閑話.88『(ターミナル君がいる)ターミナル君劇場 from β時代』
――ターミナルには、厄介なファンの様な何かが付き纏う。
そりゃそうだ。
奴はβ勢の希望の旗だし、象徴たる素質もある。カリスマがあるかって言ったら首を傾げざるを得ないが、奴には人を安心させる何かがある。
だからこそ、その優しさに己が生き様を見出してしまう者もいる―――。
「――ターミナル君、先っぽ!先っぽでいいんだ!約束するから、ね?ね?」
俺とエビふりゃーとプロペラは、三人で仲良くおにぎりを頬張りながら、迫られるターミナルを見ていた。
「ねぇ、ダスト君。中身何だった?」
プロペラが口いっぱいにおにぎりを頬張りながら、俺に聞いた。
奴の口からは米粒がポロポロと零れる。
きったねぇな、お前はよぉ。
そう言うお前は何だったんだよ、あ?人に聞くなら先に自分の方を教えるのが筋ってもんだろ?ん?
「僕はツナマヨだったよ」
そうかい。
俺は唐揚げだよ。
エビふりゃー、お前はおにぎりの具なんだった?
「空気」
プロペラ。
エビふりゃー君は僕たちとお話ししたくないみたい。
「悲しいね…」
もそもそとおにぎりを貪るプロペラ。
俺はそれを見ながら、再び自分のおにぎりに齧り付いた。いやー、やっぱ青空の下で食べるおにぎりってのは格別ですね。
「俺、サンドイッチ派」
エビふりゃーの空気の読めない言葉に、俺はピキリと青筋を立てた。
しかし、俺はこいつに真正面から勝てるほどの力は無い。恐らく、プロペラと協力してやっとこさ対等か少し劣勢くらいに持ち込めるレベルだろう。
ふん…、まぁ良い。
俺はそんな事よりも目の前の光景を面白がりたかった。
「考え直した方がいイ」
「考えました…。貴方の事を日夜常に…」
「そういう意味じゃなイィィ…」
苦虫を嚙み潰したようにターミナルのしがんだ声が響く。
ターミナルは、ちらと俺達の方を見るが俺達はおにぎりを食べる事に夢中だ。おにぎりを食べるアタッチメントとしてターミナル君の劇を見ているに過ぎない。
別に手出しする理由は無いし、助けてやる道理もない。
「ふぁんばってー」
プロペラが戦隊ヒーローを応援するような感覚で、困り果てるターミナルに声援を送った。
それを追う様にエビふりゃーも懐から紫色に光輝くサイリウムを取り出すと、それをぶんぶんと頭上で振りながら、おにぎりをまた一口頬張った。
「ターミナルさん……」
じりじりとターミナルとそのファンプレイヤーの距離が縮んでいく。
その度に、ターミナルは一歩、また一歩と後退る。そして、ターミナルは意を決したようにバッとこちらを向いた。
俺たちは一様に、真剣極まりない奴の顔を見た。
「……なんでも奢ル」
―――その瞬間、ターミナルとファンの間に一陣の風が吹いた。
その風は竜巻を作りながら、暴風の壁を作る。そして、竜巻が霧散したと思うとその場には一人の男がいた。
俺は咄嗟に横を見る。
そこには、先程までのほほんとツナマヨおにぎりを食っていた筈の奴の姿が無く―――!
「ここから先は、僕の領域だよ」
プロペラが格好つける様に、地面に鎌鼬で線を引いた。
奴の頭の上で竹とんぼが高速回転しだし、髪がふわりと浮き、バリバリと雷が足元から発生する。
「ぷ、プロプロ…!」
ターミナルが感動を隠す事無く声色に乗せた。
プロペラが吸っていた場所とは反対のエビふりゃーは今ももぐもぐとおにぎりを貪っている。こいつ…食うのが遅い……。
「よだか…どいてくれ。俺はターミナル君と幸せになる義務があるんだ」
「どんな義務ゥ…」
ターミナルが苦しそうにそう吐き出した。
そんなターミナルの前に、庇う様に仁王立ちするプロペラが両手に風の弾丸を作り出す。そして、それは超速で回転する竹とんぼから供給された青雷を迸らせて、ファンプレイヤーの下へと射出された。
「鈍いッ――!」
しかし、その風の弾丸はファンプレイヤーの両手に携えられた手斧に二刀両断された。
それを見た瞬間、プロペラは瞬時に相性が悪いと判断したのか、背後にいるターミナルを背負ってその場から離脱した。
「あ、おい!!くそっ!待てや!」
ファンプレイヤーが怒りを露わにして、それを追いかけようとする。しかし、
「俺もいるぜ~」
その前に、俺が立ち塞がる。
いやー、なんでも奢って貰えるらしいからさ、流石に参加しない手は無いだろ?お前に恨みは無いし、ターミナルがどうなったっていいけどよ。
俺は亜空間から柄だけを出現させて、そのままその柄を握り締めると左足を前に右足を後ろにし、目を瞑る。
真っ黒な瞼の裏に、赤い人影が映る。
「”居合”。〖肉切骨断〗。<亜空刀>。」
〔《宴爛の明水》を発動……》
スキルの発動条件を満たされ、俺の脳裏にシステムコールが染み渡る。
俺の周囲に真っ赤な線が出現し、少しずつそれは広がっていく。右手に握られた柄がギシリと音を立てて、左手が汗に塗れる。
そんな臨戦態勢の俺の横を、ファンプレイヤーがそそくさと通り過ぎていった。
「ごみ溜め、お前のそのスキル構成、1on1に向かないんだから無理すんな」
スン…と俺は亜空間から柄しか出していなかったそれを取り出して、鞘を抜いた。その瞬間、じわじわと広がっていた赤い線が消失し、スキルの発動が解除される。
「死に晒せよやぁあああ!!!!」
俺は刀を振り回して、走り去ろうとするファンプレイヤーの背中を斬ろうとする。
俺の斬魄刀の錆にしてくれる!!!
