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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
67/115

記録.67『動く世界』

 ぷちり――。

 俺は巨大な亀に踏み潰されてあっけなく死んだ。


 〔《ナイフ》Lv.7→Lv.6〕

 〔《血液操作Ⅱ》Lv.5→Lv.4〕

 〔《敵対知覚》Lv.15→Lv.14〕

 〔《拡大増幅》Lv.8→Lv.7〕

 〔《呼応治癒》Lv.6→Lv.5〕

 〔《しなやか》Lv.2→Lv.1〕


「あああああ!!!!まーた下がったよ!!ねぇ!またレベル下がった!やってらんねーなぁ!?もうよぉ!?」


 復活して早々にブチギレた俺は、必死にハンマー振って装備や武器の修理をする鍛冶師連中の周りでギャーギャーと騒いだ。

 逃げない?ねぇ、もううんざりじゃない?なんで俺達こんなことしてんの?なんで俺達ここまでしなきゃいけないの?ねぇ、ハンマー振ってないで。もういいから、お前らが逃げ出せば保たれてるDPSは崩壊すんの。

 だから、さ?逃げようぜ?一緒にさぁ…。


 俺がそう囁くと、鍛冶師の連中は俺をぎろりと睨み付けてまた作業に戻った。流れ弾の魔法で何人もの鍛冶師が死んでいく。

 そして、復活すると奴らはまたハンマーを振るいに戻るのだ。


 元々、このボス戦は他の廃人共が始めて、俺達は手伝ってやっている立場だ。いつ逃げたって問題はねぇ。なのに、こいつらは一切逃げようとすらしない。

 ……狂ってる…お、お前ら狂ってるよ…。


 しかし、そんな言葉を気にもしない様に奴らはハンマーを振るった。……はぁ、もういいよ。わーったよ、やるよ、やればいいんだろ。ったくよぉ、なんでこんな事…。


 俺はぶつくさと文句を垂れながら、暴れ狂う巨大な亀の方を見る。

 カメの周りには何十人もの廃人共が纏わりつき、どうにかダメージを与えようと奮起している。誰もが、必死に。


 おーい、俺も混ぜておくんれぇ~。

 そう言って、手を振りながら俺もそこに混ざっていくのだった。

 なお、カメの装甲が固すぎてボス戦は無様に失敗した。レベルの下がり損じゃねぇか。


 ◇■◇


 廃人の狂人加減を垣間見て俺は気付いた。俺、やっぱルーキー側にいるべきだわー…と。


 俺は奴らみたく狂人加減に磨きが掛かっていない。

 あいつらの目を見て、いっつもいっつも怖い怖いと思うし、鍛冶師連中がどうにかDPSを保とうとして鍛冶をやめて、戦闘に突っ込んできた時も「うわ、こいつらやば」って普通に思えた。


 狂人ならきっとそんなこと思わない。ああ、思う訳がない。

 なにせ、あそこに参加してたエビふりゃーも抹茶も決戦兵器も、誰も彼もが鍛冶師の参加なんて一切気にも留めずにただひたすらに亀を殺そうとしてた。

 本当の狂人は、目的を遂行している時に関しては何にも無関心で、無頓着だ。


 そうだろ?なぁ、そう思うよな。


「ア~、そうだナ」


 隣を歩くターミナルは少し困ったような顔をして、帽子を目深に被った。

 顔の認識が出来なくなる〔真っ黒外套(ススワタリローブ)〕を着た俺は、ターミナルと共に山岳地帯にあるルーキー共の拠点へと向かっていた。

 近々始まるであろう戦争、俺はルーキー側につく気満々なので少しでもルーキー側だという事を示しておこうという考えだ。


 その為、メッセージでターミナルと連絡を取り、一緒に向かって貰っているという訳だ。

 まぁ、俺がルートってバレても問題ないルーキー側の奴なんてターミナルくらいだ。偽物ルート君にはバレてるが、俺は奴とフレンドじゃねぇしな。


 ああ、そういやお前は知ってんのか?俺のドッペルゲンガー。


「あア、知ってるヨ。全然喋んないよナ」


 そうか、やっぱ常日頃から活動している訳だ。

 その癖して矛盾は起きてねぇんだよな。本物である俺が別の場所にいる時に、別の場所で偽物を見たっていう報告を聞かない。

 やっぱその辺は気を付けてんのか……地味にしっかりしやがって。


 あ!見えてきた!

