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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
78/115

記録.78『あなたのためなら』

 

 穴を掘る。

 柔らかいとは言えない地面にスコップを突き立て、穴を開ける。


「疲れた~」


 文句を言わないの!この子は!

 スコップの柄に手をつき、その上に顎を乗せながら狐面が弱音を吐く。こいつはいっつもそうだ。すーぐ弱音を吐きやがる。それだから心が弱っちぃ奴になるんだ。


 俺はスコップを地面に突き立てて、狐面に講釈垂れる。

 周りを見てみなさい。お前と違って皆頑張っているでしょう?お前も文句言わないでもう少し頑張りなさい!飴ちゃんあげるから、ほら。


 俺が差し出した飴を受け取りながら、狐面は頬を膨らませる。


 まずなぁ、お前穴幾つ掘った?

 お前口だけだろ。全然掘ってないだろ?


「ほ、ほったもん」


 狐面が視線をきょろきょろと落ち着かせずに言う。


 じゃあ幾つだ?

 十か?十五か?それ以上か?

 俺はもう十八は掘ったぞ。お前がうだうだ理由をつけて休んでいる間に黙々しっかり進めたぞ。

 おら、言えや。幾つだ?幾つ掘ったんだ?あ?


「……さ、さん……」


 頬袋が飴玉で出っ張った狐面が、言い辛そうに口を開く。


 ……分かっていた。

 狐面は駄目な子だ。大変な事は後に回すし、変な勘違いを直ぐにして、しかもそれを訂正しようとしても何故か思考ロックしてやがる。人狼ゲームとかをしたら、初出しの情報をそのまま鵜吞みにしてゲーム終盤まで引き摺るタイプだ。

 ……大丈夫…。俺はこの子を分かってあげられている。例え、どうしようもなく救えないド天然でも俺はこの子を見捨てない……。


 俺は瞳に涙を浮かべながら、狐面の肩を叩いた。

 大丈夫…大丈夫だから…!俺がついてるからな…!!


「……なんか~、凄く馬鹿にされた気分…」


 廃人達は穴を掘る。

 その穴が、いつしか地球温暖化を止めると信じて―――。


 ◇■◇


「ダスト君、きつねさん、一緒に逃げよう」


 少し遠くで穴を掘っていたプロペラがこちらに来て、そう言った。

 俺と狐面は顔を見合わせて、首を傾げる。


 おいおい、突然どうした?プロペラ。

 甘いもんでも欲しくなったか?しょうがねぇなぁ。最近飴玉の消費が激しいぜ…。

 俺はポケットからメロン味の飴玉を取り出して、プロペラの方に放り投げた。奴はそれを受け取ると、丁寧にお礼を述べ、口に飴を放り込んだ。


 ころころと飴玉を口内で転がす謎の時間が過ぎる……。

 え?何この時間…

 てか俺はどうしたらいいの?狐面とプロペラは飴玉舐めてるけど、俺も舐めた方が良い?もしかしてそういう時間?


 俺はとりあえず適当に飴を口に放り込み、ころころと口の中で転がした。

 再び謎の時間が三人の中で流れる。

 狐面は何とも言えない表情で虚空を見つめ、話があった筈のプロペラは空を見上げて飴を舐めている。

 静寂……、飴玉三つで人はここまで静寂な世界を作ることができる…。


 飴玉式静寂システムの存在に気付き、俺が感動しているとプロペラ君は何かを思い出したようにガリガリと飴を砕き始めた。


「歯ぁ痛めるよ~?」


 狐面がプロペラの歯を心配する声を上げる。

 そうだぞ、プロペラ。お前は牛乳嫌いだから、カルシウムが足りねぇ。歯欠けちまうかもしれないぞ。お前、歯欠けたら痛いぞぉ。神経剥きだしだからな~。


「いたいよ~」


 狐面が何故か胸の前に手を持ってきて、お化けポーズをしながらプロペラを怖がらせようとしている。こいつのやる事為す事訳分からねぇな。


「牛乳飲むから!とにかくここから逃げよう!」


 あー?結局最初の話に戻るのか?

 一体全体なんで逃げるってんだ?何から?ナビだってここら辺にゃいないぞ。ナビを召喚しちまうバグも改善された。怖がることはねぇだろ。PKだって廃人共がここにはわんさかいるんだから、平気だぜ?


