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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.76『死人に口なし 生者に理なし』

 

 ララは集まったアイテムと、俺から根こそぎ奪っていった金でナイフを作った。

 その過程を見学したが、奴は案の定自分の血をナイフに垂らしていた。というか垂らすレベルではなく、ドバドバと滝の様にナイフにララの血が注がれ、次第にナイフの色は薄く赤み帯びていった。


 ら、ララさん……。


 俺が恐怖のあまりララへと声をかけると、ララはこちらを見てその場から立ち上がると、そのまま血塗れのナイフを俺に渡した。

 そして、俺にナイフが渡った後まるで役目を果たしたかのようにその場にぱたりと倒れ、そのまま息絶えた。


 ……こ、これが鍛冶師…!化け物染みた武器への執念……!





 誰も彼もがこうならば、世界は血で溢れかえってるよ。


 ◇■◇


 ―――――――


≪血族のナイフ≫

 血は幼女へ還り、幼女は血へ還る。

 血を吸う度に、幼女は幼女になる。


 ―――――――


 意味が分からないと言えばそれまでだ。

 俺には分かる。分かるとも。あぁ、分かるに決まってる。これはあれだ。きっとあれだ。うん、あれだよ多分。


 赤みを帯びた軌道に沿って、ナイフがルーキーの首を撫で斬る。

 首から噴出した血がナイフに次々と吸われていき、ルーキーは息絶えた。


 ……幼女とは、果たして何なのか?

 このゲームの幼女は、何故か強者が多い傾向にある。廃人で幼女の奴は基本廃人の中でも上位に位置するし、それこそエビふりゃーすら出し抜くララみたいな存在もいる。


「……?そうですね?」


 おはぎが俺の言葉を肯定する様に頷いた。

 俺はそれを見て、嬉しい気持ちになる。おはぎは〔サイショ〕の街で和菓子を販売する生産プレイヤーだ。俺が贔屓にする店の一つでもある。


「手伝ってもらってすいません。お金は払いますから…」


 いや、良いって。

 菓子作る為の材料が商店街から枯渇してんだろ?多分、それ俺のせいでもあるからよ。流石に礼をもらうわけにはいかねぇよ。


 今朝方から、サイショの街の商店街から菓子素材系統のアイテムが出回らなくなった。

 原因は、俺と猫埜が商店街の重鎮共の元を訪れてしまったことだ。

 猫埜の光で重鎮共は燃え尽きた。そして、奴らは再び猫埜と相見える時の為にとうとう自らの手で菓子作りを始めた。


 そのせいで菓子類の素材は枯渇し、おはぎ含む料理人たちは己が武器を持ち、魔物犇めく外へと足を踏み出したのだ。

 過程こそ褒められたものじゃないが、結果としては良い方向に転がったと俺は思う。ずーっと中で料理を作り続けるよりは少しくらい外に出て、新しい世界に触れてみるのも良いだろう。

 それに、重鎮共は料理なんて言う細々したことがてんで駄目な奴らだ。どうせ明日には諦めている。それに、経済を停滞させることを奴らは好まない。今こそ暴走しているが、すぐにそれが間違いだと気づくだろう。

