に近い予感を感じ取る。



「やぁ、そろそろいいか?

 折角遺跡の素晴らしい語らいが出来る場所なんだ!他の場所に行って、同じ心を持つものと話をしたいのだが!」


 無理矢理に視界を遮る様に俺は廃人とかカカミヤの間に割って入った。


「いや、待て…その顔、どこかで…思い出せそうなんだ…」


 ぶつぶつと呟く廃人を見て、俺は咄嗟に背後のカカミヤへと睨みつける様に視線を向けた。


 ――殺せ!

 俺はアイコンタクトでカカミヤへとそう念じた。

 しかし、奴はその指示を受け取っても、頑なに拳を振るおうとしない。


 お前の顔のせいでバレかけてんだ!お前のミスはお前自身で尻拭いをしろ!

 俺とカカミヤの視線が交錯し、火花を散らす。

 しかし、それでもなおカカミヤは目の前の廃人を殺そうとしなかった。それほどまでにお年玉が欲しいか…!この下衆がッ!!


「うーん…、うーん…、ぁ…あ?」


 俺とカカミヤが視線だけで争っていると、突如として廃人が頭の上でランプが光った。


 あ。

 俺はそれを見た瞬間、血液腕を練り上げて廃人を殴殺しようとするが、ムイの不殺の教えが脳裏を過り、形成が止まってしまう。

 お年玉という人質が取られている以上、俺にはこいつを殺せない……っ!


「そうだ、そうだ。お前、確か――」


 俺はカカミヤの方へとぐりんと首を回す。

 そして、その一瞬。

 そのたった一瞬で、俺とカカミヤは時間圧縮のアクセルワールドへと突入する。廃人が次の言葉を発するまでの体感時間が限りなく延長される。その中で、俺は奴へと告げる。


 ――ラストチャンスだ。

 カカミヤ(お前)が目の前の廃人を殺さないのならば、俺たちは無様に正体がバレる。

 作戦は失敗だ。。

 ムイだって、同時期に”遺跡憑き”に加入したから、芋づる式にバレる。


 わかるか?

 お前だ。お前なんだ。お前だけが、この現状を打破できる可能性を秘めている。お前だけが、この現実を打ち砕くだけの力を持っている。


 どうせ掲示板に流れ切っているから知っているだろう。

 俺の職業、〈偽善者(セルフィ)〉の”我儘な執行”は使えない。廃人にも、お前にも使う事が出来たらもっと楽に攻略できただろうにな。


 分かるだろう?

 俺はもう詰んでいるんだ。

 この圧縮時間に俺ができることはない。

 ”我儘な執行”は発動条件を満たせない。

 《血液操作》は形成が間に合わない。

 近接戦はレベル差で敵わない。


 お前だけが、未来を変えられる。



 ――時間が戻り出す。

 廃人の口が開き、言葉が現実となって――、





「前にモンスタートレインしてた俺に轢き殺されたろ!」


「あ!された!」


「ははは!あん時は悪かったな!」




 ……。

 スゥー……。

 …なるほどね?はいはい、なるほどなるほど。


 まぁ、別に良いんじゃないの?そういう日があっても。





 格好つけた末のピチピチ道化(ピエロ)がこちらになります。


 ◇■◇


 ―――。


「で、何か弁明はあるか」


 俺は、目の前で正座をするカカミヤへと高圧的にそう言い放った。

 奴は尻付近の足をもじもじと動かして、正座のベストポジションを模索する。俺はそんな奴の両肩にぽんと手を置き、にっこりと笑顔を浮かべて、再び言うのだった。


「何か、弁明は、あるか?」


「…ごめんね、ルート君」


 カカミヤに向けた俺の笑顔は、酷く優しい天使のような笑みだ。

 そして、その笑みがカカミヤに見えている以上、つまり()()()()()だ。


 なぁ、カカミヤちゃん。

 俺は正座する奴の肩をポンポンと幾度と無く叩いて、問いかけた。


「俺の正体をバラしちゃって、有用な装備を剝ぎ取られて、嘲笑された俺の気持ち。分かる?」


「分かる!」


 そっかぁ。

 そりゃよかった。

 じゃあ、俺の怒りも分かってくれるよな。

 ピキピキとこめかみから嫌な音がする。笑顔が歪んでいき、次第にそれは鬼の顔を形成する。


「勇次郎の背中だ…!」


 誰が範馬勇次郎の背中じゃい。

 周りを見ろ、周りを。


 俺はぽけーっとしたカカミヤに言う。

 カカミヤは俺の言う通りに周囲をぐるっと見回す。


 偉い偉い。

 よく言う事が聞けました。

 それじゃ、問題です。俺とカカミヤちゃん、二人がいるこの場所は一体どこでしょーうか!


