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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.79『フール』

 

 地雷原の中で、俺はタップダンスを披露する。


「おお~」


 遠くで廃人共の感嘆の声と拍手が耳朶に響き、自分に酔い痴れる。

 ふん……、俺だってやろうと思えばちょちょいのちょいなのよ。舐めんじゃねぇぞ。


 俺は更に足を素早く回転させ、地雷原を闊歩する。

 その結果、地面から突如として襲来した多大な爆発により俺の足は吹っ飛んだ。ぐぁ…ッ!!?く、クソが…!!俺の足が…足がぁ……!

 き、きつね…狐面…!救え!俺を救ってくれ!俺を担いで地雷原の外に放り投げろ!


 俺は目の前で俺を見ていた狐面へと叫ぶ。


「まかせて~!」


 狐面は珍しく俺の言葉を素直に聞き、膝から下が無くなった俺を担ぎ上げる。

 ぼたぼたと血が流れる。


「そいや!」


 狐面は気の抜ける様な掛け声と共に俺を空に投擲した。

 俺の身体は空を舞う。プロペラ君……!見ているか…、俺は今この身一つで空に一体化しているぞ……!

 俺の身体が青い空に交じり合い、俺の魂がどこかにいるプロペラの魂と共鳴する。



 そして、俺は地雷だらけの地面に派手に衝突する。

 地面がノズルフラッシュみたいに発光し始めて、俺の身体が光に照らされる。


 き、狐面……。

 俺は狐面の方を向き、泣きそうな表情で奴を見た。

 地面の底から何か変な音がする。恐らく、爆発魔法の待機音だ。地面下の地雷たちが、一人でに魔法構築を進めていく。


「……てへ」


 狐面は下をぺろりと出し、右手を頭にやった。

 そんな姿を見ながら、俺は爆熱に囚われるのだった……。


 ◇■◇


 俺の死骸が臓物を垂らしながら空中に浮遊し、抹茶の元に運ばれる。

 そして、抹茶は運ばれてきた俺の死骸に蘇生を行使し、爆発で無くなった全ての部位が過不足なく元に戻った。

 クソ…ッ!!《テレキネシス》持ちがいなけりゃそのまま死ねたかもしれねぇっつーのに…!


 俺は蘇生されて早々、心の中で舌打ちを零した。

 そして、息つく暇もなく再び地雷原の真っ只中に立たされる。


「おかえり~」


 ただいま~。

 俺はのほほんとした狐面と挨拶を交わす。

 狐面はその場に座り込み、地雷など気にもしないように何かを触っている。


 おい、何やってんだ。

 立ちやがれ。お前も地雷に引っかかんないと、俺がお前の分まで実験材料にされんだよ。なぁ、おい。


 俺は座り込む狐面へと地雷の位置を見極めながら近づいていき、肩に手を置いた。

 しかし、奴からの反応は無く、小さく漏れる荒い息遣いだけが俺の耳に聞こえてきた。


 あぁ…?

 こいつ、何やってやがんだ…?

 俺は狐面の肩に置いた手を思い切り引き、奴の顔を見ようとする。すると、そこには……!


「お、おまえ……!!」


 狐面の手にはぐちゃぐちゃに引き裂かれた何かの臓物が転がっていた…。

 いや、違う。

 これは恐らく俺の死骸が浮遊して運ばれていった時に落ちた臓物だ…。こ、このフール女…!颯爽と拾って自分の欲求を満たして……!?


 俺は、恐怖に震えて二歩三歩とその場から後退ろうとする。すると、突然狐面の影から生えた真っ黒な腕が俺の足を掴む。


「そ、それ以上行くと地雷あるよぉ~……」


 火照った様に赤い頬と、荒い息遣いの狐面がこちらを向いてそう言った。

 あ、あぁ……助けてくれてありがとうな……。

 俺は礼を述べて、直ぐに掴んでいる影腕を足蹴にした。


 すると、狐面は俺に蹴られた影腕をじっと見つめ始める。

 そして、何を思いついたのかその大きな黒い影腕を一本一本の繊維に解いていき、解き切ったそれを再び編み込むように成形し始めた。


 俺はそれを見て、驚愕する。

 あ、明らかに人が為せる技を超えている…!繊維にした後に、成形する…?そんなもの俺やフローの様な何かを弱くし、何かを強くする力…天秤が無いとできやしない…!!

 天秤は元々俺が編み出した到達点の力だ。

 フローは、万来の魔女が入れ知恵したせいで使えるようになっちまったが、それこそ例外…!