 俺は拠点を補足し、目に見えて浮かれる。そんな俺を見て、ターミナルは目を細めて言った。


「正体隠してるんだロ?バレない様にナ」


 おう!分かってるって!

 あ!ぺろりんだ!ぺろりん!おーい!ぺろりんやーい!!

 俺は視界にぺろりんを捉え、嬉しくなって走り出す。


 ぺろりーん!ぺろりんやーい!

 手を振って、瞳を爛々と輝かせて俺は考え込むような姿勢を取るぺろりんへと近づいて行った。そして、気付く。


 あ、やべ。正体隠してんじゃん…。

 ぺろりんがこちらを向いた瞬間に、俺は口を噤んだ。

 そこにいるのはクールガイなミステリアスルーキー、トールさんだけだ。


「あ、トールさん……今、誰かほかの人の声が…?」


「ア!俺じゃないカ!?」


 俺の失態を隠蔽するように、俺の後を追ってきたターミナルが俺を庇う。汗をかき、肩で息をするターミナルを見て、ぺろりんは訝しげな眼で俺とターミナルを交互に見た。しばらくその目で俺達を見ると、気のせいだと結論付けたのか、普通の視線へと戻る。


 俺とターミナルはバレない様にほっと息をついた。

 ちらとターミナルの方を見るとじろりとこちらを睨んでいる。ご、ごめんて…あんましぺろりんと会ってなかったから、浮足立っちゃったんだよぅ。


「それにしても久しぶりですね、トールさん。お元気でしたか?」


「…あぁ」


 ぺろりんの優しさが五臓六腑に染み渡る。

 会話をしているとやはり実感する。ルーキー共は常識人だ。やっぱ廃人は狂人なんだ。ああ、あんなとこ居られる訳がねぇ。いつ誰がクトルゥフみてーになるか分かったもんじゃねぇからな。


「知り合いだったのかい?ターミナル」


「あァ、ちょっと前に助けて貰ってナ」


 間違いは言っていない。

 どちらかと言うと助けて貰ったのだが、そこんとこはどうとでも取れる。ぺろりんは無駄に有能だからな、下手な嘘は見抜かれてても可笑しくない。

 しかし、俺達は腐ってもβ時代を生き抜いてきたプレイヤーだ。本当の狂人ほどではなくても心を押し殺すことは可能…!


「そうか!」


 ぺろりんは俺達の隠し事に気付く事も無く、嬉しそうに破顔した。

 可愛い。飴をあげたい。しかし、俺は今、ルートじゃない。くそぅ…悔しい…!悔しいよぉ…!


 悔しがる俺に気付ないで、ぺろりんは言う。


「でしたら、トールさん。ターミナルと一緒にクエストに行ってもらえませんか?」


 まるで天啓でも受けたかのように、ぺろりんは迷うことなくそう言った。

 そして、俺にそれを断る理由は無い。

 元より何かを為そうとここに来たんだ。それにターミナルがついてくるんだったら、心強い事この上ない。

 俺は、二つ返事で「ああ…」とクールに答える。


「はぁ、しょうがねぇナ」


 ターミナルも満更でもなさそうに答えた。

 こうして、俺とターミナルによる一時的なPTが組まれたのだった……。


 ターミナル君!がんばろーね!