「はい!」


 カカミヤが勢いよく手を上げる。


「はい、カカミヤちゃん」


 俺はそんなカカミヤに指を差す。

 すると、カカミヤは正座から立ち上がろうとして、そのまま地面に顔をぶつけて転がった。足でも痺れていたんだろう。

 しかし、カカミヤは不屈の意思で地面にぶっつけたまんまの口を開いた。


「牢屋!!!」


 ぴんぽん、ぴんぽーん。

 はい、カカミヤちゃんだいせいかーい。

 その通りだね。俺たちは今、薄暗ーい牢屋の中に閉じ込められちゃったね。はてさて、それはいったいどうしてだろうね?


「はい!」


 はい、一番早かったカカミヤちゃん。


「私がルート君の名前を呼んで、ルート君がバレたから!そんでもってそのまま私もバレた!」


 ぴんぽんぴんぽーん!

 あったまいぃ~!流石は”β組の良心”!やっぱ違うなぁ!


 ぱちぱちと拍手を送ると、カカミヤは痺れが回復した足を折りたたんで、てれてれと頭を搔いた。


 俺はそんな奴のおでこに思いっきり頭突きをして、奴の輝く瞳に己が瞳を投影した。

 奴はおでこを痛がる素振りすら見せずに、「わぁ」とだけ口走り、俺の瞳を射抜き返した。俺は、カカミヤの瞳の中にいる自分に問いかける様に言うのだった。


「牢屋を破壊し、逃げ出す」


「どうやって~?」


 カカミヤが疑問符を浮かべた。

 奴の瞳に?マークが浮かび上がる。どうなってんだ、その目。課金か?課金なのか?


 俺は奴の瞳に映る?を凝視しながら、一つのシステムを行使した。



 〔ルート:あ…すんません…。しくじったんで、増援よろ。出来れば終着駅の誰か〕



 …カカミヤちゃん、一つ覚えて帰りなさい。



 ―――他力本願こそ、人類の到達点の一つなのです……。



 あぁ、神よ。

 親しき隣人に、私を守る力と、私を愛す義務と、私を信じる力をお与え下さい…。




 どうして人はここまで自分勝手になれるのか。


 ◇■◇


 俺とカカミヤは、二人で渦を巻く姿勢で眠りについた。

 増援が来るまでは時間がかかるだろう。なにせ、ヘルプコールで座標を送信したが、どうやらこのダンジョンの牢屋はどうして牢屋は上の階にある。


 普通、牢屋は地下にある事が多い。

 防犯上もそうだし、それ以外の点でも地下にある方が都合がいいのだ。しかし、ダンジョンとなればその例には入らない。

 ダンジョンの時空は当たり前の様に捻じれている。上の階が地下の特性を有していたり、特異なルールを持った部屋も存在する。


 それが今回いる牢屋の場所だ。

 俺たちの増援は、見つからずにここまで来なくてはならない。その為、PSカンストの廃人の中の廃人が必要だ。

 それこそ、終着駅の連中みたいな己がS(ステルス)P(プレイヤー)S(スキル)だけでここまで来れる奴だ。


 …なにせ、並大抵の攻撃じゃ牢屋は破壊できない。

 隠密にSkillを割いている余裕のあるプレイヤーはお呼びじゃないのだ。

 戦闘能力にSkillを割き、かつ己のPSだけでスネークになれる存在こそが、俺たちの求める人材だ。


「ルート君、まだぁ?」


 カカミヤがとろんとした目をこすって、俺へと問いかけた。


 まだだよ。

 寝てていいよ。起こすから。

 俺がそう言うと、カカミヤは「あい…」と適当な返事をして、俺の膝の上で寝息を立て始めた。


 俺はそんなカカミヤの横顔を見ながら、幾度か送られてきているシステムメッセージを見た。


 〔ターミナル:助けテ〕

 〔ターミナル:もう無リ〕

 〔ターミナル:ゴミゴミお願いダ〕

 〔ターミナル:俺は何時まで正座をすル〕

 〔ターミナル:ゴミゴミ〕

 〔ターミナル:ごみごみ〕

 〔ターミナル:ごみ〕



 ……ムイ達にメッセージを送れば、こんなに待たなくて済む。

 しかし、メッセージの送信時間を見ればムイとターミナルの話し合いは未だに続いていることが分かる。俺とカカミヤの潜入がバレたにも拘らず、奴らが未だに話し合っていられるのは、どうせムイが扉を内側から固定しているからだろう。

 ダンジョン性の扉を破壊することは難しい。

 そこに、廃人たるムイの扉ロックが重なりゃ立派な防壁だ。


 それなら、邪魔してやるのは無粋だろう。

 ターミナルにはじっくりと話し合って貰う。ムイにも、()()()()にも、な……。


 けっけっけ……。

 俺の口から含み笑いが漏れる。

 ターミナルのせいでムイが使い物にならなくなったのは痛いが、奴の不幸は蜜の味だ。必要出費だろう。



 まぁ、しかし…だ。現状で一番問題があるとすりゃ……。





「あ、お前らが侵入者だな!」


 小さな背丈に、青と黄色のツインテールが揺れる。

 爛々と輝くぱっちりお目目に、生足ホットパンツがあまりにも目によろしくない。



「グミはグミ!ここのリーダー!」



 ―――このガキをどうするべきか、って事だ…。


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