「プロペラっち、怖がりだね~。お化け嫌い?」


 お前はズレた話してんなよ。

 プロペラがいつお化け怖いっつー話したよ。

 狐面の頭を叩きながら、俺と狐面は笑いあった。


「なんで僕たちは穴を掘っているんだ?」


 プロペラが笑い合う俺と狐面を見つめて、口を開く。

 見つめる瞳には、お道化もふざけも何もなく、ただ真剣な感情だけが読み取れた。


 な、なんで…って…なぁ?


「うん……なんでって言われてもね~」


 穴を掘ることに意味なんてある訳ないだろ。

 廃人共がここまで集まるのに、正常な目的があると思うか?あるとしたらボス戦とか、報酬がうまいとかそういう時くらいだぜ?

 そうじゃない以上、この穴掘りに意味なんてないだろ。


 よく聞くだろ?

 ブラック企業が新人に意味もなく穴を掘っては埋めてをさせるってやつ。それだそれ。意味なんてりゃしない。

 まぁ、しかし、別に逃げてやってもいいぜ?

 お前がなんで逃げようっていうかは知らんが、嘘をつく理由はお前にないしな。


「うん、別にいいよ~」


「……!本当?じゃあ早く!ここから逃げよう!〔コウザン〕の方にとりあえず……!」


 プロペラがそう言って、俺たち二人を先導する様に走り出した。

 俺と狐面はプロペラの背中を追い、スコップを放り出す。

 多くの廃人が、走る俺達を見て声を上げる。「どうした?」「なんかあったか?」「逃避行?」……、しかしプロペラはそんな声をすべて無視して、走り続けた。


 しかし、


「おいおい、どこ行こうっていうんだ?」


 俺達の前に一人の男が立ち塞がる……!!

 その男は、鞘から蒸気を噴出させながら剣を抜き、その切っ先を躊躇せずにこちらに向けた。

 ギラリ、と鋼特有の反射光が俺達の目を貫く。


 眩しく、蒸気剣を携えたその男の名は――、


「――エビふりゃーさん……っ!!」


 プロペラが唇を噛む。

 唇からはつーっと血が伝い、どれほどプロペラが緊迫した状況下に置かれているのかが見て取れた。

 俺はよく分からない状況に頭を回しながら、狐面に言った。


「なんか、やばい状況っぽいぞ」


「ぽいね~」


 しかし、狐面はアホの子だ。

 状況が分かっているのか、いないのかよく分からない反応を返す。いや、反応を返してくれる分マシだ。廃人の中には意思疎通が取れているのかが分からない奴だっているからな。


 エビふりゃーとプロペラのぶつかり合う視線がバチバチと火花を散らす。

 五秒…十秒…三十秒…一分に差し掛かろうとした時、遂にエビふりゃーが動く。奴は剣ではなく、亜空間からとある物を取り出し、プロペラに見せつける様に掲げた。

 それを見た瞬間、プロペラは目を大きく見開き、それから目を離さずにエビふりゃーを強く睨んだ。


「……え、エビふりゃーさんッッッ………」


 その言葉の端々には憤慨極まりない程の怒気が見え隠れし、エビふりゃーを睨むその瞳からは憎悪すら感じられた。


「プロペラ、お前はここでリタイアだ」


 エビふりゃーがそう言う。

 そして、奴は剣を鞘に納めて、亜空間から取り出した()()を持ち、両手で思い切りこすり上げた。その瞬間、()()は天高く舞い上がり―――、


「…ッ!……!!ごめん……!きつねさん、ダスト君……!!」


 プロぺラは、一回だけ俺と狐面を泣きそうな表情で見るとすぐさま空に舞い上がった()()を、手で掴もうとしながら追いかけ始めた。

 空高く舞うそれは、(はた)から見てもあまりにもプロペラ特効のエンチャントが施されており――、


「わーい」


 奴は空高く舞う竹とんぼを追って、俺達の前から姿を消していった…――。

 いつまでたっても無邪気なあの子を止める権利を、未だ俺達は持ち合わせない……。


 俺と狐面は、エビふりゃーと相対する。

 奴は冷たい視線をこちらにくれ、剣を再び抜く様子はない。俺は狐面の前に出て、エビふりゃーに言った。


「何が何だか分からんけど……どけよください」


 しかし、それを聞いたエビふりゃーは一瞬だけ目を開き、そして手を顎につけて何かを考え始めた。


「……解けていない…?何故…?長期的なものには効果が薄い…?一瞬の効力は……」


 エビふりゃーが何かをブツブツと呟く。

 俺はその隙に狐面の手を引いて、奴の横を通り過ぎた。逃げろ…逃げろ…!プロペラの意志を無駄にするな!

