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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
86/115

記録.86『遺跡憑き攻略戦』

 

 空が青い。

 海が青い。

 俺の顔が青い。


 あぁ、いい天気だなぁ。

 俺はふと空を見上げながら、そう心の中で呟いた。




 ―――ある者は、”空”を夢見た。

 ある者は、”友”を求めた。

 ある者は、”強さ”を身に宿そうとした。

 ある者は、”理由”を欲しがった。

 ある者は、”娯楽”を享受しようとした。

 ある者は、ある者は、ある者は―――、


 ある者は、”惰性”が為にこのゲームをする。



 俺はすぐ側にいる奴らをチラと見た。

 そこには瞳を輝かせる”良心”がいた。更に首を反対に振ると、生意気な顔をした巫女がいた。


「行きますよ、ルート」

「れっつらごー」



「……クソが」


 そいつらに挟まれながら、俺はそう呟いた。

 空が青い。酷く眩しい太陽が、俺たちを照りつけているのだった…。


 ◇■◇


「遺跡を神聖視する人たちを”遺跡憑き”と呼ぶけど、彼らの拠点は〔コウザン〕付近のダンジョンだ」


 ラック君はそう言って、広げた地図の一部を指さした。

 俺と決戦兵器は、互いに顔を見合った末にラック君へとこう言った。


「なぁ、ラック君。それじゃさっさとそこ潰し行こうぜ。ほら、ルートも行きたくてぷるぷるしてんぞ」


 わぁ〜。ぷるぷる震えちゃうよーん。

 俺は決戦兵器の言葉通り、ところてんの様にぷるぷると体全体を震わせてさっさと奴等を潰しに行こうという旨を表現した。

 しかし、決戦兵器と俺の要望は酷く渋い顔で却下された。


「なーんで」

「どーして」


 俺と決戦兵器は、駄々をこねる子供の様に言った。

 それを見たムイが俺達のことを冷たい視線で見つめる。しかし、そんなことを気にしていられるほど俺は暇じゃない。


 さっさと殺して解決、だろ?

 いつも通りじゃねぇか。どうしてそう渋るんだ?ラック君。


「…恐らく、遺跡憑きの頭がユニーク(レア)職業なんだ、それも死をトリガーにするタイプの」


 はぁ〜………。

 俺は酷く深いため息をついた。


 レア職業。

 つい最近、狐面がそれに開花したことで痛い目を見たばかりだ。正直、暫く関わりたくなかった。

 レア職業持ちはゴミばっかだ。未だに判明していないレア職業はいるし、逆に猫埜みたいにこちらに近づいてくるレア職業持ちもいる。


 基本、そういう奴らの考えはどこか狂っているのだ。


 それで?

 死をトリガーにしてるから、効果が分からない以上適当にぶち殺すんじゃ駄目、と。

 それならどうすんだ?

 ここには頭数はあるんだ、それも上等な部類の脳みそが大量に。案の一つや二つ出るだろうよ。


「あぁ、それはもう考えてあるんだ」


 ラック君はその言葉と共にメンバーを分け始めた……。









「それでぇ〜????」


 俺は苛つきを隠すことなく、満足そうなラック君へと言葉を投げた。


 ラック君の周りには、ほぼ全ての”良心”が集合しており、そこに付け加えて決戦兵器とドラ子もあちら側にいる。

 それに引き換え、俺とムイ、あともう一人の”良心”はそいつらとは少し離れた場所で一塊にされた。


 メンバー分けといえば外聞はいいが、これじゃただのいじめだ。

 どんなチーム分けだよ。不平不満爆発だよ。なんだ?ドッチボールでもするか?この多勢に無勢でよぉ。


 俺が文句を言うと、ラック君は申し訳なさそうな顔をした。


「ルートがいるとは思わなかったから、事前の予定では僕がそっちだったんだ。でもルートがいるなら僕より上手く出来るだろうからね。ごめんね」


 あ、そうなの。

 俺はラック君に頼られたと思って、途端に機嫌を良くした。

 しかし、すぐ隣でムイが顔を顰めて、ラック君に問うた。


「ラック、どう言う基準で分けたのですか。これは」


 ムイは、先程の俺と同じ様に苛立ちを隠さなかった。

 しかし、俺もそれは気になる。あまりにも意味不明な人選だ。俺とムイ、それにのほほんとした”良心”が一人。俺たちは何故ラック君側ではない?

