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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.65『臓物達が哭いている』

 

「はい、お前の負けー」

「まけー!」


 家で楽しくジェンガをしている俺とボロとラミミ。

 最後の決め手は、ラミミが無理矢理に下の方を抜いた事による崩壊だ。俺とボロはハイタッチをして、喜び合った。

 へいへーい、繊細なのは心だけかーい?

 小手先技術が伴わないんじゃどうしようもないなぁ。


「へいへーい」


 俺の煽りに合わせる様に、ボロが言う。

 ラミミがそんな様子を見て、崩れたジェンガを一つ一つ集めている。そんな至福の時間―――、



〔エビふりゃー:ギルドバトル今日参加していいぞ〕

〔エビふりゃー:迎えお前んちのそばに送っといた〕



 ……随分と待ったな。

 俺は立ち上がり、コートを亜空間から取り出した。

 ボロの頭をわしわしと撫でつけ、ラミミに出かける旨を伝えて、外へと出た。


 かなり前になるが、職業システムが導入された頃、運営から『職業別人数リスト』なるものが公開された事があった。

 当時、人数が少ないレア職業に就いていた者は情報を隠すのが当たり前であり、俺はエビふりゃーのついていたレア職業、〈断罪者〉を見抜いた。

 その情報をバラされたくなかったエビふりゃーは、俺に情報をバラ撒かせない為に、俺が出した要望を呑まざるを得なかった。

 その内の一つが、エビふりゃー率いる【終着駅】のギルドバトルに俺を出させることだった。


 ……正直忘れられていると思ってたぜ。

 もうちょい期間をおいて、そっから忘れられた利息分をふんだくろうかと考えていたが……まぁ、忘れていなかったのならそれでいいさ。



「――よぉ」


 玄関を出て直ぐの所に、大きな杖を持った抹茶がいた。

 俺は抹茶に適当な挨拶を告げて、前を通り過ぎた。雪降ってねぇのに、今日はまた寒いな、おい。


「…どうも」


 目の前を通り過ぎた俺に、挨拶を返した抹茶は俺に小走りで追いつき、横について歩き始めた。静寂の時間が流れる。

 ……え?何?お前今日不機嫌?なんでそんなに何も喋んないの?


 俺の疑問に、抹茶は大きな杖をコンコンと地面に当てながら答えた。


「…昨日、ラックさんがうちのギルドハウスに来ていたんです」


 ……あぁ。

 ――昨日…それは、俺がこの世の混沌を味わった日だ。

 そうか…、女神がいるっつーことはもう一人くらい”良心”がいるとは思ったが、ラック君だったかぁ…。


「昨日、ムイさんと会いましたよね?帰ってきたムイさんが色々と話してくれました……ラックさんの前で」


 ……ラック君は一度、俺の拗れた人間関係をどうにかしようとして、目の前でパンクしたのを目撃している。パンクしたと言っても、俺が押し込み過ぎてパンクさせちまったから自分のせいだが、人一倍責任感の強いラック君はそうは思わなかっただろう。


 その時、傍にはこいつ…抹茶もいた。


「ラックさん…泣いてましたよ。『どうしたら…』って」


 ……そうか。


「ルートさん、泣いてたんです。ラックさんは」


 ……分かってる。

 理解してるけど、それならどうすりゃいいんだよ。

 ラック君は、俺が複数の女と愛憎塗れた関係を築いていると思っている。プロペラがそういう風の拗らせ方にしちまったからだ。


 俺だって、どうにかしようと思ってる。

 だから、ラック君の中で誰が俺の関係図に入っているかも把握済みなんだよ。


 狐面…ララ…プロペラ…ラミミ…ドラ子…フロー…、お前は覚えてないだろうが、プルメルとイカってプレイヤーもだ。

 そこにお前も入っているんだ。この意味が分かるか?


