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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.64『助けて!ごみ溜め君の日常』

 

 β組のプレイヤーは揃いも揃って、本気(ガチ)のゴミだ。

 製品版から参入してきたプレイヤーと比較して見りゃ、そのゴミっぷりは浮き彫りになる。

 しかし、そのゴミっぷりに反比例する様に、β組にはゴミ共が起こした問題の処理に奔走する”良心”が存在した。


 良心の中でも特に有名どころで言えば、

 ―――”不死身の聖人”ラック君。

 ―――”鉄槌”ドラ子。

 ―――そして、”女神”ムイ。


 この三人がゴミ共の処理に最も多く貢献している。

 他にも数名実力がある奴はいるが俺達があまりにゴミ過ぎた為、良心であることを諦め、(ゴミ)に染まった者だっている。ごめんね……。



 ”女神”ムイは、ラック君レベルの優しさを兼ね備えた聖母の様なプレイヤーだ。

 暴力での解決をするドラ子を抑え、廃人共の問題を早期解決する。ムイほどプレイヤー史に貢献してる奴だって、ラック君を除けば殆どいないだろう。



 そして、俺はβテスト以来のムイとの再会に違和感を覚えた。


 ……な、なんか俺の事めっちゃ睨んでる…。

 い、いやまぁ、俺もβ組の中では問題児な方だが。それでもあそこまで敵意を顕著に表されたのは初めて……っつーかあんな顔初めて見たぞ。


「ひ、久しぶりだなー!」


 俺が手をひらひらと振りながら、ムイへとそう言った。

 ムイはそんな俺を見て、更に睨みを利かせて嫌悪を露わにしながら言葉を発した。


「はい、そうですね。製品版では初めてですものね。髪、色変えたんですね」


 ムイの表情は未だに強張っているが、言葉の端々には優しさが見て取れた。

 奴は結局温厚で優しい子だ。誰にでも基本的には敬語で話すから、初対面の時は固い印象を受けるが慣れればこいつほど慈悲深い奴はいねぇ。


 しかし、経験から”こいつは良い奴だ”と分かっていても、信用ならない要素はある。

 まず、どんなに聖人でも所詮『Soul・Learning・Online』という産廃の巣窟にいるからだ。それが要素の一つ目。

 次に二つ目。ターミナルが言っていた”俺が女神に狙われている”という情報。あいつが今はルーキー側にいるとはいえ、つまらない嘘はつかないのがターミナルの習性だ。

 そして、最後。さっきから敵意を全く隠せていない事。


 俺は地面に捨て置いた狐面を放置する決断を下し、この場から離脱しようとじりじりと後退する。

 奴らは何を話しているのか、ぺらぺらと俺の事など気にしていないかのように振舞っている。一体全体、なぜ俺がこんな目にあっているかは知らないがどうにも嫌な予感がする。


 少しずつ、少しずつ……気付かれない様に後退する。

 商店街を抜けて、すぐさま転移門に飛び込めばどこの街に行ったかは分からない。〔シンリン〕へ転移し、家に飛び込めばミッションコンプリートだ。


 タイミングを見計らい、俺は背後を向いて、思い切り地面を蹴飛ばす。


「どけや!!殺すぞッ!!!」


 背後にいたプレイヤー共にそう言いながら、《疾風》を発動させる。そして、そのまま得た慣性を保存しようとする……しかし、


 こ、こいつらッ!!!

 ()()()()!!

 俺の背後にいたプレイヤー共は俺の叫びを聞いてなお、その場から動こうとしなかった。寧ろ、俺の進路を邪魔する様に何人ものプレイヤーが肉壁となり、俺の行く手を阻む。


「………!」


 そこで俺はようやく気付く。

 こ、こいつら…!買収されてやがる!!!

 俺が商店街の重鎮共を買収した上で、更に高値で買収されてやがるのか!!


 そうなれば、全て納得がいく。

 フローと出会う前の茶化しの時だってそうだ。俺は集まる奴らに「散れ」と怒鳴った。しかし、誰一人、その場から離れようともせず、寧ろ俺をその場に留まらせようとしていた。


 今だってそうだ。

 まるで、俺をここにいさせたいような……そんな行動をしやがる…。

 ここまでくれば、俺にだって分かる。


「お前ら……一体何のつもりだ…?」


 ブレーキをかけて、商店街のプレイヤー共を買収しただろうムイとフローを見る。


 ああ、臭い。臭い、臭い、クセェなぁ。

 人狼の匂いがプンプンするぜ……。目的はなんだ?俺に何を求めてんだ?俺がなにしたか言ってみろよ。

 大袈裟に手を天に掲げて落とし、涙をちょちょ切れさせながら俺は言う。


 フローがニヤニヤとし、ムイは依然鋭い目つきでこちらを見る。

 やましい事はなーんもしてないぜ?