 ラック君側の奴らと俺たちの違いは?


 俺は一瞬、”優しさの有無”かと思ったが、それだとムイが当てはまらない。

 もう一人ののほほんとした”良心”は良心たるから当てはまるだろう。しかし、結局3人となると中々全てが一致することは無い。


 俺は結局考えるのをやめて、ラック君を見た。考えるより、聞いた方がよっぽど早い。

 そして、ラック君はにっこりと笑って、言うのだった…。


「嘘を平気でつける人だよ!」



 次の瞬間、ラック君はムイの拳で空を舞った。


 ◇■◇


「なぁ、嘘つきムイさん」


「… なんですか?」


「俺たち、鉄砲玉だよ」


「…」


 〔真っ黒外套(ススワタリローブ)〕を着て、顔面を隠した俺は飴玉をムイに渡しながら、そう言った。

 自分の口に飴玉を放り込んで、こちらに寄ってくる人影に手を挙げた。


 どうだ?いけそう?

 俺は近寄ってくる人影…、”良心”の一人である『カカミヤ』に問いかけた。


「いけるいけるー」


 カカミヤは、ほんわかした雰囲気のまま右手でOKサインを作った。

 それを見た俺とムイは、すっと立ち上がるとそのまま茂みを出て、目的の場所へと歩き始めた。


「今日のパンツ何色」


「黙ってください、ルート」


「ピンク!」


 他愛もない雑談をする。

 これはただのゲームだ。命を懸けたデスゲームじゃねぇし、ログアウト不可能でもねぇ。だからこそ、文明遺跡を神聖視する”遺跡憑き”みたいな連中が湧くし、命の軽いゾンビ特効も許される。


「今日何食べた?俺、焼きそば」


「モス」

「油そば」


 そば被りしてんじゃん。でも、油そばってそばつく癖にそば感無いよな。

 俺達は、あまりにも普通過ぎる会話をしながらその場所へと近づいて―――、



「…あ!文明遺跡様を崇める同士がいるのってここですか!?じ、じ、自分、入信希望ですぅ!!!」



 いつだったか、俺は言ったぜ?




 ―――矜持など、遥か彼方に捨てたのだ、とな。


 ◇■◇


『嘘を平気でつける人だよ!』


 ラック君は、俺とムイとカカミヤへそう言った。

 最初こそどう言うことだ?と意味を探ったが、話を聞けば簡単なことだ。


 奴らの頭が死をトリガーにする職業ならば、死なせなければいい。

 単純明快、シンプルisパワー。


 しかし、俺はともかくムイとカカミヤは嘘をついても平気なタイプなのか?問題はそこだった。


 誰しもが嘘をつく。

 誰しもが虚言を吐く。

 だからこそ、嘘には癖が伴うことがある。最強廃人のエビふりゃーにだってあるのだ。


 恐らく、ラック君はそこに着目した。

 俺は確かに嘘をつく時の癖はない。元々はあったが、β時代に指摘されて修正した。それ以降は、癖のくの字もなく、嘘をつける体になった。

 ラック君は頭がいい。

 人のことをよく観察するし、それに伴って技術をコピーすることが得意だ。


 そんなラック君だからこそ、俺は信頼する。


 こ、この二人も…癖とか出さずに嘘をつけるタイプなんですよね…。そうなんですよね…!ラック君…!



