記録.84『死に損ないのラック君』
「猫埜君、俺はそれに神を見出した」
「ししょー…?」
猫埜は酷く困惑したような声色を上げた。
だけどな。見ちまったもんはしょうがねぇんだ。
俺はそれに神を見出した。
そこにいたのは歴とした神そのものだ。なぁ、猫埜君。分かってくれるか?分かってくれるよな?
俺は猫埜の肩を掴み、震える瞳を凝視した。
「師匠…、き、きっと疲れてるんすね……」
猫埜はそう言い、肩を掴んでいる俺の手に己の手を優しく重ね合わせ、薄く笑った。
疲れている?俺が?
ははは!
おいおい!敬虔な神の信徒である俺の弟子だろう、猫埜やい。そりゃないぜ。
俺は疲れてなんていないとも!
瞼を閉じれば今もなお鮮明に焼き付くあの情景…!
俺はそれさえあれば、いつ何時も行動力の塊だとも!なぁ、共に神道を進もうじゃないか!俺たちの未来は明るい!大丈夫!不浄は俺たちに仇為す前に燃え尽きるさ!
「あ、あわわわわ……」
止まる気配のない俺を見て、猫埜は焦るように口を震えさせた。
しかし、俺は決して猫埜を見捨てはしない。
大事な弟子だからな。お前だけは見捨てないで、しっかりと神道を歩ませてやるさ……。
「さぁ、行こう。仇為す不浄をぶち殺そう」
太陽を背にして、両腕を大きく広げる。
笑顔を携え、真っ白な歯を剥きだしにして、俺は朗らかに笑った。
「し、ししょー………」
◇■◇
「あ、狐面?ちょっと廃人共ぶち殺したいから協力してくんね?あ?無理?今度飯奢るって、な?……あ?ラーメンやだ?んじゃ中華…あ?高級なやつぅ??……あー、分かった分かった。それでいいからさっさと来いや」
俺は、最近廃人から奪い取ったスマホに似た何かで狐面に連絡を取った。
よし、これで浄化手段は確保できた。
んじゃ、行こうか猫埜。
俺はそう言って、不安そうな表情を浮かべる猫埜に手を差し出した。
「し、ししょー……」
何とも言えない表情を浮かべ、猫埜は差し出された俺の手に、自分の手を重ねようとした。そして、
「目ぇ覚ましてくださいっす……!!」
次の瞬間、猫埜の手にどこからともなく握られたナイフによって、俺の手の平に一閃が入った。
血が溢れ、真っ赤な色が俺の視界に入る。
咄嗟にバックステップを踏み、俺は猫埜の攻撃射程から逃れる。
そうかそうか、猫埜。
つまりお前はそんなやつなんだな。
血が滴るナイフを握る猫埜を剣呑な目付きで睨みつける。
俺は腰のナイフを抜き、滴る血で腕を作り出す。
俺は残念ながら巨人継承者じゃねえ。手に傷がついたって巨人になれやしないんだ。分かるだろ?猫埜。
俺の言葉に、猫埜は小さく頷いた。
流石ルート君の弟子だね。それじゃ、俺が次にいう事も分かってくれるよな?俺は我慢強い子だが、弟子の反旗をそう何度も何度も許してやれるほど優しくは無いぞ。
「今ここで、惨たらしく臓物を散らせや」
「……っ」
典型的な最終決戦よろしく俺と猫埜は武器を持ち、互いに走り寄った。
血液腕はあっさりと両断され、俺はナイフを持つ手を思い切り突き出した。そして―――、
「う゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
可愛い可愛い目に入れても痛くない弟子が脇目も振れずに泣いている。
泣き叫ぶ声と共に、周辺に淡い光が差し込んでいる。
その中で血塗れになって泣き叫ぶ少女は、なにがどうして絵になるもんだ。
「し、ししょ、しょしょ……」
口足らずな言葉が羅列され、再び周囲に泣き喚く声が響く。
俺は、空中をふよふよ浮いて、泣き喚く猫埜の前に立った。
あぁあぁ……年頃の子がこんな液体塗れのお顔になっちゃって……。
俺はハンカチで拭きとってあげたい衝動に駆られるが、霊体である今それは叶わない。じゃあな、猫埜…。後でラーメン奢るからな。
消えゆく俺の死骸を必死に掻き抱き、消させまいと奮闘する少女に背中を向けて俺は教会へと飛び立つのだった。
死だけが彼のアイデンティティだ。
◇■◇
俺はあの光景に、確かに神を見出した。
あの無様なまでの必死さに、どうしようもないくらいの献身さに、何時まで経っても諦めようとしない不屈の意志に。
そしてなにより―――、
「どうすれば……どうすれば……」
―――その姿を見せるのがラック君であったが為に。
「よぉ、ラック君」
俺は教会帰りのその身一つでラック君の下を訪れた。