 そのくらい分かるだろ?なにせ、俺はつい最近まで未開放領域の開放に励んでいた優しい優しい未開放領域踏破者(リージョンオーバー)だ。

 今や、巷じゃ英雄サマ扱いのごみ溜めさんだぜ?


「……チーター疑惑の間違いでしょ」


 ……フローちゃん、こっちおいで。お話ししよっか。

 俺が気にしているところを的確に突いてきたフローをこちらに呼び寄せようとする。


 しかし、フローは口笛を吹いて先程のたまった言葉など気にもしない仕草を見せた。くそが……!俺や杏の苦労も知らないで抜け抜けとチーターチーター騒ぎやがって…!BANされてない時点でチート使ってないってわかんだろーが!


 しかし、分かって尚、人を愚弄するのがこのゲームを遊ぶプレイヤーの基本だ。

 これ以上うだうだ言うほど、俺も落ちぶれちゃいねぇ。


 仕方ない……。

 俺は諦めた様に口を開いた。


 分かった分かった。

 契約でも何でもするさ。フロー、お前のキョンシー化現象を手伝う。口約束なら何とでもなるって考えてた俺が馬鹿だったよ。ほら、紙を出せ。サインしてやる。それでいいだろ?


 これ以上、ここにいる訳にはいかない。

 俺の頭で”嫌な予感”と言う名の警報がガンガンと打ち鳴らされている。これ以上ここにいるくらいなら、フローのお札取りに協力した方が数倍マシだ。


 俺は渋々と言った様子でフローとムイがいる場所に歩いて行った。

 俺はフローの真ん前に立ち、奴を上から睨み付ける様に見下ろす。チビ助が…。

 そんな俺を見て、フローはしばらく俺の瞳を見つめると溜息をついた。


「……ま、いいか」


 そう言ったフローは亜空間からガサゴソと契約書を引っ張り出そうとする。しかし、中々見つからないのか、亜空間に肩まで突っ込んで漁っている。

 俺は、そんなポンコツフローのでこについたお札を持って、奴の頭を揺さぶりながら契約書の催促をする。


 おせぇぞー、お前それでも廃人か~?

 ドラえもん枠はプロペラ一人で十分なんだよ。さっさと取り出せよ~。

 頭を揺さぶられたフローは目をぐるぐると回転させながらも、やっとこさ一枚の紙を取り出すことに成功した。


 ったく……おせぇんだよ。

 俺は《血液操作》で血を出現させ、それを親指に少しつけて、拇印を押した。


 はぁ……、めんどくせぇ…。

 俺はお札から手を離すと、今度はフローの頭を適当に撫でつけた。


 お前さぁ……別に似合ってると思うよ?俺。

 いいじゃん、キョンシー。正直、キャラ付けとしては最適だし、お前の黄緑の髪に黄色いお札が良く映える。めちゃくちゃ可愛いよ?

 今度、キョンシーがよく被ってる中華帽子買ってやるからさ。あれつけたら一気にキョンシー感増すぜ?きっとよぉ。

 な?一緒に七七を目指そうぜ?

 お前はキョンシーになれる逸材だよ。顔も童顔だし、なにより肌も白い。キョンシーにうってつけの人材だ。…あ、セクハラじゃないすよ、やめてくださいよ。


 ともかく、そうすぐ取んなくてもいいと思うけどなぁ、俺は。

 契約書に印を押したものの、面倒臭さが勝った為、適当に褒めておく。これで少しくらい先延ばしにできねーかな…。

 打算的な考えの元、俺はフローを見た。


「……それ、やめたほうがいいよぉ」


 フローは、少し言葉を詰まらせるようにそう言うと、ちらりと何故かムイの方を見た。

 それにつられて、俺もムイを見る。――すると、そこには見た事も無いくらいに顔を強張らせた般若顔のムイがいた……。


「む、む、ムイ……さん…?」


 流石の俺も、これには恐怖を覚える。

 キャラクターエディット上、表情筋と言うものが存在し、非現実的すぎる表情の表現は出来ない筈だ。しかし、今のムイの表情を見るとその前提が崩壊する。

 完全に般若……、いやなまはげみたいな顔してやがる……!す、すげぇ…!人はここまでやべー顔になれるのか…!