 エビふりゃーやララですら使えない力だ…。

 まぁ、奴らが使ったところで元が強い故に、天秤を使えるようになったとしても弱体化にしか繋がらないだろうが…。

 何はともあれ、狐面のその技術は正に天秤そのもの…!


 や、奴は何を賭けた…?

 天秤に何を乗せてあそこまでの力を手に入れやがった…!?


 俺は狐面に詰め寄り、胸倉を掴む。


「何を賭した?何を捨てたんだ!?お前はっ!」


 俺は火照った狐面の眼前で唾を飛ばす。

 狐面の口から荒い息が俺の鼻先に掛かる。甘い飴の様な香りが俺の鼻腔をくすぐった。そして、


「……倫理観」


 狐面が口にしたそれは、恐らく狐面の中で最も必要とされないもの。

 元より備わっていない化け物特有のデメリット打消し…!!


 クソが…!

 こいつ、ハイリスク・ハイリターンの到達点である天秤を習得しやがった…!

 俺の質問に答えられたという事は、その意図を理解しているという事。つまり、奴は正真正銘、天秤保持者だ。


 俺が狐面に掴み掛かっている今でも、空中に浮遊した影の糸は何かを作り出そうと編まれている。それは、あまりにも華奢で、それでいて汎用性に長けた形をしている。


 ……天秤は、使用者の概念に付き従う。

 俺の場合で言えば、《血液操作》にのみ適応され、フローで言えばデメリットが重い分、全ての能力に適応される。

 そして、狐面で言えば《影魔法》…。

 編み込まれ、強かに、それでも確かに象るそれは、あまりにも華奢な腕の形をしていた…。


 狐面の腕と同じくらいに華奢な影腕は、編み込まれて直ぐに狐面の影の中に戻ると、何十本もの影腕を携えて再び影から姿を現した。

 …使用上限の突破(リミテッド・オーバー)……。

 プレイヤーの基本情緒を捧げるとここまで強くなるのか…?


 俺はその事実に震える。

 何本もの華奢な影腕を出した狐面が、ふと俺の方を見た。そして、


「……が、ぶふッ…!?」


 突然、俺の口から血液が漏れて出た。

 腹から上り来る血液は留まる事を知らず、一直線に喉を通り、口内を侵し、地面に赤い模様を作っていく。


 な、なにが……?何が起こりやがった…?

 俺は混乱する。そして、混乱する俺を見ながら狐面がにこりと笑う。奴は、俺に向けて笑いかけると力の抜けた俺の手を胸倉から離し、その場に座り込んだ。


 そして、座り込んだ狐面は俺の腹から臓物を取り出して、幾つもの華奢な影腕でその臓物を弄び始めた。

 そこで、俺はようやく気付く。

 …腹が、二つに割れている…?

 俺の腹は気付けばぱっくりと大きな傷を残して割れており、その中から臓物君がコンニチワしている。


 こ、この女……!いつの間にか斬ってやがったのか…!?いや、違う…。この華奢な影腕が死角を縫って斬り付けやがったんだ…!

 俺は臓物遊びに勤しむ何十本もの影腕を睨む。

 ボトボトと薄気味悪く光る臓物が俺の腹から地面に落ちて、その度狐面は影腕でそれを拾うと弄び始める。


 き、狐面……。

 俺は目の前のフール女の名を呼びながら、地雷が無い前方に倒れ伏した。

 エビふりゃー達からメッセージが何件も届く。しかし、それに応答してあげられるほどの元気はもう俺には残っていなかった。

 血液が地面に零れ、俺の視界を埋めていく。その中で、臓物を必死に弄繰り回す狐面の姿がはっきりと映った。何本もの影腕で俺の臓物を弄るその図は、あまりにも狂気染みていて―――、



 〔きつねさんが条件を達成…〕

 〔〈影魔導士〉から〈亡者の陽炎(クローズ)〉への進化を確認…〕

 〔きつねさんが〔Unique・Skill〕《泣き喚く行進(クライ・パレード)》を獲得…〕



 あぁ……このフール女…やりやがった…。

 遂に、こいつもレア職業持ち…じゃねぇか。

 朦朧とする意識の中で、俺は静かに呟いた。恐らく、このシステムコールは廃人共には届いていない。奴らはあまりにも遠い場所にいる。システム的にあそこはコール範囲外だ。


 〈亡者の陽炎(クローズ)〉…。

 《泣き喚く行進(クライ・パレード)》…。

 こいつは…、称号を手に入れた。手段を手に入れた。今この時を持って、このゲームにおいての願望を獲得したことになる。


 レア職業は照らし合わせ…称号。

 職業に付随するユニークスキルは、このゲームにおいての願望を叶える為の手段だ。奴は一体何を願った?何を祈った?