 それまでの辛抱だ。


 俺はルーキーと魔物を殺しながら、おはぎについていく。

 おはぎちゃーん、甘い蜜出す枝あったよー。俺は偶然見つけたそれを切って、おはぎに自慢する様に掲げながら近づいた。


「あ!≪ピポの枝≫ですか?ありがとうございます!」


 おはぎは嬉しそうに俺から枝を受け取った。


 まぁ、その重鎮共の暴走があったおかげで俺はおはぎに頼られて、こうして一緒にマップを駆け回って素材を集めている訳だ。そこだけは感謝するぜ。


 俺は今頃、火傷でもしながらお菓子作りに励んでいるであろう重鎮共を想像して嘲笑した。


「何か面白い事でもありましたか?」


 俺の嘲笑に、おはぎは首をこてんと傾げて疑問符を上げる。

 その可愛らしい仕草に心を撃ち抜かれながら、俺は「大丈夫」と断った。同じ《料理》スキルを持つ身として、お前のことは尊敬してるぜ。


 まぁ、ぽっと出の重鎮の皆さんは頑張ってくださいよ…。

 俺はその間におはぎちゃんと親睦を深めますんでね…。





 自分もそのぽっと出の一人という事を忘れてはいけない。


 ◇■◇


 俺達、β組は全ての重なり合うサーバーに映し出される存在だ。

 それ故に、ありとあらゆる混雑サーバーを回避し、必要最低限の情報のみが映し出されるサーバーに存在できる。

 それは、言っちまえばプレミアパスだ。

 遊園地で列に並ぶ事無く遊具に乗れる。ラーメン屋で後ろで待つ事無く席に座れる。頼んだ料理が他のオーダーを全てガン無視して先に届けられる。


 不平等で、それでいて不明瞭なシステムだ。

 しかし、だからこそ俺達は()ち合う。廃人達は、β達は、魅かれ合い、殺し合い、そして互いに名を呼び合う。


 重鎮共の暴走の被害を受けたのは、当たり前ながらおはぎだけじゃない。

 そりゃそうだ。生産職が不遇って言ってもまずプレイヤーの母数が多すぎる。例え生産職が少なくとも、母数が多ければそれは何ら問題がない。


 多くの菓子素材を扱う料理人がマップにいたはずだ。

 そして、その中にはまるで当たり前かの様に、廃人と呼べる化け物もいる訳で…、


「どいてよ、焼却屋。お前半人前どころか飴玉専門の料理人だよね?」


「飴玉の何が悪いんだ?あ?ぱっくぱっくぱっくぱっく味見してもゲーム内は太らねぇから良いだろ?パックマンがよぉ」


 全サーバーに(β)映し出される者()がいるならば、

 必ずどこかで全サーバーに()映し出される者()に出会う。この邂逅は必然だ。


 俺が飴玉をガリッと齧りながら、目の前のコックにガンをつけた。

 奴は男でありながら片目を髪で隠しており、料理に髪が入る考慮を何もしてやがらねぇ。そんな料理人の風上にも置けない奴だ。あ、サンジさんは例外っすよ、えへへ…。

 β時代、奴の作った料理は大変人気があったが俺はいつもエビふりゃーとかターミナルに安モンの食べ物を食わされていた為、このパックマンの料理を食ったことは数回くらいしかない。まぁ、旨かったけどね。


 だが、それとこれとは話が別だ。

 おい、パックマン。てめぇは菓子専門の料理人じゃねーだろ。すっこんでろや。こちとら、可愛い可愛いおはぎちゃんの素材集めにどたどた走り回ってるところなんじゃ。


「パックマン呼ぶな。こっちだって必要な素材があるんだよ」


 あぁ、そうですかぁー。だってよ、おはぎ。

 許せねぇよなぁ?こいつはきっと俺達が融通を利かせて、少し待ってあげたりしたらその間に全ての素材を乱獲するぜ?

 β組っつーのはそういう連中の集まりさ。


「え、と…そ、そうなんですか…?『パクロ―』さん」


『パクロ―』。

 それは、パックマンのプレイヤーネームだ。

 やはり、料理人同士…面識があったか…。

 俺は、不安げな表情を浮かべてパックマンを見るおはぎに視線を向ける。


「そんな訳ないでしょ。おはぎさん。まず焼却屋に頼るのはやめた方が良いよ。こいつと関わるのは害しか生まない」


 パックマンが嫌な顔をしながら俺を指差す。


「焼却屋は筋金入りのゴミだ。僕の見立てじゃβの皆の中でもトップに君臨するレベルのゴミだ」


 あ?

 俺は青筋を立てて、血液腕を成形する。


 おいおい、おいおいおいおい……。

 俺がゴミ?あぁ、そうかもな。だがなんだ?俺が廃人共の中でトップクラスにゴミだぁ?そりゃ大間違いだろーが。

 なぁ、よく考えてみろ。俺はお前にそこまで迷惑かけちゃいねーぞ?

 β時代だって、一回か二回くらいじゃねーか?迷惑をかけたのはよぉ。随分と盛って話をすることがお上手じゃねーか。


「……ハッ!話にならないようだ」


 あぁ、そうだな。

 お前の言葉は嘘八百。だーれも信じちゃくれないまやかし話だもんなぁ。


 俺が血液腕を、パックマンが手の平に小さな火種を造る。

 一触即発の空気、β時代において当たり前だった雰囲気が再び形成されていく。


「……け、喧嘩やめましょう…?」


 しかし、その空気の中で唯一β時代と違う点があった。


 そう、おはぎと言うルーキーの存在だ。

 ルーキーはその場の空気を弛緩させる。それは、ルーキーという存在が酷く弱々しいものだからだ。勿論、ルーキーの中にもぺろりんの様な廃人顔負けの化け物もいる。しかし、おはぎに至っては前者…!圧倒的生産職…!弱者の代表…!