 咄嗟に俺はフローの腕を取って、奴の身体を俺の前に配置した。


「……ドラ子ちゃんがよく言うんですよ」


 フローの後ろに隠れた俺を、般若が睨みながら言葉を紡いだ。

 ど、どど、ドラ子…?あの歩く暴力装置が何だってんだ…?


「やれ掃き溜めは良い奴だった……やれ掃き溜めは案外優しい……やれ掃き溜めは格好良い……やれ掃き溜め…掃き溜め…掃き溜め…」


 お、おい……ムイ…?

 ムイは震えながら言葉を紡いだ。そして、言葉を積み重ねるごとに少しずつ震えが大きくなっていく……。


 ちょ、ねぇ、フローちゃん…!

 やばいって!アレ、多分やばいタイプの魔物取り憑いてるって!キョンシーパワーで追い払って!ねぇ!頼むって!お願い!廃人の意地を見せてよぉ!


 俺の懇願に、フローは首をぶんぶんと横に振った。


「無理無理無理ぃ!予想よりやばぃ!びっくりぃ!!」


 …予想!?

 おい!ふざけんな、お前!今、予想って言いやがったな!?てめー、こういうことになるって分かってたのか!分かってて、俺をここに留めたのか!!最低!クズ!ゴミ!悪魔!キョンシー!


「キョンシーは悪口じゃなぃ!!」


 般若ムイの横で、俺とフローが取っ組み合いを始める。

 く、クソ!!!クソが!てめぇさえ……てめぇさえいなければ…!俺はもっと上手く立ち回れていた筈なのに…!

 疫病神が…!疫病キョンシーがぁあああ!!!


「むぎぎぎぎぎぃ………!!!」


 俺とフローが地面へと転がって、お互いが監獄送りにならないレベルで小突き合う。

 そんな俺とフローを見て、ムイが更に震えだし、遂には背後に黒い闇を携え出した…。な、なにあれ……ぷ、プレイヤーが出していいタイプのやつ?あれ…なんかラスボスが纏ってそうな闇オーラ出てんだけど…。ねぇ…。


「し、しひゃにゃい(しらない)……」


 俺の問い掛けに、頬を抓られたフローも呆然と答える。


ララ(幼女)ちゃんと…凄く仲が良いし…、抹茶ちゃんも貴方の事になると嬉しそうに褒めるし…、きつねちゃんだってあんな顔して……」


 む、ムイさん…?

 一旦…一旦落ち着こうって…な?あんたさ……疲れてんだよ…。

 日夜ゴミ共の問題処理に駆け回って、ドラ子の手綱も握ってさ……、少し休もうぜ…?良い喫茶店知ってっからさ…、一緒に…。

 な、なぁ、フロー、お前も一緒に行こうぜ?ムイの疲れを癒してやらねぇと…な?


 俺が必死にウィンクをする。

 フローは俺の意図を察したのか、首が取れるのではないかと言う勢いでぶんぶんと頭を縦に振った。


 しかし、ムイは止まらなかった…――。


「……フローちゃんともお互いに心の内を曝け出せるくらいに仲も良いし……」


 自分の話が出た途端、フローはビクッ!と身体全体を震わせた。

 こ、こんのキョンシー野郎…!そんな分かりやすい身体表現してねーで、否定しろ…!


「…みんな、みーんな……ルートと話してると明るい色してる……」


 ムイの身体を包んでいた闇のオーラが少しずつ大きく、そして澱み出していく…。

 や、やばい…!女神が…、女神が堕天する…!悪の道に染まっちまう…!良心がまた一人減っちまうぞ…!お、おい、誰か…!誰かどうにか…!


「…んぅ…?」


 ハッ……!

 目の前で聖人が堕ちていく様を見ていると、俺の直ぐ傍で何かがむくりと起き上がる。

 俺はその正体を見て、奴に全てを託した。責任転嫁じゃない!お前が、お前だけが希望なんだ…!


「き、ききき、きつね!!愛してる!愛してるから俺の言うこと聞いて!一生のお願い!な!?な!!!」


「……ふぇ!?ふぇぇぇ!!?」


 寝起きの狐面は、突然の状況に頭が回っていない様だった。

 しかし、今この状況をどうにかできるのはきっとこいつしかいない…!フローは死んだフリして動かねぇし、周りのプレイヤー共はいつの間にかどっか消えやがってるし…!