 きっと何か理由がある筈だ!逃げなくてはいけない理由がある筈なんだ!


 エビふりゃーが追いかけてくる様子はない。

 俺達は穴だらけの草原を走った。


「あ!ま、待ってください!」



 すると、突然誰かに声を掛けられる。

 狐面がその声に反応して、足を止めようとするが、俺は構わず走ろうとする。狐面!気にすんな!罠の可能性もある!

 なんで俺たちは逃げなきゃいけないのかは分からないが、プロぺラの死を無駄にすることは許されない!


「でも、ダストっち。抹茶(まっちゃ)っちだったよ?」


 そんなブッチッパみたいな感じで言われても…

 いや、抹茶ならワンチャン情報をくれるか…?奴は絆され易い…。可能性はある。

 俺と狐面は立ち止まって、声がした方へと体を向けた。


 案の定、そこには抹茶がおり、切羽詰まった様に俺と狐面に話しかけてくる。


「に、逃げてるんですよね?”お願い”は解除されたんですか?そうでないなら説明を…」


 ……”お願い”?


「ん~?」


 俺と狐面が、同時に首を傾げる。

 その反応を見て、抹茶が「解けていないんですね…」と一言置いて、状況の説明をし始めようとした。しかし、俺はそれを一旦止める。


 待て、説明してくれるならば簡潔にしてくれ。

 俺達は既にエビふりゃーに見つかって、逃げてきたんだ。早くしなけりゃ追いつかれる。


「本当ですか…、分かりました。少し走りながら説明します」


 そう言って、抹茶は俺達と並走しながら状況の説明を始めた。


「幼女さんが遂に【終着駅】との共同研究の末、≪地雷≫を完成させたんです」


 幼女さんっていうのは、ララの事だ。

 奴が名前を呼ぶのを許しているのは数少ないからな。奴に魅入られた者しかフレンド交換も、名前を呼ぶことも許されない。

 名前呼びを許された者の例をあげるとすれば、決戦兵器とかそこら辺くらいだ。


 それにしても、地雷?

 地雷ってのはあれか?現代で言う悪魔の兵器って言われてるあの地雷か?

 俺が想像するのは、体重がかかればボカンと体が吹き飛ぶ爆発兵器だ。人類史において、多大なる被害を残した悪魔の兵器。


「えぇ、そうです。その地雷です。爆発魔法を封じ込めた鉄箱です」


「それと私たち何の関係あるの~…?」


 狐面が口を開く。


「それが…完成した地雷を実験しようとしたのですが誰も掛かりたくなく…、話し合い結果貴方達二人に掛からせてみようという結論に…」


「ひど~い…」


 あぁ、そりゃ酷い。

 一体全体どうやって話が飛躍したら俺達二人を地雷の餌にするってことになるんだ?

 ってなるとあれか。穴は地雷を埋めるためのもので、俺達はまんまとその穴を掘らされていたってことか。それが、自分たちの首を絞めているとも知らずに…。


 しかし、なんだってお前やプロペラは俺達を助けるような真似をする?いや、プロペラはまだ分かる。奴の事だ。情が湧いちまったんだろう。だが、お前は?終着駅の研究の末に地雷が完成したのならば、お前は結果を見たい側じゃないのか?


 俺の疑問に抹茶は言う。


「いや、流石にルートさん一人ならば良かったですが、きつねさんもいましたし……」


 ああ?お前最低じゃん。

 俺一人なら見捨てたの?見殺しにしたって?