 眼前で両手の指を忙しなく動かし続けるムイと、つま先をぐりぐりと地面に押し当てるカカミヤを見ながら、俺はここにはいない別働隊のラック君に思いを馳せるのだった。





 ラック君は言った。


 ―――ルート達は内側から瓦解させよう、と。

 そして、プランBとしてその他の良心と決戦兵器は別の場所でいつでも奇襲できる準備を整えておく。勿論、遺跡憑きのリーダーに限り、殺生は禁止だ。

 つくづく、レア職業っていうのは恐ろしい。

 その場に居るだけで、何らかの抑止力に繋がるのだから。


 俺はそわそわしながら、ダンジョン前の遺跡憑きの質疑応答に応えているカカミヤとムイを見た。

 どうやら遺跡憑き連中は、門番が話を聞いて、特に問題なかったらそのまま中に招き入れて仲間に入れやるっつーガバガバ方式をとっているらしい。


 しかし、そりゃ周囲が良い奴等だからできる事だ。

 遺跡憑きの中には廃人共も幾らかいた。そいつらは絶対にその方式に反対したはずだ。

 しかし、所詮ノイジーマイノリティ。

 多くの危機感が無いルーキーの声に押し潰されたのだろう。


 だからこそ、〔真っ黒外套(ススワタリローブ)〕で顔を隠している俺の素性を確認しようとしないし、嘘をつくときの癖が出まくっている奴ら二人も中に入れてもらえる。


 俺は内心ほっとしながらも、ドヤ顔で近づいてくるムイにチョップをいれた。


「どーする?」


 カカミヤは、相も変わらずほわほわとした表情を崩す事無く、俺たちに問いかけた。


 迷宮の中には入れた。

 俺達を招き入れた門番は再び、外へ行き己が職務を全うするらしいし、これ僥倖と俺達は迷宮内を自由に動き回る権利を得たわけだ。


 周囲を見渡すと、石レンガによく分からないタペストリーが掛かっていたり、遺跡によくある古代文字で何かが書かれていたりと、THE・宗教と言った空気を感じる。


「取り敢えず、適当に部屋を見て回りましょう」


 ムイの言葉に、俺とカカミヤは素直に頷いた。

 俺達は一旦その場で解散し、各自が情報の収集に努める形になった。俺は取り敢えずと言った具合で玄関正面から見て右側のドアノブに手を掛けた。


 ギィ…と音を立てて開かれるダンジョン産の扉の向こうは、食堂とでもいうべきエリアだった。

 何人かのプレイヤーが食事を取っており、奥では何かを調理する音が響いている。


 ふぅん…。

 確かに遺跡憑きの存在はかなり前からあったようだが、ここまで施設が揃うくらいには金があんのか。そこは廃人様様ってか?