 俺とパックマンの一戦おっ始めようという雰囲気はいつまにか瓦解し、涙目のおはぎを二人して慰める構図が自ずと完成する。


 いっ、いやっ、別にっ?

 喧嘩とかじゃ…ないけどね?ねー?パックマン。

 俺達仲良しだもんな?マジで旧来の仲っていうの?なんかこうー……感じるものがあるよな!お互い……そのー、な!あるよな!


 しどろもどろの俺は、パックマンの肩に腕を回し仲良さげなアピールをする。


「え……あ、……う……うぉ……あぁ…」


 ぱ、パックマン……?

 俺の臨機応変な対応に、パックマンは動揺したように言葉が少なくなる。


 お、おい……、どうしたんだお前…。

 おはぎが泣きそうになっちゃってるじゃん…。早く寸劇でいいからしろやダボ…おい、おい…!おい…!!

 ゾンビの様に呻くパックマンは、まるで俺の言葉が聞こえていないのではないかと思うくらいに俺の声を無視する。おかしい…?流石におかしいぞ…?


 俺は、違和感を感じてパックマンから離れる。

 そして、泣きそうになるおはぎの傍まで下がり、亜空間からハンカチを取り出しておはぎに渡した。俺は出来る男だからな。いついかなる時も、真っ白な降参印のハンカチは常備しておくんだ。


「ありがとうございます……そ、それでパクローさん…」


 おはぎがハンカチで瞳に溜まった涙を拭いながら、俺へと告げる。


 あぁ、明らかにおかしい。

 俺に触られてからか…?突然様子が激変した。おはぎ、あいつなんか持病持ってたりします?それとも潔癖症とか……。


「い、いえ…パクローさん…お店とかだと良く他の人と触れ合ってますけど……あ、でも…」


 でも?

 俺は呻くパックマンから視線を外さずにおはぎに聞き返した。


「そういえば…βの皆さんとは一度も触れ合っているのを見た事が無い様な……?」


 ぁあ?

 それは、なんだ…。

 もしかして奴は、β組に対してだけ…。


 俺がおはぎに確認する様に導き出される答えを口に出そうとした時――、


「ごッ…!ゴミに…ッッ!!僕の身体が穢されたァ……ッ!!!???」


 そう、つまりこの男は、”β組(ゴミ)にのみ、発症する潔癖症”ってことですかぁ?


 ムクムク、ムクムクと俺の中で感情が大きくなっていく。

 しょうがないよなぁ?

 仕方がないよなぁ?

 どうしようもないよなぁ?

 なにせ、滅茶苦茶に面白い奴が目の前にいるんだからさぁ!


 俺は即座に地面を蹴って、パックマン目掛けて走り出す。

 奴は右手で髪で隠していない方の目を抑えて、その指の隙間から俺を見る。バチッと奴と俺の視線がぶつかり合い、火花が散る。


 パックマンくぅん!!!

 俺と鬼ごっこしようやぁ!あ、俺が鬼ね!!!


 俺の軽快な声と共に、右手がパックマンに触れようとにゅるんと伸びる。

 しかし、パックマンは間一髪でそれを躱し、射殺す勢いで俺を睨みつける。


「鏖殺だ…誰も彼も…!!!」


 パックマンが左手に火種を作り、俺に飛ばす。

 俺はそれを易々と回避し、再び奴に近づく。しかし、その前に…


「はい、たーっち」


 奴の後ろに這わせておいた血液腕がパックマンの頬をぷにっと押した。


「ッ!!?焼却野郎がッ!」


 …あれ?

 あぁ、お前…βプレイヤー自身の生身で触れないと面白くなんねぇの?おいおい、生粋のβ嫌いだなぁ。じゃあいいさ。血液腕は消してやる。


 パチンと指を鳴らし、血液腕はその場から一瞬にして消失する。

 さぁ、パックマン。続きをやろう。お前が俺を焼却できるか、お前が俺に触れられるかの勝負だ…!