 ……いや、まぁいい。狐面、お前がいて良かったよ。お前いなけりゃ、俺は地雷の餌食だったっぽいからな。


「え~?えへへ……」


 狐面が嬉しそうにはにかむ。

 俺は、抹茶から続きを聞こうと奴がいる方を向いた。しかし、



「よぉ」


 並走する抹茶の後ろに、既に悪魔の手が伸びている事に俺達は誰も気付いていなかった。

 エビふりゃーが剣を抜く。その瞬間、狐面は《影魔法》で黒い腕を出し、俺を引っ掴んでその場から駆け出した。

 抹茶も大きな杖でエビふりゃーの剣に対抗する。


 その瞬間、俺と狐面は逃げ、抹茶はエビふりゃーを足止めするという構図が出来上がる。

 ま、待て!!”お願い”とは一体何なんだ!?解ける解けないとか言ってたが、その”お願い”を解く術はあるのか!?

 走る狐面の振動が直に伝わり、俺の言葉は震えを伴う。しかし、抹茶はエビふりゃーと相対しながらも声を荒げてこちらに情報を伝えようとする。


「幼女さんの力です!貸しがある相手を貸しがある分だけ自由に出来ます!貴方達は良い様に洗脳されているんで、―――ッッす!!?」


 抹茶とエビふりゃーの攻防が始まる。

 ”お願い”……。

 確かに俺は一度、ララに「何でも言うこと聞く」という権利を与えてしまった事がある。恐らく、それが貸しになっているのだろう。


 ってことは狐面。

 お前も何か借りを作っちまったんじゃないか?


「う~ん…もしかして武器作ってもらった時に『かしだぞ』って言われたからその時かな~?」


 相手に「借りを作った」と思わせた時点で、あいつの能力は発動態勢に入るってことか?だとしたらとんでもない力だ…。

 俺は身震いする。俺の言葉の強制…掲示板では”我儘な執行”と呼ばれているらしいが、それよりも遥かに扱いやすい。

 しかし、あいつの職業である〈禁忌に触れる者(アンノウン)〉にはユニークスキルが無いって話の筈…。つまり、ララも俺と同じ職業効果が強力なタイプ…、このゲームにおいての願いを持たない側だ。


 ララの洗脳は、俺の”我儘な執行”程の強制力は持ちえていない。

 恐らく長期的な部分には向かないのだろう。今思えば、色々と納得のいく部分もある。

 ララがエビふりゃーの身体に触れただけで、奴を消し飛ばしたことがあった。恐らくあの時も、その”お願い”とやらが行使されたのだろう。


 ”我儘な執行”と似た原理を持つならば、奴もお願いをできるのは貸し一つに付き一回なはず。一度洗脳をした以上、再びは無い…と思いたい。


 狐面、お前あいつに貸しっぽいのまだある?


「多分ない~」


 狐面は、俺の言葉にそう返す。

 そうか、俺も無い。つまり、この解かれつつある洗脳さえどうにかすれば、俺達はもう”お願い”という権能の強制力に怯える必要はない。

 つまり……、


「つまり~?」

「つまり?」



 ……声が、二つ聞えた。

 一つは狐面。そして、もう一つは……、


「ララッ!!!」


 狐面が影腕で掴んでいた俺を手放し、拳を握り締めてララに殴打する。

 俺は猫のように地面に飛びつき、血液腕を形成した。


 大きな影腕に直撃したララはゆらりと立ち上がると、大剣を手に持ち、一瞬にしてそこから姿を消した。


「ど、どこだッ!?」


 俺は焦った様に口走る。

 しかし、狐面は冷静にその場を分析していた。そして、俺の方へ直ぐに駆け寄ると影腕を変形させて、大きなドーム状の影を作る。俺は咄嗟にその影全体をコーティングする様に血を絨毯化させた。


「くる……」


 狐面がそう言うと同時に、ドーム状の影に強い衝撃が走る。

 そして、影はそのまま一刀両断され、俺と狐面は咄嗟に回避するが、俺の左足がララの大剣に持ってかれる。


「持って行かれた………!」


 バランスを崩して俺は地面に倒れ込む。

 血液でどうにか足を作ろうとするが、影をコーティングするのに使い過ぎて足りない。狐面の《影魔法》も駄目だ。奴の影は奴から離れられない。


 ナイフを構え、残り少ない血液で数本の短剣を作り出す。そして、周囲に浮遊させ、いつでも串刺しにする準備をする。ララは幼女だ。今ある武器全てで串刺しにさえ出来れば、余裕で即死を狙える。