 きつね!お願い!何でも買ってあげるから!ね?ね?

 おじさん、なーんでもあげちゃうよ!飴ちゃんかな!?飴ちゃんなのかな!?飴ちゃんじゃなくても良いから、ムイを止めて!おねがーい!!


 俺は闇のオーラを纏うムイを指さす。

 そこには、最早プレイヤーとは思えない風貌の元女神がぶつぶつと何かを呟いていた…。


「ルートはいつも真っ黒なのになんでみんなあいつに寄ってくの、私はただ女の子同士がくっついていればそれで良いのに、それだけで幸せな気持ちになれるのに、どうしてそこにはいつもルートがいるの、なんであいつが、あいつがあいつがあいつがあいつが」


 ひ、ひぃぃいいいい!!!

 こ、こわいぃぃぃ!

 尻餅をついて、俺は狐面の後ろに隠れた。


 き、きつねさん!あいつやっちゃってください!!お願いします!!

 俺の言葉を聞いた狐面が、しゃがんで俺と視線を合わせる。息遣いが何故か荒い……き、きつねさん……?


 奴の大きな瞳の中には、一片の光も無く……まるで深淵に覗かれているような…。


「だ、ダストっち、私の事、愛してる…?」


 その問いは、いつしかのララと同じ形質のものを感じた――。

 しかし、俺の手の平に選択肢は残されていなかった。あるのは、YESと答えるコマンドのみ……。


 俺の口が開く。

 俺は、お前を―――。

 その言葉を紡いだ瞬間、狐面はにこりと笑って立ち上がった。そして、闇の大魔王みたいな風貌になったムイの方へと歩いていくのだった……。


「久し振り、ムイっち」


 そう言って、狐面はムイに抱き着いた。

 その瞬間、闇のオーラが消し飛び、中から今まで通りのムイが現れた。




「……こわ(こわぁ)


 俺とフローの言葉が重なる。

 綺麗になったムイが顔を赤くしながら、抱き着いている狐面と会話をしている。そして、問題が解決したのか、二人がこちらへと歩いてくる。


 俺とフローは互いに顔を見合わせながら歩いてくる奴らを見た。


「す、すいません…。気持ちがちょっと溢れちゃって」


 そう言ったムイが、俺とフローと狐面に謝りを入れる。

 え?気持ち溢れるとああなるの?うそでしょ?俺あんなんならないよ?誰でもああなるもん?俺がおかしい?ねぇ、これ俺がおかしいの?


「人の感情の色が見えるので……一際そういうのに敏感になっちゃって…」


 いや、別にそう言うの良いって。

 ねぇ、疑問に答えてよ。気持ち溢れるとああなるの?だとしたらお前のゲームバグってるよ。ねぇ、聞いてる?なんで誰も反応しないの?ねぇ。お前らやばくね?すげー無視るじゃん。


「次は気をつけますね」


「気をつけようね~」


「そ、そっすねぇ」


 ねぇ、フロー?

 お前だけ若干こっち側だよね?お前も理解できてない側だよね?なんで頑なに俺側来ないの?寂しさに死ぬよ?ねぇ。


「今日は有難う御座いました。すっきりしました」


 ねぇ、ムイ?ムイさん?

 お前結局何しに来たの?てか、俺聞いてたよ?お前百合思想もってんじゃん。もしかして、俺が百合に邪魔だったから俺の事狙ってた?ねぇ、なんとか言ってよ。俺怖いよ。恐怖で夜しか眠れないよ?


 百合思想はもう平気なの?

 俺はもう狙われてないの?ねぇ、教えてよ、ねぇ。


 俺の言葉を無視して、ムイは転移門へと入っていく。

 そして、流れの様にフローと狐面も解散していく。


「ダストっち、ばいば~い」


「…っす…お疲れぇ……」


 そう言って、奴らも転移門の中へと消えていった。

 え、ええ?

 何?何も解決してないよ?

 ムイの百合思想は?

 狐面に愛してるって言っちゃったのは?

 フローはなんで寄り添ってくんねーの?


 怖いって…。

 もう怖いってこのゲーム……。俺分かんねぇよ……。

 あぁ……プロペラ君…ラック君…ピュヒュイ君…会いたいよぉ。トホホ…。





 この世の混沌(カオス)…!ここに集結!

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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