 俺達は協力してこの人間関係を(ほど)くことが出来ないんだよ。

 もしも一緒に協力して、どうにか凝り固まった糸くずを(ほど)こうとしてみろ。ラック君からしてみれば、俺とお前がくっついているように見えるんだ。


「………」


 もう、どうしようもないんだよ。

 それに、一重に全部が嘘の関係って訳でもねぇ。

 俺はララとフレンド交換をしている。俺は既にあの子に魅入られてんだ。俺はあの子を、あの子は俺を。共依存の関係だ。

 狐面とだってそうだ。俺は奴に言っちゃいけない言葉を言っちまった。状況が状況で仕方が無かったところはあるが、それでも一番の地雷を踏み抜いた。

 あんまし会ってないが、プルメルも変に俺の事を好いてやがる。


 なぁ、分かるか?抹茶。

 道行く人々が、向き合って立ち止まる俺と抹茶を見る。しかし、そんな事を気にしていられるほど、俺も抹茶も周りが見えていなかった。



「――もう、逃れられないんだよ」



 その言葉が、どこまでも重く圧し掛かる。

 誰よりも、自分自身が理解している。逃げられない、共依存のこの状況を。


「……」


【終着駅】のギルドハウスに辿り着き、俺と抹茶は立ち止まった。

 この話はここで終わりだ。全部忘れろ、いいな?

 これは、俺の事だ。まだラック君には迷惑を掛ける事にはなっちまうが、いつかはどうにかするさ。抹茶、お前が口を出す事でもねぇよ。


 行こうぜ、ギルドバトルあるんだろ?俺初めてなんだ。

 そう言って、俺はギルドハウスの扉に手を掛けた。しかし、掛けた俺の腕を抹茶が掴む。


「……きっと、私が…」


 ………。

 ……あぁ、そうかよ。

 好きにしろよ。期待しないでおいてやるよ。

 俺は掴まれた腕から、抹茶の手を払い除けて、扉を開いた。


「よぉ、ごみ溜め。遅かったな」

「元気してっか?」

「今日はしっかりやれや、じゃねぇと殺すぞ」

「ごみ溜め、がんばー」


 ――開いた扉の中から喧騒が広がっている。

 背後から、何かが聞こえた。しかし、その声すらも喧騒の中に消えていった。


 ◇■◇


 〔ギルド【終着駅】に加入しました!〕

 〔役職:無駄飯喰らい を任命されました〕


 はーい、みんなのアイドル、ルートさんだよぉ。

 俺は適当に挨拶をしながら、ギルドハウスを練り歩いた。

 ギルドバトルが始まるでにまだ多少の猶予がある。それに、ギルドバトルっつっても、参加する面子はエビふりゃーやら決戦兵器やらの強い奴ばっかで、どうせ俺の出番はない。


 なにしたって許されんだろ。

 そんな意識の元、俺は一人のプレイヤーを探した。無駄に広いギルドハウスを、聞き込みしながら進んでいくと、目的の人物の姿を発見する。

 俺はダッシュで奴に近付き、後ろから肩を組んで、頭に出来立てほやほやの()()()()を乗せた。


「フローちゃぁん、こんにちはぁ……」


「……ごめんってぇ」


 粘着質な笑みが零れる俺。

 そんな俺の顔を見て、フローは泣きそうになりながら謝った。


 いや、いいよ。別に。

 俺気にしてないからさ。お前もなんも理解してない側だったくせに、俺を無視したことについてはなんも気にしてないからさ。

 うん、その帽子被ってる間はぜーんぶ忘れられそう。


「……分かったよぉ。つける、つければいいんでしょぉ。もぉ」


 そう言って、フローは深く中華帽子を被り直した。

 似合ってるよぉ、フローちゃぁん。スクショ撮っちゃいたいくらいに似合ってるよぉ。可愛いねぇ、可愛いよぉ。


 逃げてしまった手前、俺に文句を言えないフロー。

 くくく……いい気味だ!俺が昨日どれだけ心細かったか…、お前が居れば俺はきっと心強かっただろうになぁ!

 俺の言葉を聞いて、フローが俯いて黙り込む。


 ふ、ふふふ……!

 弱みという弱みが無かった奴に弱点が実装されやがった!

 俺はルンルン気分で奴を馬鹿にしようとした。


 しかし、直ぐに気付く。

 俺はフローのキョンシー化現象……。

 奴は昨日俺に寄り添わなかった……。


 こ、これは…!

 優位に立ったんじゃない…寧ろ、これでやっと50(フィフティ)50(フィフティ)…!いや、契約書を書かされた分、俺の方が弱い…!

 衝撃的な事実に気付いた時、エビふりゃーから集合しろと言う旨のメッセージが送られてきた。


 い、行こうぜ!フロー!