約数時間前、俺は一度この場所で今のまんまの状態のラック君を見た。そしてそこに神の意志的な何かを感じ取り、その場を離れた。
しかし、よくよく考えりゃラック君がここまで焦燥した様子になる事は珍しい。
それこそ、β時代にだって一度や二度あったくらいだ。
ラック君は常に人の為に動く聖人だ。
だからこそ、”β組の良心”として二つ名を持つ。”不死身の聖人”ラック、そして”女神”ムイ。
奴ら二人に加え、”鉄槌”ドラ子は良心の中でも事件解決数が不動のスリートップだ。
そんな人の為に身を粉にするラック君がここまで焦燥するのは本当に珍しい。
「る、ルート……」
ラック君は俺を見ると、酷く困惑するような声色を上げて後退った。
俺は、ラック君が俺から後退った事実に心を抉られながらも、へらへらと笑みを崩す事無く、近づいた。
なんとなく、俺はなんとなしにラック君が悩んでいる事柄を理解していた。
理解しているからこそ、他人事の筈なのに自分の事のように頭を抱え込むラック君を俺は崇拝する。
どこまでも他人奉仕なラック君だ。きっと、そうなった現状すらも自分が悪いと考えているのだろう。
―――だから、だからこそ、ラック君はそろそろ俺を見捨てるべきだ。
俺はナイフを抜き取り、血液腕を形成する。
そして、動揺した様にこちらを見やるラック君へと眩い一閃を繰り出した。
「……なッ!!?」
ラック君は咄嗟に飛び退き、先程まで自分がいた場所を見る。
そこにいたのはナイフを握り、赤い腕を携えた理性宿る瞳を持つ俺だ。
「なぁ、よぉ、ラック君。お前の出る幕じゃあないね」
「何を言っているんだ!ルート!君の事だ、何か理由が――-「ないぜ」…」
オクタンよろしくナイフをくるくる回し、俺の右手の指がポロポロと地面に落下する。
血だらけになったナイフを真っ赤になった指の血を操作して拾う。
…ラック君。
俺はもううんざりだ。なんだってお前におんぶに抱っこしてもらわにゃならねぇ?お前にとっての善意が、何時から他人の幸福になると思いやがった?思い上がりも甚だしいぜ。
なぁ、”不死身”野郎。
俺はβの頃からお前の事が気に喰わなかったよ。ずーっと、ずぅーっとだ。
右手指の全てから溢れる血液で、クローを形成し、左手にナイフを持ち変える。
ラック君の顔は見えない。しかし、そんな事を気にしていられる場合でもない。俺は《疾風》を発動し、更に加速して棒立ちするラック君の柔らかな腹へとクローとナイフを突き立てた。
「……っ」
ラック君の口から空気が漏れる。
俺はそれを気にする事なく、突き立てたナイフとクローを横薙ぎに払った。
俺の全身に真っ赤な体液が降りかかる。
俺はバックステップを踏んで、ラック君から離れる。
ラック君はヒューヒューと苦しそうに息をして、酷く悲しそうな瞳で俺を射抜いた。そして、一言―――…。
「るー、と……だから、君は…優しい、子…なん、だ…」
目を伏せ、顔を俯かせ、ラック君はそう言った。
そして、次の瞬間ラック君の引き裂かれた腹がぶくぶくと膨れ上がり、瞬く間に傷が癒える。
………。
そうかい、そうかい。製品版になってもやっぱしその体質は消えないか。だからてめぇは不死身なんて呼ばれ方をするんだよ。死に損ないのラック君。
俺はナイフを仕舞い、ラック君を睨んだ。
「いいか?ラック君。俺の周りの事は俺が解決する。聖人様が出る幕はねぇ」
ピッと人差し指をラック君に向けて、俺は背中を向けた。
これで、これでいい。
俺は背中を向けた瞬間から、瞳に一杯の涙を溜めて歩き出した。
俺の抱える問題はあまりにも大きすぎる。
”謎に拗れた相関図”、”頻発するルート狩り”、”ユニーク《血液操作》”。細々したものを上げてけばきりは無くなる。その中でも特に、拗れ切った人間関係をラック君はどうにかしようとしていた。それこそ、無茶だ。この糸はもう解けない。ラック君に無駄足は踏ませない。
これが正解だ。
俺とラック君は道を違える。
ラック君を愛しているからこそ、俺は離れるべきだ。あぁ、辛い。俺はとってもつらいよ。
瞳に溜めた涙が零れる。
涙が地面へと落ちるその瞬間―――…俺の足元に幾つもの矢と発砲による衝撃が襲った。
「きゃ、きゃー!!!」
俺は即座に飛び退き、先程今生の別れをしたラック君の腹に抱き着いた。
ら、ららら、ラック君!