 ジロジロとこちらを見るプレイヤーに一瞥もくれてやる事なく、俺は奥の厨房に向かった。



 香ばしい匂いと、心地良い調理音が響く厨房。

 俺はその前のカウンターに立った。そして―――、


「すんません、おすすめあります?」


「あ、今日は新鮮な海老と山菜とれたので天ぷらですね!」


 あ、じゃあそれお願いしますぅ~。

 俺は格安の金を払って、天ぷらとかけうどんを注文した。あ、あったかいのでよろしく。


「ありがとうございまーす。人少ないからすぐ持ってくんで、座って待っててくださいね~」


 爽やかな笑みを浮かべる少年に俺を述べて、俺は席に座った。

 ふん…、中々良いところじゃねぇか。

 俺は、「遺跡…信仰してもいいかもな…」と心の中で思いながら、注文したものの到着を楽しみに待った。


 少しして、うどんと天ぷらが到着する。


「はーい、どうぞー。熱いので気をつけて食べてくださいね。あっちにお水ありますから、必要なら自分で汲んでくださーい」


 あいよー、ありがとねー。

 俺がお礼を述べると、爽やかスマイルの少年はぺこぺこと何回かお辞儀をしながら再び厨房へと戻っていった。


 俺がうどんを啜ろうとすると、一人のプレイヤーが俺の前に座り込み、頬杖を突いてこちらを覗き込んだ。


「よぉ」


 俺はそいつを無視して、口にうどんを運んだ。


「無視か?随分と不思議な装備してんだな。お陰で顔が見れねぇよ」


 つるつるとのど越しよく入っていくうどん。

 良く出来ている。コシもあるし、出汁もしっかりとってある。


「なぁ、お前―――」


 頬杖をやめて何かを言おうとした次の瞬間、俺は机の下から這わせていた血液の縄で、目の前のプレイヤーの首を締めあげた。


「…ッ!?……!っ…!」


 声すら出せずに、目の前のプレイヤーは苦しみ、その中で息絶えた。

 俺はすぐに周囲を見渡す。

 すると、こちらを向いて驚愕した表情を浮かべるルーキー共がいる。


 俺はすぐさま立ち上がり、再び血液操作を発動させる。



 祈る(こうか)は爆発―――。

 願う(トリガー)一定の距離(敵への到達)―――。

 捧ぐは操作権とクールタイム―――。



「揺らせ、天秤―――ッ」


 次の瞬間、俺が作り出した血液の弾が速度を伴い、俺の意識下から離れる。

 そして、それは一直線にルーキー共のいる場所へと到達するや否やそのまま爆発を起こし、周囲の命を刈り取った。


「な、な、なんですっ!?」


 その轟音を聞いて、先程厨房に下がっていった爽やかボーイが再びこちらに現れる。


 少年の眼前に広がるは真っ赤に染まった食堂の悲惨なまでの光景。そして、その中でただ一人立ち尽くす顔を隠した男…。

 俺は、少年にちらと一瞥をくれるとそのまま椅子に座り、再びうどんを啜り始めた。


 ずるずる……。

 俺がうどんを啜る横で、少年の尻餅をついた音だけがその食堂を支配していた……。



「いや、何してくれてるんですか。ルート」


 そのままワンシーンが終わるかと思っていた次の瞬間、食堂の扉にうんざりしたような表情を浮かべるムイの姿があった。


 俺はつるんとうどんを喉に通して、奴を見た。

 いやね、俺だってこんなことするつもりはなかったぜ?なにせ相手はルーキーだ。そりゃ心も傷んださ。おー、いていて。


 両手を胸に押し当てて、悲しみに暮れるポーズをとる。

 しかし、そんな俺を無視してムイは食堂の扉に魔法で氷を形成し、外から開けられないようにすると、俺の横を通り過ぎて、恐怖に震える元爽やかボーイへと近づいた。


「…ひっ」


 元爽やかボーイ君は、俺と話していたムイが近づくと悲鳴に近い声を上げて後退った。

 しかし、ムイはそんな事気にすることもなく、ずいと奴に近づくとそのままその恐怖に染まった少年を抱きしめた。


 え?なにそれ?母性目覚めた?