「え?う、うん…」


 突然話題を切り替えた俺に、フローは多少の違和感を覚えたのか疑問符をつけて答えた。しかし、俺が気付いた事実には気付けていないのか、素直に俺についてきた。

 俺はふぅと息を吐きながら、ギルドバトルを今か今かと待ちわびるエビふりゃーの元へと向かうのだった。


 ◇■◇


 ギルドバトルは、箱庭合戦だ。

 シーズン毎にルールの変更があるが、基本的な部分は変わらない。


 今回のギルドバトルは、”核の奪い合い”だ。

 四角形の箱庭の中にギルドは四つ、それぞれが一つずつ核を持っている。最終的に最も多くの核を持っているギルドが勝利。最終核の保持数が同数の場合は、生き残ったプレイヤーが多いギルドの勝利だ。


 単純明快で分かり易い。

 各ギルドの参加メンバー上限は二十四名。

【終着駅】の基本戦術として、核を保持したエビふりゃー含む九名が場を荒らしながら行進し、残った十五名が各自三名程ずつのチームに分かれ、他ギルドの核奪取、ギルドメンバー撃破を狙う。


 随分と理に適った戦術形式じゃねぇか。

 単体性能最強のエビふりゃーに核を持たせて、それを補う様にバフ、ヒール、タンクで補強する。甘い夢を見て、核を狙いに来た奴らをエビふりゃーが即仕留め、数を減らすっつー訳だ。



 ……それでさぁ、どこ向かってんの?俺達。

 箱庭の中で道に迷った俺と抹茶と決戦兵器は、支給されたマップを見て、唸った。


「ここら辺に今いるんじゃね?」

「いや、こっちじゃないですかね?」

「あぁ?ここじゃねぇの?」


 戦力差を埋めるために、弱い俺は一際強い決戦兵器と抹茶がいるチームに組み込まれた。戦力として扱われないと思ったら、まさかの普通に戦わなくちゃいけない…。俺はただどういう感じか知りたかっただけなのに…ぴえん。


 エビふりゃーは、戦力を均等にするためにこのチームを組んだが、そこには大きなミスがあった。

 まず、俺も抹茶も決戦兵器も方向音痴だという点だ。決戦兵器には方位磁針が組み込まれているが、それを見ても分からない。

 俺達は顔を見合わせて、言い合った。


「どうしよう…」



 周囲一帯は鬱蒼とした森林。

 どこをどう行っても、同じような景色で俺達じゃ碌に進めない。


「こうなったら、壁伝いに進まないか?」


 人差し指を上に突き出し、決戦兵器はそう言った。

 このギルドバトルは箱庭内で行われている。つまり、真っ直ぐ進み続けたら、いずれ壁にぶち当たる訳だ。そのぶち当たった壁に沿って進めば、いつかはどっかのギルド連中と出会うだろう。


 決戦兵器の案は即座に採用され、俺達は森林の中を駆け抜けた。

 まぁ、駆け抜けたと言っても俺の移動速度は《疾風》を加味しても、奴らに程遠く叶わない。結局、遠足みたいな速度に落ち着いて、俺達はてくてくと歩いた。


 しばらく歩いていると、抹茶と決戦兵器が立ち止まる。

 え?なに、どしたの。


「この先、敵がいる」

「う~ん……恐らく、五人でしょうか…?」


 決戦兵器と抹茶がそう言って直ぐに俺も敵を感知した。

 こいつら、察知系のスキルどんだけレベルたけーんだよ…。俺が気付くまでに大分タイムラグあったぞ…。

 俺がそう考えている間に、判断の速い奴らは奇襲の準備を整えた。


「GO!」


 そして、一呼吸の間も置くことなく奴らは俺を置いて、敵がいる方へと駆け出しやがった。

 なにあの判断力の速さ…、あれがトップギルド?いやー、怖いわー。トップギルド怖いわぁ。

 俺はそう呟きながら、奴らが駆けた方へと《疾風》を使って、向かった。そこには……、



「おう、遅いぞ」

「後衛に前線張らせないでくださいよ」


 返り血を浴びた廃人二人が、三人の死体の上に立っていた。


 えぇ…。何こいつら…、奇襲で三人ぶっ殺したって事?