 ◇■◇


「なにこのクエ」


「そういうなッテ」


 ぺろりんが俺達に渡してきたクエストは、あまりに意味の分からないものだった。


 ―――――――


 ▷「世界の可能性」クエスト種別:Normal

 世界に願いが灯る。

 その時、世界の全貌が明らかにされるのかもしれない。

 ▷クエスト達成条件

 ・魔方陣を描き切る


 ―――――――


 俺とターミナルは協力してデカい魔方陣を描く。

 その大きさはざっと縦横10mはある。それでいて酷く難解な紋様……。ホントにナニコレ。なぁ、ターミナル、逃げねーか?俺もっと意味のあるクエストだと思ったよ。


 俺の言葉に、ターミナルは眉を顰める。


「駄目ダ。任された以上、しっかりやってからだゾ」


「えぇ~……」


 β時代、リーダーシップを発揮してきた男の責任感は強い。

 俺は諦めて、渋々と言った具合に再び地面に魔方陣を書き始めた。まずさぁ、これ何の意味があるか知ってんの?ターミナル。


 俺の疑問はご尤もだ。

 なにせ、俺はぺろりんの前ではミステリアスクールガイ。余計な言葉を発することは許されない。だから一体このクエストにどんな意味があるのかなんて知らないし、分からない。


 なぁ、ターミナルー。

 知ってんだろー?もうすぐ完成しちまうぜー?この魔方陣何なんだよー。ボス呼ぶ系?だったら俺もうお腹一杯だよぉ。ここに来る前に亀と戦って散々レベル下がってんだ。勘弁してくれー。


 ターミナルは、そんな俺を見て酷く静かにこう言った。


「まぁまァ、すぐわかるッテ」


「……」


 こいつの言葉は、人を落ち着かせる。

 こいつの声は、人を信用させる。

 こいつは、βが誇るプレイヤーのお手本だ。ゴミばっかのβプレイヤーの中でも良心以上にβプレイヤーの平均値を上げる存在だ。


 だからこそ、分からない。


「なぁ、ターミナル。お前、なんでやめたんだ?」


 ―――その理由が。

 いつも楽しそうにしていたこいつが、このゲームを去っていた期間があるというのを未だに俺は理解できない。


 俺は知っている。

 エビふりゃーとは会えないと自分で言っておきながら、本当は会いたがっているという事を。

 誰よりも、エビふりゃーを関わっていた奴だ。

 会いたいに決まっている。

 それなのにこいつは素性を隠し、廃人ではなく、ルーキー側についている。おかしい話だ。あまりに筋が通っていない話だ。


 俺の言葉に、ターミナルは手を止めた。



 なぁ、ターミナル。

 お前に救われた奴は一杯いる。それこそ、お前がいたからこそ、未だにこのゲームを続けている奴がいるほどだ。お前は、オールマイトだったんだよ。求心の象徴。それがお前だ。……そんなお前が、何故そちら側についた?


 分からなかった。

 そりゃ、自分以外の人間だ。分からない事が当たり前だ。だけどな、それを考慮してなお、お前の考えている事が俺は分からないよ。

 ターミナルは、立ち上がってこちらに向き直った。


「お前はよく言っていたよナ、ゴミゴミ。『β組は揃いも揃ってゴミばっかだ』ッテ」


 ……あぁ、そんな事も言ったな。

 だけど、間違いじゃないだろ?β組は揃いも揃って人間のゴミだ。

 掃き溜めの中から拾い出したかのように、救えない奴らばっかだ。まるで、そうあれと望まれたかのように。


 可笑しいと思わないか?