 俺の口角がどんどんと吊り上がる中、背中に誰かが抱き着く衝撃と鈴の音の様な声が聞こえた。


「ご、ごみ溜めさん……!!」


 ……おいおい、おはぎんよぉ。

 今、いいとこなんだワ。確かに俺達はおはぎちゃんみたいなルーキーがいるとな、「しっかりしなきゃ~」とか「なんか戦う雰囲気じゃなくなったわ」とかさ、勝手に思って、勝手に考えるぜ?

 だけどなぁ、こればっかりは互いの合意だからなぁ。


 俺は首をぐるんと回して、再び涙を流し、白いハンカチを握りしめるおはぎを見る。


 俺は奴に触りたい。

 奴は俺みたいなゴミ共を殺したい。

 ほらな?俺達はお互いがお互いに崇高なる目的があんのよ~。


 わかってくれっか?


 おはぎが俺の腹に手を回し、離さないという意思を見せながらふるふると首を振る。

 そうかぁ、分かってくれないかぁ。

 まぁ、そうだよなぁ。結局、俺達β組とは違うもんなぁ。根本的な部分で歯車が抜け落ちていないもんなぁ。あぁ、俺も抜け落ちてねぇけどな。


 まぁ、おはぎがいうなら仕方ないね。

 俺はおはぎの頭を撫でて、優しい声でそう言った。一緒にお菓子素材集める仲間として、仲間の意見を取り入れないのはダメなリーダーだぜ。


 俺は飴玉を取り出して、自分の口に放り込んだ。

 そして、もう一つ取り出すとそれをおはぎの頭の上に置く。


 よぉ、パックマン。

 悪かったなぁ、変な真似しちまって。俺も別にお前と敵対してーってわけじゃねぇんだよ。分かってくれる、よな?


 息荒く、肩を揺らすパックマンはしばらく俺を睨むと、次第にその荒い呼吸は鳴りを潜めた。


「もう、いいよ。ここは使ってくれ。やっぱりお前と関わると碌な事が無い」


 ははは、お互い様だよな?

 俺がそう言うと、パックマンは溜息を吐きながら俺とおはぎの横を通り過ぎようとこちらに歩いてくる。


「ごみ溜めさん…、私怒ってます…!」


 おはぎが俺にぷりぷりと赤い顔を向ける。

 ごめんごめん、悪かったよ。もうしないって。さ、素材集めに戻ろうぜ?さっさと集めないとまた誰かきちまうぞ?


 俺の言葉に、おはぎがぷりぷりと怒りながらも素材を回収するために走り出した。

 走るおはぎとパックマンがすれちがう。

 そして、奴が俺の横を通り過ぎる瞬間…俺の右手に寄生したミギーが突然暴れ出し……!!



 ―――ポン、と。

 俺の右腕が奴の首筋付近に触れて――、


「―――ぅ」


 パックマンは顔を真っ青にして白目を剥き、そのまま地面に倒れ伏した。


 ……くくく。

 なぁ、楽しいとは思わないか?

 β組は、このゲームは、変人の巣窟だ。お前みたいな奴もいれば、もっとやばい奴もいる。


 しゃがみ込み、倒れ込んだ奴の背中を摩りながら俺は言葉を紡ぐ。

 おはぎは、素材収集に必死だ。きっと、明日にでもお店を再開して客の笑顔を見たいんだろうな。あぁ、なんて健気でいい子だろうな。


 倒れ込んだパックマンは俺が触れても、微動だにしない。

 なぁ、俺もβ組なんだ。俺は今が楽しくて楽しくて仕方がねぇよ。なぁ、聞いてるか?パックマン…。


 俺は奴の瞳を覗き込み、背中に耳を当てて心音を聞く。



 ――――。


「しんでるぅ」


 俺は、パックマンの頬を抓った。

 すると、奴の身体はビクンと震える。服越しよりも生身に触る方が嫌なのか…?

 俺は再び奴の心音を聞く。


 すると、奴の心臓はドクン…ドクン…と確かに力強く鳴り響いていた。


「いきてるぅ」


 もう一度頬を抓ると、身体が飛び跳ねる。心音は――


「しんでるぅ」


 もう一度頬を抓ると、身体が――


「いきてるぅ」


 もう一度頬を抓る――


「しんでるぅ」


 もう一度――


「いきてるぅ」





 これは、ドキドキとワクワクの人体実験。

 ごみ溜め君、極悪非道の後、生命の神秘に触れる……。

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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