 俺の言葉など耳に入っていないのか、ムイは恐怖する少年を暖かに抱擁し続けた。


 十秒…三十秒…五十秒が超えた頃、流石に長いし、意味分からないと俺は奴を止めようとした。しかし―――、


「……ぁ、うぁ」


 …恐らく一分ジャスト。

 ムイの腕の中にいた少年が淡い桃色の光を伴って、その場から消失した。最後に残した呻き声のようなそれだけが、耳朶に残る。


 呆然とする俺を無視して、ムイはその場から立ち上がる。

 そして奴は天を見上げると両掌をぎゅっと胸元で握りしめて、小さな声で言うのだった…。


「気高き神への供物に、祝福を。」




 じゃ、邪教徒の類だろそれ……。


 ◇■◇


 ムイ……、否。”女神”ムイは、やはりきな臭い。

 一時期のシステム外パワー(黒いオーラ)もそうだ。


 奴はあからさまにおかしい。

 確かにこのゲームは、一部のプレイヤーが特殊な能力を付与されている場合がある。


 ラック君の再生能力然り、ララの一線を画した筋力然り、ムイもまた他人の感情の色を見る事が出来る。

 その時点で、俺はこいつは恐らく何かしでかすと思っていた。あぁ、思っていたとも。


 俺から飴玉を受け取って、口の中でコロコロと転がすムイを尻目に見る。

 奴は、飴玉を転がしながら死体のあった場所に黙祷をくれると、そこに飛び散った血液を水魔法で綺麗にとった。


 先程まで惨劇の食堂だったそこは、今はもう何の痕跡も残っていない綺麗な場所だ。

 俺は、ラック君達にダンジョンに近づいてくるプレイヤーの惨殺をメッセージでお願いしておく。


 ぬかりはない。慢心もない。

 殺した奴らが帰ってきちゃったらバレちゃうからね。


「どうするんですか。ここから」


 清掃を終えたムイは、こちらをじっと見つめている。

 扉の氷は少しずつ解け始めている。数分もすれば、氷は解け切り、水すらも蒸発するだろう。魔法の氷だ。そのくらいのことはムイの意識下で自由自在だ。


 俺はトントンと机に指を押し当てた。


「……もう、全員殺しちゃわね?」


 それは最も簡単で、それでいて最も平和的な提案。

 もう何人も殺しちまったし変わらねぇよ。奴らのボスを殺さなければいいんだろ?それなら、他の連中を全員ぶっ殺して回って、奴らの頭だけを拘束すりゃいいだろ。


 所詮”遺跡憑き”は小物の軍勢だ。

 小物共が小物の王を崇める蛙の子(フロッグパーティー)だろう。

 どうして俺の時間がそんな連中に取られなきゃならねぇ?今は忙しい時期だろうが。

 新世界の攻略は未だ進まず、街の発見も滞る。

 新スキルのシナジー先は見つからねぇし、続々と期待のルーキーが俺たちの全サーバー投影権(特権)を奪ってくる。

 ウマ娘の新ガチャで石は吸われるし、ポケモンの新作が先行配信されている。勿論、APEXだって新シーズンが始まったしな。


 やる事は盛り沢山だ。

 お前もそうだろう?なぁ、ムイさんよぉ。俺達はどうしようもなく消費者だ。


 大袈裟に両手を広げて、すぐにそれを胸に押し当てる。

 引き攣った様な笑顔と、無理矢理に笑い包める様な表情が俺の顔に張り付く。


 それを見てムイは、


「ルート、次貴方が人を殺したらもうお年玉あげないからね」


「……ふぅ……クソが」


 余りにも淡々と、絶望の言葉を口にするのだった。





 お年玉いっぱいくれるタイプだから、切り離せねぇ……!!!


 ◇■◇


 氷漬けだった扉の氷塊は、蒸発する様に消滅した。


 別にいーじゃん……そんなに殺すのは悪い事かよ……。


 ぶつくさと文句を言いながら、扉を開ける。

 その後ろを、ムイがちょこちょことついてくる。俺はそんなムイの方を向いて聞く。


 おい、ムイ。お前どの扉入った?

 俺の入った食堂の扉を除いても、もう二つ扉と螺旋階段があるぞ。


「私はこっちですね」


 ムイはそう言って、食堂の真反対の扉を指さした。


 ふーん。

 そんじゃもう一つの扉と螺旋階段どっち行きたい?


「カカミヤちゃんと合流したいですし、扉の方に入りましょう」


 おーけー。

 俺はカカミヤが入ったと思われる扉に手を掛け、引いた。


「う、ぉお。すげぇな」


 口から素直な賛辞が零れる。

 扉の先は膨大な量の本が保管された書庫だった。所狭しと天井にまで届きそうな本棚が並び、その本棚にはギチギチに分厚い書物が並べられている。


「これは……元々ダンジョンにあったものでしょうか…?」


 多分そうだろうよ。

 ムイの疑問に、俺は肯定する。

 試しに本棚にある一冊の本を抜き取り、中を見た。その中は案の定読めやしない。しかし、その文字は明らかに決戦兵器が己の能力を発揮する時に、奴の兵装に浮かび上がる文字と酷似している。つまり、古代文字だ。


 迷宮を拠点に選んだ時点で、きっと何らかがあると思ったがこれが理由か?