 狐面が影腕を再構築し、俺の傍にじりじりと近寄る。

 ララの姿はどこにもない。


 幼女という身軽さを活かし、とことん嫌な手段をとってきやがる。


 俺は狐面を視界から外し、周囲を見る。

 すると、ドサリと視界外から何かが倒れ込む音が聞こえる。ま、まさか……


 俺が音のする方を見ると、そこには胴体が半分に割れた狐面の姿があった。


 そ、そんな馬鹿な…。

 音は少しもしなかったぞ……?肉を、骨を断ち切る音も、狐面の一瞬の抵抗の音すらも……!!

 これが、エビふりゃーすら超えた幼女…、ララ……!!


 狐面の死骸が地面に赤い染みを作る。

 碌な埋葬をしている時間はない…。許してくれ…狐面…。

 俺は首をぶんぶんと振り、ララをどうにか視界に入れようとする。しかし、奴の姿はどこにもない。くそ…!レベル差がありすぎる…狐面ですら初撃に気付いたのに、俺は何も分かってなかった!


 ば、万事休す……!

 圧倒的万事休す…!ララに勝てるビジョンが見えない…。いずれエビふりゃーも追いついてくる。二人を相手取るのは俺にはできない。

 攻撃系のスキルを俺は《ナイフ》と《血液操作》しか積んでいない。逆転の一手を持ちえない…!くそ…ここにきて汎用性重視にしたスキル構築が裏目に出た…。


「ら、ララ…話をしようぜ。俺達はもっと仲良くできるはずだ…な?」


 俺は命乞いにも等しい言葉を並べた。

 どうにか生きたい。生き延びたい。洗脳がほぼ意味を無くした以上、俺と狐面は地雷の実験体にされない…なんていうことは絶対に無い。

 己の信念を貫き通すが故にエビふりゃーもララもここまで強くなった。リングフィットアドベンチャーを二日目でやめた俺とは違う。


「人には言葉っていう素晴らしい文明があんだろ…悪い文明じゃないぜ…?」


 その言葉に反応する様に、俺の視界に大剣を携えたララが出現する。

 神出鬼没…、いや…話してくれる気になったってことか?



「るーと」



 ララが言う。

 しかし、その言葉には、



「るーと」



 その言葉にはあまりにも、



「るーと」



 その言葉には溢れ返る程の、



「るーと、あいしてるよ」



 その言葉には()せ返ってしまうくらいの愛が含有されていた――。


 ララの瞳が、ガラス玉の様な無機質なものになっていく。そのガラス玉に、反射した俺の顔が映る。珍しく、ララは上から俺を見下ろしている。


 足から血が止め処なく流れ、ポーションをかけなければ俺はいずれ息絶えるだろう。

 しかし、だからと言ってポーションをかける気分にもなれなかった。目の前の幼女の瞳が、まるで鎖のように俺の身体を拘束するのだ。


 ら、ララ……。

 口から言葉が零れる。

 そして、その名を呼ぶと、ララは口角を吊り上げて笑った。その笑顔はひどく可愛らしくて、それでいてあまりにも、その場に似つかわしくなくて―――、


「るーとのためなら、わたしはきんきにふみいるよ」


「るーとのためなら、わたしはせいじゃをぼうとくするよ」


「るーとのためなら、わたしはわたしをすてさるよ」


「るーとのためなら」「るーとのためなら」「るーとのためなら」


 言葉が、俺の心に入り込んで―――、


「だから、わたしのためにもやってくれるよね」



 そうだった。

 俺はもう戻れない。

 この子の心を受け入れた以上、俺達は共に堕ちる他無いんだ。



 深淵(アビス)を覗き、踏み入り、踏み均す。

 このゲームは一体どこまでが想定されているのだろうか。それとも、全てが想定され切っているのだろうか?

 腹に何かを刺される感覚を覚えながら、俺は青い空を見つめて、重く圧し掛かる瞼を閉じた。





 流石に運営もここまでは想定していないと思いますけどね。

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