 エビふりゃーも、抹茶も、決戦兵器も、プロペラも、狐面も、ララも、フローも、ドクターも、誰も彼もが絶対に頭の螺子が一本、下手すりゃ数十本抜けてやがる。

 他の奴らだってそうだ。今、良心共が駆けずり回っているのは何故だ?廃人共が事件を起こし続けているからだろう。

 ルーキー共が起こした事件は幾つある?手が二つもあれば事足りる程だろう。

 それに引き換え、廃人共は常に何かを起こし続けている。まるで人として根本的に違うみてーじゃねーか。


「”良心”はどうなるんダ?あいつらだってβプレイヤーダ」


 ターミナルは言う。

 まるで、何かを吟味するかのように。


 ……あいつらも立派なβ組だよ。

 誰も彼も結局どっかが少しおかしいんだ。

 ”β組の良心”なんて呼ばれたのだって、他の奴と比べたら少しマシだったって話だ。

 ドラ子は暴力的な癖に、一度話すと直ぐに絆される。あのチョロさはどう考えてもおかしい。まぁ、常人よりではあるがな。

 ムイは…、あいつは駄目だ。度が過ぎた百合思想に謎のシステム外パワー。どうかしてる。

 唯一…ラック君だけは、ボロを出さないけどな。

 だけど、ラック君もβ組だ。いつ爆発してもおかしい事は無い。

 他の良心共だって似たようなもんだ。


 なぁ、ターミナル。

 分かるだろ?お前がいたからこそ、β組の連中はそれほど爆発を起こさなかった。その証拠として、β時代と今を比べると事件の発生率は段違いだ。




 ――ターミナル。お前、どうしてそっち側にいるんだよ。




 俺の問いは、間違いだったのかもしれない。

 しかし、その問いに答える様に独り言でも言うみたいにターミナルは口を開いた。


「俺は、常人なんだヨ」


 再び、魔方陣を描き始めたターミナル。


「βの皆は確かに凄いけド、ゴミゴミが言う様に頭の可笑しい連中ダ。つまリ、狂人なんダ」


 緻密に描かれていく魔方陣は、渡された資料と遜色無い位に完璧に描かれていた。


「俺は常人だかラ、お前らのとこにはいれないヨ」


 そして、最後の線が描き切られて―――。


「だから俺は敵対すル。自分の身が滅びぬようニ」


 魔方陣が光を放つ。

 そして、魔方陣の上に立つ俺とターミナルはその光で焼き切れ、四肢を燃やされ、心臓が炎々に包まれていく。

 その中で、ターミナルは言う。


「ゴミゴミ、お前は自分の事常人って思ってそうだから言うけどナ」


 紡がれる、その言葉は―――、



「――お前こソ、立派な狂人ダ」



 光に包まれ、何もかもが―――。



 〔ワールドクエストの発生を確認…〕


 ―――――――


 ▷「人の可能性」クエスト種別:World

 世界に祈りが灯られた。

 呼応する世界、可能性の全貌は明らかにされていく。

 ▷クエスト達成条件

 ・世界を踏破せよ


 ―――――――


 ◇■◇


 教会で生き返り、俺は気付いた事実を吐いた。


「連鎖クエストかよ…!」


 クエストをクリアすると、再び新たなクエストが提示されるクエスト。

 俺はまんまとそれに使われたことを悟ると同時に、ぺろりんからの隠れたメッセージも受け取った。


 ああ、なるほどな。つまり、


「最初かラ、お前は気付かれてたって事ダ」


 その声がした方へ向くと、そこにはターミナルが立っていた。

 ああ、同じ教会で復活したのか。

 ……正直、言いたいことだらけだけどな、()()()()遠慮しとくぜ。


「ありがとナ。んで、ゴミゴミ。外行ってみロ。面白いもんが見れるゼ」


 ああ?面白いもん?

 俺はターミナルの言葉に従って、外に出た。

 そこには、


「戦争?戦い?何を言っているのでしょう?」


「……」


 ぺろりんとエビふりゃーが相対し、互いに言葉を交わしていた。

 しかし、いつもと違うのはのらりくらりとルーキー共の意見を聞かないエビふりゃーが悔しそうに唇を嚙んでいるところだ。


「手を取り合って、頑張りましょう!」


 ぺろりんは嬉しそうにエビふりゃーに手を差し出した。

 そして、悪辣なくらいに深い笑みを浮かべて―――、


「ワールドクエストを、ね」


 逃げ場はない。

 やるしかない。

 今まで理由をつけて後ろ向いてきたツケをここに来て、廃人共は払わされるのだ。


 戦争は起きない。

 プレイヤー分裂は起きえない。


 ただ、ワールドクエストに挑むだけ。そうだろう?


 ルーキー共は口を揃えてそう言う。

 ワールドクエストは為された。それも、恐らくこれまでで一番長く、険しいもの。


 世界の拡張――。

 廃人共の戦力光る舞台が幕を開ける――。





 ねぇ、今どんな気持ち?

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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