 やばぁ……もう人間じゃねぇじゃん。

 恐らく同じ感想を抱いているであろう、生き残りの二人を俺は見る。一人は武器を握り、こちらを警戒する様にじりじりと後退している。しかし、もう一人は尻餅をついて……――!!!??


「俺、あっち。抹茶は座ってる方」

「了解です」


 そんな声が聞こえたと同時に、奴らが風を切り裂いて消えた。

 そして次の瞬間、決戦兵器は敵の生き血を浴びて、目的を達成した。


 しかし……、


「ちょ、ルートさん!何の真似ですか!!?」


 抹茶の方は血液で出来た盾に阻まれて、敵を殺すことが出来ていなかった。

 血液盾に阻まれた抹茶は、バックステップを挟んで、一旦その場を離れる。その隙に俺は座り込んだ敵へと近づき、彼に手を差し伸べた。


「大丈夫か?ピュ()ヒュ()()君」


「る、ルートさん…」


 華奢な体躯は泥だらけになり、所々に赤い切り傷が走っている。

 口から吐かれる息は荒く、火照っているのかと見紛うほどに頬は赤かった。


 その姿は、間違いなくピュヒュイ君その人だった。


「おい、なんのつ「黙らっしゃい!!!」――!?」


 問い詰めようとした決戦兵器の言葉を遮って、俺は叫び散らかした。

 うるさいうるさいうるさいやーい!!!

 この子は人類の宝であるピュヒュイ君であるぞ!控えろゴミクズが!ああ!?てめぇら、次この子に刃向けてみろ!!ある事無い事嘯いてやるからな!!


 血液盾を腕に作り替えながら、俺は地団太を踏んだ。

 ああ、ピュヒュイ君……可哀想にねぇ。どうして君がこんな悪魔共の巣窟にいるの?迷い込んじゃった?


 俺がそう聞くと、ピュヒュイ君は俺の後ろにいる廃人二人を気にしながら答えてくれる。


「えと、最近ギルドに入ったんですけど、新人は一回トップの実力を味わって来いって…何人かと一緒に放り込まれて……」


 …へぇ、良いギルドじゃねぇか。

 報酬度外視で、トップの強さをルーキー共に味あわせてやってるのか。【終着駅】とは大違いだな。おい。



 …つー訳でさぁ、大事な大事な友達なんだわ。

 見逃してもらえねぇかなぁ。冷酷なクソ野郎じゃない限りは見逃してくれるよな?

 俺は、こちらを見る二人の廃人へとそう言った。

 奴らは未だに武器を構え、ピュヒュイ君を狙っている。ああ、そうか、そうかよ。つまり、交渉決裂って訳だ。


 俺は血液腕を傍に浮かべ、ピュヒュイ君の前に立つ。


「ルートさん……」


 背後からピュヒュイ君の声が聞こえる。

 大丈夫、大丈夫だよ。ピュヒュイ君、俺は負けない。悪に屈するほど、俺は弱くねぇよ。


 そして、奴らに向かって駆け出そうと―――。



「悪はお前じゃん……」


 駆けだした時には、もう全てが終わっていた。

 直ぐ傍でそんな声が聞こえる。

 俺の心臓は決戦兵器の手の平でズンドコズンドコと舞いを踊っている。

 ああ……マイハート君…、そんな、まだ気づいてないのか…俺の左胸から離れた事に…。



 え、似非(えせ)キルアが……ッ!

 俺は、そう言って口から血反吐を吐いた。灼熱が込み上げて、止まらない。


「が、ぼ、うぇえ」


 ピュヒュイ君が泣いている。

 ああ、ごめんね。俺が弱いばっかりに。俺が頼りないばっかりに。内臓たちが泣いている。いかないで、と。一体何度目なんだ、と。呆れた様に泣いている。


 俺は、一体どれ程内臓君達に迷惑を掛けるのだろう。

 ああ、ごめんね…、ごめんね、臓物たち…ごめんね、ピュヒュイ君…ごめんね、ごめんね……。




 ――死んだ俺を何人もの霊体が迎え入れた。

 霊体達は揃いも揃って、笑顔だ。ああ、ごめんね。待たせちゃったかな…。行こうか、みんなで。

 ――俺達は昇っていく。

 果たしてそこに天国はあるのか。

 俺達は、ただそれだけが知りたかった。





 天国があったとしても、貴方が行くのは多分地獄ですよ。

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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