なーにが俺のスキル構成が使えないゴミカスだ!!?
バカにすんなや!てめぇらがそうやって産廃認定すっから輝くべきスキルが輝かずに終わっていくんだ!!
ぶんぶんと刀を振って近づいていく俺の身体は、ファンプレイヤーの剣劇によって次々に削ぎ落された。
俺が奴の下に辿り着いた頃には、手足は無く、達磨になって地面に転がっていた。
「ごみ溜め…」
哀れなものを見る目をこちらに向けてくるファンプレイヤー。
俺はそんな奴の瞳を見ながら、とある言葉を口にした。
「《魔力爆散》」
――その瞬間、俺の身体を中心に真っ青な爆発が巻き起こる。
大量の煙と共に、爆風が襲う。
俺の霊体がふわりと舞い踊り、俯瞰視点でファンプレイヤーを見る。
……すると、既にファンプレイヤーの胴体と首は離れており、空中を舞っている頭は意味が分からないと言った様な表情を見せながら地面を転がった。
俺が巻き起こした爆発の煙の中で、エビふりゃーの瞳とその愛剣だけが怪しく光り輝いていた……。
ここで出てきた全てのスキルは、悪用のされ過ぎで製品版にて廃止されました☆
◇■◇
霊体になった俺はさっさと復活して、エビふりゃーと合流した。
二人で、何を奢って貰おうとかと話しながら、プロペラが逃げ去った方向へと進んでいく。すると、やはりと言うべきかプロペラとターミナルの姿を発見した。
しかし、態勢がおかしい。
「…いや、違う…」
エビふりゃーがぼそりとそう言った。
目を凝らすと、ターミナルと思っていたのは長い髪をした女だ。そして、その女は何かを圧し潰すように四つん這いになっている。まるで、その何かを逃がさない為かのように…。
プロペラはその傍らで、呆然としながらあわあわと縮こまってしまっている。
俺とエビふりゃーは首を傾げながら、近づいていくと少しずつ奴らの会話が聞こえてくる。
「―――……好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き――」
「……」
「――」
俺とエビふりゃーは、静かにその場から離れようとした。
すると、どうにか抜け出してきたのかへろへろのプロペラもこちらに近寄ってくる。俺達は、そんなプロペラを支えてやる。
「大変、だったな」
「もう無理しなくていいぜ」
流石の俺達も、体力、精神共に疲弊しきったプロペラを罵れるほどの救えないゴミクズにはなっていなかった。
俺達はプロペラに肩を貸して、ゆっくりとその場から離れる様に歩き出した。
「ちョ、まっ――」
悲鳴にも似た声が、不意に背後から聞こえた気がした。
しかし、それもきっと気のせいだ。なにせ、大量の愛の言葉で碌に周りの音も拾えないんだから。
「……なんか食い行くか」
「プロペラ、なんか食いたいものはあるか?折角だ、俺とルートが奢ってやる」
「ほんと?それじゃ…焼き鳥…」
あぁ、いいぜ。
食い行こう。とびっきり美味しい焼き鳥を、な……。
俺とエビふりゃーとプロペラは、三人で笑い合う。
その背後で、重い愛を囁かれている者などいやしないのだ。
ターミナル君は人気者!
▽▲過去編Tips△▼
《宴爛の明水》
《刀》専用の特殊スキル。
自分の周囲に円を描く様に領域を作り出す。その円に入った者を切り刻む。一定時間でじわじわと円が広がる。
発動条件は、特異な三つの状況を宣言する事。
本編では、産廃システム”居合”、肉を切らせて骨を断つ”覚悟”、亜空間を悪用した居合態勢”亜空刀”、を宣言した。