弓!弓矢!それに銃!射手に銃士がいるっ!遠距離部隊だぁ!ラックくぅん!やべぇよ、俺達狙われてるよぉ!!!
「お、落ち着くんだ、ルート。大丈夫大丈夫。僕が傍に居る」
ラック君は、混乱する俺の頭を優しく撫で付け、俺の頬に流れる涙を指で掬った。
で、でもよぉ…ラック君…。
俺はラック君のお腹に抱き着いたまま、もごもごと喋った。ラック君はそれを少しむず痒そうにしながらも笑みを絶やす事無く、俺の言葉を待ってくれる。
射手と銃士がいるっつーことは、中々に殺意が高いよ。
それに遠距離武器持ちは決まって自分の腕に覚えがあるクソみたいな廃人か、ロングレンジウェポンの難しさを知らない一般パンピーだ。しかし、正確に俺の足元を射抜いたってことは、相当腕が経つ前者…つまり廃人の攻撃だ。
うんうん、とラック君が頷く。
俺は幸せな気持ちになって、再びラック君のお腹に顔を埋めて、空気を吸った。ラックニウムが気管に入り、浸透して血液を流れていく。
俺がラックニウムを吸引することに必死になっていると、遠くから数人の足音が聞こえた。
俺は、ふとそちらに向き直るとそこにはやはりと言うべきか弓や銃を手に持った廃人とルーキーの混合PTがいた。
俺はラック君の手を取り、立ち上がる。あ、さんきゅーな。ラック君。
「うん」
手を貸してくれたことに礼を言い。俺とラック君は廃人共と向かい合う。
「よぉ、聖人にごみ溜め。随分とかけ離れた奴同士が一緒にいるじゃねぇか」
うるせぇよ。
てめぇに俺とラック君の何が分かる。
俺達はお前がいなけりゃ、この先一生会話すらできない可能性だってあったんだぞ。本当に有難うございます。
「……?まぁ、良い。ごみ溜め、お前を拘束する」
あ?拘束ぅ?
ラック君拘束だって。俺なんかしたかな?
「うーん、どうだろう。何かした記憶はあるのかい?」
いやー、ないね。
まずこいつらの顔だって今始めて見たようなもんだ。廃人共の顔はなんとなしに覚えはあるが、名前までは知らないし、マジで拘束されること何にもしてねぇぞ。
俺がそう言うとラック君は前に出て、勇む廃人共へと、
「だそうです。ルートは何もしていないので、帰ってもいいでしょうか?」
「言い訳ないだろ。頭湧いてんのか」
ラック君が、俺の方を向いて困った表情を浮かべる。
「ごみ溜め、てめぇは文明遺跡の記憶をまだ持っているだろ」
「…あ?文明遺跡?」
確かに持っているか持っていないかで言えば持っている。
文明遺跡の記憶は、《文明知覚》を持っていない限り、碌に保持できないが何故か俺だけはその記憶の保持に成功している。
しかし、何故それが漏れている…?