 血が足りない。

 何もかもが足りない。

 狐面がぐちゃぐちゃになった臓物を優しく扱って、立ち上がる。そして、しゃがみこんで俺の髪を優しく撫でつけながら言うのだった。


「大丈夫だからね…」


 一体何が……。

 その言葉はもう口から出なかった。

 狐面が地雷原の中で、遠くにいる廃人共を見つめる。そして、


「《泣き喚く行進(クライ・パレード)》」


 そう口にして―――。

 その瞬間、狐面を中心に赤黒い何かが地面から湧き出る様に召喚され始める。

 召喚された赤黒い怪物は、廃人に向かって進み始めるが、直ぐに地雷を踏み抜き、爆発を起こしてその場で息絶えていく。しかし、それを上回る量の怪物が再び産み落とされ、廃人へと歩みを進める。


 こ、これが…《泣き喚く行進(クライ・パレード)》…。

 化け物共の行進……!


 化け物達が廃人に向けて歩みを進める中心で、狐面が座り込み、倒れ伏した俺の頭を自分の膝の上に乗せた。

 柔らかな膝の感覚が、俺の後頭部に当たる。

 俺は死ぬ……その筈なのに、何時まで経っても俺は苦しみ、死という救済を得られない。


 な、なぜだ……?

 何故俺は死なない?もう随分と血液は足りていない…。《血液操作》で凝固させる血液にも限界はある…。

 とっくに死んでいていいはず……、ま、まさか!!?


 俺は碌に動かない瞼を無理矢理にこじ開け、上を見る。

 そこには、俺の顔を見つめる狐面の顔があった。赤黒い怪物たちが、子供が泣く様な声を上げながら廃人共に向けて進んでいく。

 その中で、俺と狐面は視線を逸らす事無く見つめ合った。


 …俺に、何をした?

 掠れる声で俺は狐面に聞く。奴はその声を聴き、暫く無言を突き通すと、ふと笑顔を見せた。



「班に分かれて後退しろぉおお!!」

「地雷ある分その辺放り投げろ!」

「ヒーラーは後ろへ!戦える奴はすぐさま前へ出ろ!」

「陣をおけ!鍛冶師は武器を打て!」


 怪物達の行進に、廃人共が対抗する声が聞こえる。

 喧騒の中で、俺は衰弱していく。


 お前の影魔法…、まさか”概念化”したわけじゃないよな?

 俺は、一つの答えを提示する。


 このゲームのQ&Aの一つに、このような質問がある。



【Q.魔法系統のスキルの最大レベルは火力や距離、範囲を今よりももっと自由に操作できるようになりますか?】

【A.魔法系スキルの最大レベル、到達点は質問のそれにつけ加え、魔法の一部概念化です】



 概念化。

 つまり、火力や物理に反映されるものではなく、目に見えない何かを起こすことだ。

 そう、例えば…《影魔法》。

 こいつの影魔法は、随分と”人型の腕”に固執する。つまり……、


「……命、引き留めちゃった」


 狐面が、俺の顔を両手で挟んでそう言った。

 そう、つまり…そういう事だ。

 幽体と化す俺の服の裾を掴んで、「いかないで」と「もう少しここにいよう」と心に、命に待ったをかける。そういう事が出来るのが”概念化”だ。


 狐面の場合、奴の想像するものが”腕”だったからこそ、「引き留める」という概念が起こりえた。この女は…、きつねは…、化け物だ。

 引き留められていた俺の魂が少しずつ衰弱し、視界の端からゆっくりと黒い波が押し寄せる。そりゃそうだ。引き留めるのにだって限度はある。



 …俺やフローの天秤。

 ムイの身体から滲み出たどす黒い闇のオーラ。

 ユニークスキルではないララの”お願い”や、俺の”我儘な執行”。

 狐面の天秤覚醒、ユニーク発現、魔法の概念化。


 少しずつ、プレイヤー達は独自の力を発現させ、システム外能力を身に付けつつある。

 ―――俺達は、一体どこへ行くのか?何を目指すのか。


 それは、きっと誰にも分からないのだ。





 ちょ、狐面さん…。衰弱死って結構キツいんでさっさと殺してもらえませんかね……?


 俺の言葉に狐面は静かに笑いかけた。


 え?こいつなんで殺してくれないの?チキってね???




 塵も、チキンも、幼女も、甲殻類も、キョンシーも、兵器も、お茶も、よだかも、元引きこもりも、猫も、誰も彼も、分からないのだ。

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