 遺跡関連の書物がここにはある。確かに遺跡憑きの連中に取っちゃ喉から手が出るほど欲しいものだろうよ。


 さて……と。

 俺は書庫で()()()()()をやって、どうにか古代文字を解読しようとしているムイに話しかけた。


「そういやお前の入った部屋は何だったんだよ」


「倉庫でした。貴方の欲しがりそうな物はありませんでしたよ」


 そうか。

 武器庫とかだったら旨かったんだが、そりゃ武器を玄関の直ぐ傍に置いたりはしないよな。


「そうですね」


「飴いる??」


「貰います」


 他愛ない会話の中で、俺はムイに飴を手渡した。

 俺とムイは、それぞれが片方の頬をポッコリと膨らませて、飴を舐めた。カカミヤの奴……どこに居んだ…?


 俺もムイも入った部屋はその一つで完結していた。

 その先に新たな扉などなかったのだ。だから、俺達はてっきりこの書庫もそうだとばかり考えていた。しかし、どうやら書庫には入ってきた扉とは別の扉があるし、ここにカカミヤがいないってことはそういう事だ。


 行くか…。

 俺は溜息交じりでムイにそう言った。

 ムイはそんな言葉を聞いて、こくりと首を縦に振るのだった。しかし―――、


「……ァ?」


 俺とムイが座り込む、本が積み重なったその場所に、一人のプレイヤーが入り込む。

 俺は咄嗟にナイフを取り出し、超速でそいつの首を―――、


「ルートッ!!」


 搔っ切ろうとして、ムイの言葉で我に返った。

 その瞬間、俺はナイフを宙で控えめに振りかぶり、体をくねらせた。


 だ、だってぇ…でもぉ…。


「だってもでももありませんっ!」


 ムイは俯いていじける俺の顔を下から両手で包み込み、己の瞳と見つめ合わせる。

 俺は、ムイの髪色に連動した淡いピーチカラーの瞳を凝視した。俺の特徴のない瞳とムイの瞳が共に見つめ合う。


 ご、ごめんなさい…。

 俺が素直に謝罪をすると、ムイは俺の顔から手を離し、そのまま自分の顔を扇ぐ様に手をパタパタとした。


「なにしてんダ…お前ラ」


 すると、少し離れた場所でどこか聞き覚えのある懐かしい声が俺たちの耳朶を震わせた。

 俺とムイは、その声のした方に顔を向けた。

 そこには、珍しい形の帽子をした一人のプレイヤーがこちらを吟味する様に覗き込んでいる。


 その飛行帽にも似たダサい帽子を目視した瞬間、


「……ターミナル…?」


 俺は、心当たりのある一人の男の名を口にした。

 次の瞬間、ムイの周囲の空気ががらりと変わる。変わったそれは、怒りかそれとも別の何かか。しかし、俺にはその変わった形質の何かが怒りにしか思えなかった。


「アー……」


 ターミナルは、困った様に帽子の上から頭をかくと、右手をバッと上げると軽快そうに俺達へと言うのだった。


「よォ、ゴミゴミ、ムイムイ。偶然だナ!」


「お、おぉ。ターミナル。元気そうで……なに……より…」


 俺の挨拶は、隣の巫女の覇気で尻すぼみになっていく。

 その覇気を奴も感じ取ったのか、ターミナルは若干後退る。

 俺とターミナルは、互いに視線を交差し合う。バチリと視線がぶつかり合って、火花が散る。


 その瞬間、俺はターミナルの要求を即座に理解し、張り詰めた空気の緩和に向けて動き出した。


「あぁ!ムイ!ターミナルだ!覚えてんだろ?ほら、俺たちのリーダー様だよ!つい最近ここに帰って来たんだとよ!」


 軽い口調で、俺はムイの前に立ってぺらぺらと言葉を滑らせた。

 その奥で、ターミナルが引き攣った笑顔を浮かべて、ムイに手を振る。




 ―――俺は、()()は、ムイがここまで感情を露わにする理由を知っている。それは、遥か過去へと遡る……。





 廃人共の歩く地雷原――、ターミナル君劇場、はっじまっるよぉ~!!!

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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