この話は、文ちゃんと明ちゃんにしか話していないし、奴らが情報を漏らすなんてことは絶対に無い。
いや、まぁ洩れていること自体は別にいい。
問題はそれと俺を拘束することに何の関係があるか、だ。
「…遺跡の記憶は神の領域。神域に居座り続ける者には罰を」
「「「―――罰を!」」」
廃人の一人が何かを宣言すると、後ろの連中が口を揃えてそれを復唱した。
俺とラック君は、互いに顔を見合わせ、胡散臭いものを見る目を奴らに向けた。
ラック君、こいつら…恐らくだけど何時しかの文明遺跡帰りのエビふりゃーのギルドメンバーを教会送りにした奴等だ。
遺跡から帰った連中は一定期間、《文明知覚》が無くても記憶を保持できる。でも、帰ってきて直ぐに死んだ場合、遺跡の記憶は即座に消失する。つまり、奴らはこの現世に遺跡の記憶を持つ奴らがいる事が許せねぇんだ。
薄らと噂に聞いていた”遺跡を神聖視する連中”だ。
「ごみ溜め、お前は今まで出現した殆どの遺跡に関わった稀有な存在だ。お前は、我々の下で神罰を受け、御旗となるんだ」
廃人がそう言うと、奴らは一斉に弓を番え、銃を構える。
ラック君が咄嗟に俺の前に出るが、恐らく意味を為さない。銃は止められても、廃人共が使う弓は、曲射が出来る優れものだ。上位にもなれば、それこそ必中だ。
だが、しかし―――、
「人間様の最大の知恵ってやつを教えてやろうか」
「……?」
俺を庇おうとするラック君の肩を掴んで、背後に隠す。
廃人共はその行動に一抹の不安を覚えたように表情を曇らせるが、再び強く弦を絞り、銃のトリガーに指を押し当てた。
「―――それはな」
「どかーんっ!!!!!!!」
俺がその言葉を言い切る直前、鈴の音のような声色と共に、赤黒い軍勢が廃人どもを轢き殺した。
ラック君は咄嗟に俺を小脇に抱えると、その場から離脱しようと試みる。しかし、それは赤黒い軍勢の怪物達がラック君の下半身に纏わりつく事で阻止された。
「くっ…ルート!せめて君だけでもっ…!」
ラック君は、脚に纏わり付いた赤黒い怪物を手刀で弾き飛ばしながら、切羽詰まる様に俺へと言い放った。
「そ、そんなっ…!そんなことッ…俺には出来ない!!」
ラック君を見捨てることなど言語道断。
もしも世界がラック君の敵になっても、俺だけは味方でありたい。最後の最後にラック君の側にいるのは俺だ。俺だけがラック君のことを分かってあげられる。
君のことが大切だっ!
俺にラック君を見捨てることはできないっ。分かっているだろう!?
自分の胸を掻き抱き、事の重要性を伝える様に掻き抱いた両腕を一気に広げた。
「―――…ッ」
ラック君はそんな俺を見て、瞳にどうしようもなく行き所のない切なさを映して、声にならない声をあげた。
俺とラック君が見つめ合う。
その時間はあまりにも短く、あともう一秒、もう一秒とゴネてしまうくらいに幸せな時間だった。ら、らっく君…。
俺の惚けた様な声色に、ラック君の怪物達を攻撃する手が一瞬止まる。しかしその瞬間、まるでその隙を待っていましたと言わんばかりに地面から爆発する様に噴出した黒い怪物達にラック君は呑まれた。
「ら、らっくく―――」
俺が言葉を言い切る前に、突如背後に身に覚えのある視線を感じた。この感じ…、このねっとりとした君の悪い視線感…、こ、こいつ…!こいつは…っ!!
「なんで…どうしてこんなことをしやがるッ!―――狐面……ッ!」
背後に立ち尽くす狐の面をつけた妖艶な少女が、爛々と輝く瞳でこちらを射抜いていた……。
多分、貴方が呼んだからじゃないですかね。
◇■◇
今すぐラック君を解放しろや!!狐面!
俺が憤慨する様にそう言うと、狐面は薄らと笑みを浮かべた。すると、奴の瞳が一瞬だけ真っ黒に染まったと思うと、俺の脚に赤黒い怪物達が湧き出し、そのまま纏わり付いた。
こ、この…っ!
俺は焦りの中で纏わり付いた怪物ごと脚を振り上げようとするが、びくともしない。つ、強い…!やはり使い手が使い手でもレア職業…!単純な強さがありやがる。
「ダストっちはすぐに浮気をするね〜」
奴はゆっくりと俺に近づきながら、そう言う。
俺は奴が射程圏内に入った瞬間、ナイフを逆手に持って奴の柔首を掻っ切ろうとした。しかし、その一閃は奴のすぐ側に湧き出でた怪物によって防がれ、そのままナイフを防いだ怪物が流動体になって俺の両腕に纏わり付いて拘束した。
ふ、ふざけるな…っ!
こっちだって腐ってもレア職業だぞ!
俺の〈偽善者〉と、奴の〈亡者の陽炎〉。
確かに系統は大きく違うが、差がありすぎる…!
俺は心の内で愕然としながら、近づいてくる狐面の背後に血液腕を静かに生成する。くけけ…!俺が何の考えもなしにナイフを振るったと?んな訳あるか。全てはこの一撃の為、たったこの一撃を奴にぶち当てる為の下準備でしかない。
待っていてくれ、ラック君…。
今すぐにこの悪魔を殺して、神の信徒たる俺が君を救い出す!
深紅の腕が俺の鼓動を伴って、狐面の背後に迫る―――!
死ねっ!狐面!
この世に仇なす真の不浄がッ!
ソウルビートを刻むブラッドパンチよ!目の前の不浄を粉砕しろッッ!!!
俺の言葉に従い、血液腕が狐面を粉砕…することはなく、奴の背後に沸いた怪物達が何体も折り重なり、血液腕を受け止めていた。
「しょうがないなぁ、ダストっちは〜」
まるで赤子の手を捻る様に、どうしようもない無様な何かを慈しむ様に、奴は慈悲深い笑みを浮かべて果物ナイフを亜空間から取り出した。
そして、拘束された俺の側まで近づいてくる。
俺は再び、奴の頭上に血液腕を生成するが、やはり怪物共に絡め取られ機能しない。
狐面は、そんな事など気にしていないかの様に拘束されている俺の頬に触れると、そのまま流れる様に首、肩、腕と行き、俺の指の端まで行くとそのままぎゅう、と自分の手と俺の手を絡めた。
て、てめぇ…。
俺がその行動に一抹の不安を覚えて、奴に「やめろ」と告げようとした瞬間、奴は優しい手取りで俺の指を切断し出した。
狐面がギコギコと切っている俺の指は、既に半分ほどラック君との戦闘によって切られている。奴はまるでその痕跡を無くそうとでもしているのか、指の根本からギコギコ、ギコギコと鋭さの欠片もない果物ナイフで、必死に俺の指を切断していった。
俺は恐怖ではなく、「どうして?」と言う感情が先行していた。
狐面が一本目の指を切り落とし、二本目に突入しようとした時、突然爆発音が響き、俺がそちらに視線を向けた時、そこにはグズグズになった赤黒い怪物達がいた。
そして、そちらに視線を向けていると今度は眼前にいた筈の狐面から鈍い音が聞こえる。再びそちらに視線を戻すと、そこには血だらけになったラック君が荒い息を吐いていた。
「ら、ラック君!!」
俺は咄嗟に名前を叫んだ。
すると、ラック君は俺の方を向いてにっこりと笑い、再び違う方向を向いた。その方向には、多くの赤黒い怪物に支えられている狐面がいた。
て、てめぇ…俺たちがお前に何したって言うんだよ…。
廃人共から俺たちを助けてくれたことは感謝している。だが、どうして俺たちも狙いやがる。
俺は拘束された体をそのままに、狐面へとそう聞いた。
すると、狐面は右手で頭の横につけた狐のお面を、左手で己の豊満な胸へと置いた。奴の顔は火照ってでもいる様に赤く、はっきりと俺を見て―――、
「ダストっちがくれた言葉を覚えているよ。ダストっちがくれた御面を持っているよ」
射殺す程の熱量を瞳に籠めて、狐面は俺を見ていた。
「それが…ッ!それがっ、…ルートを苦しめていることになぜ気付けない…」
ラック君が、酷く辛そうに目を伏せてそう言った。
生温い風が、俺達の体を吹き抜ける。
修羅場が、俺達を包む。
頬に汗を掻き、俺は「やべぇ」と他人事の様に呟いた。人の修羅場は面白く、自分の修羅場は居心地が悪い。まさか己の身で経験するとはな…。
俺がそんなことを考えていると、拘束されている俺を余所に二人が臨戦体制をとった。
「―――ダストっちと老後を暮らします」
狐面が言う。
「―――ルートを救け出す」
ラック君が言う。
「―――面白そう」
エビふりゃーが言う。
三者三様、化け物達の宴が始まる―――。
―――明かされた真実(明かされていない)謎深まる関係(謎深まっていない)!




